やじうまミニレビュー

睦和商事「ケロリン湯桶」

~洗面器1つで懐かしの銭湯気分
by 伊達 浩二


やじうまミニレビューは、生活雑貨やちょっとした便利なグッズなど幅広いジャンルの製品を紹介するコーナーです


ケロリン湯桶

 きっと年代や地域によって差があることなのだろうが、私が小学校に上がる前の昭和30年代の埼玉県では、自分の家にお風呂を持っている人の方が少なかった。自宅のお風呂は「内湯(うちゆ)」と言って、限られた家にしかない贅沢な存在だった。

 アパート住まいだった我が家では、「銭湯(せんとう)」と呼ばれる公衆浴場に1日~2日に1回ぐらいの頻度で通っていた。周囲のアパートはみんな内湯がなかったので、近所の人たちは、みな銭湯で顔を合わせていた。みんな顔見知りで、TVの人気番組の放送時間がかち合ってしまったときに、じゃあウチはNET(今のテレビ朝日)を見るから、あなたのところで日本テレビを見るようにしよう、という調整が銭湯で行なわれていたぐらいだ。そうやって、お互いの家に頻繁に子供たちが出入りしていたわけだ。

 さて、そういうふうに日常生活に欠かせない存在だった銭湯で使われていたのが、この「ケロリン湯桶(ゆおけ)」だった。

 目に鮮やかな黄色い桶に赤い文字で「ケロリン」と大きく書かれている。その上下には「頭痛・生理痛・歯痛」と「内外薬品」と書かれている。たぶん、最初に見たときは漢字が読めなかったので、ケロリン以外の文字は読めなかったと思う。

 もちろん洗面器として用意されているのだが、混み合って風呂イスが足りないときは、ひっくり返してイスとしても使われていた。それぐらい丈夫だったのだ。

フチから途中の段までは厚く、強度が高い伏せた状態。リブが入っていて強度を高めている

 広い浴場は、湯気で覆われているが、黄色いオケはとても目立った。入り口の脇には数十個の桶がピラミッド型に積み上げられていたし、カラン(水栓)ごとにも1つずつあるのだから目に付くはずだ。

 会社の同僚に聞いても、ケロリンという薬を飲んだことは無くても、銭湯でオケを見たことがあるという人が多い。ほぼ毎日目にしているのだから、宣伝効果も高かっただろう。ケロリン湯桶は、銭湯の思い出の中では、欠かせない重要なパーツとなっている。

 頭痛薬のほうの「ケロリン」は、しばらくして引っ越した先で出会った。家庭用常備薬が入った薬箱を預けておき、使った分だけを清算する「置き薬」の中に入っていたのだ。ケロリンを作っている内外薬品株式会社は、置き薬の会社が多い富山にあるので、その関係なのだろう。

 ケロリンは、大正14年に誕生した解熱鎮痛薬で、その名前は「ケロッと痛みが治る」ことに由来しているらしい。ケロリン本体は、粉末状の散薬で、昔は紙で包まれていた記憶がある。

 主成分はアスピリンなのだが、シナモン(桂皮、ニッキ)が配合されている。シナモンは胃を守るために入っているそうだが、ケロリン独特の奇妙な味の源だ。私は子供のころ、この味が好きで、熱が出たときに1包みの半分を飲むときに多めに飲んでは「高いクスリを無駄に飲んで」と怒られたものだ。

 さて、前置きが長くなった。湯桶も薬も思い出深いケロリンだが、いずれも現役だ。ケロリンは、今は袋に封入されており、15歳以上は1包みという指定で、子供用の半包みという分量は書かれていない。シリーズも増えて、新成分の入った製品や水無しで飲める製品がラインナップされている。

頭痛薬の「ケロリン」も現役。パッケージに描かれた頭痛に悩む人の顔も昔のままだ包装は変わっても中身は昔のままに見える

 湯桶も現役であり、しかも個人でも買えるという。というわけで、楽天市場で購入してみた。


メーカー睦和商事
製品名ケロリン湯桶
希望小売価格1,300円
購入場所楽天市場
購入価格1,029円

 この桶のメーカーは有限会社睦和商事と言って、昭和38年から内外薬品と一緒にやっているそうだ。内外薬品のサイトにある「内外薬品の歩み メディシン・ロード」というコンテンツでも、「『ケロリン』ブランドへの道」という章で、睦和商事との協業が語られている。

 簡単に言うと、広告媒体としての湯桶を公衆浴場や温泉へ納品する睦和商事のアイデアと、置き薬から店頭販売薬へ拡大したい内外薬品の思惑が一致したということのようだ。「内外薬品の歩み」の記述では、両社の社長がいっしょに出張するなど親しげな様子が伺えて快い。

 ケロリン湯桶には、関東版と関西版があり、関西版は一回り小さいそうだ。関西の銭湯では湯舟から桶で掛け湯をする習慣があり、関東版では湯が入りすぎて重くなってしまうため、一回り小さい関西版の湯桶が誕生したという。通販で販売されているのは関東版になる。

 届いた湯桶の直径は22.8cm、高さは11.6cmなので、一般的な洗面器に比べて、やや小さめで、その分、深さが深い。樹脂は厚く、がっちりとしている。湯を入れて片手でもっても、桶がたわむようなことはない。表面は堅く、つるつるしている。

100円ショップで買った一般的な洗面器との比較。ケロリン湯桶は、口径が小さめで深いことがわかる

 黄色は記憶にあるよりも明るい印象だった。樹脂は透明感がある。「ケロリン」の文字は、もっと真っ赤だったような気がしていたが、おとなしめで派手さはない。

 さっそくお風呂で使ってみる。洗面器を前にして、蛇口からお湯を入れていくと、「ケロリン」の文字が揺れて、明るさも増してくるようだ。単なる洗面器ではあるが、やはり子供の頃の思い出に関わる製品は、懐かしい。湯船に浸かりながら、ケロリンの文字をじっと眺めていると、いろいろなことを思い出してしまう。よく銭湯に連れて行なってくれた母方の祖父母のことなども思い出す。

黄色いケロリン湯桶は、バスルームのアクセントになるお湯を入れると、ケロリンの文字が揺れて、なんとも楽しい

 湯船からお湯を汲んでみる。深さがあるので、たっぷりとお湯が汲める。女性には、やや重く感じるかもしれないが、浅く汲むようにすれば問題ない範囲だと思う。

 このケロリン湯桶は、誰にでも勧められる商品ではないかもしれないが、子供や学生の頃に銭湯に通った経験や、温泉旅行のある人にとっては、とても重要な記憶の鍵になる存在だ。そんな記憶があれば、湯桶としては、やや高めの価格だが、その対価は十分にあると思う。



2010年 3月 26日   00:00