やじうまミニレビュー

くもん出版「すくすくノートはじめて&こどもえんぴつセット」

~鉛筆で文字を書くための基本技術を学ぶ
by 伊達 浩二


やじうまミニレビューは、生活雑貨やちょっとした便利なグッズなど幅広いジャンルの製品を紹介するコーナーです





公文式「すくすくノートはじめて&こどもえんぴつセット」の内容物。3冊の学習帳と鉛筆/ホルダー/鉛筆削りがセットになっている
 文書を書くときには、パソコンを使うのが当たり前になっている。この原稿もパソコンで書いているし、仕事でも私用でも相手との連絡はメールでのやりとりが中心で、1日数時間はキーボードに向かっている。

 もともと手で文字を書くのが苦手で、お祝いの熨斗袋(のしぶくろ)に署名をするのすら、面倒に感じるほどなので、今の状況はとてもありがたい。手で原稿を書いていたら、いまよりもっと少ない原稿しか書けなかっただろう。

 しかし、最近は、手で文字を書かねばならない場面が増えている。たとえば、原稿やレポートの下書きに朱筆を入れたり、規定されている届出用紙に書かねばならない場面などだ。

 字が下手なのは、もうあきらめていて、達筆な文字を書けるようになろうとは思っていない。また、アイデアのメモなど、自分自身のためのものであれば読めればそれでいいし、長年の修練で、かなりの癖字でも読めてしまう。しかし、部下から「これはなんと読むのですか」と毎回聞き返されるのはつらい。もちろん、読む方はもっとつらいことも分かっている。きれいでなくても、ちゃんと読める文字が書きたいと思うのだ。

 では、私はどうして字が下手なのだろうか。もう一度考えてみることにした。

 ペンで字を書いているときは、頭の中で文章を考えているスピードに、手のスピードが追いついていないことが多い。自分の字を見直してみると、漢字の偏(へん:左側の要素)はちゃんと書いているのだが、旁(つくり:右側の要素)が乱れていることが多い。ときどき、旁を書こうとして、次の漢字の偏を書いてしまっていることすらある。

 また、文章の最初の文字は、ちゃんと書かれているのだが、だんだん押さえが効かなくなって、右へ右へと文字が伸びていく。本来なら7文字ぐらい入る余白に、5文字ぐらいしか入らなくなってしまい、行変えをしていることが多い。

 つまり、1つの文字を完成品として仕上げる前に、次のことへ次のことへと、気の急くままに走ってしまっているらしい。気が短く、苛立ちやすい性格がそのまま出ているわけだ。

 こういう時に有効とされている修行が「習字」だ。墨と筆で文字を書くことで、ゆったりとしたリズムを取り戻すことができるという。また、ペンで書く「ペン習字」もある。もうちょっと簡易な方法として「写経」があるし、鉛筆で古典文学をなぞる「鉛筆で書く~」という書籍もたくさん出ている。

 しかし、自分を振り返って見れば、そういうものは、きっと飽きてしまうだろうとわかる。習字は道具を用意するのが面倒で最初からやらないだろう。また、写経であれば、比較的短い般若心経を1回書けば飽きてしまうだろう。「鉛筆で書く~」であれば、最初の1ページだけなぞって、あとは白いままになっているようすが、くっきりと想像できる。

 なぜ、好きでもない文章を、誰が書いたかわからないお手本に沿ってなぞらなければならないのだ。単に人の文章をなぞるのではなく、鉛筆運びのテクニックというか、基本技術を学ぶような学習素材はないだろうか。そう思っていたときに見つけたのが、今回紹介する、くもん出版の「すくすくノートはじめて&こどもえんぴつセット」だ。

 公文式は、本来、幼児~高校生の学習法で、各地の教室が拠点となっている。一方で、くもん出版という部門から知育玩具なども発売されており、こちらはAmazonでも購入できる。

外箱は素っ気ないほどシンプル。教材らしいとも言える箱を開けた状態

メーカーくもん出版
製品名すくすくノートはじめて&こどもえんぴつセット
希望小売価格オープンプライス
購入店舗Amazon.co.jp
購入価格1,763円

 今回、購入したのは、正確には「Amazon.co.jp セット(リニューアル)」というものだ。2~4歳を対象としており、初めて鉛筆を持つ幼児のための製品だ。

 セットの内容は、こどもえんぴつ(6B) 3本、キャップ 3本、鉛筆削りと、「はじめてのもじ」「はじめてのかず」「はじめてのめいろ」という3冊の学習帳だ。

 箱に入っていた鉛筆は削られていないので、まず、鉛筆削りで1本ずつ削る。鉛筆は三角形で、かつ太いので、通常の鉛筆削りでは削れない。この専用鉛筆削りを使う必要がある。鉛筆削りは簡単な構造で、鉛筆を入れてぐるぐると回転させるだけだ。ぐるぐると20回ぐらい回すと鉛筆が削れる。芯はとがりすぎているように感じるが、鉛筆が6Bと軟らかいので、気にしなくていい。

鉛筆は6本、ホルダーは3つ入っている。鉛筆削りも付属する鉛筆は子供が持ちやすいように断面が三角形になっている。ホルダーもそれに合わせた形だセットの鉛筆は、通常のものよりずっと短い
鉛筆の取扱説明。太いので一般の鉛筆削りでは削れないという注意がある鉛筆削りは、ぐるぐると回すだけのシンプルな構造削り立ての鉛筆。尖りすぎているようだが、芯が柔らかいので大丈夫

学習帳の表紙を開いたところ。「できたねシール」はごほうび用
 まず、「はじめてのもじ」をやってみる。判型は横長で、外観は幼児向け絵本のようだ。表紙を開けてみると、ごほうび用の「できたね! シール」がある。お子さんにやらせるときは外しておこう。

 最初のページはカラー印刷で、やはり絵本のような配色だ。最初のページに「一枚ずつ、はがして学習してください」とある。子供の場合は、紙を固定して鉛筆を使うのが難しいので、指定通り1枚ずつ外してあげるのがいいだろう。大人だったら、そのまま綴じられた状態で使っても良いと思う。

 最初の課題は「せんのれんしゅう1」で、動物の絵が2つ描かれていて、「おなじ ものを せんで むすびましょう」と指示されている。いきなり字を書くのではなくて、線の練習から一歩ずつ進んでいくらしい。まず、まっすぐな縦の線、次に横の線、斜めの線、曲がった線と進んでいく。なんでもない課題のようだが、まっすぐな線を引くのはむずかしい。かなり緊張してしまうので、大人でも、一度にたくさんの課題はできない。ゆっくりと確実に鉛筆を動かす訓練ができる。

最初の課題。これは「めいろ」の冊子だが、ほかの学習帳でも鉛筆の使い方から入る最初の方の課題例。呼吸が整っていないと、まっすぐな線が引けない

 「はじめてのもじ」は32ページで、途中から2色印刷になるが、そのころには線を引くのが面白くなっていて気にならない。途中からひらがなの練習が始まるが、文字を書くことの基本は線を引くことだとわかる。「ゆっくり、ていねいにむすびましょう」という注意が身にしみる。手が線を引いているのではなく、呼吸と心が線を引いているのだ。ちょっと習字に近い感覚だ。6Bの鉛筆の柔らかさも、それを感じさせるのかもしれない。

 「はじめてのかず」も、数字という要素は入るが、基本は線を引くことにある。「はじめてのめいろ」は、迷路を探しながらはみ出ないように線を引くことが目的で、ちょっと課題が難しくなっていくので頭を使わなければならず、かえって集中力が落ちてしまう。単純な線をゆっくりと引いているほうが集中しやすいようだ。

 一番最後のページには、表彰状が用意されている。「あなたは、くもんの すくすくノート 『はじめての もじ』を さいごまで おえました。 ここに ひょうしょうします。 これからもがんばってください」と書かれており、「さいごまでがんばったね!」と書かれた大きなシールを貼ることができる。表彰状までたどり着くと、とてもうれしい。そして、分かったことがある。

だんだん曲線が増えてくる。「少々はみ出してもかまいませんが、ゆっくりていねいに書くようにしましょう」とある「ゆっくり、ていねいに むすびましょう。」という指示が何度も出てくる大きなシールを貼った表彰状。意外なほど大きな達成感がある

 課題をやっているときは、学習帳が一度しか使えないのはもったいないから、消しゴムで消して、もう1回やろうと思っていたのだが、自分がやった結果を消しゴムで消してしまうことのほうが、ずっともったいないことなのだ。ちょっと曲がっている線も、途中で太さが変わっている線も、全部自分がやった結果であり、それはやり直したりするものではないのだ。課題は、最初から、きちんとした心構えを持って、ゆっくりと丁寧にこなさなければいけないのだ。

 自分でやった結果ですら、こういうことを思うのだから、自分のお子さんがこの課題を最後までこなしたときは、もったいないと思わずに、きちんとシールを貼って、袋に入れて保存してあげてほしい。その子が、この本と出会って引いた線は、やり直しのきかない結果であり、それは一度きりの経験なのだ。このセットに消しゴムが入っていないのは、そういうことを伝えたいのだと思う。

 結局、3冊の学習帳を終えても、私自身の字はやっぱりあんまりうまくなっていない。ただ、少しだけ丁寧に文字を書けるようになった気はする。また、乱暴な字を書き始めたら、こんどはセットに入っていない「はじめてのえんぴつ」という学習帳を買ってみようと思う。


2010年 4月 5日   00:00