ダイキン、戦略経営計画「FUSION 15」を策定

~空調グローバルナンバーワンの維持を目指す
ダイキン工業 取締役兼専務執行役員 十河政則氏

 ダイキン工業株式会社は、2015年度までを最終年度とする戦略経営計画「FUSION 15(フュージョン・フィフティーン)」を策定。6月16日、都内で同社取締役兼専務執行役員の十河政則氏がその内容を説明した。

 十河取締役兼専務執行役員は、6月29日付けで、社長に就任する予定。「今回のFUSION 15が今後の成長のコアになる。そこで私から説明を申し上げることにした」と語った。

 最終年度となる2015年度には全社売上高2兆円超、営業利益では10%超、海外売上高比率70%超を目指す。また、前半3カ年となる2013年度までの中期目標を売上高1兆6,000億円、営業利益は1,300億円、海外売上高比率65%とした。

 十河取締役兼専務執行役員は「前半3年の定量目標は、明確なゴールとして確実に達成することにこだわる。3年後には過去最高益の更新を目指したい。一方で、5年後の定量目標は、現時点では1つのイメージとして捉えてもらい、3年後の成果をベースに改めて考えていきたい」などとした。

 先頃発表した2010年度の連結業績は、売上高が1兆1,603億円、営業利益は755億円、海外事業比率は61%だった。

2010年度までの経営戦略計画「FUSION 10」には一応の成果

 十河取締役兼専務執行役員は、2010年度までの経営戦略計画「FUSION 10」についても総括。2010年度目標の売上高1兆9,000億円、営業利益1,900億円の計画には及ばなかったものの、グループ連携売上高1兆円を突破したこと、2007年度には2008年度の目標を1年前倒しで達成し、過去最高益を達成したこと、空調グローバルナンバーワンを実現したことなどをあげた。

 2008年9月のリーマンショックに端を発した世界的な景気後退に関しても、短期利益創出49テーマなどの実行によって、事業体質の改革に取り組み、多くの企業が赤字転落する最悪の経済環境下でも、一定の利益水準を確保し、2010年度はV字回復したという。

「FUSION 10」の総括では、一定の利益水準を確保し、2010年度はV字回復したことで、一応の成果を挙げたとした2007年度には過去最高益を達成した積極的なグローバル展開により空調グローバルナンバーワンを実現した

 また、グローバル展開を加速し、2005年度には46%だった海外売上高比率を、2010年度には61%に拡大。空調事業に関しては64%にまで引き上げた。さらに、OYLインダストリーズの買収、マッケイの獲得、インバータエアコン普及拡大に向けた珠海格力電器との提携などの取り組み、欧州市場におけるヒートポンプ暖房給湯事業への参入、中国市場でのインバータルームエアコンの販売拡大などに力を注いだことをあげた。

 「海外事業では欧州中心だったものが、欧州での事業を拡大しながら、中国、アジア・オセアニア、米州にも拡大することができた。また、欧州では、アルテルマ(集合住宅用のヒートポンプ式給湯システム)の立ち上げによって、ヒートポンプ暖房市場においてくさびを打ち込むことができた。今後はこれを他の地域にも展開できる」(ダイキン工業 取締役兼常務執行役員 経営企画室長の蛭子毅氏)という。

 加えて、在庫削減によって、1,000億円を超えるフリーキャッシュフローを創出し、有利子負債の改善といった体質強化でも成果をあげたという。

FUSION 15で掲げる成長シナリオとは

 FUSION 15では、基本方針を「パラダイムシフト(発想の転換や固定観念にとらわれないこと)の時代を勝ち抜く成長シナリオ」とする一方、時代の変化を成長として取り込む「新成長戦略4テーマ」、新たな時代を勝ち抜くための「経営体質革新4テーマ」、人を基軸に置いた経営を基盤として「人材力の強化を図る3テーマ」の11テーマを「全社コア戦略11テーマ」として定め、これを実行することで「真のグローバルエクセレント企業」の実現を目指すという。

 真のグローバルエクセレント企業の実現に向けては、「事業構造をどう変えるか、空調をはじめとする領域において、いかに技術力を高めていくことができるか、人に機軸をおいた経営をグローバルに展開をできるかが鍵になる」とした。

 一方、東日本大震災を契機とした市場環境変化への取り組みとして、節電ニーズに応えるダイキン独自のエネルギーコントロールビジネスの具体化なども計画の中に盛り込んだ。

FUSION 15では「パラダイムシフトの時代を勝ち抜く成長シナリオ」を基本方針に掲げる「真のグローバルエクセレント企業の実現」のために、新成長、経営体質革新、人材力の強化の11テーマを全社コア戦略として掲げる。また、東日本大震災を契機とした市場環境変化への取り組みとして、節電ニーズなどを盛り込んだ

 また、「FUSION 15」の実行に際しては、事業の発展、拡大に必要な人材の獲得および育成、配置を急ぐとともに、現地人材による経営や、会社や国境を越えた人材交流などを進める姿勢も示した。

新興国に本格参入。インド・ブラジルを最重点国に

 新成長戦略4テーマでは、「時代の変化を成長として取り組むイノベーションの実行」をテーマに、「新興国・ボリュームゾーンへの本格参入」、「顧客ニーズに応えるソリューション事業の展開」、「環境イノベーション事業の拡大」、「提携・連携・M&Aによる成長の加速」をあげる。

 新興国・ボリュームゾーンへの本格参入では、インド、ブラジルを最重点国と位置づけ、2015年度には、新興国事業で売上高3,000億円を目指すほか、日本、米国、欧州、中国において、用途別に機器を拡販。同時にサービス事業を拡充し、商品、提案内容、ターゲットを絞り込んだソリューションビジネスにも取り組む。ソリューション事業のベースとなるアプライド機器(ニーズに適した機器)の拡販とともに、北米へのサービス拠点を2015年度には100拠点に拡大。日本では省エネソリューションを展開し、2015年度にはソリューション事業全体で売上高3,000億円を目指すという。

新成長戦略では新興国・ボリュームゾーンへの本格参入を挙げるインド・ブラジルを最重点国として位置づけ、それぞれ事業拡大を目指すマーケティングを強化し、それぞれの地域にあった製品の開発を目指すという
ストリーマ、フィルタなどの環境商材を組み合わせた次世代空気循環商品の展開を図る

 環境イノベーション事業では、買収した日本無機のフィルタ技術を活用した事業の創出や、調湿換気「デシカ」を核に、ストリーマ技術、フィルタなどの環境商材を組み合わせた次世代空気循環商品の展開を図るとした。

 M&Aでは、新興国などの重点市場における事業展開の加速、周辺技術の獲得によるシナジー創出を目的に展開する計画だ。

 経営体質革新4テーマでは、「新たな時代を勝ち抜く経営基盤の高度化」を目指し、「商品開発力・生産力・調達力・品質力の刷新」、「グローバル・マーケティング機能の強化」、「IT武装の徹底推進」、「収益力の抜本的強化」を掲げる。

 ダイキンの強みである最寄化生産と一極集中生産とのベストミックスによる柔軟なグローバル供給体制を確立するほか、マーケティングリサーチの強化により、市場への参入、新商品および新事業の創出などにおいて、競合他社より半歩先に行く戦略の構築と実行をスピーディに実現するという。また、グループ全体のITシステムの抜本的強化、刷新を図るほか、キャッシュフロー経営を重視し、損益分岐点を75%以下にするとともに、固定費比率、変動費比率の継続的な引き下げによって、ボリュームゾーンにおいても利益を出せる収益力確保に取り組む。

 人を基軸に置いた経営を基盤とした人材力の強化の3テーマとしては、「ダイキングループの競争優位の源泉である『人を基軸に置いた経営』の実践と高度化」、「従来の延長戦上にない質的人材の確保・育成策のスピードを上げての展開」、「経営の現地化のスピードアップと本社・現地双方向のコミュニケーションの促進」をあげる。

 経営理念の徹底とともに、空調のグローバル・リーディングカンパニーとしてのブランド力を活かした採用力の強化、マーケティング、財務戦略、商品開発といった戦略機能の現地化を加速するとした。

ダイキン工業 取締役兼常務執行役員 経営企画室長の蛭子毅氏

 「規模と収益性、成長性と差別性、独自技術の高度化と新市場にあったローコスト技術、品質を追求する企業、変化や危機をバネに新たな道を切り拓き、進化し続ける企業を目指す」(ダイキン工業 取締役兼常務執行役員 経営企画室長の蛭子毅氏)という。

 2015年度までに1兆円規模の増収を狙うことになるが、新興国で5,000億円増、ソリューションで1,000億円増、環境で3,500億円増とする。さらにM&Aによる成長加速を視野に入れている。

 「新興国ビジネスと、ソリューション・環境の2つが成長のポイントになる。省エネは快適性、機能はそのままに電気を削減するものであり、節電は賢く運用するものであると捉えている。運転を制御する数多くの技術をダイキンは持っており、社会貢献と事業拡大を両立できる」(十河取締役兼専務執行役員)と語った。

新興国の開拓のために「日本からの一極開発」を転換

 空調事業については、2015年度に、全世界の空調・冷凍(HVAC&R)市場において、売上高で1兆9,000億円、シェア10%の獲得を目指す。

 新規需要が旺盛な欧州、中国、アセアン、オセアニア市場に対しては、機器の品揃え拡充と、販売網拡大により、さらなる成長を図る一方で、更新主体の市場である米国、日本市場向けには、省エネ商品、新規商品の投入と提案営業力の強化によって、シェアアップを目指す。

 とくに、日本ではパッケージエアコン、ルームエアコンのシェア向上、空気、換気などの新分野事業の開拓に乗り出すという。また、新興国における空調市場は2015年度にかけて年平均80%増で推移。グローバル空調市場の40%増に比べても高い成長が見込まれることから、インド、ブラジルを最重点事業とし、2012年にはルームエアコンのボリュームゾーン製品の現地生産を開始し、2010年度には12万台の出荷実績を、2013年度には37万台に拡大する。

 「今後の世界経済は、先進国主導から、新興国主導へとパラダイムシフトが起こる。そのなかで、新興国という枠で捉えるのではなく、1国ずつ市場を開拓することが必要。とくに、中間層ボリュームゾーンの開拓が急務であると考えている。

 だがその一方で、新興国では、我々のこれまでの成功体験が通用しないのではないかとも考えている。製品開発を根本から変える必要がある。必要最小限の機能を、いかにローコストで提供することが鍵だ。また、市場のニーズを現地の人間が探り、それを製品としていかに早く投入できるかが重要だろう。日本発から引き算型の製品開発ではなく、ゼロベースで考え、なにが必要かを足し算式で考える必要がある。モジュール化する中で、いかに差別化できるかも重要であろう。また、新興国向けに機能を削った製品は先進国でも受け入れられるものだろう。日本からの一極開発のやり方を変えていくことになる。6地域10拠点での開発体制に転換する」(十河取締役兼専務執行役員)と語った。

 中国では開発体制を3倍の300人以上に、欧州では倍増の200人に開発体制を強化。マレーシア、北米での拠点設置に続き、アセアン・オセアニア、インド、オーストラリア、チェコ、ドイツにも順次開発拠点を設置していくことになる。

 なお、化学事業では用途開発を主導し、フッ素需要拡大を実現する「グローバルNo.1 エクセレントカンパニー」を目指すとし「ガス、電池、塗料、液晶ディスプレイにおいてフッ素機能の用途開発が推進されている。環境分野の切り口から事業を拡大していく」という。

2011年度は節電ニーズに対応した新ビジネスを展開

2013年度の定量目標に向けた今後の見通し。2011年度の連結業績見通しは前年比12.9%増の1兆3,100億円、営業利益は12.7%増の850億円、経常利益は9.6%増の820億円、当期純利益は107.1%増の410億円とした

 なお、同社では、公表を見送っていた2011年度の連結業績見通しを発表した。

 売上高は前年比12.9%増の1兆3,100億円、営業利益は12.7%増の850億円、経常利益は9.6%増の820億円、当期純利益は107.1%増の410億円とした。

 震災の影響に加えて、原材料市況の高騰、新興国ボリュームゾーンへの参入加速のための先行投資などのコストアップ要因があるものの、市況高騰を吸収する売価政策、新興国での収益力向上などの体質強化策の徹底や、震災発生に伴う部品調達影響の一層の極小化を図るとともに、復興需要の取り込みや、震災後に顕在化した「節電」ニーズに対応した新たなビジネスを展開することで、増収増益を目指すという。

 「日本では、夏場の電力不足の影響により、回復には力強さを欠いたものになるだろう。世界経済も厳しい。こうした中では、経営環境の変化をいかにきめ細かくみて、いかに速く手を打てるかに尽きるだろう。そのために、66の重点課題を掲げて、その実行に取り組んでいく。節電への対応、好調な製品集中した拡販、設備投資の効率化、コストダウンへの取り組みなどを盛り込んでいるおり、新興国での事業拡大をもう一段高くするとともに、復興需要や節電ニーズももう一段と高め、今期計画をより確実に達成したい。社内的には、1,000億円の営業利益目標を目指したい。これが次の成長につながるはずと考えている」(十河取締役兼専務執行役員)と語った。

 2011年度は、約100億円の震災影響をカバーするための新たな施策を展開。全国規模での節電ニーズ、節電暖房などの取り込み、下期増産によるグローバル拡販を狙う。また、2013年度に向けては、環境意識の高まりをチャンスとし、新冷媒、化学環境商品、省エネインバータ空調機の新興国での市場開拓を図るとした。






(大河原 克行)

2011年6月16日 17:00