そこが知りたい家電の新技術

肌を冷やしながら剃る“世界初”のシェーバー
ブラウン「クールテック」の秘密

 世の中に電気シェーバーは数あれど、ヒゲを剃りながら肌を冷やすことで、シェービングによる肌のトラブルを抑えるシェーバーはただ1つ。4月1日にP&Gのブラウン部門から発売された、「BRAUN COOL TEC」(ブラウン クールテック)だ。

 クールテックは3枚刃のシェーバーなのだが、その3枚刃の間に、肌を冷やすための冷却プレート「クーリングバー」を搭載している点が特徴。このバーにより、シェービング中の肌を直接冷やすことで、シェービング中に発生しやすい、肌のヒリヒリ感、かゆみ、赤み、つっぱりといった肌トラブルを減少させる効果があるという。

ブラウンが4月に発売した、肌を冷やしながら剃るシェーバー「クールテック」
製品ポスターでも、肌を冷やして剃ることをアピールしている

 ブラウンによると、こうした機構を備えたシェーバーは“世界初”という。過去に例を見ないこのシェーバーは、一体どのような経緯で生まれたのか。クールテックを担当する、P&Gのマーケティング本部 松井聡子アシスタントブランドマネジャーに話をうかがった。

高級機種でも実現できなかった、一段階上の肌のやさしさを狙う

――まずはクールテックの開発の経緯をお尋ねします。肌へのやさしさに特化したシェーバーを作ることになったきっかけを聞かせてください

P&G マーケティング本部 松井聡子アシスタントブランドマネジャー

 シェービング後の肌のトラブルは、電気シェーバーが発売されてからずっとある課題なのですが、当社が調査をしたところ、肌が繊細であることに悩むお客様が年々増えていることが確認されました。弊社も以前から肌にやさしいシェーバーを作っているのですが、それでもまだ満たされないニーズや不満はずっと残っており、それにしっかり取り組みたい、というのが開発のきっかけです。

 開発は今から約6年前の2008年頃から、ブラウンの本部があるドイツでスタートしました。肌に悩んでいる人は世界的にも多いようで、グローバルで増えている傾向にあります。その理由について、私たちの見解としては、ストレスや環境の変化などが大きいのではと感じています」

――肌にやさしいシェーバーというアプローチはいくつかやり方があると思いますが、その中から、なぜ“シェーバーで肌を冷やす”という選択肢に辿り着いたのでしょうか

 肌にやさしいシェーバーということを考えた時に、ユーザーの悩みを聞いていくと、シェービング後の肌にヒリつきや火照りが起きる、というキーワードが出てきました。これをどうやって解決すれば良いかと考えたところ、肌を直接冷やすのはどうか、という方法が仮説的に出てきました。ヨーロッパでは、シェービング後に冷たいタオルや氷を肌に当てるなどで、肌のアイシングするというのが一般的な慣習としてあります。

 そこで、その仮説が本当に正しいのか、ドイツのベルリン大学の教授が大規模な臨床テストを行なったところ、肌を冷やすことが、肌のヒリつきや火照りに対して効果的、というのが検証結果として出ました。そこで、そのアプローチでいこうということになりました。

ブラウンでは高級モデルの「Series 7(シリーズセブン)」も発売しているが、クールテックはそれ以上に肌へのやさしさにこだわっているという

――ブラウンでは、Series7(シリーズセブン)などの高級シェーバーでも、肌にやさしいシェービングを謳っています。それでも、肌のヒリつきは解決されないのでしょうか

 肌が繊細でない方、そこまでに弱くない方には、シリーズ7で剃っても問題ないと思いますが、それでも剃った後にヒリついてしまう、火照ってしまう人に関しては、さらに上をいく、肌へのやさしさを実現する機能が重要になります。

 肌のヒリつきが起こる理由は、本体のストロークを繰り返すたびに、肌に摩擦が起こったり、角質層の表面に細かい傷がついてしまうこともあるためです。シリーズ7では、「効率的に深剃りする」というところに力点を置いているため、1回のストロークで効率的にヒゲを捕らえて剃る、できるだけ少ないストロークでキレイに剃る、という機能が多く備わっています。それらの機能が付いていないシェーバーと比べると、シリーズ7の方が、肌へのヒリ付きが軽減できます。

 クールテックではさらに、ストロークを減らすことに加えて、「冷やす」というさらに上の効果を加えています。肌のヒリつきにそこまで問題がない方は、シリーズ7を使っていただいても、ヒリつきが発生にくいように作られています。それでもやっぱり肌がヒリつくという方は、クールテックを使うことで、ストロークを減らしながら、肌を冷やすという、一段階上の肌へのやさしさが実現できると考えています。

肌を冷やす秘訣は「ペルチェ素子」。熱を本体内に移動させ、プレートを冷やす

――それでは、クールテック本体内の構造についてお尋ねします。なぜブラウン クールテックが肌を冷やせるのか、その機構について詳しく説明いただけますか

 ヘッド部分の2枚の外刃の間に、肌を冷やす冷却プレート「クーリングバー」が付いていますが、これは本体内部まで繋がっており、中には熱を移動する金属部品が入っています。それによって、冷却プレート表面側の熱を吸収し、すべて中側に移動させてることで、ヘッド部分の表面を冷たくしています。この冷却テクノロジー全体を、「サーモ エレクトリック クーラー(TEC)」と呼んでいます。

 TECの仕組みは、2種類の金属の接合部に電流を流すと、片方の金属からもう片方の金属へ熱が移動する「ペルチェ素子」の技術を応用しています。ペルチェ素子は、小型冷蔵庫にも採用されているものです。

クールテックのヘッドの先端にある「クーリングバー」が肌を冷やす
クーリングバーにより、肌の温度は約4℃下がるという
クールテックの本体内部。ヘッド先端を冷やす変わりに、本体内部のヒートシンクに熱を移動する

――ということは、本体内部はかなり熱いということでしょうか

 いえ、ものすごく熱くなるということは考えにくいです。肌の温度はせいぜい36~37℃くらいなので、その熱が移動するだけです。なので、それによってすごく熱くなるということはありません。もともと内部にはモーターも入っているため、使っていれば本体は熱くなりますが、普通のシェーバーとあまり変わりません。

――冷却プレートを搭載した理由は何ですか

ヘッド内部の冷却プレート。素材はアルミニウム

 理由は2つあります。新しいアプローチである「冷やす」を直接的に形にするため、そして、シェーバー本体の機能であるシェービング能力を落とさないためです。

 肌を冷やす方法としては、実はほかにも案はありました。冷たい液を出すとか、ファンが付けられないかなど。ですが、ヘッドがあまりに大きくなると、細かい部分のシェービングに対応できず、シェービングパフォーマンスが落ちてしまいます。また、ジェルなど液体を使うとなると、カートリッジが必要になるため、使いやすい製品ではなくなるという懸念もありました。なので結局、今のプレートを埋め込むというのが、一番良いアプローチではないか、ということになりました。

 社内では、この決定について特に反対意見はありませんでした。これだ! と思ったらこれをどうやってやるかを徹底するのが社風なので。この冷却機構が、クールテックの一番の売りどころであり、最も苦労した点です。

――最初に見たときには、このプレートは邪魔じゃないかなと思いましたが、実際に使ってみるとそんなことはまったくなく、普通のシェーバーと何も変わりなく使えました。このプレートはずいぶんスベスベしていますが、素材は何ですか?

 アルミニウムです。肌が繊細な方でテストした段階だと、金属負けに関する問題は今のところ出てきていません。もちろん個人差はあるため、金属アレルギーのある方は、使用前にお医者さんにご相談していただきたいです。

最初は昔の携帯電話のような大きさだった。小型化のポイントとは

――「温める」だとヒーターが使えそうですが、冷却するとなると、手段は限られそうですね

 そうですね。しかも、その機構をシェーバー本体の中に入れるというのも問題でした。

――確かに見た目は普通のシェーバーとそれほど変わりません。冷却機構を内蔵しつつ、一般的なサイズに収められた秘訣はありますか

冷却機構を搭載しているものの、本体サイズは通常のシェーバーとほとんど変わりない

 そうですね……最初は冷却機構が本当にすごく大きくて、シェーバーのパッケージくらいの箱に、シェーバーが付いているというものでした。肩から提げる、昔の携帯電話みたいな(笑)。ヘッドも大きかったです。

 ですが、だんだんと小型化が進められました。ブラウンでは、デザイン部門と開発部門が非常に近いところで働いています。技術はいかに小さくするかということを考え、デザイン部門はその小さくなったものを、シェーバーのフォルムの中にどのように入れるかを考えていて、双方で意見交換をすることで、だんだんとベストな形が生まれてきました。

――操作方法についてもお尋ねします。本体には電源ボタンと、冷却機能をON/OFFするクーリングボタンが付いていますが、これを分けている理由はありますか

 電源ボタンを押すと、自動的に冷却機能もスタートします。ただ、冷却機能をONにすると、電池の消費も大きくなるので、クーリングボタンを押し、冷却機能をOFFにしてシェービングすることもできます。

――冷却機能は電気を多く使うんですね。シェーバーに内蔵の電池は普通のシェーバーよりも大容量だったりするんですか

 電池の容量はほかのシェーバーと同じで、1日3分使用すると、2週間使えることになります。一方、冷却機能は連続で15分が限度です。1日3分とすると、5日分ということになります。

洗浄充電器付きの「CT6cc」(左)と、洗浄充電器が省かれた「CT4s」の2機種が用意される
洗浄液はブラウン伝統のアルコール洗浄ユニットを使用する

シェーバーの歴史における“革新的な技術”。夏でも冬でも大丈夫

――完成したクールテックでシェービングした感想をお伺いしたかったのですが、松井さんは女性だから無理ですね(笑)。社内で使われた方の感想はありますか

 リアクションは2つに分かれました。1つは、肌のヒリつきがなくなって、特に肌に弱い人は「本当に感動した」、「1回使うとやめられない」という声が多いです。

 もう1つが、肌が弱くない人の意見で、「今までにない使用感がある」、「ヒンヤリとした使用感に感動した」という、シェービングした感覚の新鮮さに関する声でした。

冷却機能なしのシェーバー(左)と、クールテックで剃った場合(右)の、顔の温度の違い

――この4月より発売されていますが、売り上げの調子はいかがでしょうか

 予測の3倍以上です。現在、追加生産をかけている状況です。追加を掛けなければ、品切れしていたのではないでしょうか

 ネット上での反応もすごく良いみたいで、やはり肌に対するやさしさと、使用感の感動が一番決め手になっているようです。我々の狙いは当たっていたのでは、と思います。

――“こういう人にクールテックを使ってほしい”のような、具体的な人物像みたいなものはありますか

 やはり、肌のヒリつきや火照り、シェービングの赤みが気になる方が一番ですね。それ以外にも、家電好き、新しモノ好きの方にも使っていただきたいです。本当に世界的に新しい技術ですので、シェーバーの歴史の中でも、革新的な技術だと思っています。

 特に、これからは夏なので、ヒリつき以外にも、シェービングして涼しいという効果があります。

――夏はピッタリだと思いますが、冬に使っても大丈夫なんですか?

 冬も大丈夫ですよ。一般的に、夏よりも冬の方が肌が繊細になりやすいので、クール機能によるケアの重要度はより増すと思われます。

――わかりました。最後に、購入に二の足を踏んでいる方に対し、“押しの一言”をいただけますか

 クールテックは、4月1日の発売時点で世界唯一の冷却テクノロジーを搭載したシェーバーです。ぜひ、この感動の体験を味わっていただきたいです。

――本日はありがとうございました

正藤 慶一