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そこが知りたい家電の新技術
タイガー魔法瓶「土鍋IH炊飯ジャー 炊きたて」

Reported by 三浦 優子

土鍋IH炊飯ジャー 炊きたて JKF-A
 2006年は炊飯器の“当たり年”だった。

 各社からユニークな製品が発売され、テレビや雑誌でも炊飯器特集をよく見かける。その中にあって、土鍋の内釜を採用したユニークな炊飯器が注目されている。

 土鍋でご飯を炊くと、鍋底にはおこげができて美味しくなることはよく知られている。しかし、土鍋は重く、割れないように気をつけて取り扱わなければならない。その上、火加減も難しい。「美味しいけど、面倒」。そういった土鍋炊飯にまつわる不満に目をつけたのが、タイガー魔法瓶だ。


「かまどの感動」を再現する炊飯器を

タイガー魔法瓶 ソリューショングループ 商品企画チーム 主事の金丸等氏
 「この製品を作ることができたのは、色々な偶然が重なったからなんです」――土鍋IH炊飯ジャーを企画したソリューショングループ商品企画チームの金丸等主事は、笑いながらそう話す。

 土鍋IH炊飯ジャーの開発が始まったのは、2003年の秋。

 「開発チームに所属していた時に、かまどを研究する機会があったのです。現在でもおくど(かまど)を使っているお宅にお邪魔して、ご飯を炊く様子を見せてもらいました。お釜の蓋を開ける瞬間の感動といったら、これはもう。そのとき、いつの日か炊飯器でこの感動を再現したいと考えました。これがこの製品の、第一歩です」

 その頃、業界では圧力炊飯器の台頭が著しい状況だった。しかし、圧力炊飯は、おいしさに「理屈」でアプローチする方法。一方、かまどでご飯を炊きあげた時の感動は、あくまでも感覚的なもの。別の方法が必要だった。

 「感動を再現するなんて、まさに雲をつかむむような話です。ちょうど、土鍋でご飯を炊くブームが起こっていた頃で、確かに土鍋でご飯を炊いてみると美味しく炊ける。炊飯器では、クレームの元になるお焦げも、なぜか土鍋なら美味しいと評価される。これは土鍋が感覚に訴えるものだからです。土鍋を内釜にすればと思い、開発に相談しましたが、うまく行くか想像もできないという答えでした」

 しかし、金丸氏はあるきっかけから、このアイデアの実現を確信する。

 「米食味鑑定士協会にお邪魔した時、初めて炊飯用の目盛り付き土鍋を見たんです。しかも、IHクッキングヒーターにも対応している。これだったら炊飯器の内釜に土鍋を使うことも可能になる、そう考えて土鍋を製造している窯元を紹介してもらいました」

 すぐに窯元に依頼し、既存の炊飯器の内釜とそっくり同じサイズの土鍋内釜を作ってもらった。

 「出来上がったものは、軽いし、炊飯器の内釜としての違和感はまったくないものでした。鍋底にIHに対応する塗料を塗るといった工夫はあるものの、土鍋で内釜を作ることには何か新しい技術が必要だったわけではなかったんです。誰も土鍋の内釜を作ろうとしなかったからそういう製品がなかっただけなんです」


これが土鍋釜となる粘土 粘土を成形し、素焼きした状態。ここからうわぐすりを塗り、もう一度焼き上げる 完成した土鍋釜

作っては割り、を繰り返す

土鍋釜はそのままに、おひつセット、蒸し機能などを省いた「JKF-B」
 うまく運ぶかにみえた土鍋内釜も、いざ製品化に乗り出すと、課題は山積みだった。

 まず、炊飯器の内釜として最適な土鍋とは、どんな形状なのかを探ることから開発が始まった。土鍋でもIHで加熱できるのは、鍋底などに発熱加工をしているためだが、この加工を施した部分と、IHヒーターが当たらない部分の厚みを変えながら、うまく釜全体に熱が回る形状を模索した。

 炊飯器本体も、土鍋に最適な構造に作り上げなければならない。

 「最終的に側面に4段のヒーター、フタ全面のヒーター、そして底と鍋底のカーブ部分にIHを入れています。これは最初からこういう形態だったわけではなく、実験を繰り返して最適な炊きあがりを追求した結果なんです。最後の最後まで、ワット数をどうするのかも試行錯誤して決めていきました」

 土鍋内釜の鍋底を見ると全面が同じ色ではなく、部分によって色が違う。これはヒーターや温度センサーに対応するための工夫。最適な温度にするための細かい仕掛けがなされている。

 「実は土鍋内釜の底を見てもらうと、茶碗の底にある高台があるんです。これもいくつか理由があるのですが……」といいながら、金丸氏は既存の炊飯器の秘密を教えてくれた。

 「ほとんど知られていませんが、通常の炊飯器は、底の部分にあるIHヒーターと、内釜は直接触れあわないよう、内釜の上部で支えた宙づり状態にしています。直接IHヒーターが樹脂でできた内釜に触れてしまうと、異常発熱が起きたとき、樹脂が溶けるトラブルにつながるからです。しかし、土鍋の場合、同じような宙づり構造にしてしまうとIHとの距離が空きすぎて、うまく熱が伝わらない。そこで、土鍋内釜は宙づりではなく、底に直接触れる構造にしました。そしてサイズの微妙な違いが起きやすい土鍋の内釜に高台をつけて、IHとの距離の誤差を吸収するようにしています」

 初の土鍋内釜のため、土鍋を作る素材も焼き方も普通の土鍋とは異なる。「もちろん、全く新しいものを作ったわけではないんですが、内釜としての仕様を満たすため、土の配合、焼き方などは陶器メーカーのさまざまな技術協力があって、完成したものです」という。むしろ、炊飯器メーカーとしては、内釜の形状、炊飯器のIHやセンサー、ヒーターの位置にこそ、タイガー魔法瓶がこの製品で培ったノウハウの結晶となっている。

 土鍋が内釜として利用できることがわかるまでに1年。そして内釜として最適な土鍋にブラッシュアップするのに、実に2年の年月がかかっている。


炊きあがった白米
通常ならヒーターのまわりにある材質は樹脂製だが、この機種では陶器が用いられている フタの部分にもヒーターを搭載する

なぜ土鍋か

 こうして開発した土鍋内釜で炊いたご飯は、確かに美味しかった。なぜなら、美味しいといわれるご飯のひとつの基準である、「お米が立った状態で炊きあげる」ことに向いているからだ。

 「炊飯というのは、米と水を火にかけて、アルファ化させて、米をご飯に変えていく作業です。米をアルファ化させる過程では、熱が弱くなるとアルファ化が止まってしまいます。一定の火力で、一定の時間以上加熱することが不可欠なわけです。金属製の内釜の場合、IHやヒーターのON/OFFを微妙に繰り返しながら、吹きこぼれなく、焦げないようご飯を炊いています。それに対し、土鍋はヒーターをOFFにしても蓄熱性が高いため、加熱を止めても鍋の中の沸騰が止まらないのです」

 ヒーターのON/OFFを行なうIHでは、温度変化をグラフにするとギザギザの状態になる。つまり、温度が一定しないので、釜の中は不安定になる。


本体には「土鍋IH」のロゴが刻まれている
 一方、土鍋の場合、温度が一定の状態になり、グラフもなだらかになる。さらに、遠赤効果も加わり、気泡によってお米が立った状態でご飯を炊きあげることが可能になるという。これが、土鍋で炊いたご飯が美味しくなる秘密だ。

 もちろん、温度管理はIHより、格段に厳しくなる。

 「ヒーターの制御調整が一番苦労したところです。なにしろ、これまでの金属製の釜とはまったく特性が異なります。ここについては、お話しできない部分が多いのです。我々も発売の1週間前まで、調整を繰り返しました」

 こうした甲斐もあって、製品発売後のユーザーの反応は良好だ。「炊いた直後はもちろん、冷めたご飯が美味しい」といった感想も寄せられている。


パッケージにも感動を

おひつとして使えるよう、フタやしゃもじなどを同梱した。しゃもじには木曽ヒノキを使用している
 ただし、金丸氏自身は、製品を開発していく過程で、美味しいご飯を炊くだけでは製品として不十分だと感じていた。なにしろ、コストを考えれば、これまでの高級機と呼ばれる価格帯である3万円台に収めるのは難しい。今までにない価格帯で販売するには、性能だけではない、なにかを付け加えなければならない。

 「開発の最中に知り合った料亭のご主人に、“舌を満足させるだけでなく、のれんをくぐった瞬間のもてなしからが勝負だ”という話を聞きました。この話を我々の商品に置き換えると、商品の箱を開けてもらった瞬間から、お客様との勝負が始まっているということになります。箱を開けた瞬間に、驚きや喜びを感じてもらうための仕掛けを考えたのです」

 そこで、内釜に蓋をつけ、鍋敷き、木製しゃもじ、しゃもじ受け、つゆとり布をセットにした「おひつセット」を同梱。外箱を開けると、最初にこれらのセットが目に入るように演出した。


購入者へのメッセージも同梱。「箱を開けたときの感動」を徹底して追求した
 また、フタをつけ、内釜自身をおひつとして使うというのは、土鍋の内釜同様、これまでの炊飯器の常識では考えられないこと。社内からも、「内釜ごと食卓に運ぶなんてあり得ない!」という反対の声もあがった。

 しかし、グループインタビューに訪れた一般の主婦たちは、違っていた。

 「割れることもある土鍋ですが、この釜なら食卓に持ち出して使えますよねと言うと、“この使い捨ての時代に、メーカーさんがあえて割れるということを訴えることも大切なことではないか”という意見が出ました。金属の釜ならば、こうした意見は絶対に出ません。土鍋というものに特別な感情を抱いているユーザーさんがいることに、自信を深めました」

 こうして、企画、開発、パッケージング、それぞれの工程で苦労を重ね、完成した「土鍋IH炊飯ジャー JKF-A/B」シリーズは、2006年9月に発売された。

 折しも2006年は高額の炊飯器が各社から発売になった年でもある。この状況について、金丸氏は次のように分析する。

 「他社から高額の製品が出るなんて全く予測していなかったので、各社の動きは完全な想定外でしたが、炊飯器への注目度が高くなったこと、高額の炊飯器に対する抵抗感がなくなったことなどを考えると、当社にとってもプラスだったと思います」

 「土鍋炊飯器という分野の第一歩を踏み出したにすぎません」と語る金丸氏の目はすでに「次」を見据えている。





URL
  ニュースリリース
  http://www.tiger.jp/press_releases/pr_060829_01.html
  製品情報
  http://donabe.takitate.jp/

関連情報

URL
  【やじうまPC Watch】タイガー、土鍋で炊きあげるIH炊飯器
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0830/yajiuma2.htm


2006/12/08 00:00

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