イベントレポート
太陽電池の変換効率よりも大事なこと、来年の“原発全停止”で変わることとは

~JPEA「第28回 太陽光発電システムシンポジウム」

 一般社団法人 太陽光発電協会(JPEA)は、太陽光発電のビジネスの可能性を探り、政策や技術開発動向の最新情報を紹介するイベント「第28回太陽光発電システムシンポジウム」を、11月16日と17日に実施された。

 JPEAは太陽光発電における業界団体。8月に成立した「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(以下、再生エネ法)案」を受け、イベントを実施した。

 初日となった16日には、同協会の代表理事を務める、シャープの片山幹雄代表取締役社長が登壇。太陽光発電のメンテナンス性の向上や、世界平和に繋がる可能性を持つ点をアピールした。さらに、エコポイント制度の提唱者である加藤敏春氏は、2012年の夏は、2011年以上に電力不足が予想され、ピークカットをした家庭に対するインセンティブが必要であることを主張した。

※編集部注 イベントでは、スライド画像も含めて写真撮影が禁止されました。当日配布された資料の画像の使用は許可されため、その一部を掲載しております。


変換効率を上げる技術開発よりも、メンテナンス技術の向上を――シャープ片山社長

JPEAの代表理事、シャープ代表取締役社長の片山幹雄氏(写真は8月のJPEA緊急会見時のもの)

 特別講演として登壇したシャープ・片山社長は、太陽光発電のメリットとして、工期が短く、設置してすぐに発電でき、日射量があれば長期的に利用できる点を指摘した。

 「水力発電所は場所を選定し、住民の立ち退きが終わった後での着工となるため、何十年も掛かる。原子力発電所も、どんなに早くても5年かかる。風力発電所は年数はそれほど掛からないが、太陽光と比べれば数ヶ月かかる。しかし太陽光発電は、工場で生産したモジュールを現場に設置するだけで、すぐに発電する。こんなエネルギーはほとんどない」

 メリットとしてはさらに、火力や原子力、風力といった別の発電方法と比べて、可動部分がないため、長期間使用できる点も挙げた。

 「ほかの発電は、すべてタービンやモーターなどメカが必要だが、磨耗するため、寿命がある。太陽電池では現在、保証期間は20年から25年となっているが、半導体の接合部の劣化をテクノロジーで解決していくことで、理屈でいえば千年も1万年も持つことになる。はんだによる接続や、太陽光を封じ込めるラミネートの技術、パワーコンディショナーなどのメンテナンス技術などの技術がどんどん進化すれば、太陽光発電のコストは年を追うごとにとんでもなく下がる。そのためには、変換効率を上げる技術開発ばかりではなく、メンテナンス技術の向上についても推進する必要がある。それが、将来の基幹エネルギーにするために重要となる」

 また、太陽光発電のコストについては「近いうちに間違いなくグリッドパリティ(太陽光発電など再生可能エネルギーの発電コストが、既存の商用電力と同じ、またはそれより安くなること)が実現できる」とした。

 「日本のような地域においても、技術の開発によって間違いなく実現できる。赤道近くや砂漠のような土地など、日照時間に恵まれた地域では、既にグリッドパリティを実現している土地はある。グリッドパリティを迎えることによって、太陽光発電の時代は本格化していく。住宅や街、都市ぐるみの設置が拡大していき、もっと巨大な太陽光発電所がいろんな地域にできていく。都市への送電も始まっていく。とんでもない勢いで太陽光発電の時代が来る」


「太陽光発電で戦争がなくなる。世界は日本がどういう選択をするか見ている」

 片山氏は続けて、シャープが生産する太陽電池の発電量と、石油のエネルギーを比較。同社が大阪・堺とイタリア・シチリア島に作った薄膜太陽電池工場では、年間で1GWの太陽電池を生産量するとのことだが、これらの工場が20年間可動し、生産した太陽電池が25年間発電すると仮定すると、500T(テラ)Whの発電量があるという。

 この500TWhを石油エネルギーに換算すると7億7万バレルで、日本が消費する石油消費量の約半年分に当たるという。また、年間生産量1GWの太陽電池工場が340棟できれば、サウジアラビアの石油埋蔵量である2,620億バレルに並ぶという。なお、1GWの太陽電池工場の建設コストには、1,000億円掛かったとのこと。

 「消費地に太陽電池工場を作り、太陽光発電システムを設置すれば、地産地消というビジネスモデルができる。例えば砂漠に作れば、工場を核として、淡水化プラントや植物工場、砂漠の緑化ができるなど、新しい社会が創りだせる。とんでもないビジネスチャンスがここにある」(片山氏)

 また、JPEAでは「太陽電池を世界に普及すること」もテーマとしているが、これにより世界のすべての国でエネルギーが創り出せるようになり、戦争がなくせることもアピールした。

 「人類はこれまで、資源の争奪戦争ばかりをしていた。しかし、太陽光発電が世界に普及すれば、すべての国々がエネルギーを生み出すことができる。石油がない、ガスがない、原子力発電所がない、ウランがないという国はエネルギーがなく、日本ももともとそういう国だった。しかし、太陽光だけは人がいるところには必ず振りそそぐ。つまり、戦争もなくなる」

 片山氏は最後に「世界は(東日本大震災が発生した)3月11日以降、日本が一体何をするかを見ている。だからこそ我々は産業にし、世界に太陽光発電を広げるという責任がある。これは代表理事として、JPEAのミッションとなる」と、同団体の意義を再確認した。


2012年夏は“全原発停止”で約1割の電力不足が発生――その対策となる大改革とは?

 続けて、元内閣審議官・東京大学大学院客員教授で、一般社団法人「スマートプロジェクト」の代表である加藤敏春氏が登壇。2009年から実施された「エコポイント」制度の提唱者でもある加藤氏は、政府が2012年3月に、エネルギー構造改革を実施する方針であることを説明した。

全国の原子力発電所が停止すると、来年夏の電力ピーク時に、約1割の電力不足が発生する恐れがある。そのため、政府ではさまざまな対策を検討しているという

 その理由としては、政府が2012年夏に、全国的にピーク時に電力不足が起こることを予測していることを挙げた。現在、日本の原子力発電所は11基稼働しているが、今後は漸次点検に入る。政府は“最悪の事態”として、来年の5月に原発が止まる場合の電力を試算しており、もしすべてがストップした場合は、ピーク時に全国的に約1割前後の電力不足が発生するという。さらに、これまで原子力でまかなっていた電力をLNG(天然ガス)の火力で賄うことで、電力コストが約2割上昇するという。

 加藤氏は、来年全ての原発が止まる可能性について、「あくまで個人的の見解だが、確率は90%以上(で止まる)。止まった後にいつ稼働するのかは、今後の対応次第になる」とした。なお加藤氏は、2007年、2008年に原子力発電所の安全基準を担当しており、2007年に新潟県中越沖地震が発生した際には、柏崎刈羽原子力発電所において、国際原子力機関(IAEA)の対応を行なっていたという。

 「国は再稼働の条件に、コンピューターシミュレーションによるストレステストを掲げているが、福島原発の事故を受けてやらなければいけないのは、安全基準の改訂と、新基準による原発の点検。本来は、炉心溶融に至るような過酷事故や津波を想定していない安全基準を直して、新しい安全基準で原発の安全性を確認すべき。そうしないかぎり、(原発がある)福井県知事や新潟県知事の同意は得られない。日本は安全協定上、国がいくら安全と言っても 自治体の首長がOKを出さない限り原発は運転できない。

 夏の節電を乗り越えたことで、みなさん(節電に対する)緊張感がたるんでいるような気もする。“どうせまた電力会社の抵抗で制度改革できない”と思うかもしれないが、そうではない。来年の3月には、かなり踏み込んで制度を改革しようとしている」

政府の対策としては、ビルや家庭にエネルギーマネジメントシステム「HEMS/BEMS」の導入を検討しているという

 エネルギーの需給の安定化に向けた具体的な改革としては、加藤氏はまず「HEMS/BEMS」を挙げた。HEMS/BEMSとは、いずれも消費電力量を“見える化”するエネルギーマネジメントシステムで、HEMSが家庭向け、BEMSはオフィスなど業務用途となる。総務省ではすでにHEMS/BEMS導入のための予算が確保されているという。

 加藤氏は、このHEMS/BEMSについて、エコポイントと組み合わせることで一般ユーザーの感応度を高めて、より節電しやすくるす環境を作ることが重要とした。

 「(HEMS/BEMSの導入により)家庭でどのくらい節電したかがわかり、ピークカット貢献度に応じてインセンティブ(奨励金)が付与できる。よりユーザーを節電に巻き込める。節電行動には、省エネの『ネガワット』、創エネの『ポジワット』があるが、ネガワットなら誰でも節電できる」

 なお、政府が来年3月に行なう制度改革では、電力小売りの解禁を含めた小売事業の自由化も含まれているという。

カナダ、ドイツ、中国から日本に参入。海外メーカーを選ぶメリットとは?

 午後の部では、日本市場に参入する海外メーカー5社の代表者が登壇し、自社の太陽電池をアピールした。内訳は、カナダ「カナディアン・ソーラー・ジャパン」、ドイツ「Qセルズジャパン」、中国の「ソプレイソーラー」「トリナソーラー・ジャパン」「アップソーラージャパン」。

 カナディアンソーラーは、14.9%という高い変換効率を備えた単結晶モジュール「CS5A-190M」が特徴。さらに、JIS規格の2倍以上となる耐荷重700kgの強度を備えている。また、海外メーカーではあるが、太陽電池モジュール以外のシステム構成はすべて日本メーカー製品を使っている。

 Qセルズは、2007年、2008年に太陽電池の生産量で世界1位を記録、6年連続でヨーロッパ1位を達成しており、“世界トップメーカー”を謳っている。基本的には多結晶のパネルを扱っており、朝や夕方など、弱い光でもしっかり発電するという。11月14日には単結晶の発売も開始。また、現在ユーロ安のため、価格面でもメリットがあるという。

カナディアンソーラーは、高い発電効率に加えて、耐荷重700kgという高い強度も特徴とするモジュール以外のシステムでは、すべて日本メーカー品を使っているという
ドイツのメーカー「Qセルズ」は、太陽電池の生産量で“世界トップ”を記録している朝や夕方の弱い光でもしっかりと発電するという

 ソプレイソーラーは、中国の台州に本社を構えるメーカー。単結晶・多結晶のほか、ガラスを用いた透明の「ライトスルーモジュール」というものも生産している。すでに愛知県に物流倉庫を開設しており、12月に行なわれる太陽光発電の総合イベント「PV JAPAN」では、“まったく新しい住宅用太陽光発電システム”を発表するという。

 トリナ・ソーラーは、中国の常州を拠点とするメーカー。厳しい品質テストを特徴としており、例えば温度テストの場合、マイナス40℃からプラス85℃まで、6時間も時間を掛けてチェックをしているという。パネルの種類は単結晶と多結晶。これまではドイツなどヨーロッパのメガソーラーを中心に販売してきたが、2012年より日本国内での出荷を開始するという。

 アップソーラーも中国のメーカーだが、自社の工場がなく、すべてOEM生産としている点が特徴。工場の維持費用などが不要なため、「競争力ある価格」を実現するという。品質については自社の研究ラボを構えており、ドイツのテスト誌で最高評価を受けたという。生産工場はこれまでは中国がメインだったが、最近では欧州や北米でも生産しているという。

ソプレイソーラーは、ガラスの透明モジュールも生産。12月に行なわれるイベント「PV JAPAN」では、“まったく新しい住宅用太陽光発電システム”を発表するという
トリナ・ソーラーは、厳しい品質テストを特徴とするアップソーラーのモジュールはすべてOEM生産で、“競争力のある価格”を特徴とする





(正藤 慶一)

2011年11月28日 00:00