長期レビュー
象印「真空内釜圧力IH炊飯ジャー 極め炊き NP-LU10」 その1
象印「真空内釜圧力IH炊飯ジャー 極め炊き NP-LU10」 |
先月末から使い始めているが、しゃっきりと硬めのご飯が好きな筆者も、もちもちの食感が好きな家族にも好評だ。
メーカー | 象印マホービン |
製品名 | 真空内釜圧力IH炊飯ジャー 極め炊き NP-LU10 |
希望小売価格 | 97,650円 |
購入場所 | ビックカメラ |
購入価格 | 69,800円 |
本体を見ると、妙にボタン類が少なく見えるが、機能ボタンを押すと他のボタンが光で浮き上がるようになっている。最近は南側にキッチンがある家も増えているようだが、北側の暗いキッチンではライトで浮かび上がるスイッチは便利に使えるだろう。
これから3回にわたり、この炊飯器の機能や魅力をお伝えしていこう。
■0.5気圧刻みで圧力を調整する精密炊飯器!これが旨さの鍵!
この炊飯器の特徴は、こまめな圧力調整によりご飯の仕上がりをコントロールできる点だ。ほろりとほぐれる寿司飯やピラフなどは、1気圧で炊飯。しゃっきりと硬めのご飯が好みの場合は、1.05気圧、モチモチが好みであれば1.25気圧をかけた沸点106℃の炊飯。さらに玄米は1.3気圧かけ107℃の高温で炊飯するため、芯までふっくらとした仕上がりになる。
圧力 | 沸点 | 仕上がり |
1 | 100℃ | 寿司飯やピラフなど |
1.05 | 101.5℃ | しゃっきりと硬めの仕上がりで丼などに |
1.1 | 103℃ | ややしゃっきりで洋食向け |
1.15 | 104℃ | みんなが納得できるオールマイティーなご飯 |
1.2 | 105℃ | ややもちもち系でおにぎりやお漬物にピッタリ |
1.25 | 106℃ | さらにもちもちでお弁当向けな仕上がり |
たいていの圧力式炊飯器は、ソレノイドと呼ばれる電磁石で圧力弁の制御を行なっている。そのため弁は、開いているか閉じているかの2つに1つだ。しかしこの炊飯器は、ソレノイド式に圧力弁に加え、ステッピングモーター式も併用しているので細かな圧力調整ができるというわけだ。
圧力式炊飯器では一般的な、内フタ裏にある鉄球の圧力バルブ | 鉄球式のバルブを開閉するソレノイド(電磁石)。バルブは開くか閉じるかのデジタル | 無段階に調整できる圧力バルブ |
押し込むとバルブが閉まり、戻すとバルブが開く | ステッピングモーターで制御されたバルブ調整機。中央の突起が出たり引っ込んだりする。 |
ステッピングモーターというのは、インクジェット式のプリンタなどで紙送りやヘッドを動かすために使われるモーター。その精度の高さは、印刷されたきれいな写真を見れば一目瞭然だろう。0.05気圧単位で圧力を制御できるのは、通常のモーターに比べ格段に精度が高ステッピングモーターの賜物なのだ。
この微妙な圧力調整が、後述するご飯の甘みを引き出すメカニカルの1つとなっている。
■甘み成分に徹底的にこだわる象印のアプローチの秘密
象印の炊飯器以外でも、しゃっきり~もちもちまで数段階に仕上がりを指定できる炊飯器は多い。結果から見ると同じ機能だが、象印の場合はアプローチが異なるのだ。
炊飯器 | アプローチの違い |
一般的な 炊飯器 | 炊飯(加熱)時間を短くすることでしゃっきり、 長くすることでもっちりさせる |
象印 NP-LU10 | 炊飯時間はしゃっきりでももちもちでも同じ。 炊飯温度を低くしてしゃっきり、高くしてもっちりさせる |
たいていの炊飯器は、しゃっきり~もちもち具合を炊飯時間でコントロールするが、この炊飯器はしゃっきりでも、もちもちでも炊飯時間は変わらない。変化させているのは炊飯温度だ。
各モードの炊飯時間。5合炊きだと、どのモードでも50~60分となっている。マニュアルより抜粋 |
各モードの炊飯温度。カタログより抜粋 |
なぜこのように他社と違うアプローチをしているかを色々調べてみて、筆者なりに納得のいく理由を見つけた。それが「デンプンのα化」というキーワード。NHKの「ためしてガッテン!」などではおなじみのキーワードだ。
サラサラのデンプンに水を入れ、熱を加えるとα化し甘みが出てくる。片栗粉に水を入れても溶けないが、熱々のフライパンに流し込むと麻婆豆腐などにトロミが付くアノ現象だ。このようにデンプンが糊状になることをα化と呼ぶ。
この現象は家庭でも簡単に実験できる。用意するのは片栗粉と水、そしてフライパンだけ。デンプンがα化されると、下段の写真のような透明なゲル(糊状)になる。さらに5分ほど水分を飛ばしてやろう。
できあがったらまず食べてみて欲しい。和菓子のくず湯のようにほんのり甘くなっているのがわかるだろう。これがお米がα化したときの甘みの正体だ。よ~く水分を飛ばすと、もちもちのお米の食感も再現できるので子供と一緒に実験しても面白い。
片栗粉を水で溶いた状態では、さらさらのデンプン(βデンプン)のまま | フランパンを厚くして、水溶き片栗粉を投入。最初は白濁した状態だが1分もしないうちにα化が始まる。おはしで一生懸命にかき回して欲しい | ここに熱を加えるとデンプンが水分を取り込み膨張し糊状になる。これがαデンプンで、この工程をα化と呼ぶ |
ただし注意する点が1つある。お箸やスプーンで取った糊をそのまま口に運ばないこと。
唾液にはデンプンを消化するアミラーゼが含まれているので、唾液が付いたお箸やスプーンで鍋のデンプンをかき回すと消化されてしまうのだ。結果として糊状のものはシャブシャブになってしまう。麻婆豆腐を食べてると、最後にシャブシャブになっちゃうのは、これが理由。
お米にもデンプンがたくさん含まれているのはご存知の通り。炊飯とは、お米としての形を残したまま、デンプンをα化させることだ。あまり長く炊飯したり水分が多すぎると、過剰なα化となりおかゆ状の糊になってしまう。甘くおいしいご飯にするには、ご飯粒の形が残ったまま、最大限にα化させること。科学的にはこう言えるだろう。
ここで一般的な炊飯器のカタログを見て気づいたことがないだろうか?
「もちもちで甘みのあるご飯」
という表記はよく見かけるが、
「しゃっきりとして甘みのあるご飯」
という表記は見かけない。もちもちモードで炊飯すると炊飯時間が長いためα化が長時間行なわれる。結果として、もちもちご飯は必然的に甘くなるのだ。逆に言えば、しゃっきりモードで炊くと炊飯時間が短いため、α化があまり進まず甘みの少ないご飯に仕上がるのだ。
さて、象印の炊飯器はどうだろう。もちもちとしゃっきりを炊き分けるのに変化させているのは、炊飯温度であって炊飯時間は同じ。α化させる時間に変わりはないので、もちもちが甘いのは当然ながら、しゃっきりとした歯ごたえでも甘いご飯を炊けるというワケだ。
※ちなみに、これは筆者の見解であり、象印のエンジニアに聞いたものではありません。
おそらく製品のコンセプトは「甘みを最大限引き出す」ということにあり、結果として炊飯時間でなく温度で仕上がりをコントロールするというアプローチになったのだろう。
甘みに対するこだわりは、これだけに終わらない。
圧力は水が沸騰して初めてかかるものだが、この炊飯器は加圧エンジンを搭載し、水が沸騰する前から強制加圧しデンプンのα化を促進させるのだ。
お米のデンプンが65~70℃でα化をはじめるため、水が沸騰する前の70℃から強制的に加圧する。圧力はα化を促進させる効果があるという。カタログより抜粋 |
モーター式バルブ制御機構のとなりにある加圧装置。モーターにより空気を圧縮し内釜に送り込む |
また通常の炊飯器では、水がほとんどない蒸らし工程では圧力がかけられないが、加圧エンジンを持っているこの炊飯器は強制的に蒸らし段階でも3回の圧力をかけα化を促すという。カタログによると、これにより甘み成分が20%アップしたとしている。
■プラチナナノコロイド&真空層の内釜でおいしく
象印らしさを感じたのは内釜だ。1つはプラチナナノコロイドをコーティングした内釜。プラチナナノコロイドは、浄水器や整水器、また象印の電気ポットなどで使われ水を弱アルカリ性にするというものだ。
同社の電気ポットのカタログより。プラチナフッ素加工が、お湯を弱アルカリ性にするとある |
このため内釜の水が弱アルカリ性に変わり、お米の表面にあるたんぱく質を分解、中心まで水が浸透するという。なぜプラチナナノコロイドが水をアルカリ化して、アルカリ性の水がたんぱく質分解するのかということも調べてみたのだが、筆者には難し過ぎて理解できず。ましてや読者のみなさんに説明することもできないので、ココは「そういう事実がある」ということでスルーしていただきたい(笑)。カタログではこの内釜により、同社の従来機より甘みが30%アップしたとしている。
また内釜の外側を見るとうっすらと横線が入っているのが見えるが、これは内釜側面の上部に真空層がある証しだ。
お米の表皮にあるたんぱく質をアルカリ化した水が分解し、表皮を抜けて芯まで吸水する |
内釜の内側はプラチナナノコロイドでフッ素加工されている | 下から1/3程度のところに見える線より上部が真空層 |
下部はヒーターが当たるので真空層にはなっていないが、その熱を逃さないように真空層が設けられている。これはちょうど魔法瓶と同じ構造。またこの構造を採用したことで、内釜の重量も軽くなりお年寄りや子供でも持ちやすくなっている。
■実際に白米を炊いてみた!
さて機能についてはこのぐらいにして、さっそくご飯を炊いてみよう。ここでは、1,680円のあきたこまち(新米)を3合炊いてみた。新米だが水の量は一切調整せず、3合の水のラインまでピッタリ入れ、普通モードで炊飯してみた。
炊飯にかかる時間は60分ほど。炊飯ボタンを押して数分もすると、インバーターを冷やすファンの音やジジジという音が聞こえ出す | 炊飯開始から15分すると、激しく湯気が出始める |
この炊飯器は蒸気レスとは無縁で、激しく湯気を上げる。しかしソレノイドで圧力バルブの開閉を行なうほかの炊飯器と違い、バシュー! と立ち上がることはない。最初は弱く、徐々に強く、そして弱く湯気を出すので、まるで炊飯器が呼吸をしているような感じが特徴的だ。
炊飯から30分もすると、蒸気の量は最大になる | アクリル製の透明な囲いは、上部の8割が露で覆われ、さらに露が成長していく |
三洋電機のおどり炊きの蒸気も激しかったが、あまりにも勢いが強いのでほとんどがケースから逃げてしまっていた。しかしこの炊飯器は、呼吸のように蒸気を吐き出すので、ケースに露が付きやすいようだ。家具の中に入れての炊飯は避けたほうがよさそうである。
ついに露が最大まで成長し、大きな水滴に!
ケース上部の露はすでに水滴にまで成長 | 炊飯器の上に水滴が落ちるほどだ |
その後蒸らし工程に入ると、水滴は徐所に乾き出すが炊き上がりまでに完全に乾くことはなかった。
消費電力は0.18kWh。他社に比べるとやや省エネといえるだろう。炊き上がりは、ご覧の通りだ。
炊飯終了まで8分の段階でも、まだ大きめの露が残っている | 炊飯終了。ほとんどの露は消えたが3cm四方に露が残っている | お釜の中央部分が若干凹んでいることから見て、釜の外側の火力がやや強めのようだ |
炊き上がりを見るとカニ穴もできていて、実においしそうなご飯が炊けた。若干、内釜中央上部に熱が回っていないようだが、炊飯後にかき回せば均一な仕上がりになるの問題ないだろう。
今日の晩ごはんは、ご飯の味を堪能するために、納豆とたまご。そしてうどんだ。う~ん、炭水化物ばっかりだが……
ご飯にはやっぱり納豆か漬物 |
食べてみた食感は、定食屋のご飯ほど硬めではないが、他社の炊飯器に比べるとわずかに硬めの炊き上がり。筆者好みではあるが、もちもち好きの家族が好まない硬さ。ただし、「いっただきまーす!」で、夕食を食べはじめると意外な答えが返ってきた。
家族全員「おいしい!」
おそらくもちもちの甘さを持っているので、硬めのご飯でも「おいしい!」と言わせたのだろう。そうか! 家族の「おいしい」の判断基準は「もちもち」の食感ではなく、「ご飯の甘さ」だったのか! 炊飯器で認知心理学まで悟ったぞ!
■ご飯の炊き分け性能はいかに!? 米粒でみる仕上がり!
筆者の炊飯器記事の恒例となりつつある、ご飯粒の拡大写真を見てみよう。
「ややもちもち」は、一般的な炊飯器の「ふつう」ぐらいの硬さ。どうやら硬さは他の機種の1ランク上に設定されているような感じだ。甘みもあり、味噌汁や漬物とあわせて食べるとおいしそう | 「もちもち」は、水分をたっぷり含んだ感じで、おにぎりにするとおいしい。お弁当などにすれば多少水分が抜けてもおいしく食べられそうだ |
ということで、今回はもちもちご飯を使ったおにぎりパーティーを開催! ご飯の味をダイレクトに味わえる塩おむすび、ゴマと塩をまぜた香ばしいゴマおむすび、そしてちょっぴり酸っぱくカルシウムも取れる梅ジャコおむすびの3色だ!
炊き立てのご飯に市販の梅ジャコを混ぜ、軽く塩を振る | 1合に大さじ3~4杯のゴマをたっぷり入れ塩を振る |
いつものように子供たちを動員してよくかき混ぜる | 一口大のおむすびをたくさん作ると、いろんな味が楽しめるのがおにぎりパーティーの醍醐味だ |
次回は、象印「真空内釜圧力IH炊飯ジャー 極め炊き」の多彩なメニューで、おかゆや豆腐、ピラフに温泉たまごなどに加え、白米を最高においしく炊く「熟成炊き」などをご紹介しよう。
2010年1月12日 00:00
「長期レビュー」は1つの製品についてじっくりと使用し、1カ月にわたってお届けする記事です。(編集部)