第47回:PAM制御とは
エアコンのパンフレットに書かれている「PAM」とは、省電力でかつ冷暖房能力の高いエアコンのこと(写真は日立「ミストでうるおい ステンレス・クリーン 白くまくん」Sシリーズ) |
PAM制御のエアコンは、消費電力が少なく、しかも暖房/冷房効果の高い点が特徴です。言ってみれば“より優れたインバーターエアコン”ということになります。
●従来はできなかった電圧をコントロールし、低パワー運転時の消費電力を抑制
写真は富士通ゼネラル「Zシリーズ」に搭載された「高電圧ベクトルPAM」インバーター。室外機内に搭載されている |
PAM制御は、このような一般的なインバーターよりも、低パワー運転時の消費電力を抑え、電力の無駄を省ける点が特徴です。
なぜ低パワー時の消費電力が抑えられるかというと、PAMは従来のインバーターではできなかった電圧の調節ができるからです。PAMが登場する前のインバーターは、電圧のコントロールができませんでした。そのため、コンプレッサーのモーターの回転数に関わらず電圧は一定となるため、特に低回転数でモーターを回転させる場合に、電力に無駄が発生していました。
その点、PAM制御では、電圧をコントロールすることで、モーターのパワーを細かく調節できます。PAMでは「ブラシレスDCモーター」と呼ばれる直流モーターを採用していますが、直流モーターは、直流電力の電圧によって回転数が変化します。そのため、モーターを低回転数で動作させたい場合には低電圧の電力を送り、高回転数で動作させたいときには、高電圧の電力を供給する――といったように変化が付けられるようになりました。
ちなみに“PAM”とは「パルス電圧振幅波形制御方式」のことで、Pulse Amplitude Modulationの略語になります。
世界で初めてPAM制御を採り入れたエアコンは、日立の「RAS-2510HX」。1997年に発売された(出典元:財団法人省エネルギーセンター) |
●暖房/冷房効果もパワーアップ
PAM制御のもう1つの特徴となるのが、インバーターよりも高いパワーを発揮させることが可能という点です。
PAM制御では、従来のインバーターよりも高電圧の電力を供給できるため、コンプレッサーのモーターの回転数が従来よりも高められるので、非常に高いパワーを発揮することができます。つまり、冷房/暖房能力を高めて素早く空調できるということになります。設定温度に到達したあとは、前項で紹介したとおり、消費電力を抑えた低パワー運転で室温をキープします。
先ほど紹介した、PAM制御エアコンである日立のRAS-2510HXでは、それまでのインバーターエアコンに比べてコンプレッサーのモーター回転数を1.5倍にまで高められ、寒冷地でも十分対応できるほどにまで暖房能力が大きく向上しました。ヒートポンプは外気温が低くなればなるほど暖房能力が低下しますが、PAM制御を採用するエアコンが登場してからは、東北地方や北海道でもエアコンを利用した暖房が広く利用されるようになりました。
●エアコンだけでなく冷蔵庫でもPAM
当初は、エアコンの省エネ性能と冷暖房能力を高めるために採用されたPAM制御ですが、エアコンだけに採用されているものではありません。現在では、冷蔵庫でもPAM制御の採用例が増えています。
冷蔵庫で初めてPAM制御を採用したのは、1998年に日立から発売された「R-S44PAM/R-S38PAM」でした。従来のインバーターを採用する機種と、PAM制御の機種とでは、力率が75%から95%へと飛躍的に向上しました。さらにコンプレッサーのパワーも高まったことで、食品などを一気に凍らせる急速冷凍も可能となりました。
このように、PAM制御を採用することによって、従来のインバーターを利用するよりも優れた省エネ性能を実現し、より高いパワーを発揮させることができるのです。家電製品の省エネ性能とハイパワーを両立するために欠かせない仕組みと言っていいでしょう。
1998年の日立「「R-S44PAM」「R-S38PAM」が、世界で初めてPAM制御を採用した冷蔵庫(出典元:財団法人省エネルギーセンター) | PAM制御と従来のインバーター制御による効率の違い。低パワーでも高パワーでも、効率の高い運転が可能になった |
※力率……電気をモーターなど交流回路に使った場合の、実際に働いた電力(有効電力)と、電圧と電流を掛け合わせた計算上の電力(皮相電力)の比率のこと。100%に近づくほど効率が良い。
【PAM制御】の、ここだけは押さえたいポイント
・低パワー運転時の消費電力を抑え、省エネに貢献
・高電圧の電力も供給できるため、暖房/冷房効果もパワーアップ
・エアコンや冷蔵庫などで広く採用されている
2009年6月1日 更新
2009年5月29日 00:00