やじうまミニレビュー

日立アロカメディカル「PDM-122」

~自分の周辺環境の危険度を知らせる個人用被爆線量計
by 伊達 浩二


やじうまミニレビューは、生活雑貨やちょっとした便利なグッズなど幅広いジャンルの製品を紹介するコーナーです


東日本大震災と原発事故が変えた世界

日立アロカメディカル「PDM-122」

 今年も12月に入り、1年を振り替える時期になった。今年はなんと言っても、東日本大震災が一番大きな事件だった。まず、東日本大震災で被災された皆様と、原発事故に関連して生活に影響が及んでいる皆様にお見舞い申し上げたい。

 直接の被害が及ばなかった東京住まいの私にとっても、震災当日の大きな揺れや、徒歩で帰宅する途中で見た九段会館の事故現場、震災直後の計画停電、夏の電力不足を補うための節電行動は生々しい記憶だ。また、原発事故に伴う放射線への不安は、いまだ途絶えることがない。今年は、去年までとは、明らかに何かが変わったのだと感じている。

 そこで今回は、目に見えない不安を解消するための1つの手段として、放射線の線量を測定する個人向け線量計、日立アロカメディカルの「PDM-122 マイ・ドーズ・ミニ」を紹介する。

 


メーカー日立アロカメディカル
製品名PDM-122 マイ・ドーズ・ミニ
購入場所セーラー万年筆 オンラインショップ
購入価格31,395円

 

簡単な操作と表示

簡素なパッケージ背面には内容物一覧や簡単な注意が書かれている製品は緩衝材入りの封筒に入っていた

 PDM-122のパッケージは、ごく簡素なものだ。付属品もストラップぐらいで、取扱説明書も8ページと薄い。特徴的なのは「校正証明書」が付属することで、実際にこの機器を使って計測を行なった時の線量と表示値と差が表示されている。

 校正証明書によれば、97.9μSv(マイクロシーベルト)の線源を計測した場合、指示値は「97μSv」で、誤差は-0.9%、校正定数は「1.01」となっている。このような強い線源に対しては、かなり正確な計測ができると言って良いだろう。

校正証明書。実際に測定が行なわれ、表示された数字を校正するための定数も記載されている検査合格書もしっかりとしたものが付属する

 PDM-122の本体は、USBメモリを二回り大きくしたような形をしている。片側に付いている電池カバーを外し、そこに製品に付属しているコイン形リチウム電池(CR2450B)をセットして、カバーをはめる。

本体以外はボタン電池とストラップしか入っていないボールペンとの大きさ比較キャップ側からみた本体。操作ボタンは1つだけ
液晶がある面を自分の体に向けるように注意が書かれている本体の裏側にはクリップがある。本来は白衣や作業着の胸ポケットに止めるのだろうキャップを外してボタン電池を入れる

 使い方は簡単だ。操作のためのスイッチは1つだけで、長押しすると電源が入る。この状態で、μSv単位の放射線量が表示される。これは電源を入れたときから累積された積算線量だ。

 PDM-122では線量はμSv単位で表示され、小数点以下は表示されない。したがって、ほとんどの場合1日持ち歩いたぐらいでは「0000」の表示は変わらない。数日、持ち歩いても、ほとんどの場合では、1桁の数字が表示されるだけだ。

 電源ボタンを短く押すと、現在の放射線量である線量率表示が表示される。単位はμSv/hに切り替わる。この場合も小数点以下は表示されない。

 電池寿命は約700時間とされているので、だいたい30日ぐらい使える計算になる。実測でもほぼ1カ月は使えた。電池寿命は、液晶画面に4段階で表示される。

液晶は4桁の数字だけ。電源を入れてしばらくは「0000」と表示されている左に見える電源ボタンを押すと、線量率表示に切り替わる。長押しすると電源が切れてしまうので注意。しばらくすると積算線量表示に戻ってしまう電源投入から数日経った時点での積算線量。坦々と数字が示されるだけで目安などは表示されない
ストラップで首から提げたところ。比較的大きめなのがわかる。撮影用に液晶側を向けている

 普段は、本体のクリップで胸ポケットに留めるか、付属のストラップで首から提げるとよいだろう。なお、液晶がある側を自分の体に向けるようにと、本体に書かれている。もともとは室内で使う製品で、防水ではないので水濡れなどにも注意したい。

 というわけで、PDM-122があっても、ただ液晶に数字が表示されるだけであり、それが危険か否かは教えてくれない。もとはといえばPDM-122は、放射性同位元素を使って作業する人が、規定の被曝量を超えないようにチェックするための製品なのだ。

 よって、PDM-122には以下のような特徴がある。

1)計測単位が、1μSv(マイクロシーベルト)で、小数点以下は表示されない
2)出荷時に厳密な校正が行なわれている

 つまりPDM-122は、許容量より大きな放射線を浴びたかどうかを確認し、管理するための装置なのであって、ごく弱い放射線量を測ることは、最初から考えられていないのだ。

 なお、食品の放射線量などは、専用のセンサーなどを必要とするので、PDM-122では計れない。

地域の空間線量率は、ほぼ計れない

 自宅や勤務先の周辺などの空間線量はほぼ計れない。実際に、線量率表示(μSv/h)に切り替えて、あちこちを計って回っても、数字は「0000」のままだった。

 会社のそばの公園の場合、千代田区が8月にシンチレーションサーベイメータ(高価で高精度な線量計)で計測した空間線量は、1mの高さで0.08μSv/h、地面に近い5cmでも0.11μSv/hだった。同じ時期に同様の状況で行なわれた、自宅のある台東区内での計測値は0.14~0.15μSv/hだった。

 つまり、現在の東京都内の空間線量は、PDM-122の1μSv単位の単位では表示できないぐらい低いというわけだ。

 非常におおざっぱな言い方をすれば、この製品は「自分が浴びている放射線量が危険な量である」ということを知るための警報器だ。つまり、PDM-122が本来の用途以外で有効に使えるのは、なんらかの形で高い放射線量に触れてしまう恐れのある原発事故周辺地域の人々である。実際に、そういう用途に配布されている例も多いという。

 とはいえPDM-122が役に立たないわけではない。繰り返しになるが、もともとの用途が異なっているのだ。

目に見えない不安を解消するための1つの手段

 PDM-122は、製造メーカーである日立アロカメディカルから、20年以上も前から販売されている製品だ。もともと医療分野など法人向けの製品だったのが、原発事故以後に個人からの問い合わせが増え、そちらにチャネルを持つセーラー万年筆が代理店となったという経緯のようだ。

 もともと産業用というか業務管理のための装置なので当然のことだが、「日々の放射能への不安から、自分自身で自分の周辺の放射線量を計測し、必要であれば警告を受け取る」という、現在、望まれているような用途は想定されていない。

 東日本大震災以前には、ガイガーカウンターに代表される線量計は、ごく限られた人々だけが必要するものだった。しかし、震災以後は、海外メーカーからの輸入を始め、自作キットや完成品の形で、国内外のメーカーから多数の製品が発売されている。

 PDM-122は、それらの製品とは一線を画しており、製品の性格もかなり異なっている。「国産の廉価なガイガーカウンター」と思って購入すると役に立たないことも多いだろう。

 では、PDM-122はどのように使えば良いのだろうか。

 まず、「一般市民の年間被曝線量の限度(医療を除く)」は、1mSv(=1,000μSv)とされている。自分自身や家族に、PDM-122を持たせて、累積値をチェックしよう。ちなみに、ここ1週間での、私の被爆線量は5μSvだった。年間で260μSvという計算になる。つまり、現在の生活においては、外部被曝線量は心配しなくても良いと判断できる。

 PDM-122は、空間線量を計測したいという用途には向かないが、その人が実際にどれだけの放射線を浴びているかということは、しっかり把握できる。

 たとえば、自分の子供たちに、PDM-122を持たせて、週に1度、累積値と電池の状態をチェックするというのは良い使い方だと思う。被爆という目に見えない不安を、数字という形で確認できるようになるのは大きい。

 今回の事故による影響は長期に及ぶ。また、影響が及ぶ範囲も広い。その中で、まず、自分自身や家族が、どういう環境の下に居るのかという状況を把握するための一歩としてなら、購入を検討しても良いと思う。





2011年 12月 1日   00:00