そこが知りたい家電の新技術
Logitech創業者がCEOを務めるロボット掃除機メーカー「neato robotics」とは
~「ルンバとは抜本的な違いがある」
by 阿部 夏子(2014/9/30 07:00)
従業員数75名のロボットベンチャーが作るロボット掃除機
ロボット掃除機市場のプレーヤーがまたひとつ増えた。
ルンバと同じ米国のベンチャー企業「neato robotics」がロボット掃除機「ネイト Botvac」で、10月から日本市場に本格参入する。無人自走車グーグルカーにも搭載されているSLAM(Simultaneous Localization And Mapping)を採用する高い技術力を武器とするが、日本のロボット掃除機市場にはiRobot、Dyson(2015年春に発売予定)、LGといった海外メーカーに加え、東芝、シャープといった大手国内メーカーが乱立する。なぜ、今のタイミングなのか、勝算はあるのか。来日したneato robotics CEOのGiacomo Marini(ジャコモ・マリーニ)氏に話を聞いた。
イタリア・ピサ大学でコンピューターサイエンス学士号を取得、主席で卒業したという同氏には、neato robotics CEO以外にも様々な顔がある。その1つが日本でもよく知られるPC周辺機器メーカー Logitechの創業者であるということだ。日本ではロジクールとしてよく知られるメーカーだが、彼は同社の日本参入の時にも深く関わったという。
「日本には何かと縁があるようで、30年以上前から日本には何度も足を運んでいる。ロジクールの日本参入に関わった経験は、今回のneato roboticsの日本市場参入にもとても役立っている」
PC周辺機器を扱っているLogitechから、ロボット掃除機のneato roboticsに移ったと聞くと、少し異色に感じる。
「私たちは家電メーカーではなくて、ロボット家電メーカーだ。そこには知性があり、人々の役に立つような技術がある。啓蒙活動という意味も含めて、今後もロボット家電以外を作る予定はない。neato roboticsの従業員数は、現在総勢75名。このような小さいベンチャー企業においては、まずは1つのことにフォーカスしていくことが必要。我々は例えば日本の東芝のような大きな会社ではない。まずはロボット掃除機で成果を上げる」
日本市場には学ぶべきことがたくさんある
日本では、東芝を始め大手メーカーもロボット掃除機に参入しているが、それについてはどう考えているのか。
「日本市場にこれだけロボット掃除機があるというのは、裏を返せば日本市場がそれだけ魅力的な市場だとうことの裏返しでもある。大手メーカーと戦わなければならないが、まずは自分達の製品に集中して、いずれマーケットリーダーになれるようにしたい。ただし、現時点では我々はまだ発展途上であり、日本市場から学ぶべきことがたくさんある」
今回の日本参入に併せて設立されたネイトロボティクス株式会社 代表取締役 ポラード由貴子氏も、これからが正念場だと語る。
「まずは製品を発表しただけで、これから日本の家庭で使っていただいてどういう評価を頂くかが大事。それを情報として進化させていく。ルンバが日本で成功しているのも、10年に渡る改善を重ねているからで、ハードウェア的にはすぐには追いつけないだろう。例えば、『ネイト Botvac』には、じゅうたん掃除用のシリコンブラシが搭載されている。これはじゅうたんのホコリを取り除くために、表面を叩いて掃除するが、その分かなり運転音はうるさい。そういったことをきちんと日本のユーザーに説明していく必要がある。日本には四季もあるし、アメリカとは住環境も異なる。現時点でもアイディアはたくさんあるが、実際の進化はお客様の声をいただいてからになる」(ポラード由貴子氏)
同社では日本以外のアジア・オセアニア地域への拡大も進めている。
「アジア・オセアニアのいくつかの地域では今回日本には発表していないエントリーモデルを展開している。いくつかの国では既に代理店契約もしているが、日本そして中国が最も重要な市場だと考えている」
日本で展開しているロボット掃除機の中には、外出先など離れた場所から本体を操作できる機能を搭載しているものも多い。スマートフォンやタブレットを使ったそれらの機能はどう考えるのか。
「確実に興味はある。しかし、残念ながら我々の会社では製品化が決まったもののことしか口外できないので、今回は詳しく話すことはできない。しかし、スマートフォンから操作できるロボット家電というのはごく自然な流れであって、今後も増えていくだろう」
ルンバとは抜本的な違いがある
ロボット掃除機「ネイト Botvac」には、Googleの無人自走車にも採用されているSLAM(Simultaneous Localization And Mapping)という技術を搭載している。1秒間に約1,800回室内をスキャニングするレーザーセンサーで部屋の形や家具のレイアウトを確認、記憶し、室内を効率的に掃除するという。ロボット掃除機が室内を検知する方法としてはカメラやセンサーなど様々な方法があるが、なぜレーザーセンサーを選択したのか。
「カメラを使ったSLAMというのも存在するが、精度の高さと、5m先まで検知できるという点でレーザーを選択した。空間を確実に検知するというのが、重要だった。レーザーセンサーでは、高さ9cm以上のものを検知するので例えばペットやペットのえさ用のボウルも高さ9cm以上なら避けることができる。ただし、ロボット掃除機というのは、使う環境も影響する。床に物を置かない、ケーブルをどかすなど部屋の調整が必要」
アメリカでロボット掃除機を展開する上で、ルンバを作っているiRobotは無視できない存在だ。特に、neato roboticsとiRobotの間にはロボット工学からスタートしたベンチャー企業という共通項もある。ルンバのことはどのように考えているのか。
「ルンバとBotvacでは、抜本的な違いがある。それはマッピングシステムの違いだ。ルンバは室内をランダムに動きまわり、壁にぶつかっては違う方向に動く。だから本体が円形である必要がある。しかし、Botvacでは、後ろに何があって、前に何があるかをしっかり認識しながら動くので、部屋の隅まできちんと掃除できるDシェイプが採用できた。Dシェイプではブラシを前方に配置しているので、壁際のゴミまでの距離が近く、効率的に掃除できる。
一方、ルンバではブラシは中央部に配置されているので、壁際のゴミを中央部まで持ってくる必要がある。ルンバでは、同じところを複数回掃除しているが、Botvacでは1回づつしか掃除しない。複数回掃除するためのエネルギーを吸引力に回しているので、素早く、効率的な掃除が可能となっている。つまりマッピングシステムが異なるということは、本体構造から掃除方法まで全てに関わることであり、抜本的な違いがあるといえる」
最後に、「neato robotics」という社名について聞いた。neato(ニート)というのは、英語でかっこいい、きちんとしているなどの意味があり、ロボットをそういった存在にするという意味で名付けられた。一方、日本法人は「ネイトロボティクス」で、呼び名が少し違う。
「実はこれ、“ニート”という日本語に対してあまり良いイメージがないというところから、あえて“ネイト”としました。ニートがおうちで掃除してくれるというのは少し面白いとは思ったんですが……」(ポラード由貴子氏)
家電メーカーが作るのか、ロボットメーカーが作るのか
今回話を聞いていて感じたのは、今後のロボット掃除機は家電メーカーが作るのか、ロボットメーカーが作るのかということだ。“ロボット”を作ろうとしているneato robotics、あるいはiRobotと、“ロボット掃除機”を作ろうとしているダイソン、東芝、シャープではそもそもの発想や、マーケティング、開発の方法が全く違う。そういった意味でneato roboticsは、レーザーセンサーや本体形状など非常に論理的に考えられた製品だという印象を受けた。
今後のロボット掃除機選びにはメーカーのバックボーンがどこにあるのか、というのもポイントの1つになるかもしれない。