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パナソニック、アメリカの冷蔵ショーケースメーカーを1,854億円で買収
(2015/12/22 12:29)
パナソニックは、12月21日、米・業務用冷凍/冷蔵ショーケースメーカーのハスマンを買収すると発表した。
ハスマンの親会社であるHussmann Parent Inc.および、その株主代表であるClayton,Dubilier & Rice,LLC(クレイトンデュプリエ&ライス)と契約を締結。2016年4月に、パナソニックは、ハスマンを含む、ハスマングループの株式を100%取得する。取得金額は15億4,500万ドル(約1,854億円)となる。
米国は、スーパーやコンビニエンスストアなどに導入されているショーケースにおいて世界最大となる市場。ハスマンは、米国の2大業務用ショーケースメーカーに位置づけられる1社だ。1906年にハリー・ハスマン氏により創業され、精肉業界向け冷蔵装置を発売して以来、109年の歴史を持つ。
今回の買収では、ハスマンのブランドを継承。パナソニック アプライアンス社の12番目の事業部門として位置づけ、現在のデニス・ギプソンCEOやティム・フィギィ社長などの経営陣は、そのまま続投することになる。
ハスマンは、2014年度実績で10億8,400万ドルの売上高を持ち、そのうち、39%がショーケース製品。30%が施工およびサービス、18%が食品流通業界向けその他商材、10%が冷凍機、3%が後付部品となる。
米国に21拠点、カナダに2拠点、中南米が4拠点、アジアパシフィックなどに10拠点を持つ。2000年にインガーソールランドの傘下に入り、2011年には大手ファンドのクレイトンデュプリエ&ライスが資本参加していた。
北米市場の拡大につながる意味のある買収
パナソニック アプライアンス社の本間哲朗社長は、「パナソニックは、食品流通分野において、日本、中国、台湾、マレーシアでナンバーワンシェアを持つ。一方でハスマンは、北米、中南米で展開し、とくに北米では、強い事業基盤を持ち、全米1位の保守/サービス網を持つ。両社には補完関係があり、これらの強みを組み合わせることで、グローバルナンバーワンのショーケースメーカーとなる。一方で、企業文化に相似性がある点でも協業しやすい」などとし、「ハスマンの経営チームと初めて話したのは今年9月。3カ月強で今回の判断に至っている」とする。
そして、本間社長は、パソナニックの食品流通事業戦略との整合性、シナジー創出の可能性、事業の地理的展開の整合性、企業文化の相似性という4点で、今回のハスマンの買収には意味があると位置づける。
「ハスマンのビジネスモデルは、サービス産業に向き合った仕組みであり、パナソニックが海外で構築したいと考えているBtoBの姿に近似している。食品流通は成長分野でもあり、その市場に対して、ハスマンのショーケースだけでなく、パナソニックが持つ様々な製品を提供することができると考えている。照明や調理器具といった商材と組み合わせたり、ネットワークおよび通信技術といった技術によって、遠隔監視や制御を強化。IoT化を加速させることもできる。ハスマンの資産を生かしながら、そこにパナソニックの商材を加えることで、北米市場で成長したい」などとした。
今後、ハスマンでは、食品スーパー主体から、外食や飲料分野の顧客へとターゲットを拡大するほか、ショーケースだけの事業展開から、パナソニック製品を加えた展開へと取り扱い製品を拡大させる。さらに、オムニチャネルを活用した新ビジネスの開拓にも取り組むという。
2018年の売上10兆円に向けた欧米市場への投資
会見にあわせて、ビデオメールを寄せたハスマンのギプソンCEOは、「この業界においてベストの人材を持っているのがハスマン。当社には、成功への7つの行動があり、これがビジョンを実行する指針となっている。これは、パナソニックが掲げる7精神と並ぶものであり、両社とも人材の価値を信じている。業務用冷蔵と食品流通の技術や経験を互いに活用し、事業を発展させることができるだろう」などとした。
パナソニックでは、2018年度までに戦略投資として1兆円を投入する計画を打ち出しており、これによって、非連続での成長戦略に取り組む姿勢を明らかにしている。
今回のハスマンの買収では、戦略投資1兆円のうちの2割弱となる予算を投下するものとなる。
パナソニックの津賀一宏社長は、「2018年度までに、売上高10兆円を目指すなかで、5つの事業領域と、3つの地域を掛け合わせた15個のエリアのなかで、今回の買収は、BtoBソリューションと欧米市場とを組み合わせた重点分野への投資になる」とし、「BtoBソリューション事業では、2018年度に2兆5,000億円を目指すが、そのなかで、食品流通事業は3,000億円の事業規模を目指す。BtoBソリューション事業の基本は、コア商材を軸にして、パートナーとともに、より良い社会を創造することにある。食品流通事業を、航空事業(アビオニクス事業)に続く、BtoBソリューションの2つめの柱にしたい」と語る。
パナソニックの食品流通事業は、物流、コンビニエンストストア、スーパーマーケット、外食チェーン、飲料メーカーの5つの業界を対象としている。このほか、日本、中国、アジア、北米の4つの地域が市場ターゲット。さらに、パナソニックのアプライアンス社、AVCネットワーク社、エコソリューションズ社、オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の4つのすべてのカンパニーが関与する事業でもある。
津賀社長は、「今回の買収は、不連続な成長の大きな試金石になる。売上高成長を実現させたい。また、同時に、グローバル経営を加速させるトリガーにしたいと考えている。海外での成長には現地主導の経営が必要である。その一歩となるもの」と位置づける。
現在、パナソニックには、37事業部があるが、海外に事業部門の主体があるのはアビオニクス事業だけ。今回のハスマンは、それに続く2つめの海外主導の事業部門となる。
津賀社長は、「当社のグローバル経営に示唆や支援を与えてくれると思っている。これを通じて、日本人もグローバルな体験や、グローバル人材の確保などを期待できる」とした。
だが、その一方で、「今回のM&Aは、売り上げを追うためのM&Aではない。事業軸と地域軸をクリアにしながら、これからどこにフォーカスするのかということを明確にしていく手段のひとつとして、売上高10兆円という目標がある。そのなかで、パナソニックが取り組むBtoBソリューションとはどんな事業なのか、そのなかでどう成長させるのかといったことを深く検討した結果出てきたものが、今回のM&Aである。開発、製造、販売を一体となって顧客を理解するビジネスであるとともに、その中核に強いハードウェア技術を持っている。これを実現することができる。金額規模を越えた波及効果を目指したい。金額を越えた価値がある」と述べた。
なお、津賀社長は、この日発表された東芝の事業再編について、「東芝から直接話をもらっていることはない。我々も過去に、プラズマテレビの撤退など様々な苦しみがあった。家電は成長戦略を描くフェーズにあり、パソコンは非常に絞り込んだビジネスを考えている。東芝の事業とは方向性がだいぶ違う。東芝の事業に対する関心があるのかといわれれば、ないとお答えする」などと語った。