大河原克行の「白物家電 業界展望」

シャープが“プラズマクラスター専門”の事業部を新設した理由

~26年ぶりの組織変更、鈴木隆事業部長に聞く
シャープの新しい空気清浄機「KC-Z80」と「KC-Z65」は、新設された「プラズマクラスター機器事業部」の第1弾の製品となる

 シャープは、2010年10月1日付けで、「プラズマクラスター機器事業部」を新設した。

 シャープの生活家電を担当する部門「健康・環境システム事業本部」は、1984年に電化システム事業本部としてなって以来、組織名称の変更はあったものの、冷蔵庫(冷蔵システム事業部)、エアコン(空調システム事業部)、調理家電(調理システム事業部)、洗濯機(ランドリーシステム事業部)の4事業部体制は基本的には変わらなかった。

 しかし、このほど新設したプラズマクラスター機器事業部によって、26年ぶりに体制が改革され、5事業部体制となった。果たして新組織にはどんな狙いがあるのか。プラズマクラスター機器事業部の初代事業部長に就任した鈴木隆氏に話を聞いた。


プラズマクラスターはサービス事業?

シャープ 健康・環境システム事業本部プラズマクラスター機器事業部 鈴木隆事業部長

――実に四半期世紀ぶりとなる生活家電事業の組織改革を行なったわけですが、プラズマクラスター機器事業部を新設した理由はどこにありますか

 プラズマクラスター機器事業部は、その名の通り、プラズマクラスター技術に関する事業を担当する部門です。

 これまでプラズマクラスターは空調システム事業部の中で事業を展開してきましたが、エアコンとプラズマクラスター機器とは大きく異なる部分があります。これはあくまでも個人的な考え方なんですが、エアコンはハードウェアの事業であり、プラズマクラスター機器は“サービス事業”という違いがあると思います。

――サービス事業ですか? それはどういった意味でしょうか

 というのも、エアコンは空調を行なう機器であり、ユーザーもエアコンというハードウェアを購入します。しかし、プラズマクラスターは、イオン発生機や空気清浄機というハードウェアで提供されるものもある一方、それとは別に、デバイスとして数々の機器に搭載され出荷されるものもあります。

 現在、自動車や鉄道、シャワートイレ、エレベータなど、24社の異業種メーカーの製品に搭載されています。これは、当社からプラズマクラスター技術のデバイスを提供して実現しているものです。もちろん、シャープのエアコン、冷蔵庫、掃除機、複写機、LED照明などにも、このデバイスは搭載されています。縦構造のシャープの生活家電事業においても、横断的に活用できるデバイスということになります。

 こうした製品やデバイスを通じてシャープが提供しているのは、極論すれば「空気の質を良くすること」で、つまり“空気サービス事業”なんです。デバイスを供給している24社の企業も、プラズマクラスター技術を使って、空気サービスを提供しているといえるわけです。


新築や引っ越しで家電を選ぶように、プラズマクラスター導入も検討されたい

プラズマクラスター機器事業部が新設されたが、これはシャープでは26年ぶりの新事業部発足になるという

――新組織では、プラズマクラスターというシャープの技術ブランドを組織の冠としました。製品ブランド、技術ブランドを冠にした事業部はほかにはありませんね。この組織には、それだけ強い意思を感じますが

 シャープが指向する柱の1つに「健康」がありますが、健康軸におけるオンリーワン技術がプラズマクラスターであり、このブランドを世の中に定着されること、そして、多くの人にプラズマクラスターを広げていくことが、この事業部の役割となります。そうした意思が、この組織名にあるといえます。

 そして、これまで以上に、ドラスティックにプラズマクラスターを普及させることに取り組みたいです。

――ちょっと名称が長くて、言いにくいですね(笑)。社内では略称はあるのですか

 いや、私はプラズマクラスター機器事業部という名前をそのまま使うつもりです。かつて、プラズマクラスターイオンの略称である「PCI」を使ったPCI事業推進センターがありましたが、PCIの名称は社内ではわかっても、社外では通じません。多くの人に知っていただくという観点からすれば、PCIといった略称を使うよりも、プラズマクラスターといった方がいい。電話でも、「プラズマクラスターの鈴木です」と言いますよ(笑)。

 プラズマクラスターに対する認知度は、今現在約74%にまで達しています。量販店では、他社の空気清浄機を指して「これにプラズマクラターはついていないの?」という質問があるという話も聞いています。

現在の空気清浄機の普及率は36.6%。鈴木氏はできるだけ早く50%に高めたいという

 しかし、私は、もっと認知度を高めていきたい。例えば新築の家を建てたり、家をリフォームしたり、単身赴任で引っ越したりといった場合にも、洗濯機や冷蔵庫、エアコンなどと同列で、プラズマクラスターの導入を必ず検討するといった環境を作りたい。

 現在のところ、空気清浄機の普及率は36.6%で、約3軒に1台という普及率です。これを早い段階で50%にまで引き上げていきたい。そのためには市場シェアの半分を持つ当社のオンリーワン技術であるプラズマクラスターを、さらに広く認知してもらう必要がある。「空気があるところにはプラズマクラスターが必要だ」という常識を作っていきたいと考えています。


プラズマクラスターは家電の領域だけには留まらない

シャープの空気清浄機事業は、健康・環境システム事業部の約22%という高い構成比を記録している

――健康・環境システム事業部の売上高のうち、22%が空気清浄機およびイオン発生機事業となっています。同事業本部が5つの事業部で構成しているという観点からみても、5分の1の構成比をすでに上回っています。逆算すると、2010年度見込みは約600億円規模の事業になるということでしょうか

 具体的な数値は公表していませんが、もともと単価が安い製品が中心となっていますから、エアコンや冷蔵庫などに比べて、数量を出すことが大きな意味を持ちます。デバイスを搭載した製品の広がりもありますし、今後はモジュールという形で提供していくことも考えています。コラボレーション型のビジネスを展開できるという点もプラズマクラスター事業の大きな特徴ですから、事業成長においてはこうした取り組みも欠かすことができないものになります。一般コンシューマ向けのビジネスだけでなく、BtoB型のビジネスも加速させていきたいです。

 さらにこの事業部には、アカデミックマーケティング(第三者機関により機能や性能を実証し広告活動に利用するマーケティング方法)の部隊もありますから、この活動を通じて、新たな効果を実証し、そこから新たな用途、提案を生んでいきたい。

 プラズマクラスター機器事業部は、プラズマクラスター技術を搭載した製品であれば、なにをやってもいいと捉えることができる。ですから、工業会(国内家電メーカーの多くが所属する業界団体、社団法人日本電気工業会[略称JEMA]のこと)で取り扱う領域の製品に留まるということは考えていない。すでに車載用プラズマクラスターイオン発生機も発売していますし、さまざまな挑戦によって、対象とする範囲を広げ、プラズマクラスター技術を用いることができる市場の拡大に取り組むつもりです。

効果を第三者機関が実証し、広告活動に利用する「アカデミックマーケティング」も継続し、新たな効果を実証していくというプラズマクラスターのデバイスは、シャープ以外にも全24社の企業に展開されている


海外にもプラズマクラスターを展開中。鍵はそれぞれの国に適したマーケティング

――プラズマクラスター関連製品において、海外事業を拡大していくことは、片山幹雄社長自らが明言しています。すでに全世界100カ国で利用されているといいますが、片山社長はこれに加えて、プラズマクラスターイオンを搭載したボリュームゾーン製品を、中国、アジアを中心に拡大したいと語っていますが

 海外事業の拡大はプラズマラスター機器事業部においても重要な取り組みの1つになります。現在、海外売上比率は1割となっており、すでに中国およびASEAN市場向けに最適化した空気清浄機を投入しています。アレルギーというのは先進国だけのものではなくて、新興国でも大きな問題となっている。そこにプラズマクラスターの価値があります。

 ただ、家電製品を購入する優先順位が先進国とは違いますから、日本と同じようなマーケティングをしても受け入れられない。それぞれの国に適したマーケティングを展開していくことになります。今後は、中近東や米国にも市場を広げていきたいと考えています。

シャープの2010年度における空気清浄機の新製品は、11月15日より順次発売される

――2010年度には、プラズマクラスター機器の累計出荷が3000万台に到達する見通しを明らかにしていますね。これはいつ頃になりますか

 現状ですと、年内に達成できるかどうかは微妙なところですが、年度内(2011年3月)までには確実に達成できます。3,000万台の出荷達成にあわせて、何かキャンペーンをやろうと考えていますが、3,000万台記念モデルは今のところ考えていません。今年はモバイル型の「IG-CM1」を、プラズマクラスター発売10周年記念モデルとして発売しましたが、記念モデルが続くのもどうかと思いますので(笑)

 11月から発売する加湿空気清浄機は、プラズマクラスター機器事業部となって初の製品になります。同時に、イチから設計をやり直した新たなプラットフォームを採用したという点でも、節目となる製品です。そして、猛暑の翌年は花粉の飛散量が増加するという傾向がありますから、それを視野に入れた製品に仕上がっています。この製品にもぜひ注目してください。





2010年10月27日 00:00