そこが知りたい家電の新技術

家電のロボット化の最先端って、今どうなっているの?

 様々なセンサーが組み込まれ、個々のユーザーの快適度を増している家電製品。中でも生活家電が好きだという、日本のロボット開発を牽引する古田貴之さんに、これからの家電が辿るべき進化の過程を聞いた。

古田貴之
ふるた たかゆき 1968年生まれ

学校法人千葉工業大学常任理事、未来ロボット技術研究センター「fuRo」所長。「ロボットにはもっと多様な可能性がある・不自由なものを不自由でなくする」を持論に8本足の電気自動車プロトタイプモデル「ハルキゲニア01」や、福島第一原発原子炉建屋内の調査用ロボット、未来の乗り物「ILY-A」など、奇想天外で画期的なロボットを開発。また、ドラマ「安堂ロイド〜A.I. knows LOVE?〜」や映画「キカイダー REBOOT」など多くのSF作品において、ロボット出演シーンの監修/ロボット技術設定等も手がける。http://www.furo.org/

古田貴之氏がロボット開発者を志したワケ

学校法人千葉工業大学常任理事、未来ロボット技術研究センター「fuRo」所長

 「僕は鉄腕アトムが大好きで、3歳の時から “ロボットを作る人”ではなく“アトムを作る人”になりたかったんです。かなりのバカだったんですねぇ(笑)」

 古田貴之氏は、ロボットを“開発”しはじめた当時の自身をそう振り返る。

 アトムを作りたいと願っていた少年時代の古田氏は、当時から見よう見まねで設計図を書いていたという。そんな古田さんは、中学生の頃に下半身の神経麻痺の難病にかかる。生きながらえたとしても、一生を車椅子で過ごすことになると言われたという。だが、医者にも理由がわからないままに、なぜか古田さんは快復。

 「その時に思ったんです。自己満足するためだけにアトムを作るのもいいけど、何か他の人の役に立つものを作りたいと」

古田さんが目指すロボットとは?

 古田氏は後に、大学の理工学部で機械工学を学び、1998年には科学技術振興機構の北野共生システムプロジェクトに所属。ヒューマノイドロボット「morph2」を開発して脚光を浴びる。2003年には、千葉工業大学未来ロボット技術研究センターfuRo(Future Robotics Technology Center)の所長となり、様々なロボットを生み出している。

 古田氏は、現在の機械の限界と理想のロボット像を次のように語る。

 「まだ技術が未熟な“機械”は、色々と不自由なんですよね。例えば、自動車は地面が平らなところしか移動できない。だから車を通すために、山を崩したり、木をバッサバッサと切ったりして道路を舗装していく。でも、技術が高度になって、自動車が野山でも進めるようになれば、こうした環境破壊が必要なくなりますよね」

 そう語る古田氏が開発するロボットの特長は、トランスフォームすること。変形することで、環境への順応性を高めることができるからだ。

 「バリアフリーという言葉がありますが、逆に車椅子が環境に応じて変形するようになれば、バリアフリー化は必要なくなります。例えば平地では車輪で走行し、凸凹道や階段では足が出てきて歩き出すようになればいいわけです」

fuRoで開発された未来のモビリティ「ILY-A」

 ユーザーが移動する環境や、望む用途によって形態を変えていく。そんな理想を形にした最新機が、1人乗りの電動小型モビリティ「ILY-A」。

 「ILY-A」は、「vehicle mode」「kickboard mode」「cart mode」「carry mode」の4形態に変形。移動したり、スポーティに乗ったり、荷物を運んだりでき、使わない時にはコンパクトに折り畳むこともできる。

「vehicle mode」「kickboard mode」「cart mode」「carry mode」の4形態に変形

 だが外観からは分からない「ILY-A」の画期的なポイントは、ベビーカーほどの小さな筐体の中に、ロボット技術を応用した「知能化安全技術」を搭載していること。突然飛び出してくる人や障害物などを認識し、自動で車体を減速させる。

 これは、刻々と変わっていく周囲の状況を、ハンドル下のレーザーセンサーによるリアルタイムマップ作成技術によって把握するというもの。つまり、ユーザーは、行きたい方向にハンドル上のスライドパッドを向ける。それだけで、安全に目的地に到達できるという、誰もが簡単に操つれるモビリティなのだ。

 「技術がどんどん高度になると、人(ユーザー)にやさしくなっていく。ロボット技術って、そういう風に使われるべき。だから僕は、ロボット技術が家電に入っていくとしたら、そっちの方向かなぁと思います」

fuRoの開発室で見たHalluc II(ハルクツー)の初期モデル。8つの脚を持ち、車輪で動くことも、歩くこともできる
走行モード時の足先
歩行モード時の足先
歩いているところ
Halluc IIの初期モデル。8つの脚によって、多彩な動きを可能にしている。宇宙ステーションのロボットアームを操るための操縦桿と、同類のものを使用。Halluc IIの前方に人が近づくと自動で認識され、操縦桿が重くなる(前身しづらくして、衝突を防ぐ)

 Halluc IIの最新モデルであるHalluc IIχ(ハルクツー・カイ)の動画は、fuRoのYouTube内のサイトで見られる。

IIの最新モデルであるHalluc IIχ(ハルクツー・カイ)では、より動きが滑らかになり、段差も進めるようになった

家電が進化していくべき方向性とは?

 複雑な操作をユーザーに求めず、マニュアルを読まなくても使いこなせる。
そんな家電の好例として古田氏が挙げるのが、ロボット掃除機ではルンバだ。

 「初期のルンバから比べると、最近のモデルはスケジューリング機能が入り、人がいない時にササッと動いて掃除しておいてくれる。つまり、人があれこれと指図しなくても、どんどん技術の方が、ユーザーの希望を読み取って動いてくれる。ユーザーが複雑な操作をする必要もないですよね」

 さらに好例として挙げるのが、昨今の電子レンジやエアコン。

 「ちょっと前までの電子レンジは、フロント部にたくさんのメニュー表が書いてあった。ごはん>>>解凍>>>何秒、みたいなのが細かい文字でびっしりと。でも、センサー技術によってだんだんと、そういうのが削ぎ落とされてきた。エアコンの温度調整もそうですよね。フリップを左右独立で動かして、ユーザーが気持ちいいと感じる温度に自動調整してね。そういう風に、人に寄り添ってくれる。それが正しいんですよ」

アイロボットのルンバや、ダイソンのサイクロン掃除機を超えるには?

 家電業界において、日本メーカーが守勢に立たされているカテゴリーがいくつかある。ロボット開発者の視点で見ると、今後、日本メーカーに活路はあるのか?

「家電製品にはロボット技術を活用すべき」と語る古田貴之所長

 「ルンバやダイソンの掃除機を超えるには、もっとロボット技術を活用すべき。同じ土俵で戦っても勝てません。なぜなら、ルンバの戦略プログラム(動き)や、ダイソンの掃除機の機構は、地道に蓄積されたノウハウの塊なんです」

 例えば、ダイソンのサイクロン掃除機が凄いのは、ほとんどセンシング技術を使わずに、強力な吸引力を実現していることだという。

自社掃除機のカットモデルを抱えたジェームズ・ダイソン氏

 「もともとダイソンは、流体を操るのが上手なんです。これにはアナログのノウハウの蓄積が必要。初めは誰もがサイクロン式をダメだって言っていた。でも地道に地道に最適化を重ねることで、完成させた。一度、最適化できると強いんです。いわば、日本メーカーの炊飯器と同じです。あのお米の炊き方は、凄いノウハウの塊だから、海外メーカーには真似できない」

 掃除ロボット「ルンバ」の動き、戦略プログラムも同じように、経験値の蓄積によるものだという。そのため一朝一夕に、他メーカーがルンバの戦略プログラムを超えることはできない。

 「同じようにダイソンが凄いところは、ほとんどセンシング技術を使わずに、機械形状、モーターと電気だけで、あの吸引力を実現しているところ。でも、ロボット技術を使えば、同じことができるはずです。つまり、流速をリアルタイムで測り、リアルタイムでモーターと電流を制御していく」

 少し簡単に言うと、昔のエアコンと今のエアコンの違いと似ているかもしれないという。昔のエアコンは、フリップの動かし方やモーター性能などが、単に決められた動きをするだけだった。それが最近は、カメラセンサーやサーモセンサーなどのセンサーで、リアルタイムに計測。計測データをもとに、リアルタイムに、フリップや風速などを変えている。こうした動きによって、より効率よく、同じ以上の効果を生んでいる。

 「冷蔵庫や炊飯器、洗濯機だって、昨日今日の技術で成り立っているわけじゃない。だから、形とか機能がなんとなく似ていても、ロボット掃除機のルンバや、ダイソンの掃除機のような効果は得られないんです。だから日本メーカーがアイロボットやダイソンに勝とうとするなら、同じ方向性で戦おうとしないこと。それらの製品よりも一線を超えようとするなら、まだ家電ではしっかりと活用されていないロボティクスや知能化技術を使うべきだと、僕は思ってます」

これから家電が辿っていく進化の方向性

 では、家電はどうロボティクスや知能化技術を取り込んでいくのか? 古田氏によれば、今後の家電は、3つのフェイズを経ながら進化していくという。

「これからの家電製品が辿るフェイズは3つある」
マッピングシステムを搭載したルンバの最新モデル「ルンバ980」

 「これからの家電製品が辿るフェイズは3つあります。それは奇しくもロボット掃除機のルンバがやろうとしていることでもあります。第一段階では、今よりも大局的な視点で動くようになる。第二段階では、自ら経験値を高め、効率化していく。第三段階では、ネットワークにつながり、さらに経験値を高める」

 各フェイズの詳細は下記の通り。

【第一段階】大局的な視点で動くようになる

 これまでのルンバは、行き当たりばったりで動いていた。それがもう少し高機能化して、少し進化した手探りまでいく。同時に、全体を見渡して動きを制御していく。

【第二段階】自ら経験値を高め、効率化していく

 従来の家電は、データを収集したとしても、使うごとに全てがリセットされていた。これからはデータを蓄積し、経験値を高め、より効率的な動きをしていくという。

 「掃除機でも洗濯機、冷蔵庫でも、使う人や環境が同じなら、日々機械がやるべきことは、ほぼ同じはずなんです。ロボット掃除機で言えば、部屋の状況をだいたい覚えておく。そうすれば、センシング機能が弱まる西陽が差し込むエリアでも、これまでの経験から『以前はああだったから、今もそうだ』という風に、推測して動けるようになる」

【第三段階】ネットワークにつながり、さらに経験値を高める

 なんとなくセンシングしながら動き、過去の経験値を蓄積して活用できるようになったら、次はネットワークにつながっていくという。

 「同じような家、同じようなユーザーというシチュエーションで、どう動かしているかを整理して、他人の家の経験値も使って動くようになります。自分の家で動かしていなくても、ソフトウェアをアップデートしていくことで、経験値が高まっていく。より効率的に動けるようになっていく」

 もちろん、第三段階を経た後は、さらにその先の進化の構想が決まっているという。より人に寄り添う家電へとロボット開発者が導いてくれそうだ。

fuRoの研究室で垣間見た、古田さんの頭の中

開発された様々なロボットが置かれている部屋へと繋がる廊下
「盗まれて困るようなものは、頭の中に入っていますよ」と語る古田さん

 今回の取材は、千葉工業大学のfuRoにて行なった。取材後には、研究室にあるロボットを見せてもらった。残念ながら最新ロボットはなかったが、いずれも古田さんの頭の中にあった構想が具現化されたモデル。その時の様子を写真と動画でまとめた。

リアルタイムマップ作成技術を検証するためのテスト機。後部のディスプレイでマッピングされていく様子がわかる
全方向移動車輪が採用され、前後左右はもちろん、斜め方向へも自在に進める
AISIN製の車椅子に、「知能化安全技術」を搭載したもの
操縦はジョイスティックで行なう
フロント部にセンサーを内蔵
前方に人が現れると、自動でブレーキングし、衝突を防ぐ。この技術が「ILY-A」に応用されている
車椅子に乗せてもらった。ジョイスティックでの操作は簡単。古田さんが前方に立ちはだかると、自動でブレーキが掛けられた
昔作ったという脚部だけのロボット「core」。二足歩行ロボットとしては世界最大級。100kgの可搬重量性能を備える
coreの足
間接部分のアップ

(河原塚 英信)