長期レビュー

ネスプレッソ「ラティシマ」 最終回

~機能や趣向で選ぶ、それぞれのネスプレッソ
by 本田 雅一

 
「長期レビュー」は1つの製品についてじっくりと使用し、1カ月にわたってお届けする記事です。(編集部)



先週はちょっとみっともない出来だったので作り直した抹茶バニララテ・マキアート
 前回までに、ネスプレッソという商品の性格やシステム、そして淹れ方やフォームドミルクを用いたコーヒードリンクの作り方、ミルクの扱いなど製品についての基本的な情報、カプセルやシロップを用いたドリンクの作り方などをお伝えしてきた。詳しい内容はこちらで確認していただきたい。第1回第2回第3回

 前回のコラムで「抹茶バニララテ・マキアート」の製作に失敗したことが、とても気になっていたので、後日、キレイに作り直してみた。ということで、本来の完成品はこのように白い泡の層とブラウンから緑へと変わるグラデーションがガラス越しに見える。

 エスプレッソを用いたドリンクの作成はとても楽しい。先日もスターバックスのシロップが切れたため、フランスのMONIN(モナン)製シロップを何本か買ってきたが、甘さが上品で香りも複雑。スターバックスのものより割高だが、その分、味もいい。

 またシロップは自分でも作る事ができる。中でもティーバッグと水と砂糖だけで作れる紅茶シロップは特に簡単。ネットで数多くのレシピが公開されているので、探してみるといいだろう。紅茶シロップのレシピにカルダモン4、シナモン1、ジンジャー1の割合でスパイスパウダーを混ぜたものを好みの量加えると、チャイシロップになる。そのまま牛乳で割ればアイスチャイ。フォームドミルクで割れば、スターバックス風のチャイティの出来上がりとなる。

スターバックスのフレーバーシロップが切れたので今週買ってきたモナンのシロップ。上品な味わいと豊かな香りで気に入った

 このように楽しみはどんどん広がっていくが、飲み過ぎにはご注意。以前は甘い飲み物をほとんど飲まなかったのだが、フレーバーシロップに凝り始め、さらにこの連載を始めた事でカプチーノやラテばかりを毎日何杯も作り、さらにもったいないので全部飲んでいたところ……っと、この先は言わずもがな。

 単純に味を楽しむだけでなく、趣味としてエスプレッソにコダワリはじめると、際限なく飲み始めてしまうものだが、そこはゆっくりと時間をかけて楽しむようにしたい。


ラティシマのライバル(?)たち

 連載初回でも述べたように、本連載はラティシマのレビューであるとともに、ネスプレッソというシステム自身のレビューであると考えている。またシステムとしてのネスプレッソの完成度は高く、よほど自分で味を細かく調整したいという方以外には、とても良い選択肢だ。

 1カプセルの価格が70円以上になるのは高いというメールも頂いた。これも繰り返しになるが、インスタントコーヒーやドリップコーヒーにくらべれば、確かに単価はやや高いかもしれない。しかし、ネスプレッソは長期保存も可能なカプセルで、いつでもフレッシュなエスプレッソを、多様な味わいの中から自由に選んで楽しみ、しかも片付けが必要ないという部分に良さがある。

 この部分に少しだけコストを支払う意識があれば、決して高いとは思わない。逆にエスプレッソを簡単に淹れられるという点に魅力を感じないならば、ネスプレッソというシステムとあなたはマッチしないのだろう。この判断はご自身にまかせたい。

 さて、レビューの対象であるラティシマに話を戻そう。ラティシマを選ぶか否かは、ネスプレッソを選ぶか否かの次に判断することだ。すなわち自動でカプチーノやラテを淹れられるが高価なラティシマを購入するのか、それとももっとシンプルな製品にするのか、という選択肢の中で選ぶことになる。

 よって、以下は“ネスプレッソは選択すると決めた”後の、ネスプレッソコーヒーメーカー同士で比較する場合の話を中心にしたい。

 ラティシマのライバルは、他のコーヒーメーカーではない。ラティシマの本当のライバルは、電動でフォームドミルクを作る道具たちだ。もし簡単かつ安価にフォームドミルクを作る事ができるなら、ラティシマではなく、たとえば幅13cmのスリムなCitizシリーズを選んだ上で、別途、フォームドミルクを作る道具を使った方が良いかもしれない。

エアロチーノ

 ネスレが販売するミルク加熱と泡立てを同時に行なってくれるポットのことだ。およそ13,000円ほどの実売で入手できる。電気ポットと同様に、ポットをセットする座布団に乗せることで電源を採る構造。

 筆者は所有していないため、エアロチーノの実演を見るためにネスプレッソブティックに赴いてみた。泡立て器マグネットでポットの底に取り付けられており、牛乳を入れてスイッチをオンにすると、温めながら泡立て器が回転し、65℃ぐらいまでミルクを温めてくれる。その間、30秒もかからない。温めずに冷たいままのミルクを泡立てることもできる。

 ミルクは温度によって泡立ち方が異なり、冷蔵庫から取り出した直後の5℃から10℃ぐらいまでは泡立ちが良いが、10℃を超えると泡立ちが悪くなり、50℃を超えてくると再度泡が立ち始める。

 エアロチーノが良いのは、ミルクを温めるヒーターと泡立て器の組み合わせがセットで調整されているため、カプチーノを作るのにちょうどいい65℃ぐらいのフォームドミルクが出来上がる頃に、これまたちょうどいい泡立ち具合のフォームドミルクを得られることだ。

 大変に便利で筆者も是非使ってみたいのと思ったが、未だ購入していないのには理由がある。スチームを使わずに泡立てたフォームドミルクの味と風味は、どこかスチームで作ったものとは違うように思う。

 またポットの底面にある電極は濡らさないよう洗う必要があり、その点も若干の面倒さを感じたが、実際に使っている友人によると、さほど面倒ではないらしい。ステンレス製ポットのため使用後にスグ洗えば、全く問題ないようだ。

メリタ・ラテカップ

メリタのラテカップ。実はスターバックスのミルクフォーマーを買いに行ったのだが、品切れでこちらを入手した

 コーヒー用品メーカーのメリタが作るミルクフォームと作る道具。価格は約1,900円ほどと安かったため、記事作成のために買ってみた。同様の製品がカリタというメーカーからも出ていた(カリタ製のものはカップがなく、電動小型泡立て器のみ)が、現在は生産完了となっており、流通在庫もなくなっているようなので、こちらを選んだ。

 泡立てはとても簡単。そのままラテ・マキアート用カップにできる容器が付属し、ミルクが飛び散らないようにフタも付いているが、少量ならば慣れるとフタなしでも飛び散らすことなく、キレイに泡立てることができる。筆者は面倒な時、キッチンシンクの上でカップのミルクを直接泡立てたりと横着なことをしているが、慣れてくれば全く問題なく使える。

 温かいフォームドミルクを作りたい場合は、一度レンジで温めてから行なう。Webページには30~50秒ほど攪拌するよう書かれているが、実際にはやり方次第でもっとあっと言う間に出来上がる。

 こちらもエアロチーノと同様のきめ細かなフォームドミルクを簡単に作れるが、味わいはやはり異なる。エアロチーノの場合、味わいの違いといっても僅かなものだったが、ラテカップで作るフォームドミルクは、(理由はわからないが)明らかに甘みが少なく、滑らかさも落ちるような気がした。

泡立て器本体はこんな形なので、もちろん単体でも使うことができる泡立て中。少なめのミルクならフタなしでも泡立て派できるこちらが出来上がり。慣れれば泡立て器の動かし方で細かい泡も、粗めの泡も作る事ができる

 もっとも、手軽さと価格の安さはダントツで、冷たい牛乳の泡立ても出来るのも利点。ホイップクリームを作る際、最初の軽く泡が立ち始めるところまでをこの製品でやったあと、手動の泡立て器で泡立てるととても楽だった。

 コストパフォーマンスという面では素晴らしい製品だと思う。なお、同様の製品はスターバックスでも扱っている(ハンディミルクフォーマー、1,500円)。またスターバックスでは同社のコーヒープレスに似た手動式のミルクフォーマー(2,100円)もあるので、近くに店があればチェックしてみるといい。

パナレロ

 現在のネスプレッソの場合、C-290、D290にしかパナレロは付いておらず、またこれらコーヒーメーカーの在庫も限られているが、過去にパナレロ付きのネスプレッソコーヒーメーカーを買った人もいるだろう。

 パナレロに取り付けるオートカプチーノノズルは、長く使ったユーザーとして、正直、あまりお勧めしないが、シンプルなパナレロを使いこなうと思うのであれば、それがベストの選択肢だと思う。

 実は最もメンテナンスが楽で、もっともおいしく、もっともバリエーションに富んだフォームドミルク作成が行なえるのはパナレロだからだ。もしパナレロ付きネスプレッソコーヒーメーカーを持っているなら、そのまま使い続けて使いこなすことをお勧めする。

パナレロは最もシンプルだが、最も確実で素早くできる。その分、コツを習得する必要があるが、毎日作っていればスグにできるようになり、手早く作業を進められるC-290とラティシマ。パナレロを使いこなせるなら無理に買い換えの必要はないが、これから始めるという人なら、好みで選択すればいいだろう

 難しいと思われがちなパナレロだが、実はとても簡単。いくつかのコツを理解していれば、誰でも素早く作れる。

1. スチームスイッチをオンにしてから、ステンレスのミルクジャグに100cc程度の冷たいミルクを注いでおく

2. パナレロから出る水を排出するために、布巾などで受けながら軽くスチームを出しておく

3. ミルクジャグを少し傾けてパナレロの先をミルクの中に完全に入れてスチームをオン

4. ミルクジャグを上下に動かして「チーッ」と鋭い音がするところを探し泡を作る。ミルクは10℃を超てくると徐々に泡立ちにくくなるので、いったんジャグの傾きを緩めながらパナレロ先端を深めに入れる

5. 50℃を超えるまでにスチームで温めながら、よく攪拌。スチームで攪拌していると、最初に作った泡が巻き込まれて砕かれていくのがわかると思う。この工程でミルクの泡を滑らかにするのだ

6. 50℃を超えてくると、再び泡立ち始め、ミルク全体の量が増えてくる。この時早めに泡立てをやめれば、ソフトで細かい泡のフォームドミルクができる。さらに65度近くまで泡立てていると、固めの泡がたっぷりできてくるはずだ。温めすぎるとミルクの味と風味が極端に落ちるので、ミルクジャグの底面を手で触って温度を確認しながら作業しよう。

 これで出来上がり。ミルクをサッとカップに注いだら、布巾でパナレロについた牛乳を拭き取り、シュッシュッと軽くスチームを噴射させれば、メンテナンスは終了。ミルクジャグもスグにゆすげば、ほとんど手間はかからない。

 というわけで、実はラティシマの最大のライバルは、シンプルで伝統的なパナレロにあるのだと思う。ネスプレッソコーヒーメーカーからパナレロ装着モデルがなくなっていくのが本当に残念でならない。新モデルの追加があるといいのだが。

それぞれのネスプレッソ

本格的なドリンクがボタンひとつでできてメンテ楽々。焙煎の深さ、粉の目の細かさ、タンピングの強さ、抽出の圧力や抽出時間に細かく配慮する必要がない

 不景気故なのだろうか。読者や筆者からの周囲で、もっとも多かったのは、価格面での妥当性についてだった。冒頭で述べたようなカプセルの料金(これが主なランニングコストとなる)に対する悩みは当然だが、本体の価格についても同様に“う~ん”と悩みやすいなのかもしれない。

 しかし、ネスプレッソのシステムを考えれば、実は本体価格の違いというのは、ごく一時的な痛みでしかない。なぜならネスプレッソのビジネスモデルは企業の給湯室などに淹れる業務用コーヒーメーカーと同じ。コーヒーメーカー本体ではなく、一杯あたりのチャージ(ネスプレッソの場合はカプセル代)こそが、ビジネスモデルの根幹を成しているからだ。

 たとえば来客が多い筆者宅の場合、年間1,000カプセル程度を消費している。金額にすると7万円から75,000円だ。所有しているC-290は、すでに3~4年ぐらい使っていると思うが、まるでダメになる様子はないので、おそらく6~8年は使えるのではないだろうか。たとえば6年使ったとするとカプセル代は42万円から50万円ぐらいになる。本体価格が3万円か、それとも6万円(モデルにもよるが、ラティシマは安いお店で買えば6万円程度で入手できる)かで悩むよりも、価格を気にせず自分の使い方、ライフスタイルに合うモデルを選ぶ方が結果的な満足度は高くなると思う。

カプセル1つでおいしいエスプレッソができてしまうネスプレッソシステムは、本当に良くできていると思う

 少々、数字としての金額が大きくなりすぎたが、毎年1,000杯、6年間なら6,000杯。6万円のコーヒーメーカーの寿命がそこで尽きたと仮定しても(実際にはもう少し使えると思うし、修理も可能だろう)、1杯あたりの金額は10円にしかならない。3万円のコーヒーメーカーならば、これが5円になる計算。

 さて、この差を考えた上で、あなたはラティシマを選びますか? それともシンプルなモデルにしますか? ということなのだ。

 ネスプレッソに求めるものは、ひとそれぞれ違うと思う。主婦感覚からすれば、コンパクトなC100などのモデルを使い、カプチーノが飲みたいならば前述したように電子レンジで温めてミルクフォーマーで泡立てるのが、一番いいという話になると思う。

 もっとも、これを主婦感覚というのは女性に失礼な話で、フォームドミルクの味わいの違いにまで拘るならば、やっぱりスチームを使うラティシマがいい(あるいはパナレロ付きのモデルを探そう)となるだろう。

 もちろん、お気楽でおいしいカプチーノが欲しいならラティシマで決まりだ。ミルクの扱いは実に巧妙で、オートカプチーノノズルに纏わる各種の問題を見事に解決してくれる。

 それぞれに異なる時間の過ごし方、異なる嗜好の中にあって、コーヒーメーカーの価格は小さな問題だ。より自分の嗜好に合った選択をすれば、それが少々高くとも、逆に安価な製品であっても、得られる満足度は高いに違いない。




2009年5月8日 00:00