藤本健のソーラーリポート

日本最大規模の地熱発電所、大分県の八丁原発電所に行ってきた!

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)

 世界有数の火山大国である日本。日本各地に火山、温泉があり、そこから取り出せる熱水も重要なエネルギー源であるが、これを利用した地熱発電所はごくわずかしかないのが実情でもある。先日、その地熱発電所の中で国内最大規模となる大分県の八丁原(はっちょうばる)発電所に行ってきたので、今回はソーラーリポートの特別編として紹介しよう。

大分県の八丁原(はっちょうばる)発電所

年間で約8億7,000万kWhの電気を作り出す

山に囲まれた自然豊かな場所にある

 日本最大規模の地熱発電所である八丁原発電所があるのは大分県の南西部にある玖珠郡九重町。東と南を阿蘇くじゅう国立公園の九重連山に、西側を耶馬日田英彦山国定公園の山々に囲まれた、まさに自然豊かな環境の中にある発電所だ。

 この八丁原発電所を管理しているのは九州電力。今回は、九州電力株式会社 八丁原発電所技術グループ長の上野智利さんに発電所施設を案内していただいた。

 「八丁原発電所には1号機と2号機があり、それぞれの出力は55,000kW。合計で11万kWの電気を作ることができる日本最大の地熱発電所です。年間で約8億7,000万kWhの電気を作り出せるため、石油に換算すると約20万klに相当する燃料を節約できる計算ですね。こうした地熱発電が可能な国は世界で二十数カ国であると言われており、国内では九州と東北を中心に17カ所の地熱発電所があります。その出力の合計は52万kWに過ぎないため、八丁原発電所だけで日本の約2割を占めることになります」と、上野さん。地熱発電所はもっともっといっぱいあってもいいように思うが、現実には、まだ非常に限られたところでしか使われていないようなのだ。

地熱発電のメリット、デメリットとは?

九州電力株式会社 八丁原発電所技術グループ長の上野智利さん

 「地熱発電も太陽光発電や風力発電と同じクリーンな自然エネルギーですが、ほかにはない特徴があります。それは天候、昼夜を問わず安定した発電ができるという点です。一般的に風力の場合、利用率は20%程度、太陽光の場合で12~13%と言われていますが、八丁原発電所の場合、約70%と他の自然エネルギーよりも高い利用率となっているのです」と上野さんは話す。

 確かに安定して発電してくれるのは、うれしいところだが、大容量の発電所を作りにくいというデメリットもあるようだ。

 「火力発電所の場合で100万kW、原子力になるとそれ以上の規模の発電所が一般的ですが、それに比べると地熱発電所はどうしてもスケールが小さくなってしまいます。やはり自然の力を活用するだけに、周辺環境との調和がとても重要です。もともと地熱発電に適する地域というと、景観に恵まれた地域、温泉地に近いため、それを守るのが大切であり、結果的に開発可能な範囲がかぎられてしまいます。また地下の資源量を調べて、環境アセスメントなどの法律への対応なども含めれば、開発には10年以上が必要になるというのも難しいところです。ここ、八丁原も近くに温泉街があるため、この温泉関係者との調整、話し合いを進めながら理解していただくことが何よりも重要です」と地熱発電所開発、運営の難しさについても語ってくれた。

そもそも、地熱発電所って何?

 そもそも、地熱発電所って、どのような仕組になっているのだろうか? この点についても上野さんに聞いてみた。

「八丁原地域では、マグマ溜りによる火力活動が約20万年前に起きたといわれており、当発電所は、その火山活動による地熱を利用し発電を行なっています。地下から取り出した蒸気を利用するクリーンな発電であり、火力発電所のボイラーの役割を地球が果たしているのです。地下の岩盤の中に閉じ込められ、マグマの熱で230~280℃近い高温になっている地熱貯留層から地下水を蒸気井(じょうきせい)で取り出して発電に使う仕組みです。

地熱発電とは、火山活動による地熱を利用して発電している
八丁原地熱発電所の仕組み。地熱が火力発電所のボイラーの仕組みを果たしている

 なんとなく地熱発電というと、「温泉のお湯を発電に使っているのでは……」なんて想像していたが、150℃を超える蒸気が、かなりすごい勢いで飛び出してくるからこそ、大きなタービンが回せるということを初めて理解した次第だ。

 この蒸気井、やはり温泉地で温泉を掘るのとは次元も異なる。ただお湯を取り出すのではなく、230~280℃にもなる高圧の蒸気を取り出すために、地下も深く、八丁原発電所の場合、稼働中の井戸の深さは、平均で約2,000m、数は十数本もあるのだ。

地下2,000mも掘っているという蒸気井
かなり高圧な蒸気、熱水が吹きあげてくる
敷地内には蒸気井が十数本備えられている

 「安定した地熱発電所を実現するためには、単に火山地帯というだけでなく、複数の条件が揃っている必要があります。まずは地下に地熱貯留層と呼ばれる地下水のたまり場があって、そこがマグマで熱せられることです。でも、ただ、熱せられるだけでは、その熱や蒸気は拡散してしまうため、その地熱貯留層の上にキャップロックという粘土質の地層があることも重要なポイントです。これがあることで、地下深くで高い温度、高い圧力が保たれたままでいるのです」

 なるほど、キャプロックの下にある地熱貯留層まで貫通させるために、2,000mもの井戸を掘削する必要があるというわけだ。この蒸気井から出てくるのは、水蒸気だけというわけではない。当然のことながら熱水も混ざりあった流体(これを二相流体と呼ぶそうだ)が出てくる。そこで、これを気水分離器というセパレーターを用いて、蒸気と熱水を分離させる。このうち蒸気は、そのまま発電所のタービンに送り、熱水はフラッシャーと呼ばれる設備へと送り、地下に還元される。

気水分離機というセパレーターを用いて、蒸気と熱水を分離させる
蒸気はタービンに、熱水はフラッシャーと呼ばれるシステムへと送られる

 気水分離器で、分離された熱水は、50℃、60℃といったお湯ではなく、非常に高圧のまま出てたものなので、温度は100℃を超える。そこでフラッシャーで圧力を下げることによって、さらに蒸気を発生させて、それも合わせてタービンへと送るのだ。このように2回蒸気を取り出す方式を「ダブルフラッシュシステム」と呼び、八丁原発電所で採用されている。1次で分離した熱水の温度が高い場合、2次のフラッシャーで蒸気を取り出すことができるため、出力が15~25%程度増加するのだという。

 このようにして送られた蒸気によってタービンが回り、そのスピードは1分間に3,600回転となる。これによって九州地方で使う60Hzの交流が作り出されるのだ。なお、送られてきた蒸気で効率よくタービンを回すには、タービンの出口側の温度を下げ、蒸気を水にすることによって気圧を下げるための復水器が必要である。そして、復水器でできた温水を冷却させる装置として、冷却塔があるのだ。この冷却水は、復水器に送られて蒸気を冷却するために再び使用される形になっている。

建屋内にある1号機、2号機の2つのタービン
各タービンは三菱製のもので、出力が55,000kWと表示されている
タービン内にある高精密な羽根車。メンテナンスのための予備が展示されていた
復水器通過後の温水を冷却する冷却塔

一度くみ上げた水を再び地下に戻す

 ところで、この八丁原発電所が再生可能エネルギーの発電所として機能するために非常に重要な仕組みがある。それは、この発電所が永続的に動作する再生可能な状態であることだ。

 ここまで見てきたとおり、地熱発電所は地下深く浸透してきた地下水が熱せられ、高圧な蒸気になることで、タービンを回すわけだが、マグマによる熱はともかくとして、もし地下水が枯渇してしまったら、発電ができなくなってしまう。実際、これまで30本程度掘ってきた蒸気井の中には、数年で蒸気が取り出せなくなってしまったものもあるとのこと。つまり地熱発電所といっても、条件が崩れれば、永続的に使うことができなくなってしまうのだ。

一度くみ上げた地下水を地下に戻す、還元井

 そこで、八丁原発電所では組み上げた地下水を還元井を通じて地下に戻すということを行なっているのだ。

 「フラッシャーで蒸気を取り出した後も、まだ90℃近い熱水が残ります。これをそのまま捨てるのではなく、還元井を通して地中深くに戻しているのです。もともと地熱貯留層には雨が浸透して流れ込んだ水があるのですが、ここに到達するまでには長い年月がかかります。そこで地下に水を戻してやることで、水の枯渇を防ごうとしているのです。こうすることで環境保全にもつながっているのです」

 前述のとおり、これまで30本程度の蒸気井を掘っているわけだが、そのすべてが機能しているわけではない。中には数年で、蒸気の勢力が弱まったものがあるという。一度掘れば、永遠に使い続けられるわけではない、ということなのだ。

 なお、この八丁原発電所の近隣には、もう1つ大岳発電所という地熱発電所がある。八丁原発電所の1号機の稼働が1977年、2号機が1990年なのに対し、大岳発電所は1967年の運転開始と10年早い。出力は12,500kWと小さいが、八丁原発電所よりも優れた点がある。それは稼働から46年経過したが、蒸気井の中には、稼働開始時に掘ったものが今でも使えているのだ。ここまで長期間稼働してくれるのであれば、非常に効率のいい発電所といえる。そんな地熱発電所がいっぱいできるといいのだが……。

使えなくなってしまった蒸気井も発電にバイナリー発電に利用

 ここまで見てきたとおり、八丁原発電所には、使えなくなってしまった蒸気井が複数存在している。では、この蒸気井は、まったく何も出てこないのかというと、そういうわけでもない。高温高圧が必要となる、1号機、2号機のタービンには役立たないものの、もう少し温度や圧力の低い蒸気や熱水を取り出すことはできるのだ。そこでこのエネルギーも有効活用しようということで、規模は小さいながら、バイナリー発電施設というものも併設されているのだ。

現在休止中の蒸気井。ただし、温度や圧力が低い蒸気や熱水を取り出すことはできる

 バイナリー発電というのは、沸点の低い媒体を熱交換器で加熱・蒸発させ、その媒体蒸気によりタービンを回すというもの。その媒体として利用されているのがペンタンだ。ペンタンの沸点は人間の体温に相当する36℃。これなら、70~80℃といった温度の蒸気や熱水であっても十分発電に利用できる。

沸点の低い媒体を熱交換器で加熱・蒸発させ、その媒体蒸気によりタービンを回すバイナリー発電
媒体として使われているペンタン。沸点が約36℃と低く、低い温度帯の蒸気や熱水を発電に利用できる

 「大型のバイナリー発電設備は海外で多くの実績はあるものの、国内には実績がありませんでした。そのため、まずはその経済性や性能の評価をすることを目的で実証実験を行ない、2006年から営業運転を開始しています」と上野さん。

 発電設備自体はイスラエル製のもので、定格出力は2,000kWとのことなので、メインの地熱発電所と比較すると、ずいぶん小規模ではある。とはいえ、こちらも天候・昼夜を問わずに発電できることを考えると、なかなかいい設備だ。

 この規模であれば、各地に普及するとなかなか有意義なように思える。もちろん、設備コストの問題で簡単にはいかないのだろうが、もっと地熱発電所が増えていくことに期待したいところだ。

藤本 健