藤本健のソーラーリポート

今後の日本の農業を変えるかもしれない“ソーラーシェアリング”とは

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)

 ソーラーシェアリングという言葉をご存じだろうか? 「農地で営農しながら太陽光発電も行なう」というものなのだが、これは日本のエネルギーのあり方を抜本的に変える可能性を秘めた非常に興味深いシステムだ。先日、そのソーラーシェアリングの第一人者であるCHO技術研究所の長島彬氏にお話しを伺うとともに、千葉県でソーラーシェアリングを実践する農家を見学することができた。今回は、ソーラーシェアリングとはどんなものなのかをレポートしてみたい。

農地で太陽光発電すると、収穫量が増える!?

 従来、農地で太陽光発電を行なうことは認められていなかったが、2013年4月1日に農林水産省から「支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取扱いについて」というガイドラインが公表されたことで、状況は大きく変わった。つまり、田んぼや畑の上にソーラーパネルを設置して、発電することが認められたのだ。

 「でも、農地の上にパネルを設置したら、日が当たらなくなり、作物ができなくなるではないか!」と思う人も多いだろう。ただでさえ、食料自給率の低い日本で、農地を減らしたり、収穫を減らすのはよくないのではないか……、と。筆者も、まずそこが気になったのだが、実は収穫が減るどころか、増やす効果もあるようなのだ。

CHO技術研究所の代表の長島彬氏

 「ほとんどの植物には、光飽和点というものがあります。ある一定以上の光を浴びても、それ以上の成長は見込めません。それどころか、過度な太陽光は植物にとっても動物にとっても有害です。その光を遮るため、気化熱で温度を下げるために、植物は葉を増やしており、その部分は実質的な光合成をしていないのです」と話すのは、CHO技術研究所の代表の長島彬氏。長島氏はソーラーシェアリングの発案者で、2004年に特許出願したという人物。といっても翌2005年には技術を公開しているので、現在は国内外で誰でもがソーラーシェアリングを利用できるようにしている(特許公開2005-277038)。

 その長島氏によると「ソーラーパネルと空スペースを1:2の比率で設置すると、下の農作物に当たる太陽光は約35%減少することになりますが、作物に影響はありません。かえって有害な光を遮ることができるため、より効率よく光合成ができるようになり、結果として収量は増えることがあっても、減りはしないのです」とのこと。

ソーラーシェアリングのイメージ図

 光飽和点という言葉は初めて聞いたが、たとえばイネの場合、光飽和点は40〜50klx(キロルクス)。20klxあれば、80%の光合成が可能なのだとか。2万lxというと、木洩れ日の1/5程度の照度であるため、1:2の比率でソーラーパネルを取り付ける程度では、なんら影響がないようなのだ。ほかの農作物の光飽和点を見ても、レタスで25klx、ナス、エンドウ、ブドウなどで40klx、キュウリで55klx、かなりの光が必要といわれるトマトでも70klxなので、ソーラーパネルの比率をもう少し増やしても問題ないレベルである。

 先日、長島氏が管理しているソーラーシェアリング実証試験場を見せてもらった。大雨の中での取材ではあったが、ここにはソーラーパネル:空スペースが1:2〜1:1と徐々に間隔が詰まる形で設置されてあり、その下にトウモロコシが植えてあった。

 「トウモロコシは、光飽和点がない珍しい植物です。つまり、受ける光が多いほど成長する植物なのですが、まったくパネルの影の影響を受けない手前のほうが、小さく、パネルの下の影になる部分のほうが大きく成長しているのが分かるでしょう」(長島氏)

 手前が南なので、まさにその通りであり、ちょっと不思議な感じさえする。CHO技術研究所がまとめた「ソーラーシェアリングの実証試験方法とその結果」を見ても、そうした結果が細かく記載されている。

長島氏が管理しているソーラーシェアリング実証試験場
ソーラーパネルの下にトウモロコシが植えてある
全くパネルの影響を受けない手前のトウモロコシの方が小さく、パネルの影になるトウモロコシの方が大きく成長している
CHO技術研究所がまとめた「ソーラーシェアリングの実証試験方法とその結果」

細長いソーラーパネルに簡易な架台の意味は?

 ここで「おや?」と思うのが、ソーラーパネルの形状だ。一般的に住宅の屋根に載せるタイプのものやメガソーラーなどに使うものと比較してずいぶん細長い。その理由は、薄型パネルだと、風荷重を抑えられること、支える単管パイプへの重量負荷を抑えられること、畑への雨だれの影響を小さくできること、光の当たり方が平均化しやすいことなどが挙げられる。長島氏によると、使っているのは出力70Wの中国製のもの。現在、数社がこうしたパネルを作っており、注文すれば比較的容易に入手できるようになってきた、という。

一般的なソーラーパネルより細長い形状のパネルを採用している
中国メーカー、アメリソーラーの70Wのパネルを使っている

 また、メガソーラーなどに設置されている架台と比較すると、ずいぶん貧弱なものに見えるが、実はここにも大きな理由があるようだ。

 「この架台は単管パイプで組んだ非常に簡易な構造になっており、基本は机と同じで、置いてあるだけ。法隆寺も桂離宮も石の上に置いてあるだけで、何百年も大丈夫。そのため非常に安く作ることができるのです」と長島氏。パネルが小さくて軽いから、風の影響を受けにくく、強風でもまったく問題がないとのこと。

 「風速50mを超える何年かに1度というような大型台風が来る場合は、事前にパネルを水平に動かして備えれば、風の抵抗を受けないので大丈夫です」(長島氏)という構造もユニークなところだ。また、農地の上に設置するとはいえ、ずいぶん背が高いように思えるが、ここにも大きなポイントがある。高さは約3mとなっているそうだが、これだけあると、トラクターをパネルの下に入れることができ、従来同様の農作業が行なえるのだそうだ。これだけの高さがあれば、メガソーラーのように雑草による影を心配する必要もまったくない、というわけだ。

“補助がなくても、太陽光発電は十分にやっていくことができる”

 気になるのは、いくらくらいで設置が可能なのかというところ。

 長島氏によると「2014年5月の実勢価格は設置工事費用込みで4.8kWで1,550,000円で、kW単価は30万円以下になりました」とのこと。国内の年間の発電量は、出力の約1,000倍となるため、年間発電量は4,800kWh。20年間で96,000kWhが期待できるため、発電単価は

   1,550,000÷96,000=16.2円/kWh

 となる。つまり、買電単価より遥かに安い金額での発電が可能になっており、グリッドパリティー(発電コストが系統電力のコストと同等またはそれ以下になること)はとっくに実現しているというのだ。「太陽光発電もFITだとか補助金とかで甘えてしまっている面がありますが、長期的に見れば、それもよくない。現在、売電価格は32円/kWhとなっていますが、そんな補助がなくても太陽光発電は十分にやっていくことができるのです」と長島氏は力説する。

 一方、農家にとって、こうした発電収入はどういう意味を持つのだろうか?

 「米作農家の収入は従来反収10万円ほどといわれてきましたが、最近はさらに下がって65,000円程度。しかし、ソーラーシェアリングを利用すれば、1反で40kW分を設置できるため、年間で約40,000kWが得られます。これを現在の売電価格32円+税で計算すると、1反あたり約136万円と大幅な収入増が見込めます。だからといって農業をやめるのではなく、両立させていくことを前提としているので、大きな意味を持っているのです」と長島氏。

 これだけの収入が見込めるのであれば、農家の後継者問題を根本から解決できるし、補助金漬けとなっている日本の農業を大きく変えることが可能性がある、というのだ。

 ここで長島氏から配布されたのがちょっと変わった日本地図。

日本の善の内460万haのうち、300万haでソーラーシェアリングすれば、日本国内の年間電力使用量全てを得られるというデータ。赤い枠内がその面積となる

 ここに掲載したのは、その日本地図をスキャンしたものなので、やや読みづらいかもしれないが、これは非常に興味深い内容となっている。まず、日本の全農地面積は460万haあり、中国地方全体と同程度の大きさとなっている。そのうちの300万haにおいてソーラーシェアリングを行なえば、国内の年間電力使用量9,000億〜10,000億kWhのすべてを得ることができるというのだ。その面積を表すのが赤い枠となる。もちろん、太陽光発電は昼間発電して、夜はまったく発電できないので、すべてを太陽光発電で賄うのは不可能だとしても、かなりの電力を賄える可能性がある。

 よく「大規模発電を考えると、太陽光発電は雲など気象条件によって大きく変動するため出力が不安定」という批判がある。

 この点について長島氏は「確かに個人宅の発電量は雲がかかり急激に変動しますが、広い範囲に分布した太陽光発電全体の発電量の変化は雲の移動する速さによって決まります。たとえば雲が時速50kmで西方から流れてきたとすれば、太陽光発電所が東西50kmに分布していれば晴天時の出力が曇天時の出力まで落ちるには1時間必要になり、日本全体を考えれば前線の移動によって減じる発電量は雲の範囲で減るだけに過ぎないのです」と反論する。

 もちろん、送電線や変電所の設置など、ソーラーシェアリングを大規模に行なっていくと、整備しなくてはならないインフラも数多く登場してくるが、それによってエネルギー問題が大きく解決されるのであれば、国全体を挙げて取り組む価値は大きいのではないだろうか?

設置費用1,200万で、初期費用は約7年で回収

 さて、その長島氏が提唱するソーラーシェアリングを実践する農家も登場し始めている。そのうちのひとつ、千葉県大網白里市の農園を見学させてもらった。1,025平方m=約1反の土地に70Wのパネル810枚を設置し、ここに田淵電機のパワコンEnuTelus 9.9kWを5台接続した49.5kWのシステム。

約1反の土地に70Wのパネル810枚を設置している
田淵電機のパワコンEnuTelus 9.9kWを5台接続した49.5kWのシステム
落花生を植えて10日後の畑の状態。発育状態はこれまでと変わらないという

 見学に行ったときは、まさに完成直後。千葉の砂地だけあって、落花生を植えて10日しかたっていないとのことで、まだ発育状況はよくわからなかったが、「支柱の周辺に植えてないようにするため、畝(うね)の数がちょっと違うことを除けばは、これまでとほぼ同じですね。パネルの高さは3m弱なので、トラクターを使っての作業もできます。今は落花生ですが、これからサツマイモを植え、11月にはブルーベリーの作付をしていく予定です」とのこと。

 この設置工事は、人手を要する作業の時だけ、仲間に手伝ってもらったそうだ。ただし、ここは砂地の畑であるため、長島氏が話していた「置くだけ」の工事とは少し異なり、単管パイプを地中1mほど埋めているという。その下に厚さ10cmのコンクリートの下板を設置してあるが、ボルトで留めるようなことはなく、やはりただこの上に置いてあるである。

 気になる設置費用はボランティア食事代や系統接続費用、備品購入代などすべて入れて1,200万円強とのこと。kWあたりで見ると20万円/kWというわけで、先ほどの例にならって計算をすれば、発電コストは10円/kWhと激安。もちろんパワコンなど20年持たずに交換するものや、ある程度のメンテナンス費用がかかるとしても、買電単価より遥かに安く、グリッドパリティーは余裕で実現できているわけだ。一方で、このシステムを設置する申請を昨年度に行なっているため、売電単価は36円+税。したがって、単純計算でいけば7年で初期費用は回収できることになるので、かなり大きなメリットになりそうだ。

農地を持っていない人でも参加できる新しいしくみ

 実は、この農場では49.5kWのシステムを計5セット分申請している。とはいえ、これをすべて運営するには6,000万円もの費用が必要となり、現実的にはなかなか難しい。そこで、地元のNPOなどとともに、市民出資発電所として運営することを予定している。NPOグリーンタートルズの代表である東光弘氏は「地域興しと連動した形での市民出資再生エネルギー発電所プロジェクトを進行させております。具体的な物件として、大網白里市と匝瑳市に準備している2カ所でパネルオーナー制度を開始したいと考えています」と話す。

 パネルオーナー制度とは、ソーラーシェアリングを普及させていくために、一般の市民に参加を促し、ソーラーパネルのオーナーになってもらう、というもの。詳細については、現在企画中とのことだが、パネル1枚を3万円程度で購入してもらい、1〜1.5%程度の配当が出るようにするのだとか。「配当金ではなく、そこで収穫した作物を配布する、といった選択肢も用意したいと考えています」と東氏。

 具体的な内容については、8月下旬〜9月上旬に募集開始する際にオープンにするとのことだが、農地を持っていない人でも参加できるこの制度は魅力的にも思える。

 今後、ソーラーシェアリングを普及させていくためには、国レベルでのバックアップが重要になってくると思うが、日本のエネルギー問題、食料自給率低下の問題、農業の後継者不足問題などを一挙に解決する可能性を持つ、切り札になるのではないだろうか。

(藤本 健)