大河原克行の「白物家電 業界展望」

日立アプライアンスの白物家電がシェア26%まで拡大

~家電事業部事業部長・金子友通常務取締役に聞く
by 大河原 克行
日立アプライアンス 家電事業部事業部長 金子友通常務取締役

 日立アプライアンスの白物家電事業が好調だ。

 国内においては、白物主要5品目(冷蔵庫、洗濯機、クリーナー、電子レンジ、ジャー炊飯器)において、過去5年間で9ポイントもシェアを引き上げ、2011年度実績で26%へとシェアを拡大。今後もさらなる引き上げを狙うという。また、海外市場においても、新興国を中心に日立ブランドの白物家電が存在感を高めている。

 「Sプロ(ソリューション・プロジェクト)によって、開発、営業、デザインが一体化した取り組みが、結果につながった」と、日立アプライアンス 家電事業部事業部長である金子友通常務取締役は自己分析する。金子常務取締役は、2012年4月から家電事業部長に就任。長年に渡る海外での経験を生かし、「今後は、国内での実績をベースに、GS(グローバル・ソリューション・プロジェクト)を推進。グローバルでの白物家電事業の拡大を図る」と語る。金子常務取締役に、日立アプライアンスの白物家電事業への取り組みを聞いた。

特別研究プロジェクトで一歩踏み込んだ製品開発

――国内白物家電市場における日立アプライアンスのシェアが高まっていますね。この理由はなんであると分析していますか。

 日立製作所には、家電事業部時代から、「特研」というプロジェクトがありました。これは、「特別研究」プロジェクトの略称であり、中央研究所をはじめとする日立の基礎研究部門での成果を、製品開発に生かし、市場に投入するというものです。これを日立アプライアンスでは、Sプロと呼び方を変え、さらに一歩踏み込んだ製品開発を進めています。

 日立のモノづくりは、設計主体、技術優先といった傾向が強かった。いい技術を搭載しているが、ユーザーの立場からすると、見た目でそれを感じられない。そこで、デザインを優先しようとすると、いいデザインなのだが、あまりにも飛び出したデザインが出てくることが多く(笑)、これもなかなかユーザーに受け入れられない。Sプロでは、先進の技術を搭載していることを感じられて、デザインも少しいいという水準に抑えた製品を開発することで、市場に受け入れられるようになってきたのではないでしょうか。

 これは、営業部門をプロジェクトのなかにしっかりと巻き込んでいかないと生まれないものであり、その成果が、日立のファンを増やすことにつながっています。それと、もう1つは、「日立はエコにたし算」というスローガンからもわかるように、エコに対する評価、実感価値に対する評価が高まっていることが要因だといえます。

 私は、久しぶりに日本に帰ってきて、正直なところ、日立アプライアンスのイメージキャラクターである嵐が、最初は、どれほどの人気があるのかがわからなかったんですよ(笑)。そして、嵐をイメージキャラクターに起用するほどの積極的な宣伝広告投資を行なっていることにも驚きました。日本でのこの勢いはますます加速していきたいですね。

省エネ技術は絶対に他社に負けない

日立アプライアンスが打ち出す省エネ+実感価値という戦略

――エコという観点では、他社も強力に訴求をしていますね。

 日立がいうエコは、省エネ化だけでなく、省資源化といった構造的な改革への取り組みも含めています。コストを引き下げるための生産技術も省資源化につながり、ここでも日立は優位性を発揮しています。また、日立は、グループ全体の取り組みとして、30年以上前から省エネに対する技術開発に力を注いできました。これは、絶対に他社には負けないと自負できる技術領域です。

 そして、日本で一番の省エネ技術ということは、世界で一番の省エネ技術であると言い切れるでしょう。ただ、この技術を搭載して、とにかく省エネだけが達成できればばいいというわけではない。極端な話ですが、消費電力を100W下げるために、冷蔵庫の四角い扉を三角にして、ユーザーの利便性を損なうのであれば、90Wの下げ幅でかまわない。技術だけで勝負するという時代はすでに終わっています。ユーザーはどんな価値を求めているのかということを知り、これを具体的な形で表現することが重要な要素となっている。Sプロの変化はこうしたところに表れています。

――日立アプライアンスが打ち出す「実感価値」という部分にもつながりますね。

 実感価値の実現に向けては、日立アプライアンス自らが、知恵を使う部分になります。そして、営業が市場の声を反映しなければ、実現できない部分です。一例をあげると洗濯機があります。日立の洗濯機は、洗濯槽の裏側の汚れを洗い流す「自動おそうじ機能」を昨年のモデルから搭載しています。洗濯槽の汚れが気になるという声に対して、価値を実感してもらうことができた。今年は排水ホースや、内部の配管汚れまできれいにするように進化させている。こうした価値を実感していただけることが、日立の白物家電の高い評価につながっています。市場はなにを求めているのか。それに対して、日立の技術を活用してどう解決できるのかといったことをさらに追求していきたい。

6月に発売した2012年モデルの縦型洗濯乾燥機「ビートウォッシュ BW-D9PV」汚れが付きにくいステンレス素材の洗濯槽を採用し、脱水時にきれいな水を撒いて汚れを落とす「自動お掃除機能」を搭載する洗濯槽自動お掃除機能の好評を受けて、2012年モデルから追加したホースや配管の内側の汚れを落とす機能。ホースの形状も汚れが溜まりにくいものとした

 こうした実感価値の提案が受けているのは、高機能モデルの市場シェアが高まっていることからも裏付けることができるでしょう。

 実際、国内市場におけるシェア推移を見ると、この1年で付加価値ゾーンにおけるシェアが高まっていることがわかります。例えば、501L以上の冷蔵庫では、2011年度第1四半期には33%だったシェアが、2012年度第1四半期には39%にまでシェアが高まっていますし、洗濯乾燥機では、2011年度第1四半期には25%だったシェアが2012年度第1四半期には35%にまで拡大。掃除機では、市場想定価格で5万円以上の領域では、2011年度第1四半期は22%だったシェアが、2012年度第1四半期には34%にまで高まっています。

現地の開発チームでニーズにあった製品作りを進める

――金子常務取締役は、今年4月に家電事業本部長に就任するまでは、日立コンシューマプロダクツ(タイ)の社長であり、ASEANの新興国を中心としたビジネスを最前線でリードしてきました。そうした経験は、今後の日立アプライアンスの白物家電事業にどう生きますか。

 これまで以上に、ものごとをグローバル視点が考えることができるのではないでしょうか。経営指標として重視している営業利益率をどう高めていくかという点でも、国内だけでなく、海外を含めてどう高めるかといった発想が、社内により浸透していくことになると考えています。

 海外市場には、まだまだビジネスチャンスがあります。私は、2005年からの6年間で、ドバイやサウジアラビア、エジプトなどの中東におけるビジネス規模を約2倍に拡大しましたが、やり方次第ではまだまだ成長ができるでしょう。そのためには、日本からすべてをやるという体制では追いつかない。

 先端技術は日本で開発するとしても、製品設計は海外の拠点で進める体制を強化していく必要があります。以前は、日本でいいものを作れば、海外でもそこそこ売れるという考え方があった。しかし、それは設計部門が思っていたことであって、現地ではまったく売れない。むしろ、世界中を見渡すと、日本のお客様の方が変わっていると思ったほうがいい(笑)。これだけ付加価値の高い製品に注目するという国はありません。海外で戦うのであれば、日本標準ではなくて、グローバル標準でモノづくりを考えなくてはなりません。

 タイにある日立アプライアンスの生産拠点では、2,700人の従業員が働いていますが、そのうち130人は開発者であり、現地の声を反映した製品開発を進めています。とくに冷蔵庫は約60人の開発者を擁しており、そのうち日本人の開発者はわずか6人。現地の人たちが中心となり、製品開発を行なう体制を構築しています。

日立が2009年に発売した庫内容量615Lの大型冷蔵庫「Side-By-Side(サイド・バイ・サイド) R-SBS6200」

 日本で最も大きな冷蔵庫は、容量が670Lですが、タイでは700Lというサイズの冷蔵庫を発売しています。これも現地の代理店の声を聞いて、製品化したものです。また、タイの生産拠点では、洗濯機や炊飯器などの生産も行なっていますが、こうした製品についても、タイの生産拠点内に開発者がいます。

 私は、「セミグローバリゼーション」という言い方をしているのですが、ベースとなる技術は日本で開発しても、製品開発に関しては、現地の人たちの意見を取り入れ、マーケットの状況をよく見て展開していく必要がある。アジアと一口にいっても、求められる機能が違ったり、色の好みも違う。また、台湾のように日本の製品がそのまま受け入れられやすい市場もあります。これまでのSプロをさらに発展させて、GS(グローバル・ソリューション・プロジェクト)をより強力に推進することで、海外を含めた形で家電事業の拡大を図ることが必要であると考えています。

――これは国内生産を縮小することにつながりますか。

 いえ、それとは話が違います。日本の市場に向けて、プレミアム家電を提供しつづけていくには、やはり日本での生産が重要になる。また、海外においては、「MADE IN JAPAN」に対して価値を感じていただいている部分もある。私は設計の出身なのですが、その経験からも、モノをつくる設計開発部門と量産する部門とが離れていてはろくなものができないと考えています。家電製品に関しては、日本は最先端の技術が集積されており、技術革新や効率化が進む「土俵」がある。そこに設計開発部門と生産部門が、近い関係で存在するということは極めて重要なことです。

日立アプライアンスでは、国内の白物家電をベースとしながらも、海外向けの製品やオール電化などの環境分野にも力をいれていくという

――海外比率は今後、どの程度にまで高めていく考えですか。

 現在、家電事業全体で約2割の海外売上高比率を、今後3年間の間に(2015年度までに)3割程度には引き上げていきたい。ルームエアコンはすでに海外事業比率が6割になっていますから、白物家電でもさらに拡大できる可能性はある。白物家電の海外事業拡大の切り口になるのは、冷蔵庫。現時点でも、海外売り上げのなかで6割を占める製品ですから、これを先兵として市場を開拓していく。残りの2割が洗濯機、1割が掃除機というイメージです。

 もちろん、海外事業に取り組むには、国内での成長が前提となる。国内で確固たるポジションを確立し、その上で、グローバル戦略を加速する形を想定しています。ただ、これまでのように、日本で製品を発売してから数年後に海外に投入するといった仕組みでは駄目です。サウジアラビアの家電量販店の幹部は、日本でいい製品が発売されたら、その情報がすぐに入りますから、1週間後には「うちでも売りたい」といってきますよ。

 空気清浄機はすでに国内外同時発売といったことも開始していますが、冷蔵庫ではまだ1年かかっているという反省もある。これを改善していかなくてはならない。また、その一方で、先ほど触れたように、タイの生産拠点で開発したものを、日本の市場に逆輸入していくということも考えられる。今後は、こうしたことも増えていくのではないでしょうか。

「裏切られることはあっても、裏切るな」

――家電事業部長に就任以来、事業部の社員に対してはどんなことを言っていますか。

 「裏切られることはあっても、裏切るな」ということを話しています。商売の基本は信用第一です。それは自身の海外経験からも、身を持って体験してきました。来年、新しい冷蔵庫を出すと約束したら、どんなことがあってもそれを出す。そうすれば、相手も信用してくれて必死になって売ってくれる。

 もう1つは、リバイ(Re-Buy=再購買)につながる製品を作ってほしいという点です。コストを下げる取り組みは、通常業務(笑)。それでいながら、また買いたくなる製品を作り上げなくては競争力は高まりません。言葉は悪いですが、偏屈な販売店のおやじから「日立の製品は良い」と言ってもらえ、感謝状をもらえるようなメーカーであり続けなくては生き残れません。日立アプライアンスは、そうしたメーカーであり続けたいと思っています。

――2012年度の日立アプライアンスの事業計画では、家電事業の売上高で前年比6%増の2,700億円を掲げています。また、2012年度には家電主要5品目での国内シェアが28%、2013年度には29%のシェア獲得を目指すことを掲げていますね。

 もちろん、シェアを高めていくことは重要ですが、経営としては収益の確保を最優先していきたい。2012年度には営業利益率2.5%を確実に達成し、さらに、2015年までに営業利益率5.0%を目指します。基本方針は「地産地消」と「プレミアム戦略」です。グローバル事業の拡大を継続するとともに、コスト意識をもって取り組んでいく。これによって、省エネと実感価値を提供し、その結果として、シェア拡大につながるといった形にもっていきたいですね。






2012年8月22日 00:00