長期レビュー

象印「真空内釜圧力IH炊飯ジャー 極め炊き NP-LU10」 その2

~ご飯料理が楽しくなる多彩な炊飯メニュー
by 藤山 哲人

 
「長期レビュー」は1つの製品についてじっくりと使用し、1カ月にわたってお届けする記事です。(編集部)



象印「真空内釜圧力IH炊飯ジャー 極め炊き NP-LU10」

 前回は、しゃっきりとした甘いご飯を炊く象印独自のアプローチと、それを実現するための機器、そして白米の炊飯実験を行なった。

 今回は、白米を極めておいしく炊く「熟成炊き」に加え、無洗米や玄米など炊飯メニューをお届けしよう。いつもは第2回で、ご飯以外の調理モードも紹介するのだが、あまりにメニューが多彩すぎるので、調理メニューは第3回にお届けする。

最高に旨いご飯をたく「熟成炊き」や無洗米をテスト!

「機能」ボタンのあとに「メニュー」ボタンを何回か押すと「熟成炊き」モードになる。
 他のメーカーの機種がそうであるように、象印の炊飯器にもご飯を最高においしく炊く「熟成炊き」が用意されている。圧力式炊飯器とはいえ、お米の甘みを最大限に引き出すため炊飯時間がほぼ1時間がかるが「熟成炊き」はさらに長く最長で85分を要する。

 「ご飯を炊き忘れた!」という場合には使えないが、日常の炊飯であれば予約炊飯と併用すれば、炊飯時間が気になることはないだろう。

 ただ操作性には、若干の改良の余地がある。「メニュー」ボタンで「熟成炊き」を選んでも「炊き分け」ボタンのライトが点灯したままなので、さもご飯の硬さが選べるように見えてしまうのだ。ここで「炊き分け」ボタンを押してしまうと「熟成炊き」モードは解除され、通常の炊き方でご飯の硬さを調整できるモードになるので注意が必要だ。熟成炊きのご飯の硬さは指定できず、常に普通の硬さになることを念頭においておく必要がある。

 第1回でこの炊飯器のコンセプトは「ご飯の甘みを最大限に引き出すこと」と紹介したが、「熟成炊き」もコンセプトの延長線上にあるようだ。炊飯時間が長くなる理由は2つ。

 1つは炊飯をはじめて即加熱するのではなく、水温をコントロールしながら水分をお米にじっくり吸わせる工程となる。おそらくこれが20分ほどかかっているようだ。これによりアルカリ化した水でお米表皮のたんぱく質を分解し、お米一粒一粒がよく吸水するようになる。と同時に、お米のデンプン質が水に溶け出すというのだ。

水に溶け出したデンプンは、炊飯中にα化され、蒸らし段階でお米1粒1粒の表面に還元される

 もう1つは、沸騰時間と蒸らし時間を約5分延長する点だ。第1回のデンプンのα化を読んだ読者であれば「ははぁーん」と察しがつくことだろう。その通り、炊飯時間をさらに5分延長することで、デンプンのα化を極限まで行ない甘みを引き出そうといワケだ。吸水工程で溶け出したデンプンは、炊飯中にα化され、蒸らし段階でご飯粒の表面に甘くなったαデンプンがコーティングされる。

 こうすることでお箸で口の中に入れた瞬間から表面のαデンプンが舌の上で溶け出し、噛まずとも甘みのあるご飯が楽しめるというわけだ。カタログでは文字数に制限があるため、そこまで詳しく記述されていないが、これが熟成炊きがさらに甘みを引き出す理由。

 とはいえ理論を説明していても味が伝わらない。まずは、炊き上がりの米粒の様子を見てみよう。

熟成炊きで炊いたご飯粒。通常モードの「ふつう」と「もちもち」で炊飯したご飯粒と見比べて欲しい通常モードの「ふつう」で炊いたご飯通常モードの「もちもち」で炊いたご飯

 写真を見てもわかるように、通常の「ふつう」で炊いたご飯粒と同じ胚芽(上部の切り欠き)が切れている形状ながら、ご飯粒本体(胚乳)が「もちもち」なみに膨らんでいるのが分かるだろう。つまり、

ご飯の歯ごたえをしっかりと持ちながら、水分を多く含みモチモチ! その上αデンプンが表面を覆った極上のご飯なのだ!

 これこそ「熟成炊き」のなせる技。こういうご飯にピッタリ合うのはコレっ!

 今日の晩ごはんに明太子ご飯が食べたくなった人にアドバイスしておこう。

明太子ご飯! 写真を見て何人の読者が食べたくなるだろう?まず明太子の半面だけに包丁を入れる。明太子の片側を押さえて、包丁の背を使ってしごくようにすると、皮から上手く外せる。

 ただ明太子を皮から外すだけでは、ご飯とよく混ざらない。しかも魚嫌いには、生臭さも残る。そこでちょっとひと手間かけると、激安の150円明太子が500円の高級品に早替わりするのだ!

 だしはだしの素を1つまみに小さじ1杯のお湯で溶かしたもの。お酒は料理酒でななく、普通に飲むお酒がベストだ。子供がいる家庭では、大さじ1杯のお酒をフライパンで温めて、煮きり酒にするといいだろう。写真ではお酒をダイレクトに入れているが、ウチの子供たちは奥さんの実家に行なってしまったので、我が家は俺だけ。なので、極上の「久保田 萬寿」をゴージャスに大さじ2杯入れてみた(笑)。

だしとほぐした明太子、そして日本酒を用意まずはダシを明太子に混ぜる
日本酒をお好みで。大人なら大さじ2杯ぐらい入れてもいい最初はシャブシャブになる

 辛い明太子が好きな場合は、ここに一味唐辛子を加えたり、しょうゆをちょっと加えてもOK。あとは30分ぐらい冷蔵庫に寝かせておくと、卵一粒一粒がダシとお酒を吸って、先の明太子ご飯の上に乗っているような、極上の明太子になる。

 ご飯の上に明太子だけでなく、青いネギを散らすとさらにおいしそうに盛り付けできるのでぜひやってみて欲しい。まぁ、あえて言う必要もないが、熟成炊きの甘いご飯に塩辛い明太子が乗り、一口食べて「うまいっ!」と感涙にむせぶこと間違いない。

 ちなみに消費電力は0.2kWhなので、他社の極上モードで炊いたときより消費電力は少ない(ほぼ1割減と言った感じ)。この炊飯器は、どんな炊き方にせよ、時間がかかる割りに電気をさほど食わないのが特徴といえるだろう。

無洗米の炊飯もお手の物!

 先月紹介した炊飯器は、白米を中心としたメニューに特化していたため、無洗米を選ぶととたんに指定できるメニューが激減するようになっていた。しかし象印のこの炊飯器は、手軽で便利な無洗米を食べている家庭でも、白米と同様のメニューが使える。

 無洗米をおいしく炊くには、次の点に注意すればいい。

必ず無洗米専用の計量カップで量ること!
・計量カップは無洗米専用の緑を使うこと!

 白米の計量カップは180cc、無洗米のカップは171ccとなっている。水の量は同じなので、必ず無洗米用のカップを使うこと!

・水が白く濁る場合は少しすすいでから炊飯すること!

 この炊飯器はデンプンを限りなくα化させるため、無洗米にそのまま水を入れて炊かないこと。糠を完全に取り去った無洗米の表面には、粉状のデンプンが多く付着している。それゆえ水に溶け出したデンプンを過剰にα化させてしまい、こげを作る原因になってしまう。お米を研ぐ必要はないが、水が白濁しない程度に何度かゆすいでから炊飯するとおいしいご飯になる。

・使えるメニューは白米と同じだが「無洗米」モードにすること

光る液晶には「白米 ふつう」と表示されているが、反射式の液晶では「無洗米」と表示されている。ここがちょっと戸惑うところだ

 「無洗米」ボタンを押すごとに、無洗米モードと白米モードが切り替わる。しかし先に熟成炊きでも紹介したとおり、すでに無洗米モードになっていても、無洗米ボタンが光り続けているので、無洗米モードを解除してしまう場合がある。さらに無洗米モードの表示は光る液晶パネルではなく、バックライトのない反射式の液晶(時計の液晶)に表示されるため、暗がりでは確認しづらいので注意したい。

 象印の炊飯器は、白米のメニューはすべて無洗米でも使える設計になっている。あとは白米を炊くのと同じ操作でOKだ。また炊飯時間も白米とまったく同じになっている。

 で、炊き上がったのがこのご飯。

無洗米を通常の「ふつう」で炊き上げたご飯粒白米を通常の「ふつう」で炊き上げたご飯粒。

 さすがに糠をすべて取り除いた無洗米は、よく水分を吸うようで白米よりワンランクふっくらした仕上がりになる。第1回目の炊き分けの説明では、

・白米の硬さは他の炊飯器のワンランク上

 と紹介した。しかし無洗米の場合は、指定した硬さは他の炊飯器とほとんど変わりない点に注意すること。逆に言えば、ふだんから無洗米を食べている場合は、硬さの指定はいつもの感覚でよく、白米を炊くときだけワンランク柔らかめに指定するといい。

宮沢賢治はかなりいい食生活!? 玄米活性炊飯モードを試す!

 ご飯を炊くメニューだけでも15種類を持つ象印の炊飯器。無洗米でもすべてのメニューが使えるので炊飯メニューは多彩だ。しかも玄米を炊くモードも3種類用意されている。これまでのまとめもかねて、炊飯メニューをまとめてみよう。


メニュー圧力炊飯炊飯時間
しゃっきり50分~1時間
ややしゃっきり50分~1時間
ふつう50分~1時間
ややもちもち50分~1時間
もちもち50分~1時間
熟成炊き1時間10分~1時間25分
白米急速29分~45分※1
炊き込み1時間5分~1時間20分
すしめし×50分~1時間
おかゆ×50分~1時間10分
おこわ×50分~1時間
玄米1時間5分~1時間30分
玄米活性3時間15分~3時間40分
玄米がゆ×1時間20分~1時間45分
発芽玄米※250分~1時間

※1 無洗米の場合30分~45分。それ以外の炊飯時間は白米と同じ。
※2 メニューとしての「発芽玄米」はないが「炊き込み」で代用できる。玄米を自動認識して炊飯時間を変えている


 気になるのは、あまり見かけない「玄米活性」だ。炊飯時間も最短でも3時間15分と、7時の夕食に間に合わせるなら3時45分から炊き始めなければならない。

玄米活性モードの炊き上がり。ふっくらというより、ちょっと柔らかめ。水は少し少なめで炊いたほうがよさそうだ食べてみると驚くほど甘い!甘さ控えめの水ようかんのような甘さが口に広がる

 普通の「玄米」モードと違う点は、マニュアルによれば次のように説明されている。

「玄米活性」とは、玄米の栄養分の1つである「ギャバ」の量を通常の玄米の1.5倍まで引き出す炊飯方式。通常の「玄米」炊飯にくらべ柔らかく食べやすい。炊飯前に玄米を40度で2時間ほど活性化するので炊飯時間が長くなる。

 サプリメントなどでも有名な「ギャバ」は、γ(ガンマ)-アミノ酪酸の略称で、消費者庁が管理する特定保健用食品として認可されており、血圧を下げる効果があるものとしている。特定保健用食品許可の一覧も公開されている(一覧を見るためにはExcelが必要)。

 つまり高血圧を患っている筆者のような人には、お勧めのご飯というワケだ。またマニュアルには「神経を鎮める効果があると言われている」とあるが、γ(ガンマ)-アミノ酪酸は神経伝達を抑制する物質で脳内で生成されるということが研究で明らかになっている。これを応用して鎮静、抗痙攣、抗不安作用としてキャバを増加させる作用がある薬が投与される場合があるという。とはいえ、口から摂取したギャバがそのまま脳内の神経伝達を抑制する物質として使われないようだ。したがって「玄米活性」を食べても、鎮静作用はあまり期待できないだろう。

 通常の玄米モードで炊くと、次のような仕上がりになる。

玄米に合うのはやはり和食。てんぷらと刺身に、さといもの煮物で実にヘルシーで豪華な夕食だ。ご飯は玄米活性モードで炊いたもの通常の玄米モードで炊いたご飯。甘みは少ないが、柔らかさは玄米活性モードと変わらない

 新米の玄米を使ったためか「玄米活性」「玄米」モード共に、少しベタ付く柔らかいご飯となってしまったが、ふたを開けてしばらく水分を飛ばすことでリカバリー。水分は控え目にしたほうがよさそうだ。

 2つのモードの決定的な違いは、ご飯粒を見ると顕著に現れる。

玄米活性モードのご飯粒玄米モードのご飯粒

 玄米活性モードで炊飯すると、ご飯粒のほとんどが「く」の字に曲がった形になる。これは胚乳に多くの水分が入り込みふっくらと大きくなったため、糠の殻を破ってこのような形になったためだろう。甘さは白米よりも数倍感じられる。いっぽう玄米モードは、さほど水分を吸っていないのか、まっすぐな形で炊き上がる。玄米活性に比べると甘みも少ない。とはいえどちらも、玄米独特のプチッ! とした食感が楽しめ、白米より満腹感がある。

 宮沢賢治の「雨ニモマケズ」では「一日に玄米四合と、味噌と少しの野菜を食べ」とあるが、氏はかなりいい食生活をしていたのでは? と疑いたくなるぐらいだ。1回の食事で玄米1合以上を食べたら、おかずなんて食べられないぐらい満腹になる。

すしめしでお稲荷さん・パラパラチャーハンにおかゆまで!

 加圧しない「すしめし」モードは、パラバラのご飯だ。握りや手巻き寿司にはもちろん、おいなりさんにも最適。

しゃっきりと水分の少ないご飯が炊き上がるので、すし酢をよく吸う立ち食いそば屋と同じ、ゴマだけのおいなりさん。わざわざ散らし寿司のような具を入れなくても、これで十分においしいのだ!

 我が家のおいなりさんは、立ち食いそば屋と同じゴマとすし酢だけのシンプルなもの。桜でんぶやしいたけの甘煮を入れても結局は揚げの甘みとかぶるし、酢漬けのレンコンを入れたところですし酢とかぶる。散らし寿司からこうして甘さや酸っぱさの素となっている具を引き算していくと、残るのはゴマだけなのだ!

立ち食いそば屋のおいなりさんは実に合理的!

 レンコンの食感が欲しいという人は、味をつけずにゆでたものを好みで入れてもいいだろう。

 チャーハンなどは、硬めのしゃっきりで。次の写真は、その材料だが、実はチャーシューもこの炊飯器で作っている。詳しくは、次回で詳しくお伝えしよう。

しゃっきりモードのご飯に卵、グリーンピースにかまぼこ、そしてネギとチャーシュー。チャーシューは、炊飯器を使った自家製だ熱々の鍋に卵を落とし、間髪入れずにご飯を投入。ご飯に卵が均等に回ったところで、具材と塩、コショーを入れるパラパラのチャーハンができあがり!

 おかゆモードも当然備えている。この炊飯器は、おかゆモードでは加圧しないため、鶏肉を入れた中華がゆなどは肉の食感を損なわずに、ガッツリ食べられるおかゆができる。

ごま油で炒めたお米と中華スープの素、そして鶏肉を放り込んでおかゆモードで炊飯するだけ肉の食感を損なわない、ガッツリ食べられる中華がゆのできあがり。付け合わせは中華風 白菜のクリーム煮

 さらには、炊き込みご飯モードでピラフもOK! お米をオリーブオイルで炒めて、冷凍のエビとターメリック、コンソメの素とバターをひと欠け入れれば、おいしいピラフのできあがりだ。

材料をずべて放り込んで炊飯ボタンを押すだけでいい写真はクリスマスパーティーなので料理もいろいろ。

 ちなみに背景に写っているチキンは、我が家オリジナルのレシピだ。売ってるものより数倍ジューシーなので、炊飯器から脱線してしまうが少しだけレシピを紹介しておこう。

使ったのはブラジル産の1つ100円のもも肉。激安品だが、スーパーで「○○地鶏のローストチキン!」なんて売ってるモノより旨いビックル液と呼ばれるものに、余りの香味野菜をみじん切りにして入れたもの。この液に肉を1~2晩漬け込んでおいて焼くだけ

 チキンは激安品でOK。肝心なのはビックル液と呼ばれる、砂糖と塩の飽和溶液だ。お湯を500ccほど用意して、そこに塩を砂糖をこれ以上溶けないというぐらい大量に投入。だいたい塩1に対して砂糖が1.5ぐらいが目安だ。甘めが好きなら砂糖を2ぐらいにしてもOK。これでビックル液の完成なのだが、ココから先は各家庭の味となる。うちの場合は、たっぷりのコショーにしょうゆ大さじ1杯とナツメグを少し混ぜている。家庭によっては、ビールを入れたり、ワインを入れたりと色々アレンジ可能だ。

 ビックル液ができたら荒熱を取り、パセリやにんじん、セロリの葉やたまねぎなどをみじん切りにして投入。あまり野菜ならなんでもかまわない。こうしてできたビックル液と肉をジッパーつきの袋に入れ、冷蔵庫で1~2晩寝かせて味を染み込ませる。

 1晩寝かせた場合は15分、2晩寝かせた場合は30分ほど塩抜きをして、200℃のオーブンで1時間ほど焼けばオリジナルのローストチキンの完成。天板には肉と一緒にポテトなどを乗せておくと、チキンから出た肉汁を吸っておいしいポテトも同時にできあがる。

 ビックル液は応用範囲が広いので、色々な肉料理(燻製やベーコンだって自宅で作れる)の下味をつけるのに便利。ぜひ家庭のビックル液を作ってみて欲しい。

 次回は、象印「真空内釜圧力IH炊飯ジャー 極め炊き」で今回紹介できなかった調理メニューに加え、メンテナンス性や保温機能などについてご紹介しよう。



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2010年1月18日 00:00