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1970年代シェーバーやドライヤーから伝統工芸へ「デザイン」でつなぐ中川衛 展覧会

人間国宝の金工作家・中川衛さんによる伝統工芸作品と、原点である工業デザインを見られる展示会が開催

東京・港区のパナソニック汐留美術館において「開館20周年記念展 中川 衛 美しき金工とデザイン」が7月15日より開催中。人間国宝である金工作家・中川衛(なかがわまもる)さんによる「加賀象嵌(かがぞうがん)」作品を、デザイン視点で展示構成する初の展覧会となっている。元パナソニックのデザイナーとして活動した1970~80年代当時の家電なども特別に見られる機会となっている。

展示会の会期は7月15日~9月18日。休館日は水曜日(9月13日は開館)と、8月13日~17日。入館料は一般1,200円、65歳以上1,100円、大学生・高校生700円、中学生以下無料。パナソニック汐留美術館の住所は港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4F。

伝統工芸と工業デザインの両方を体感

「象嵌」とは、金属の表面を鏨(たがね)で彫り、できた溝に異なる金属を嵌めこんで模様を作り出す技法。象嵌部分の深さは1mm以下と薄く、精緻な仕事が求められる。

中川さんの2016年作品「北杜の朝(きたもりのあさ)」(右)スウェーデンで目にしたスケッチを、金や銀、赤銅などの重ね象嵌で表現

パナソニック出身で、石川県金沢市を拠点に活動する金工作家・重要無形文化財「 彫金」 保持者(人間国宝)である中川衛さんは、1971年に大阪の松下電工(現パナソニック)に入社し、美容家電製品などのデザインを手掛けた。

27歳で帰郷後、地元の伝統工芸である加賀象嵌に魅了され、修業の後に日本伝統工芸展などで入選と受賞を重ねて作家として頭角を現した。2004年には重要無形文化財「彫金」保持者に認定。現在は大学や造幣局などで後進の育成に尽力しながら、アメリカや台湾で海外研修を行なうなど、国際的な活動を続けている。

中川さんが松下電工の美容家電でデザインに携わっていた1970年代の、メンズシェーバーのデザイン画
中川さんがデザインに関わったという1974年のドライヤー「Crew EH623」(左)など
Panasonic Museumに収められている、白黒テレビ「レインジャー505」やラジオ「クーガ」テクニクスの「DDターンテーブル」といった貴重な製品も
1970年代の女性用シェーバーや、ラジオ「パナペット・クルン」など、当時の自由なデザインの家電

複数の金属で構成し、難易度が高いとされる「重ね象嵌」を極めていった中川さんは「工芸も工業デザインも創作の展開は同じである」と語り、企業で身につけたデザイナーとしての制作手法を活用しながら、金工の試作を重ね、日常生活にヒントを得た立体のフォルムと、自身の記憶から紡いだ抽象文様により、現代的な象嵌の作風を築いた。

今回の展示会では、中川さんの初期の象嵌作品から最新作まで見られるほか、1970~80年代に手がけたプロダクトデザインや、金工の道に進む原点となった加賀象嵌の名品、現代アーティストとのコラボレーション、中川さんの技を受け継ぐ次世代の作品など、作品と資料を合わせて約130点を用意している。

パナソニックの歴代美容家電製品を収蔵するHIKONE KIZUNA(ひこねきずな)館や、パナソニックミュージアムとも連携し、中川さんが活動した時期の背景にある1970年代の工業デザインの一端を紹介。中川さんの姿勢を体感できるように、かつての象徴的なパナソニック家電のデザインと、貴重な加賀象嵌の作品の数々が、地続きでつながったスペースで鑑賞できるようになっている。

中川さんの加賀象嵌作品や、中川さんに影響を与えた作品の数々を展示。他アーティストとのコラボレーションも