大河原克行の「白物家電 業界展望」
鳥取に根を下ろす、三洋電機コンシューマエレクトロニクスを訪問
鳥取県鳥取市にある三洋電機コンシューマエレクトロニクスにある本社 |
このほど、三洋電機コンシューマエレクトロニクスを訪れる機会を得た。同社の家電分野における主力製品の1つである炊飯器事業への取り組みとともに紹介しよう。
1966年7月に設立した鳥取三洋電機は、1950年から1964年まで、鳥取大学が使用していた跡地の有効利用を模索していた鳥取市の誘致活動のなかで、当時の三洋電機・井植歳男社長と、鳥取市・高田勇市長とのトップ会談によって、同地への進出が決定したものだ。
もともと本社のある場所は、歩兵第40連隊の兵舎などに使われていた敷地で、現在でも、1897年(明治30年)に建てられた木造の兵舎が4棟、将校集会所に使われた建物が1棟残っている。三洋電機コンシューマエレクトロニクスでは、この100年を超える歴史を持つ建物を、事務棟、コールセンター、会議室などに利用している。
敷地内には築後100年を超える木造の建物が4棟使われている - | 家電製品は本社とは別の鳥取市内の拠点で生産されている |
2008年4月の三洋電機コンシューマエレクトロニクスのスタートを記念して行なわれた植樹。まだ木が若い |
1966年の鳥取三洋電機の設立に伴って、約20社の協力会社が関西地区から鳥取へと移転。鳥取地区には、鳥取三洋電機を頂点とする開発、生産体制が整った。その存在は、現在でも、鳥取県を代表する企業の1つに、三洋電機コンシューマエレクトロニクスが位置づけられていることからもわかるように、鳥取県の経済成長に、長年に渡り、多大な影響を及ぼしてきた。
昨年、三洋電機コンシューマエレクトロニクスに社名を変更するにあたり、地元では、「鳥取」の名前が外れることが大きな話題となったのも当然のことである。
鳥取三洋電機では、1966年から、オーディオ事業を開始。第1号製品として、レコードを再生するポータブルフォノグラフ(ポータブル電子蓄音機)の生産を開始。その後、同事業においては、カセットデッキ、ラジカセ、CDプレーヤーなどを生産。1980年代後半まで、これら製品を製造していた。
三洋電機コンシューマエレクトロニクスの第1号製品のポータブル電子蓄音機 | 1969年に生産された世界初の3イン1方式のポータブル電子蓄音機。写真は電子蓄音機累計出荷100万台達成機 |
電子蓄音機の累計出荷100万突破記念式典の様子 | 1966年当時のポータブル電子蓄音機の生産の様子 |
1968年からは、白黒テレビの生産を開始し、生産規模を一気に拡大させたこともあった。
1968年からは白黒テレビの生産も行なっていた | 1968年に完成した電器工場棟 |
また、1975年にはキャッシュレジスター事業、1979年にはファクシミリ事業を開始。1980年からは、パソコン、ワープロ事業を開始し、ポータブルワープロやAX仕様のパソコン、MSXなどをここで生産してきた。LAN機能内蔵ノートパソコンやCD-ROM内蔵ノートパソコンは、同社で作られたものが最初だと説明する。
1981年からは電話機事業をスタート、1989年は携帯電話機事業を開始。携帯電話事業は、昨年、京セラに売却したものの、au向けのINFOBARといったヒット商品をはじめとする携帯電話端末が、2008年度上期まで、鳥取の地で生産されていた。
コードレス電話機の大ヒット商品 CUTEシリーズ。子機にてぶら機能を搭載した | au向けに生産されたINFOBAR。2003年に鳥取で生産されたものだ | 三洋電機コンシューマエレクトロニクスで生産された携帯電話端末の数々 |
そのほか、1977年からは液晶事業を開始。1998年からはTFT型表示モジュールの生産も開始した。なお、2004年には三洋エプソンイメージングデバイスを設立。液晶事業を同社に移管している。また、LED関連事業も早い段階から開始し、ノウハウを蓄積してきた経緯があった。ユニークなところでは、73年から滅菌・殺菌器事業を開始。これはその後別会社に移管され、医療分野や理化学分野向けの製品として事業が継続されている。加えて、将来の三洋電機の事業の柱の1つになると期待されているHEV(ハイブリッド電気自動車)の充電モジュールなどの開発も2006年から開始している。
鳥取三洋電機のスタートにあわせて、家電製品の開発、生産にも積極的に取り組んでいる。
1966年には、こたつやストーブ、ホットカーペットなどの電気暖房器事業を開始。67年には炊飯器やオーブン、ホットプレートなどの電機調理器事業、1968年には、アイロン、ドライヤーといった身だしなみ機器事業をそれぞれ開始し、設立3年で、家電事業の地盤ともいえる事業を確立した。
また、1977年にはふとん乾燥機などの健康関連機器を開始し、同事業は、その後、便座やアルカリイオン浄水器、マッサージチェアなどにも製品の幅を広げている。
三洋電機第1号となるふとん乾燥機「健康ふわっと」 | 電解水技術を活用したVirus Washer機能を搭載した空気清浄機は高い評価を得ている | 電気カーペットは鳥取で生産される製品の1つ |
このように、設立以来43年目を迎えた同社は、三洋電機のコンシューマ向け製品事業においては、欠かすことができない重要な役割を担ってきた。
1966年に資本金5億円、従業員283人でスタートした鳥取三洋電機は、2008年度には、三洋電機コンシューマエレクトロニクスとして、資本金46億5000万円、従業員1500人の規模へと拡大している。
三洋電機コンシューマエレクトロニクス社内でのCAD設計の様子 | 三洋電機コンシューマエレクトロニクスに設置されたコールセンター | 歴代の製品や新製品を展示しているスペースも |
以下、写真で、三洋電機コンシューマエレクトロニクスの様子と主要製品を見てみよう。
業界初となるインダッシュタイプオートリバースシステム搭載のカセットメカ。1978年に開発 | 1971年に発売した世界初のインダッシュタイプカーステレオ。当時の無線事業部が担当した | 1970年代のカーステレオの生産工程の様子 |
1999年に発売した大型液晶搭載のカーステレオ | SANYOブランドで初となる2DIN DVD対応のカーナビゲーションシステム。2002年に発売 | カーナビゲーションシステムの生産工程の様子 |
基板を生産するSMT生産ラインは、現在も自前で設置している | ヒット商品となった初代GORILLA。デザインからネーミングされた。頭の部分にはGPSアンテナを搭載 | 2008年秋に発売されたポータブルナビゲーション「GORILLA」 |
現在のカーナビゲーションシステム。HDD搭載型などをラインアップ | LED関連製品も三洋電機コンシューマエレクトロニクスの事業の1つ | 1990年代には、鳥取でパソコンの生産も行なわれていた |
鳥取で生産されている匠純銅のおどり炊きの圧力IHジャー炊飯器 | ホームベーカリーの生産も鳥取で行なわれている |
身だしなみ製品群もシェーバー以外は鳥取で生産しているという | イオンが発生するドライヤー | スチームアイロンも鳥取で生産している |
エネループブランドの電動自転車 | 健康関連製品としてホームリフレッシュマシンやフットマッサージャーなども製品化している | こちらはマッサージチェア |
1978年に発売した業界初となるガスコンビネーションレンジ | ガス機器へも参入していた三洋電機。1970年には瞬間湯沸器でも累計出荷100万台を達成 |
●業務用炊飯器としては初となる圧力IHを投入
匠純銅おどり炊き「ECJ-XP1000」 |
1992年に、業界で初めて圧力技術を採用した圧力IHを発売。現在主流となっているIH方式を普及させる原動力としての役割を担ってきた。さらに、99年には業界初となる炊飯中の蒸気を抑えた蒸気カット機能を搭載するなどの改良を加えてきた。
だが、その後の競合各社の追随もあり、三洋電機の炊飯器事業は窮地に追い込まれる。一時は事業終息との検討も行なわれたほどだ。
その窮地において、最後のチャンスとして投入されたのが、2002年に発売した可変圧力IH方式を採用した「おどり炊き」の発売であった。
おどり炊きは、加圧と減圧を繰り返すことで、豪快なかき混ぜ沸騰を実現。白米5合の場合で、加圧・減圧を8回繰り返すことで、お米のうまみを引き出すことができるという。
ステンレスに比べて、約13倍の熱伝導率を持つ純度99.9%の純銅を、1.1kgも内釜に採用。5層構造の真ん中部分に純銅を挟み込み、上部約半分は外面切削加工を手作業で行ない、より熱が伝導しやすいようにした。また、壁面にディンプル加工を施すことで、純銅の熱を外に逃がさず、高火力を実現するかまどと同じような構造を実現できたという。
加圧、減圧はこのボールを押すことで行なう | ECJ-XP1000のカットモデル | 匠純銅釜。約13倍の熱伝導率を持つ純度99.9%の純銅を、1.1kgも内釜に採用している |
三洋電機コンシューマエレクトロニクス家電事業部鳥取製造統括部事業推進部MC企画部・小林美和子課長 |
三洋電機コンシューマエレクトロニクス家電事業部鳥取製造統括部事業推進部MC企画部・小林美和子課長は、「元祖圧力IH、特許を持つおどり炊き、そして、純銅釜の組み合わせによって、こだわりを追求し、当社の強みの掘り下げた製品を提供できる」とする。
10万円を上回る価格設定にも関わらず、人気商品となっていることからも、これらの技術の組み合わせが高い評価を得ていることがわかる。
その3つの強みを組み合わせて実現したのが、最上位機であるECJ-XP1000で搭載した「匠炊きコース」である。浸しの工程において、水温に応じて給水時間をコントロールする無加熱吸水を行なうことで、でんぷんの溶出量を抑えることができ、ハリのあるシャキッとした仕上がりが可能になるという。吸水が終わったのちには、純銅釜の熱伝導率を利用して一気に立ち上げ、炊飯では、純銅と可変圧力おどり炊きで、むらしでは、うまみ循環・うまみ蒸らしによって、炊きあげる。
匠炊きコースで炊きあげた様子 |
「炊飯時間は、通常の炊飯よりも時間がかかる。それは吸水に時間をかけているため。だが、この吸水時に、米にストレスをかけずに、やさしく、じっくりと吸水することが、おいしい炊きあがりにつながる。これは、プロの炊き技を実現した匠吸水理論を具現化したもの」(同)という。
日本料理で有名な分とく山の野崎洋光総料理長の意見を反映したものだ。
同製品では、「匠炊きコース」のほか、糖化酵素が最も活発になる温度帯をキープすることで甘みのあるごはんに仕上げる「甘み炊きコース」、季節によって変わっていくお米の味を春夏秋冬ごとに、甘み、粘り、硬さをそれぞれ3段階に設定できる「四季炊き」といったコースを用意。これらコースを実現するためのソフトウェアの改良にも余念がない。
三洋電機では、こうした同社ならではの炊飯器技術を生かして、9月以降、業務用炊飯器市場に新たに参入する計画だ。
業務用として発売する「おどり炊き PRO」 | フタを開けた状態 | 液晶画面を採用し、操作しやすいようにしている。硬さと粘りを選択することができる |
業務用炊飯器として投入する「おどり炊き PRO」は、同社にとっても初の業務用炊飯器。業務用炊飯器の約94%をガス式が占めるなかで、電気式での製品投入は、大きな挑戦となる。
「これまでは、業務用に圧力方式がなかったこともあり、おいしい米を大量に炊くには電気では難しいのではないかという認識があった。また、耐久性や安全性の面で劣るといった指摘があり、電気式の需要が低かった。だが、当社が培った炊飯器技術を活用することで、こうした問題点を解決でき、業務用でもこだわりの炊飯ができる」と、三洋電機コンシューマエレクトロニクス家電事業部鳥取製造統括部事業推進部MC企画部・小林美和子課長は自信を見せる。
圧力を活用した「おどり炊き」や、うまみ循環ユニットのノウハウを注ぎ込んだほか、硬さや粘りを5段階に細かく設定することで、25種類の組み合わせからの炊き分けができるようになり、店舗の用途に応じた炊き方が可能になるという。
圧力対策についても、家庭用では約80kgの圧力であるためフレーム部分との接続で2カ所をロックする形にしていたが、3.3升を炊くことができる「おどり炊き PRO」では250kgの圧力がかかるため、直接、内釜に6カ所ロックする方式を採用。しかも、安全性の問題から、一定の操作を行なわないと蓋が開かないようになっている。
価格は、ガス式に比べて割高となる約30万円が見込まれているが、「ガス式に比べて年間5万円弱のコスト削減が可能で、ランニングコストで回収できる」としている。
独自に蓄積した技術で新たに業務用炊飯器市場に参入する三洋電機。果たして、どれだけの市場シェアを獲得できるのか。業務用市場における電気式炊飯器の今後の普及という点でも、その取り組みが注目されよう。
2009年4月7日 00:00