長期レビュー

三洋「匠純銅 おどり炊き ECJ-XP1000A」

~炊飯器の革命児「おどり炊き」の実力
by 藤山 哲人
 
「長期レビュー」は1つの製品についてじっくりと使用し、1カ月にわたってお届けする記事です。(編集部)


 この炊飯器は凄い!

 これが第一印象だ。以前から三洋の「おどり炊き」はおいしいという噂を耳にしていたが、ここまでおいしく炊けるものなのか! とある種の感動を覚えざるえを得ない。それが三洋電機の炊飯器「元祖圧力IH おどり炊き ECJ-XP1000A」だ。

 元祖圧力IH おどり炊き ECJ-XP1000Aは、同社のハイエンド機で価格もそれなりに高いのだが、明日から十年近くおいしいご飯を食べられるのであれば、決して高い買い物ではないと断言できる。

三洋「元祖圧力IH おどり炊き ECJ-XP1000A」の本体付属品として蒸し器に計量カップ、しゃもじにしゃもじ立てが同梱されている

 これから3週間に渡り、筆者が一目ぼれしたこの炊飯器の魅力をとくと布教していくことにしよう。「一目瞭然」という言葉があるように、炊飯器の良し悪しは「一食瞭然」であり、「百聞は一見にしかず」でもあるが、精一杯、このおいしさをお伝えしていきたい。

メーカー三洋電機
製品名匠純銅 おどり炊き ECJ-XP1000A
希望小売価格131,250円
購入場所Amazon.co.jp
購入価格63,042円


炊飯中にお米を引っかき回すという新しい発想

 一般的な炊飯器でも、沸騰する水によってお米がかき回され、お米一粒一粒に熱が入りおいしいご飯が炊き上がる。しかし三洋のおどり炊きは、かき回すというレベルを超え「引っかき回す」という印象だ。

三洋は、圧力の変化も利用してお米をかき回す。三洋のカタログから。

 カレー作りを見ていれば一目瞭然だが、水を沸騰させると鍋に対流が発生し、その流れに乗ってジャガイモやにんじんが鍋の中で踊るのが分かるだろう。とはいえ自然対流式の炊飯器では、熱源に近い部分では火が多く入り、遠い部分では火が入りにくい。結果として微妙な炊きムラができるため、炊飯を終えたらスグにおしゃもじでご飯をかき混ぜる必要がある。いわば炊飯後に手でかき回すことで炊きムラをごまかしているわけだ。

 「高かったうちの炊飯器はそんなことはない!」という場合は、炊き上がりのご飯の様子をよく見て欲しい。お釜の中心部にあるご飯が少し凹んでいるのが炊きムラのサインだ。釜に接する外周はIHの熱が入りやすいのでふっくら炊き上がり、中央上部は熱が入りにくいので加熱不足ぎみとなり、こんなサインを出すのである。

 もっとわかりやすくいうと、ラーメン屋で食べる麺は、絡まることなく1本1本がほぐれやすい。しかし家で作るラーメンは、麺1本を箸に取ると芋ズル式に他の麺が絡まってくる。これも対流が原因だ。麺をゆでている間に、麺同士が女の子の髪の三つ編みのように絡まってしまうのだ。ラーメン屋のように絡まないようにするには、ザルの中に麺を入れ対流させないようにすればOK。ゆでている間に2、3回ほぐしてやるだけで団子になる心配もない。

 おどり炊きは、これを発展させ圧力の変化でお米を引っ掻き回す。圧力をかけて炊飯すると、水は沸点が100℃以上まで上がりお米が対流に乗り出す。ここで一気に圧力を抜くと、沸点は100℃に戻り、100℃以上に加熱された熱湯は猛烈に泡を上げ沸騰する。これがおどり炊きのかき回し方だ。

 ラッシュの満員電車がターミナル駅に到着しドアを開けると、一気に人がなだれ出てくるのと同じ要領。中のお米(=通勤客)はかき回されるどころか、もみくちゃにされて方々に散っていく。

上ぶたに内蔵されている圧力開放バルブ。金属製の玉が穴をふさいでいるこのようにピンで押すことで、強制的に圧力を開放しおどり炊きを実現実際には凸状の電磁石(ソレノイド)でボールを押すようになっている

 これこそ三洋が持っている「炊飯器および炊飯方法」特許3851293、通称「おどり炊き」だ。炊飯量の多少に関わらずご飯をムラなく炊き上げ、結果としてお釜の中央部分が凹むことなく、炊き上がりのご飯が平らに仕上がる。かなり広い範囲にわたって特許登録されているため、他社から同様の製品を出すのは難しそうな感じだ。技術に興味のある人は、ぜひ特許庁のデータベースを読んでみるといいだろう。「なるほど!」と関心させられるアイディアが満載だ。

 「特許・実用新案文献番号索引照会」のWebページから、種別を「登録」、文献番号を「3851293」として「照会」すれば、誰でもタダで閲覧可能。

特許庁のおどり炊きに関するデータベース



高級感を演出する純銅釜は伊達じゃない!

 真っ先に目を引くのがキラリと輝く純銅釜。一般的な炊飯器で使われているアルミやステンレスの釜に比べて、熱を非常に伝えやすいのが特徴だ。プロの料理人が高価な銅鍋を好んで使うのも、熱伝導率のよさからなのだ。

銅は船舶でも用いられる金属。柔らかいので取り扱いには注意したい炊飯器内部にも銅が利用されているようだ下部にIHがあり、上部の凹みは熱を反射させる役割があるという。

 理科年表によれば100℃に熱せられた金属の熱伝導率は、次のようになっている(単位はk/W・m-1・K-1)。


金属熱伝導率
422
395
313
アルミ240
72
ステンレス16.5

 一般的な炊飯器は、熱発生層にステンレスを用いその内側に熱伝導率の高いアルミ層を使っている。しかし、この炊飯器は、熱伝導率の高い銅を使ってるので、アルミより釜を均一に、アルミより素早く加熱できるというわけだ。

内釜の厚みは2.5mm。ただヒーターにあたる部分は1mmほど厚くなっている重さは1.6kg。ずっしりと重さを感じ、5合を炊こうとするとかなり重い内釜の底部分は、1mmほど熱く仕上げられている。おそらく発熱層が挟み込まれているのだろう

 写真を見ても分かるとおり、釜の厚みもかなりあり、重量も1.6kgとかなり重い。特徴的なのは、下部が大きくせり出していることだ。おそらく発熱層になっていると思われ、蓄熱性も高めるためにぶ厚く仕上げられているのだろう。

 先の表からも分かるように、もっとも熱伝導率の高い銀を使えば最高の内釜になる。しかし大抵のメーカーは、コストとの兼ね合いを考えて、金の次に伝導率が高く価格の安いアルミを採用している。なぜ三洋のように銅を使わないかは、アルミと銅の価格差によるものだ。

 銅はアルミに比べ高価な金属で相場も大きく変動するが、2009年11月25日現在の価格で両者を比較すると1kgあたり銅が637円、アルミが209円となっている。つまり単純計算でも、アルミの内釜に比べると銅釜は3倍の値が張るというわけ。この炊飯器が高価なのにもうなずけるだろう。技術やおいしさを主眼にした三洋の開発体制にも拍手を送りたい。


圧力弁を強制開放するので蒸気レスとは無関係

 蒸気レス炊飯器というストリームの中ある現在だが、このおどり炊きはまったく無関係(笑)。何しろ加圧中に圧力バルブを強制開放するので、そこらの炊飯器とは比べ物にならないほど、高温の蒸気が大量に出る。

 次の写真は、お米がもっともおいしく炊けるという「匠だき」コースで4合の白米を炊いた状態だ。

炊飯を開始。最初の30分は吸水工程なので、蒸気が出ることはない吸水工程を終え一気に熱を加えて圧力がかかった頃。炊き上がりのおよそ20分前ぐらいになると、モクモクと蒸気を出す圧力の開放は、炊き上がりの寸前まで繰り返される

 最初の30分は吸水工程なので静かなのだが、IHが一気に加熱をはじめると、水が沸騰しグツグツという音が聞こえる。十分な圧力がかかる炊き上がり20分前になると、ブシューと高温の水蒸気が立ちががる。その様子は、まるで蒸気機関だ。

あまりにも勢いよく蒸気がでるので、ほとんどがケースから逃げてしまうが、それでもこの大きさの水滴が付く炊飯が終わっても水滴が乾くことはない

 “かまどで炊いたご飯を目指すのに蒸気LESSとはナンセンス! 派手に蒸気をだしてナンボのモン!” という精神が素晴らしい! その様子はムービーでじっくり見ていただきたいが、何回も圧力を開放し、そのたびに天井まで立ち上る蒸気は、うるさいを通り越してエンターテインメント性を感じるほどだ。初めてご飯を炊いたとき、この光景をみた家族は目を丸くしたあとに、大爆笑と拍手喝采を送ったほどだった。

「匠モード」の炊飯開始から終了までを、動画で撮影した

 そのため、ご飯のおいしさより「蒸気レス」を重視するという人にはお勧めできない。キッチン棚に入れるのも絶対避けたいところ。なにしろ2mmのアクリル板で作ったケース上部は、1回の炊飯で少し歪んでしまったほどなのだ。

 炊飯中は、小さい子供の手が届かない場所に置いておくことをお勧めする。面白がって排気口に手を出してしまうのは間違いないので危ないのだ。


匠モードのご飯はシャッキリふっくら甘みのある極上品

 匠モードの炊飯時間は、圧力方式にしては1時間と長めだが、その半分は吸水工程だ。4合を炊いた消費電力は0.24kWh。電気代に換算すると5.28円となる。これまで紹介した炊飯器のおいしさ重視で炊くモードと比べると、やや電気を食うと感じるが、その差は0.0数kW程度で金額にしても1円以下だ。激しく蒸気を吹き出しながら炊飯する豪快さとは裏腹に、経済産業省の定める省エネ基準達成率を100%クリアしたECO製品である。

 炊き上がりの具合は、写真の通り。

 砂浜にあるカニの巣に似ていることから、通称「カニ穴」と呼ばれる穴がところどころにできているのがわかるだろうか。おいしさの1つの目安となっており、かまど炊きのご飯の特徴であるが、見事に電気炊飯器でこれを実現している。

おいしいご飯の目安となっているカニ穴ができているしっかりとしたお米の形で、ふっくらしているご飯を味わうために、この日は納豆とお味噌汁という質素な夕食(笑)

 食感は、ご飯の粒自体はモチモチした仕上がりなのだが、粒同士がほぐれやすくシャッキリとした感じも併せ持っている。家族がモチモチ好きとシャキリ好きの両派に分かれる場合でも、笑顔の食卓を約束してくれるだろう。甘みも多く、漬物や納豆、味噌汁などとの相性が抜群だ。

 

独自の四季炊きモードは新米の水加減も調整いらず!

 匠モード以外に独立したボタンとしてあるのが、「四季炊き」モード。その名の通り、季節を合わせるとご飯を炊き分けしてくれるという賢いモードだ。

 新米の季節は「秋」で炊飯すると、水の量を減らさなくてもベタベタのご飯にならないように炊き上げてくれる。「夏」を指定すると気温や約1年間に米粒から蒸発した水分量を考慮して、パサパサにならないご飯を炊くという。

四季炊きボタンを押すと春夏秋冬を切り替えられる。秋を選択中収穫から1年近く経つお米は夏モードで炊くといい。夏が点滅しているので写真では薄く見える近所のスーパーで買ってきた5kgで2,100円の新米あきたこまち

 今はちょうどスーパーに新米が出回っている時期なので、さっそくあきたこまちの新米を使って実験してみた。炊いたお米は3合で、水はキッチリ3合のラインまで張って炊飯開始。

この日もご飯を味わうために、たまごと味噌汁とメンチカツ。ご飯がおいしいと食生活もヘルシーになる。

 四季炊きは吸水時間が短いようで、炊き上がるまでの時間は30分前後だ。蒸気の出かたや消費電力は、匠モードとほぼ変わらず。そして炊き上がったのが、次の写真。

 水を2合のラインまでキッチリ張ったのにもかかわらず、まったくべたつかないおいしいご飯が炊き上がった。

 また四季炊きモードには、甘み、粘り、硬さをそれぞれ独立して3段階に調整できる機能がある。つまり3×3×3で27通りの炊き分けが可能というわけ。これに加え四季が設定できるので、事実上108通りの炊き分けが可能だが、さすがに長期レビューとはいえ、すべてのパターンを実験するのは不可能だ。というか勘弁!

季節を設定してカーソルキーでパラメータを指定。ここまで好みを微調整できるのはすごい!

 そこであきたこまちの新米を秋モードで炊き、甘み、粘り、硬さをそれぞれ3段階に切り替えて炊いてみた。ただし切り替えは、甘み、粘り、硬さのいずれか1つとして、他の設定は普通とした。

【甘み(普通) 粘り(普通) 硬さ(柔らかめ)】水分を多く含んで柔らかな食感【甘み(普通) 粘り(普通) 硬さ(普通)】標準的なおいしさ。匠モードに比べると少し柔らかめ【甘み(普通) 粘り(普通) 硬さ(固め)】お寿司や丼ものに合いそうなシャッキリ系
【甘み(普通) 粘り(少なめ) 硬さ(普通)】硬めより少し水分を含んでいて、こちらも丼ものやカレーなどにに合いそう【甘み(普通) 粘り(普通) 硬さ(普通)】これは標準のサンプル。【甘み(普通) 粘り(多め) 硬さ(普通)】ご飯粒同士がくっくっ付いてほぐれにくい。モチモチ館がさらに増した食感。
【甘み(少なめ) 粘り(普通) 硬さ(普通)】あっさりとした味わいのご飯。洋食系のメニューに合いそうな感じだ【甘み(普通) 粘り(普通) 硬さ(普通)】これは標準のサンプル【甘み(多め) 粘り(普通) 硬さ(普通)】フルーツとまでは行かないがかなり甘く、お漬物などにベストマッチしそうな味

 こうして並べてみると、ご飯粒の表情が微妙に違うことが分かるだろう。

 ちなみにここまでの炊飯実験は、3日間で行ない、予備実験もあわせると合計30合のご飯を炊いた計算だ(笑)。数日前に買ってきた5kgの新米ももう底をつくという快挙!? 筆者はほとんどパンを食べないが、さすがに白米に飽きてしまったほどだ。ということで、原稿を書き終えたら思いっきりサンドイッチやスパゲティーを食べまくって、次週のレポートに備えることにしよう! 炊飯器ライターってキツイ仕事だ……。




2009年12月7日 00:00