国内縦型巻き返しと、海外本格化に挑むパナソニックの洗濯機事業

by 大河原 克行

 これまでドラム式洗濯乾燥機を重点的に展開してきたパナソニックが、縦型洗濯乾燥機分野の強化を図る。「国内市場の約8割が縦型。だが、パナソニックは、この市場において苦戦していた。ここに戦略的商品を投入する」と、パナソニックホームアプライアンス社ランドリービジネスユニット・菊池一郎ビジネスユニット長は語る。もちろん、ドラム式洗濯乾燥機の取り組みも手綱を緩めるつもりはない。一方で、2009年度は、欧州での商品投入も開始し、海外事業の拡大も大きな課題となる。果たして、パナソニックの洗濯機事業は今後どうなるのか。同社・菊池ビジネスユニット長に話を聞いた。

これまでの2倍以上の予算で店頭展示を強化


パナソニックホームアプライアンス社ランドリービジネスユニット・菊池一郎ビジネスユニット長
――2009年度における、パナソニックの洗濯機事業のキーワードはなんですか。

菊池氏: 商品でいえば「環境対応のダントツ商品」、ビジネスの観点でいえば「グローバル」ということになります。

――「環境対応のダントツ商品」という観点ではどんな取り組みがありますか。

菊池氏: パソナニックは、節水、省エネにおいて、数多くの独自環境技術を持っている。例えば、当社が得意とするななめドラムでは、少ない水量での洗濯が可能となり、ヒートポンプ乾燥機能やインバータ制御機能も当社独自の省エネ機能となります。今年はヒートポンプの進化という点にも期待をしていただきたいですね。その一方で、2009年度は、縦型洗濯乾燥機の領域にも力を入れていきます。縦型洗濯機では、循環ジェットシャワー、ダンシングかくはん水流、インバーター制御といった独自の環境技術を搭載しています。

 これまでの縦型洗濯機では、節水性に対する不満が、ドラム式に比べて多いという傾向があります。しかし、当社の縦型洗濯機では、循環ジェットシャワーによって、少ない水を槽回転による遠心力で上に持ち上げ、循環させて洗浄、すすぎができる。少ない水で、十分な節水性が実現できるのです。これは当社が特許を持つ技術ですし、他社が最低でも1年、あわよくば3年は追いつけない技術だろうと考えています。

 また、ダンシングかくはん水流では、パルセータの左右に回転スピードの差をつけることで、強弱複合水流を生み出し、少ない水でも衣類が上下に入れ替わり、洗濯ができる。これまで、縦型洗濯機は、たっぷり水を使って、、ゆっくり洗うというのが常識だったが、その考え方を変える技術です。これらをまとめた「エコウォッシュシステム」を搭載した縦型洗濯乾燥機「NA-FR80S2」、「NA-FR70S2」は、4月10日から国内で販売を開始しましたが、4月7日時点での受注が前年比223%と、好調な出足を見せている。日本の市場においては、依然として約83%が縦型洗濯機です。しかし、パナソニックはドラム式では先行してますが、縦型では苦戦していた。縦型の洗濯機において、商品力を磨く必要があった。受注状況や、節水への注目度などから、この商品によって一気に巻き返すことができるという手応えがあります。

エコウォッシュシステムを実現する洗濯槽と外槽
モーターと減速機構を一体化することで省エネも実現したDMMインバーター

――店頭での訴求にも力が入っているようですね。

菊池氏: 競合他社もそうですが、これまでは、新商品を分散させて順次投入するという例が多かった。しかし、今回、当社は、「NA-FR80S2」、「NA-FR70S2」をはじめ、縦型洗濯機を6モデルを一斉に投入した。これによって登場感を演出しました。また、店頭展示でも、縦型洗濯機だけで6モデルを一斉に展示する、といった提案を行なった。過去に6モデルを一斉に展示するといった例はありません。横一列や円形、島、三角といったように店舗によって違いはありますが、全国約100店舗でこうした展示をしています。

 また、シースルーのカットモデルを100台用意して、実際に水を入れて、「エコウォッシュシステム」による洗濯の様子を確認できるようにしましたし、200台の稼働モデルを展示して、実演できるようにした。これまでの2倍以上の予算を投入して、店頭展示を強化しています。ですから、自ずと2倍規模は売らなくてはならないですね(笑)。国内においては、洗濯機市場の3割のシェア獲得が目標ですから、それに向けて取り組んでいきたい。縦型洗濯機の商品強化もそれに貢献することになるでしょう。

 

シースルーによるカットモデルを用意して、これも店頭に展示する
店頭では新モデル6台を一斉に展示して、存在感をアピールする。
 

 アジアでは、富裕層以外もターゲットに

中国市場向けのななめドラム式洗濯機(左)と、欧州市場向けに投入しているななめドラム洗濯機
――もう1つのキーワードである「グローバル」では、どんな取り組みを行ないますか。

菊池氏: まずはアジア、中国での強化を行ないます。これまでの商品展開に加えて、今年夏には、中国市場向けにインバーターたて縦型洗濯乾燥機と、アジア市場向けに展開するインバーター縦型洗濯機を投入します。縦型洗濯機が主流となるアジアや中国の市場においても、水不足や電力不足が問題となったり、節水規制や省エネ政策が行なわれています。そうしたなかで、節水技術、省エネ技術といった当社独自の環境コア技術を、縦型洗濯機にも生かすことで、他社にはない強みを発揮できると考えています。

――パナソニックでは、EM-WINと呼ばれる新興国市場向けの商品展開を強化していますね。

菊池氏: 今回、アジア向けに投入するインバーター洗濯機は、EM-WIN商品となります。やはりアジア、中国市場では、EM-WINが成長の原動力となる。感覚的なものですが、これらの市場では約6割がEM-WIN商品によるものだといえます。

――中国の洗濯機市場におけるパナソニックのシェアはどの程度ありますか。

菊池氏: 正確な統計があるわけではないので、明確にはお答えできませんが、外資系企業ということでいえば、トップシェアではないでしょうか。

――それは中高級モデルということですか。

菊池氏: いえ、中国では普及モデルをはじめ、幅広いラインアップを取り揃えていますから、上位モデルに限定した話ではありません。一槽式の洗濯機ということで捉えていただいて結構です。中国メーカーを入れても3位以内に入ることになります。2009年度は中国市場向けの全面ラインアップ強化を図り、ボリュームゾーンにも力を注いでいくつもりです。

――アジア市場ではどうですか。

菊池氏: 全自動洗濯機という切り口では、EM-WIN商品の効果もあり、4ポイントほどシェアが上昇しています。この市場では縦型が中心となります。ここに新たなインバーター式を投入しますし、下のゾーンでの展開の強化していく。また、アジア市場では大容量化が進展しており、今年秋をめどに、12kgおよび14kgの大容量モデルを投入していきます。これまで、富裕層、ネクストリッチ層が対象でしたが、さらにプラスαといえる層にまでターゲットを広げたいと考えています。

 

アジア向けインバーター縦型洗濯機中国向けのインバーター縦型洗濯乾燥機

中国市場向けに投入しているななめドラム式洗濯機

更なるプラットフォーム化で、海外進出を強化

3月から順次、欧州市場向けに投入しているななめドラム洗濯機
―― 一方で、3月からスタートした欧州市場における出足はどうですか。

菊池氏: 2月から3月にかけて、ベルギー、フランス、ドイツ、オランダ、ポーランド、スペイン、英国の7カ国で洗濯機の出荷を開始しました。3月末までの出荷実績は約5,000台。大手法人との契約で、まずは、700~800店舗の販売店において展示販売を開始しています。ドイツのある専門誌では、購入テストによる評価を掲載していましたが、当社商品は、洗浄力、静音性、使いやすさといった点を含めた総合評価で第2位。しかも、1位との差はわずかで、ほぼ同率だといってもいい。欧州市場から高い評価を得たことに自信をつけました。

 欧州市場への参入にあたり、商品化においては、いくつか考慮した点があります。1つは、ドラム式の本丸ともいえる市場ですから、その市場で評価されるだけの洗濯機の本質性能にこだわった。また、後発ですから独自性によって差別化でき、存在感を発揮できるものを開発した。ななめドラム、節水、省エネ技術は、その最たるものです。そして、使い勝手の良さにこだわるUD(ユニバーサル・デザイン)を取り入れること。商品投入前に、2,000人以上を対象に調査し、また、50台近い実機を持ち込んで、どんな使われ方をするのかを調査した。こうした点も考慮して開発した商品です。

――欧州市場での課題をあげるとすればなんですか。

菊池氏: まだ売り始めたばかりですから、欧州の需要にどれだけ合致できているのかを検証する必要がある。また、これから新たに広げていく国もありますから、そこでどんなことが起こるかがわからない。ただ、洗濯機は、デジタル商品のようにデバイスの進化によって、性能が大きく進化するというものではありません。先端の技術と蓄積したノウハウの摺り合わせによって、本質性能である洗浄力と、環境性能である省エネ・節水という二律背反する進化を同時に実現する必要がある。水流をどう作り、どのぐらいの時間洗い、途中ですすぎや絞りの工程をどう入れるか。こうしたシーケンスの部分にもノウハウがある。ここに当社の強みがあります。

――白物家電事業においては、主要商品において、プラットフォーム化を推進している段階ですね。

菊池氏: 洗濯機においても、プラットフォーム化を推進しているところです。今回のアジア、中国への展開もプラットフォーム化によって実現したものだと思ってもらって構いません。これによって、共有化できる部分が増え、効率的な商品展開が可能になる。ブロック単位でいえば、共有化によって半減するぐらいメリットが出ています。プラットフォーム化はこれからも進展していきますから、グローバル化を推進する上で、ますます効果が出てくると考えています。 



・欧州本格進出で描く、パナソニックの世界戦略(2009年03月02日)
・パナソニック、99Lの水で洗える縦型洗濯乾燥機を技術解説(2009年02月26日)
・パナソニック、欧州の白物家電事業に本格参入(2009年02月25日)


2009年4月15日 00:00