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イオン「トップバリュ」が本気で取り組んだ“デザイン家電”がすごい!
by 神原サリー(2015/4/27 07:00)
2015年2月、イオンのプライベートブランド「トップバリュ」から、“新しい家電”と銘打ったキッチン家電シリーズが発売された。電気ケトル、オーブントースター、ジュース&ミルミキサー、卓上用IHクッキングヒーター、コーヒーメーカーの5製品はブルーとベージュという家電には珍しいカラーで、デザインの美しさが目を引く。
しかもPB(プライベートブランド)家電だけあって、価格は税込みで5,000円台~8,000円程度とお手ごろ価格だ。これは気になる! ということで、その開発背景などを取材し、特に気になった2製品を実際に使ってみた結果をご紹介したい。
キッチンの変化に合わせ「デザイン×価格×機能」のバランスを考えた家電に
トップバリュが家電を扱い始めたのは、約2年ほど前の2013年3月のこと。まずは電気ケトルや、電気給湯ポットが店頭に並んだ。その年の秋には1万円を切る価格のロボット掃除機が発売され、話題となったのが記憶に残る。そもそもイオンが自社ブランドの家電製品を扱うようになったのは、どのようないきさつがあったのだろうか。
「数々のPB製品を送り出しているイオンにとって、家電は未開発の分野でした。しかし、顧客への魅力あふれるPB製品のラインアップ強化をしていくにあたって“家事の負担を省く”家電製品は見過ごせないものだったのです」と、イオンリテール 住居余暇商品企画本部 ステーショナリー・家電商品部 開発G家電担当の安野久義氏は語る。
「電気ケトル以降も、アイロンやサイクロンクリーナー、ジューサーへと幅を広げてましたし、金額ベースでもっともよく売れているのは実はLEDシーリングライトだったりします。そうした中で、これからはターゲットを絞り、デザインにもこだわった家電の開発が必要なのではと気付いたのです。目指すのは『デザイン×価格×機能』のバランスが取れたキッチン家電。しかも大手家電メーカーと同機能で、価格は1~2割抑えるのがPBであれば必須なので、課題は多かったのです」(安野氏)
厳しく思える状況の中で、イオンの開発チームが行なったのは、社員たちのキッチンの様子を写真に撮ってみせてもらうことだったそうだ。
「これまでキッチンは調理場であり、基本的に“隠しておきたい”ところでしたが、最近は住宅の間取りの変化もあり、“見せるところ”へと変化しています。ですが、実際のキッチンの現状は、次々に買い足したり、買い替えているうちに、カラーも形も雑多になってごちゃごちゃしてしまうことが多くあります。とても見せたくなるような場所ではないということに、改めて気づきました」
そして出た結論が「統一感をもって家電をデザインする」ということだったのだ。
差別化を図るために外部デザイナー「印デザイン」に依頼
トップバリュの家電は自社工場を持たない“ファブレス”製品であり、これまでは同社のコンセプトを元にOEMで製品づくりをしてきた。2014年9月に、シニアやシングル層向けのコンパクトな家電シリーズを発売しているが、こちらもターゲットこそ絞ったものの、作り方としてはこれまでどおりだった。
ただ、今回は「統一感のあるデザイン」というテーマが明確に決まっていたこともあり、大手家電メーカーとの差別化を図るためにも、外部のプロダクトデザイナーにデザインを依頼。金型をおこして一から製品づくりを始めている。
依頼したのは、海外で数々のデザイン賞を受賞しているプロダクトデザインユニット「印design(インデザイン)」。独創的な形状の蛍光管を使った美しい照明器具が国内外から高い評価を獲得し、様々な企業とコラボレーションしているデザイナー・池内昭仁氏と石井保幸氏の2人だ。
今回の5製品は、丸みのあるフォルムや質感など、シンプルさというだけではない独自性のあるデザインが美しい。ターゲットを30代のファミリー層に置いているため、オーブントースターでは1度に4枚の食パンが焼け、コーヒーも6杯分とどれも大容量になっている。
ただ、注目すべきは、イオン側のこだわりはデザイン重視にとどまらず、機能や使い勝手、価格のすべてにおいてのバランスを重要視したことにある。
「どちらかというと、見た目のデザインそのものに注力して上がってきたものを、使い勝手や安全性の面から厳しくチェックして、デザイン面との折り合いをつけながら、完成させるのにとても時間がかかりました。たとえばオーブントースターの取っ手にしても、最初は扉と一体になったデザインの美しいものを提示されたのですが、それでは実際に開け閉めするときに使いにくい。指がしっかりと入り、熱さを感じさせないようなものにするようにとお願いしたのです。電気ケトルは、万が一倒れてしまってもこぼれにくいフタの構造にしています」
キッチン家電に珍しいブルーとベージュの2カラーの選択は、印デザインの意向だったのかというと、そうではなかったらしい。5~6種類挙がってきた候補の中から、暮らしになじみやすく、かつ平板にならないブルーとベージュを選んだというイオンに“本気度”の高さが感じられる。
まずは信用を得ること、そして魅力ある製品を広げていくこと
「イオンのデザイン家電」と宣言しつつも、ファミリー向けの大容量、時短をかなえるもの、清掃性の良さなどの使い勝手など、細部にまで配慮してつくってきた。そのため、コンセプトの立ち上げから丸1年もかかった新シリーズ。今後はどのような展開を考えているのだろうか。
「トップバリュの家電製品は立ち上げてからまだ2年ほど。まずはアフターサービスなどを含めた、品質面での信用をしっかりと得ることが大切だと考えています」と安野氏。
今後の製品展開について聞くと、「本当なら冷蔵庫なども手掛けてみたいところですが、アフターサービスを考えるとなかなか難しい。すでに人気のあるLEDシーリングライトのデザインを見直したり、いずれは炊飯器などもキッチン家電シリーズの中でできればと思います」という。
大手メーカーよりも価格を抑えたうえに、使い勝手やデザインにまでしっかりと配慮したイオンの新しい家電。今回の5製品がどこまで注目されるか楽しみだ。
トースト4枚が3分弱で焼ける、実力派のオーブントースター
さて、5つの家電製品をラインアップしているこのシリーズだが、まずは特に気になったオーブントースター(税込:6,458円)を検証してみたい。
外形寸法は、374×338×214mm(幅×奥行き×高さ)。見た目はコンパクトに見えるが、庫内は食パン4枚が焼けるほど広い。安価なオーブントースターでは上ヒーターは1本のことが多いが、上下とも2本のヒーターが配されているため「300W/600W/900W/1,200W」の、4段階の火力調整を可能にしている。
1,200Wで食パン4枚を焼いてみたところ、予熱なしでそのまま入れて、ちょうどよい焼き加減になるのに2分45秒程度。4枚のうち、左手前の食パンの一部がやや焼き色が薄めだったが、ほぼ合格点の焼け具合といえる。短時間で焼き上げているため、外側はカリッと中はふんわりとしていておいしい。これはいい。
1度に4枚も焼いてしまったので、後で冷めたトーストに、残り物のほうれん草の炒め物と目玉焼きをのせて温め直してみることに。これは弱めに加熱する600Wがよさそうだ。焼きざましのトーストなんて美味しくないだろうと期待していなかったが、火加減がほどよかったためか、レンジ加熱のように柔らかすぎてしまうこともなく、ちょうどよく温められて美味しく食べられた。
オーブントースターの底部には通常、くず受けトレーがあるもの。だが、機種によっては取り外しにくかったり、パカッと底部を開いたら、汚れが皆、下に落ちたりとけっこう使い勝手の良さには差がある。それが、このオーブントースターは、底部に手が入りやすく、スーッと取り出しやすいのがいい。さすが使い勝手にこだわったというだけあって及第点だ。
冷凍ピザも7分でもちもちに焼きあがって満足!
続いて試したのは冷凍ピザ。オーブントースターの扉の左側の表示どおり、目安は6~8分。900Wで焼いてみる。付属の受け皿にアルミホイルを敷いておけば、チーズがこぼれてもお手入れしやすい。
日ごろ、冷凍ピザを食べるということがなかったので、カチカチのピザが6~8分で焼けるものなのか不安だった。だが、ピザ生地のふちのあたりがこんがりしてきたころに取り出してみると、底はカリッとなっており、チーズがふつふつと溶け出して食べごろといった様子。コンビニで買ってきたピザが、こんなふうに上手に焼けるのだから侮れない。
スムージーやすりごまも作れるミル付きミキサー
本体とジュースボトルが並列したデザインで、高さを気にせず使ったり収納できたりするジュース&ミルミキサー(税込:7,538円)も気になるところ。ジュースボトルはガラス製で重みがあるが、その分しっかりとしていて安心感があり、取っ手も持ちやすい。
さっそくスムージーを作ってみた。今回試したのは、バナナ1本、豆乳100ml、ピーマン2個、パセリ1束(これで1人分)を一度に摂取できるお気に入りのレシピ。ボトルをセットするのに一発でうまくはまらず、やや手こずったが低速で1分ほど運転させるとほぼジュース状に。さらに30秒弱運転させるとなめらかなジュースになった。
このミキサーにはミルが付いているのだが、ジュースボトル右側の本体上部のふたを開けるとそこに収納できるようになっているのがうれしい。これなら、どちらも気軽に使ってみようという気になれる。
ミル用の容器もガラス製。白ごまをするのに高速のフラッシュモードでわずか15秒程度。ごま和えを作るのに、すり鉢を持ってこなくていいのは便利だしとにかくスピーディ。
コーヒー豆も挽けると取説に書いてあるが本当だろうか。30gで20秒という説明のとおり、きっちり計ってフラッシュモードで挽いてみると、20秒だと少し粗めなのでフレンチプレス用といったところだろうか。様子を見ながらあと少し時間を伸ばせば、ペーパードリップなどに適した中挽きになるので、何回か使って分量と時間と挽き方のコツをつかむといいかもしれない。
お手入れはジュースボトルもミル用ボトルもぬるま湯と洗剤を入れて少し運転させれば、刃の裏についた汚れも簡単に落ちる。ゴム製のパッキンは危ないので楊枝を使うなどして外すといい。
キッチンに置きたくなるデザインがうれしい
どうしても気になって取材した今回のデザイン家電シリーズ。実際に話を聞き、使ってみて、より一層ファンになってしまった。
写真とイメージが違って実物がチープだったりすることもあるものだが、色も質感もよく、材質の異なるオーブントースターとミキサーとがほぼ同じカラーになっていて仕上がりがいい。手ごろな価格なので、購入しやすいのも魅力だ。
そしてもう1つ、今回感激したのが外箱。ただの段ボール箱ではなく、ダイソンなど海外メーカーの家電と同じように考えてデザインされ、持ち帰るときから心弾むものになっている。
2製品しか試してみなかったが、コーヒーメーカーやIHクッキングヒーターなども使ってみたいところだ。はたして今後、どのような製品が仲間に加わっていくのかも楽しみにしている。