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そこが知りたい家電の新技術

目指したのは“本当の暖房”ができるエアコン
――パナソニックの「エネチャージシステム」に迫る

by 藤山 哲人
コンプレッサーの熱を再利用する“世界初”の機能「エネチャージシステム」を搭載した、パナソニックのエアコン「Xシリーズ」

 パナソニックが10月に発売したエアコン「Xシリーズ」。この機種には、これまで捨てられていたコンプレッサーの熱を再利用して、霜取り運転中の室温低下を最小限に食い止めて、素早く温風を吹き出す「エネチャージシステム」という装置を搭載している。

 カタログやウェブには“世界初”の機能と謳われているシステムだが、なにぶん新しい機構のため、説明を見てもよく分からない。エネチャージシステムがはたしてどのように機能しているのか、どれほどの効果があるのだろうか。そこで、滋賀県草津市にあるパナソニックのエアコン工場に向かい、同システムを開発したエンジニアにその仕組みをうかがった。


暖房中なのに温風が止まる「霜取り運転」の克服のため開発

エネチャージシステムの開発を担当した、パナソニック ホームアプライアンス社 エアコンビジネスユニット 開発統括参事の森上和久氏

 インタビューに応じていただいたのは、パナソニック ホームアプライアンス社でエアコンビジネスユニットの開発統括を担当する森上和久氏だ。まずは森上氏に、エネチャージシステムを開発することになった発端をうかがった。

 「エネチャージシステム開発のきっかけになったのは、寒い地方にお住まいのお客様から受けた“霜取り運転中に部屋の温度が下がってしまう”という声です」

 一般的にエアコンは、暖房運転をすると、室内機からは温風が吹き出るが、室外機は外気温より冷たくなってしまう。これは、室外機の温度を外気よりも低くすることで、外気に含まれる熱を取り出し、室内機から温かい風を送るという、エアコンの基本的な仕様だ。夏場にエアコンの室外機の前に立つと、外気より熱い風が室外機から吹き出しているのを体感したことのある人は多いだろうが、暖房運転ではこれと逆のことが起きているわけだ。

 しかし、室外機の熱交換器が0℃を下回ってしまうと、スーパーの冷凍食費売り場のケースのように、室外機内部の熱交換器に霜が着いてしまう。これを取るのが霜取り運転となる。

霜取り運転の構造。室外機の霜を取るために、室内機の温度を下げ、室外機の温度を上げている。簡単に言えば“冬なのに冷房運転をしている”のだ

 「室外機の熱交換器に霜が付くと、風が通りにくくなり、暖房効率が悪くなります。そのため、必ず霜取り運転をしなければなりません。でも霜取り運転は、室内機の送風ファンをまわさないだけで、冷房運転を行なっているのと同じなんです」

 暖房運転は、室外機を冷やすことで部屋を温めている。しかし運転しすぎると室外機が冷え、霜が発生する。そこで、冷房運転を挟み込むことで、室外機を温め、霜を溶かしているというわけだ。

 「従来のエアコンで霜取りをするには、およそ11〜12分間かかります。この間、室内機の熱交換器は室温よりも冷えてしまうので、部屋の温度が5〜6℃も下がっていました」

 5〜6℃の室温低下というのは、実験室でのデータだ。寒冷地に住んでいる場合は、ガタガタ震えるほどにまで室温が下がる場合もあるという。

 「そこで霜取り運転中でも室内を暖かくできないものか? ということでエネチャージシステムの開発が2年前の2008年からスタートしました」



「霜取り運転なんて寒冷地だけ」はウソ! 全国で1時間に1回発生している!

 ここで誰もが思うのは「それはあくまでも寒い地方でのこと」という疑問だ。関東や暖かい地方に住んでいれば、霜取り運転なんて必要ないんじゃないだろうか? しかし、この疑問に森上氏は笑って答える。

 「そう思われますよね。でもそれは間違いです。関東だけでなく、もっと暖かい九州でも霜取り運転は行なわれているんですよ」

 森上氏は、気象庁が発表した各地の平均気温の日本地図を机に広げる。

 「これは11月〜3月の日本各地の平均気温です。霜が着きやすいのは、5.5℃から-7℃範囲なのですが、1月の気温を見ていただけると分かるとおり、沖縄県以外のほぼ日本全国で室外機に霜が着きます」

これは1971年〜2000年までの、11月の平均温度分布(気象庁発表。以下同じ)。北海道〜東北、上信越地方では霜が付きやすい温度帯に入っている 12月の平均温度分布。太平洋沿岸と沖縄を除き、ほぼ全国で霜取り運転がはじまることになる 1月の平均温度分布。沖縄と鹿児島の一部を除いて、全国で霜が付きやすい気温になる
2月の平均温度分布。1月とほぼ変わらない 3月の平均温度分布。関東地方と太平洋沿岸地域で霜取り運転が終わるが、東日本のほぼ全域と西日本の山間部は、霜取り運転が行われ続ける気温が続く

 これは驚きのデータだ。すでに11月の時点で、北海道〜東北、上信越では霜が着き始め、12〜2月にかけてはほぼ日本全土で発生していることになる。3月になってようやく、太平洋沿岸から霜取り運転から開放されることになる。

 「気づかないのは無理もありません。冬場は寒いからわざわざ室外機を見に行くこともないですし、霜が着くのは室外機背面の熱交換器なので、普通は建物の壁に阻まれて見られませんからね」

 そう言って森上氏は、霜取り運転の実験装置の電源を入れた。この装置では霜の発生具合がわかりやすいよう、通常は隠れている室外機を前面に配置している。

 最初は熱交換器はアルミが黒く見えていたが、20分〜30分頃になると、様子が一転。熱交換器は霜に覆われ、真っ白になった。これだけ霜が着くと、室外機にいわば“氷の断熱層”ができてしまうことになり、効率よく外気の熱を吸収するのは難しいとのことだ。

霜取り運転の実験装置。霜が付いているようすが分かりやすいよう、室外機を通常と裏返しで設置されている。30分後には、熱交換器に霜がびっしりと付いた 通常は壁側に面しているので、あまり目にすることはないだろう さらに熱交換器に寄った写真。寒冷地だけでなく、関東〜九州でも起こっているというのだ。

 「暖かい地方に住んでいるお客様でも、少し肌寒いなと感じたり、暖房運転ランプが点滅しているといった経験があるんじゃないでしょうか? おそらくそれは、霜取り運転中です。設定温度になって、暖房が一時的に切れたと思われているお客様が多いようですが……。気温や湿度にも影響されますが、だいたい1時間に1回の割合で霜取り運転は行なわれます」

 実は日本全国で発生している霜取り運転。しかもその頻度は1時間に1回と、かなりの頻度だ。エアコン暖房中に肌寒さを感じたら、エアコンの吹き出し口から冷気が漏れていないか、手をかざしてみよう。もし冷たさを感じるようなら、それは設定温度に達したのではなく、霜取り運転をしているということになる。


霜を溶かすには、これまで当たり前に捨てていたコンプレッサーの熱しかない

 この霜取り運転による室温の低下を防ぐために開発されたのが、エネチャージシステムである。

 「エネチャージシステムを搭載した『Xシリーズ』は、霜取り運転中でも部屋の温度低下が1〜2℃程度です。しかも霜取りにかかる時間は、従来機の半分の5〜6分で終わってしまいます」

 森上氏は、筆者に霜取り運転中のエアコンの吹き出し口に手を差し出してみるように勧めた。すると、従来機では冷風が漏れ出していたのに、エネチャージシステムを搭載したXシリーズでは、暖かい温風が吹き出し続けている。パナソニックでは、霜取り運転中でも暖房が止まらないことから、「ノンストップ暖房」と謳っている。

 しかし、なぜエネチャージシステムは、部屋を暖めながらも、霜取り運転ができるのだろうか?

 「霜取りするには、熱源が必要です。かつては寒冷地仕様として、室外機にヒーターを埋め込んだものもありましたが、なにぶん電熱線を使うので、エコじゃないんです。そこで改めてエアコンを見てみると、熱源があったんです。それが、今まで当たり前のように大気に捨てられていた『コンプレッサー』の持つ熱です」

どんなエアコンにも内蔵されているのが、コンプレッサーという部品。モーターを内蔵しており、低温/低圧の冷媒を圧縮して高温/高圧のガスにする装置だ

 コンプレッサーは、室外の熱や冷気を室内に取り込む物質「冷媒」を循環するための装置で、一言でいえば心臓部だ。

 「コンプレッサーは冷媒に圧力をかけるので、非常に熱くなります。その温度はだいたい60〜70℃にもなります。これまでのエアコンでは、この熱を利用することなく、そのまま大気に捨てていました。なので、霜を溶かすための熱源は“コンプレッサーしかあらへん!”となったわけです」



滋賀工場の叡智を結集――コンプレッサーの熱を蓄える「蓄熱槽」が作れたワケ

 これまで捨てていた熱を利用するというのは、非常に画期的なアイディアである。しかし、コンプレッサーは円筒状で、かつ配管や小さなタンクも抱えており、熱をそのまま熱交換器に伝えることは容易ではない。

 この熱の問題を、「蓄熱槽」というパーツが解決する。森上氏は蓄熱槽を取り出しながら、その仕組みを以下のように話す。

 「熱源が確保できたので、次のステップはいかに効率よく熱を吸収するか? です。結論から言えば、このようなU字型の蓄熱槽と呼ばれるものでコンプレッサーを抱きかかえて、蓄熱槽に熱を蓄えます。蓄熱槽の中に入っているものは水です。でも、凍ってしまっては困るので不凍液も混ぜています。こうしてコンプレッサーの熱を水に蓄えているのです」

森上氏が手にしているものが「蓄熱槽」。室外機のコンプレッサーを取り囲むように設置されている。これが、エネチャージシステムだ 蓄熱槽の内部構造。中央が熱を溜める蓄熱槽本体で、右側のパイプは冷媒が通る「冷媒管」。中央の湿布のようなシートは、コンプレッサーと蓄熱層の間に挟みこむためのもの 蓄熱槽にはコンプレッサーから発した熱を蓄える水が入っている。凍らないようにするため、自動車のラジエータ液同様の不凍液(エチレングリコール)が混ぜられている ※写真は一般的に市販されている不凍液で、エネチャージシステムに採用されているものではありません

 ここで、蓄熱槽といっしょに机の上に置かれていた湿布のようなものが気になった。これは、コンプレッサーと蓄熱槽の間に挟みこむシリコンのシートという。

 「これでコンプレッサーと蓄熱槽を密着させてることで、熱を効率よく水に蓄えるわけです。加えて、コンプレッサーは振動するので、その振動で蓄熱槽とコンプレッサーが触れ騒音が出ないようにもしています。」

 シリコンシートにある小さな穴は、製造時の空気抜きのため。よくシールや湿布を貼る時に、小さな気泡が入ってしまうのと同じで、穴を開けていないと互いの間に空気が入って密着できないからそうだ。

 「こうして蓄熱槽の水に溜めた熱ですが、霜取り運転時などには効率よく冷媒に熱を吸収させる必要があります。それを担っているのが、ヘビがうねっているような“サーペインタイン”と呼ばれる形状の冷媒管(冷媒を通すための管)です。限られた空間に、長く配管すると熱がより伝わるので、こういう形になっています。昔の冷蔵庫なんかで見かけませんでした? この滋賀工場では冷蔵庫も作っているので、このような管もすぐに作れるんですよ」

コンプレッサーと蓄熱槽の間にはシリコンシートを挟み込み、効率よくコンプレッサの熱を蓄熱槽に伝えている 蓄熱槽に蓄えられた熱を効率よく冷媒に吸収させるため、冷媒管はヘビがうねっているような“サーペンタイン”形状となっている 冷媒管は、実機では蓄熱槽の水の中に沈められている
今回取材に訪れた滋賀工場では、エアコンや洗濯機、冷蔵庫といった生活家電のほか、自動販売機や温水器なども開発している

 そう、滋賀工場ではエアコンのほかにも、冷蔵庫や洗濯機、自動販売機に給湯機なども製造している。エネチャージシステムは、横の連携とノウハウを活かした技術の集合体でもある。

 「滋賀工場のノウハウを活かしたという点では、蓄熱槽の樹脂にもこだわっています。PPS(ポリフェニレンサルファイド)という樹脂ですが、熱に強く頑丈で成型もしやすいので、エネファーム(ガスから水素を取り出し発電する、家庭用の給湯発電装置)などにも使われています。エネチャージシステムの蓄熱槽は複雑な形状をしており、小型化のために外皮を薄くしていますが、PPSはこうしたものにもってこいの樹脂です」


室外機の中で何が起きているか? エネチャージシステムの“仕事”を見る

 エネチャージシステム単体としての構造は理解できた。しかし、実際エアコンに組み込んだ際には、どのように機能するのだろうか?

 「従来のエアコン暖房は、霜取り運転のとき室内機の送風ファンを回さず冷房運転をしているとお話しました。エネチャージシステムを搭載したエアコン暖房は、このように機能します」

エネチャージシステムによる、暖房運転時の冷媒の動きを簡略化した図。冷媒の温度は赤が高く、黄色は中、青は冷たいことを示している

 森上氏は、一枚の図(右)を指し示した。そこにはエネチャージシステムと熱交換器、そしてそれを結ぶ冷媒管――Xシリーズの室外機の構造図が記されている。

 「これは通常の暖房運転をしている図です。熱交換器を通る冷媒は気化されたガスで、外気の熱を吸収します。この気化したガスは、コンプレッサーで圧縮され液体となり、室内機に送られます。このときコンプレッサーが発する熱は、蓄熱槽にどんどん蓄えられる――つまり、熱がチャージされます。最終的に蓄熱槽の温度は、コンプレッサーの温度より少し低い50〜60℃まで暖められるます」

 冒頭で記したとおり、暖房運転すると室外機に霜が着くのは、外気より低温の冷媒で外気の熱を吸収しているから。これはヒートポンプ式のエアコン暖房の宿命と言っていいだろう。

 「1時間もすると熱交換器には霜が着きますから、これを溶かすため霜取り運転を行ないます。これが、霜取り運転中の図ですね」

エネチャージシステムによる、霜取り運転中の冷媒の動きを簡略化した図。コンプレッサを出た暖かい冷媒が、室内機と室外機に送られている

 「室内機で温風を出した冷媒は、蓄熱槽に送られ暖められます(左図の[1])。一方、コンプレッサーで温められた冷媒は室内機に送られますが、途中で弁が開いて、室外機の熱交換器にも送られます(左図の[2])。ここで熱交換器に入った温かい冷媒は、霜取りをするため徐々に冷えてきます。熱交換機の出口に向かうにつれ、温度が下がっていきます」

 すでにこの時点で、従来機のエアコンと違い、冷房運転をしていないのがわかるだろう。コンプレッサーから送られた暖かい冷媒は、室内機にも送られているため、温風が吹き出る。しかも冷媒の一部を室外機の熱交換器の霜取り用にもまわしているので、同時に霜取りもできるというわけだ。

 ところで、この冷えた冷媒の行き先はどうなるのだろうか。

 「室外機の霜取りで冷え切った冷媒は、蓄熱槽で熱を蓄えた冷媒と合流します(左図の[3])。つまり、冷え切った冷媒と蓄熱槽に溜めた熱を利用して、ある程度暖めてからコンプレッサーに送っているのです。これなら、霜取り運転を行ないながら、部屋には温風も送れます。これが“ノンストップ暖房”の秘密です」

 霜取り運転で冷え切った冷媒では、コンプレッサーがいくら圧縮したとしても、室内に送られる風の温度は低くなってしまう。そこで、蓄熱槽で暖めた冷媒と、冷え切った冷媒をミックスして、ある程度温度を引き上げてからコンプレッサーに送ることで、通常の暖房運転をほとんど変わらない熱が室内機に送り込める、ということだ。蓄熱槽にためた熱は、霜取り運転中の“バックアップ熱源”になっていると言っていいだろう。


霜取り運転の時間は、従来の半分に短縮された。実験装置でも、エネチャージシステムを搭載したXシリーズ(写真右)が、非搭載の従来モデル(左)よりも早く霜を撮ることができた

 「こうしてルームエアコンXシリーズに、エネチャージシステムを搭載することで、霜取り運転の時間を従来機の半分まで短縮し、室温の低下も1〜2℃までに抑えているのです」

 もちろん、この蓄熱槽に溜められる熱に、特別な電気代は一切かかっていない。何しろ従来のエアコンが捨てていた熱なのだ。エネルギー効率が良いだけでなく、熱を溜めるために余分にかかる電気代もタダという、究極の経済性も見逃せないだろう。


従来機の霜取り運転と、エネチャージシステム搭載機の霜取り運転の違い。パナソニックホームページの商品説明より抜粋


エアコンの弱点である立ち上がりの遅さも解決、スイッチONから2分で温風

 「でも、エネチャージシステムは霜取り運転だけに使っているわけじゃないんですよ」

 森上氏はそう言って、カタログのとあるページを開いて見せてくれた。エアコンのスイッチを入れてから温風が出てくるまでの時間を示した、従来機との比較図だ。

従来のエアコン暖房の弱点は、スイッチをONにしてもなかなか温風が出てこない点にあった。しかしエネチャージシステムなら、温風の吹き出しも早くなるという()

 「寒い朝、エアコンのスイッチを入れてもなかなか温風が出てこないくて、もどかしい思いをしたことがあるでしょう。だから朝だけはスグに温風で出てくるガス・石油ファンヒーターを併用しているご家庭も多いと思います。エアコン暖房でなかなか温風が出てこないという原因は、冷媒が冷え切ってしまっているからなんです」

 確かに一般的なエアコンの場合、10分ほど待ってやっと温風が出るなんてことはザラにある。また、すぐに風が出てきたとしても、最初の数分は生ぬるく、温風とは言いがたい。

 「でも、エネチャージシステムを搭載したエアコンは、スイッチONから2分で、約50℃の温風を吹き出します。なぜなら、就寝前まで動かしておけば、エネチャージシステムにコンプレッサーの熱を翌朝まで溜めておくことができるからです。従来のエアコンの圧縮機は、スイッチをOFFにしてしまうと、一晩過ぎれば外気温まで下がってしまいます。でもエネチャージシステムでは、蓄熱槽に熱が溜まっているので、一晩中暖めておけるんです」

 いったん外気まで冷え切った圧縮機で、冷媒を暖房として使えるほど暖めるには、コンプレッサーを何回も通して徐々に暖める必要がある。しかしエネチャージシステムの場合は、蓄熱槽に溜まった熱で一晩中圧縮機を暖めて置けるので、冷媒もすぐに温まるというわけだ。

従来型のエアコンでは、スイッチを切ると圧縮機が外気温まで下がってしまう。このため、冷媒が温まるまでしばらく時間を必要とした エネチャージシステムは、蓄熱槽に溜められた熱を使い、寝ている間でも圧縮機を暖め続ける。このため、朝に電源を入れると、2分で50℃の温風が吹き出るという

 「前回の運転終了から6時間経過し、外気温7℃、室温12℃という場合でも運転開始から2分で50℃の温風が吹き出します。これなら寒い朝でも、ガス・石油ファンヒーターとさほど変わらなく、暖を取れるのではないでしょうか」

 “スイッチONで即温風”という技術は、エアコンメーカー各社が研究・開発をしている部分でもある。あるメーカーの場合は、スイッチを入れる数時間前から、コンプレッサーを極弱く運転し冷媒をあらかじめ予熱するという方法を取っている。このような予熱を行なう機種と、エネチャージシステム搭載機の大きな違いは電気代だ。予熱運転をするにはコンプレッサーをまわすので電気代がかかるが、エネチャージシステムは前日に運転していた熱を使っているだけなので、電気代はタダ。同じ快適性であれば、どちらが経済的かは言わずもがなである。

 ただ気になったのは“就寝してから6時間後”と、時間が限定されている点だ。少し意地悪だが、その点についてうかがってみると……

 「家族の生活パターンを見ると、お父さんは夜の8時ごろに帰宅して、食事や団欒をしたあと寝る時間はだいたい0時ごろじゃないでしょうか。一方、お母さんの場合は、お父さんより少し前に寝て、朝6時ごろに起きて子供のお弁当づくりなどを始めているなんてことも多いでしょう」

 サラリーマンのファミリー世帯なら家族の生活時間帯はズレている。その時刻も森上氏の指摘する場合が大半だろう。つまり実用上6時間も蓄熱できれば、朝には2分で50℃の暖かい朝を迎えられるということだ。

 さらにもう意地悪な1つ質問をしてみた。それは冷房運転のときである。冷房運転の場合は、できるだけ冷媒が冷えていたほうが効率よく冷房できるが、蓄熱槽で冷媒を暖めてしまっては冷房効率が悪くなるはずだ。

 しかし森上氏は、ニッコリ笑ってまた1枚の図を取り出す。

冷房運転時には、蓄熱槽への弁を閉じるため、冷媒は暖められない。直接コンプレッサに送られる

 「冷房運転するときは、冷媒を蓄熱槽に通さなければいいんです。蓄熱槽に熱が蓄えられていても、冷媒を通さなければ熱を吸収しません。だから冷房時には弁をコントロールして、冷媒を直接コンプレッサーに送ります」

 筆者の思いつきなど、エネチャージシステムではすでに解決済みだったのだ。ここまでいくと、エネチャージシステムに降参! という気分だ。



これまでと変わらず使えるように――室外機にはエンジニアの苦労が詰まっている

 このように製品化されたエネチャージシステムだが、誕生するまでには紆余曲折があったという。

 「開発当初、まず一番最初にやったのが、観賞用の水槽にコンプレッサーをポチャッと入れ、本当にコンプレッサーから熱が取り出せるかを調べることでした」

 実に豪快なアイディアで筆者も大爆笑した。

 「いろいろと試行錯誤しましたね。蓄熱槽のアイディアの1つとしては、カレーなんかが入っているレトルトパックに水を入れて、コンプレッサーに貼ってみたりとかもありました。最終的には生産性(工場での作りやすさ)や信頼性、メンテナンスフリー性を考えて今の形に落ち着きましたけどね」

 システムを作るに当たっては、この「メンテナンスフリー」を重要視したという。

蓄熱槽の中には水と空気が入っているが、膨張した空気は大気に逃すものの、水は蒸発することも、こぼれることもないという

 「なぜメンテナンスフリーにこだわったかというと、それは蓄熱槽の構造にあります。本当は水が蒸発しないように密閉してしまいたいところなんですが、熱で膨張するので水や内部の空気を逃がしてやらなきゃならないんです。かといって密閉しないと、輸送中に水が漏れてしまう可能性もあります」

 水が漏れない程度に密封する必要があるものの、熱膨張した空気を逃してやるために穴も必要。これは、かなり矛盾した要求だ。

 「でもこの蓄熱槽は、大気に開放をしているので、空気を逃すことが可能になっているんです。しかも同時に、水が蒸発することもなく、水がこぼれないような仕組みにしています」

 メンテナンスフリーに合わせて、普通のエアコンの室外機と同様に使える、というのがキーポイントだったようだ。サイズも、従来モデルと同じとなっている。

 「開発当初から“室外機の大きさは従来機と変えない”という課題があったので、これには苦労しました。コンプレッサーに蓄熱槽を背負わせているので、それだけでも大きくなっています。これに加えて配管が複雑になり、弁も新たに2つ追加されていますから」

 下の写真はXシリーズの室外機だが、ご覧の通りかなり密集しているのだ。

エネチャージシステムは、室外機右側のわずかなスペースに収められている。室外機左側は、熱交換器に空気を送る大型ファンがある 家電量販店などでカットモデルが見られる場合は、その密集度を見比べて欲しい。ところ狭しと配管されているが、配管同士が触れ合っている部分は、当然ながらないのだ

 「だからちょっとずつ部品をずらして、エネチャージシステムを入れるスペースを確保しています。配管もただ接続すればいいというものではなく、振動を吸収するためにわざと迂回させたり、配管同士が当たって騒音を出さないように、ある程度隙間を持たせています」

 このあたりは、われわれ消費者の目には届かない部分だ。しかし、エンジニアの努力とアイディアと地道な作業が、Xシリーズの室外機には結集している。


“本当の暖房”を実現する、それがエネチャージシステム

 最後に、森上氏にエネチャージシステムを搭載したXシリーズについて、“何ができるエアコンか”を、一言で表現していただいた。

 「一言でいえば、“本物の暖房”でしょう。エアコンは、化石燃料を使うガス・石油ファンヒーターと違い、エネルギー効率が高いです。これまでは霜取り運転などで、メイン暖房としては使いづらい面もありました。しかし、エネチャージシステムを搭載したXシリーズは、霜取り運転中であっても室温がほとんど下がりません。温風もすぐに吹き出します。メインの暖房として使える、“本物の暖房”ができるエアコンです」

 エネチャージシステムは、暖房をしているのに温風が止まるという、これまでのエアコンの常識を変えた。これからは、エネチャージシステムがエアコン暖房の新たな「常識」として、業界を牽引していくことになりそうだ。





2010年12月20日 00:00