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土鍋を続けて20年! タイガー炊飯器の工場で見た、熱すぎるこだわりとは

タイガー魔法瓶の高級炊飯器「土鍋ご泡火(ほうび)炊き」などを手掛ける大阪・門真市の本社と工場を取材した

国内で販売される様々な炊飯器。その中で、土からできた本物の土鍋を使用し、20年もの長きにわたって製品化し続けているただ一つのメーカーが、タイガー魔法瓶だ。

多くの人が土鍋で炊くごはんはおいしいと分かっていながら、他のメーカーが追随できないのには理由がある。

金属やプラスチックのパーツであれば、金型を使って高精度で均一な部品を大量生産できる。一方の土鍋は、粘土を成形した後に高温の窯で焼成して作る焼き物。焼く前にどれほど厳密に同じ形に成形しても、焼成時に水分が飛んで収縮し、焼き上がった時には土鍋一つひとつのサイズにバラつきが生じる。

それでもタイガー魔法瓶はこの難題に挑み続け、「土鍋炊飯器」は2026年で誕生から20周年の節目を迎えた。奇しくも創刊20周年の家電 Watchも同じ時間を歩み、これまでの進化を見続けている。今回は、大阪府門真市にあるタイガー魔法瓶の本社および工場を取材してきた。

本物の土鍋を使った炊飯器を作り続ける

量産化やコストの壁が立ちはだかるなかで、なぜ同社は本物の土鍋による電気炊飯器に徹底してこだわり、毎年のように改良を遂げたのか。そして、20年の技術が詰め込まれた最新のフラッグシップモデル「土鍋ご泡火(ほうび)炊き JRT-A100」はどんなごはんのおいしさを実現しているのか。その真相について、タイガー魔法瓶 ソリューショングループ 商品企画チームにおける炊飯器の企画・開発のキーマンである辻本篤史マネージャーを中心に取材した。

タイガー魔法瓶 ソリューショングループ 商品企画チーム 辻本篤史マネージャーと、歴代の土鍋炊飯器。手前にあるのが最新のフラッグシップモデル「JRT-A100」
門真にある本社ショールーム。歴代モデルや100年を超える熱制御技術の歴史が展示されていた

量産不適の壁を「職人技」で越えた、20年の歩み

タイガーの原点である魔法瓶の歴代製品

タイガー魔法瓶の原点は1923年(大正12年)の創業当時から続く、魔法瓶の真空断熱と熱制御の技術にある。そして1970年には電気保温ジャー「炊きたて」を発売して以来、半世紀以上にわたり日本の食卓においしいごはんを届けてきた。

その歴史の中で最大の技術的ブレイクスルーとなったのが、2006年に発売された、業界で初めて本物の土鍋を使った「土鍋IH炊飯ジャー<炊きたて>JKF-A型」だ。

本物の土鍋を使った初代の「土鍋IH炊飯ジャー<炊きたて>JKF-A型」

「初代モデルJKF-A型の開発当初は、土鍋のサイズを均一に焼成することが困難で、大きさにバラつきがありました」

大量生産する工業製品に、大きさのバラつきのある部品を採用するようなことは、普通は選択しないだろう。そのバラつきの問題をどうやって解決したのか?

「(土鍋を入れる)本体側を、S/M/Lのように3サイズ、組み立てラインに準備しておき、土鍋に合わせて本体サイズを変えていました」

効率を優先する一般的な家電製品の製造工程では考えられないような手法で、商品化を実現させたのだ。工場を訪れると、最新ラインでありながら手作業の工程が多いことに気がつく。案内してくれた工場の担当者が、その理由を明かしてくれた。

「焼き物なので、どうしてもサイズの個体差が金属やプラスチック部品と比べると大きいです。そこで本体のパーツ側を1台ずつ微調整して組み立てる必要が出てきます。完全に自動化されたロボットラインでは、寸法の異なる土鍋を扱えないのです」

炊飯器のフタの内部。外からは見えない部分だが、ここに細かいパーツがいくつも配置されるため、完全な工場の自動化は難しいという

それから20年が経過した現在、三重県四日市市の「萬古焼(ばんこやき)」窯元での焼成技術の向上により、当初と比べて飛躍的に均一なサイズで焼き上げられている。では、その土鍋は一体どのようにして作られているのか。ショールームに戻り、製造工程を詳しく聞いた。

一つ一つ寸法の異なる土鍋を扱うため、手作業での組み立てが多い

驚きは人による手作業の多さだけではない。組み立てられた後も、実際に全数を通電して水を入れ沸騰させて、しっかり圧力が出るかのテストまで実施。熟練した担当者がチェックする徹底した検査体制が敷かれていた。

工場は国内だけでなく中国などの海外にもあるが、この国内工場で確立した高いノウハウは海外生産拠点にも展開され、マザー工場としても重要な役割を果たしている。

外観や内部だけでなく、全数を通電して検査

1つの土鍋に3カ月! マネできない常識を超えたこだわり── それでも土鍋を貫く理由

愚直に土鍋にこだわり続ける

商品企画担当の辻本マネージャーは、土鍋ができるまでの工程を詳細に解説してくれた。

「まずは原料ですが、焼き上げ後の土鍋の形や大きさが一定になるように、その時々の気温や湿度によって十数種類の原料を調合して粘土にします」

ちなみに電気炊飯器向けではない一般的な土鍋では、調合する原料は2種類ほどだという。そうして作った粘土で土鍋の形にしたものを、まずは約1,200℃で焼き、次に釉薬を塗布して焼き、さらにIH用の発熱体を手貼りしてから焼成するという。どのくらいの時間がかかるのかを訊ねると、笑顔で「1つを作るのに3カ月くらいかかります」と話す。

「普通では考えられない、コストも手間も非常にかかっていて……他社さんからすれば『そこまでやる?』と思われそうな作り方をしています。しかし、炊いたごはんのおいしさは他には代えがたくマネできないと思っているため、愚直に土鍋にこだわり続けています」(辻本マネージャー)

10種類以上の原料を調合して粘土を作る。その配合は気温や湿度によって変えるのだという
合計3回、焼成を繰り返して完成させる

辻本マネージャーたちのこだわりは、実際の炊飯性能の違いとして、数値にもはっきりと現れているという。

最初に挙げたのは、圧倒的な大火力。一般的な金属釜での最高炊飯温度が約140~180℃にとどまるのに対し、同社の土鍋では最高約300℃※の高い火力を生み出すという。土鍋自体が熱をしっかり蓄え、お米一粒ひと粒に一気に大火力を伝えることで、お米本来の持つ甘みと粘りを極限まで引き出すのだ。

※JRT-A100において、約300℃。「白米」メニュー4合、炊きわけ「しゃっきり」、火かげん「強」炊飯時。内なべ外側底面の温度。(タイガー調べ)

2層のIHコイル構造で大火力を可能にし、土鍋を直火で炊くような炎の温度差を再現

さらに土鍋は、一般的な金属釜と比べて約4倍※という強い遠赤外線を放射する。そのためお米の表面だけでなく、芯までしっかりと加熱され、旨みを引き出せるのだという。

※JRT-A100とタイガーの従来品JKT-P100(2022年製)の内なべの比較。なべ底内側の温度 土鍋釜230度、金属鍋110度(実際の炊飯時の温度を想定)の場合のピーク時の遠赤放射エネルギー量の比較。JRT-A100 397.6Wm-2 μm-1 JKT-P100 97.7Wm-2 μm-1(同社調べ)

ただし大火力にすると、通常はお米が激しく舞い踊り、互いに衝突して表面が傷つき、べちゃっとしてしまうリスクもある。土鍋の内釜が他と異なるのは、加熱すると底から細かく大量の泡が湧き上がる。同社が「ご泡火」と呼ぶ泡が、炊飯時のお米を優しく包み込み、クッション代わりとなって、お米同士の直接の接触を防いでいる。そのためお米の表面を傷つけずに炊きあがり、しっかりと弾力のある食感が楽しめるわけだ。

20年の蓄積が結実した今の最上位機だからこそのおいしさとは

「土鍋炊飯器」は、誕生から20周年を迎えた。そんな記念すべき年に満を持して登場したのが、6月に発売された最新フラッグシップモデルの「JRT-A100」だ。

土鍋ご泡火炊き JRT-A100

「最新モデルでは、料亭の職人が土鍋で炊きあげる理想のごはんの味わいに、これまで以上に近づけるため、細部にわたり高度な技術革新が施されています。まず、土鍋そのものの形状進化です。萬古焼の窯元との共同開発により、土鍋底面の波紋形状を新しく最適化しました。今までよりも激しい熱対流を実現し、お米に熱を伝えます」(辻本マネージャー)

土鍋の波紋形状を新たに最適化

土鍋の進化はそれだけではない。

「温度を検知する、匠センサーという部分が触れる土鍋底面の中央部分を絶妙に薄く加工することで、センサーと釜の内側の距離を近くしました。その結果、より正確に温度を把握できるようになり、料亭の職人の火入れのタイミングを再現できるようになりました」

底面の中央部分を薄くして、温度をより精密に検知できるように改良

ほかにも、料亭で炊きあげの最終局面に行なわれる追い火の技を、「とろ火IH制御」によって再現したという。これにより、お米の甘み成分である還元糖の量が約19%※もアップするという、開発陣も驚くほどの数値が出た。

※JRT-A100とタイガーの従来品JRX-S100(2025年製)で「白米」メニュー3合、炊きわけ「標準」、火かげん「中」炊飯時の還元糖比較(同社調べ)、還元糖JRT-A100:186㎎ JRX-S100:156mg。(乾物100gあたり)

これまで以上に、おいしく炊きあげられるようになっただけではない。そのごはんのおいしさをキープする保温機能も「匠おひつ保温」として大きく進化したという。

具体的には「ハリつやポンプ」が釜内部の湿度を微調整しつつ、前述の「とろ火IH制御」が温度を上げすぎないよう精密に温度を管理する。これによって、時間が経ってもごはんの乾燥や黄ばみを抑え、水分とツヤを長く持続させるのだ。

炊きたてごはんの甘みをアップさせ、そのおいしさをより長く保つ工夫も

辻本マネージャーは、同社が目指してきた炊飯器の姿と、今回の新製品の仕上がりに自信を持って語る。

「タイガーが目指しているのは料亭のごはんです。それはコースの締めくくりを飾る、料亭の中でも重要視されている食事の1つ。料亭では手間をかけて炊きあげていますが、それをボタン1つでできるのが、タイガーが目指すべきところです。その思いを込めた今回のJRT-A100は、タイガー魔法瓶が土鍋炊飯器の20年にわたる開発で培ったノウハウを凝縮させた、現在における最高到達点といえます」

タイガー魔法瓶の本社取材を通して見えてきたのは、効率やコスト削減が叫ばれる現代において、真逆の道を選んででもおいしいごはんを家庭に届けたいという、メーカーの矜持だった。

撮影:トヨサキジュン

(提供:タイガー魔法瓶)