ロングインタビュー

「蒸気レスIH本炭釜」に見る、三菱電機の“おいしいごはん”へのこだわり

~小釜タイプ投入の狙い、1合でもおいしく炊ける裏技とは
by 正藤 慶一
三菱電機の最高級炊飯器「蒸気レス 本炭釜 NJ-XWB10J」。この2月1日にリニューアルされた

 三菱電機の最高級IH炊飯器といえば、内釜に純度99.9%の炭を使用し、かつ蒸気が本体外に出ない設計の「蒸気レスIH 本炭釜」が知られている。

 この蒸気レスIH 本炭釜が、2月よりリニューアルして発売される。炊飯器としての基本的な機構は従来モデルから引き継ぐが、デザインや操作性を中心に改良されており、さらに本炭釜シリーズでは初となる、3.5合炊きの小容量タイプも追加されることになった。

 この新しい本炭釜について、炊飯器を製造する三菱電機ホーム機器の担当者に話を伺った。ご対応いただいたのは、家電製品技術部の長田正史部長、同部 調理機器技術課の久保田哲正課長、営業部 調理家電営業課の赤石都良担当課長の3名。上位モデルには、少量炊飯に適した“裏技”も搭載されているなど、ニュースリリースには記されていない話も聞けた。炊飯器の買い換えを考えている方は、一度目を通していただきたい。

三菱電機ホーム機器 家電製品技術部の長田正史部長。本炭釜、蒸気レスシリーズの“仕掛け人”として知られる同じく家電製品技術部 調理機器技術課の久保田哲正課長営業部 調理家電営業課 赤石都良担当課長

本炭釜はなぜふっくら炊ける? 答えは「IHと炭との相性の良さ」と「削り出しの釜」

――まずは、蒸気レスIH本炭釜の新製品について、概要をお聞かせください

三菱電機が2月1日より投入する、最高級モデルの炊飯器

赤石:今回発売する新しい炊飯器の中で、最上位モデルなのが、5.5合炊きの「蒸気レスIH 本炭釜 NJ-XWB10J」です。内釜には、純度99.9%の炭の釜「本炭釜」を使用しており、蒸気が吹きこぼれない「蒸気レス」構造を採用しています。

 この1モデル下の商品が、同じく5.5合炊きの「蒸気レスIH 炭炊釜 NJ-XSB10J」です。蒸気レス構造を採用していますが、内釜は本炭釜ではなく、炭コーティングの「炭炊釜」となっています。

 今回はさらに、3.5合炊きの小容量タイプ「本炭釜 NJ-KW061」も新たに投入します。こちらは蒸気レス構造ではありませんが、内釜に本炭釜を搭載しています。


【蒸気レスIH本炭釜、本炭釜シリーズの2011年新モデル】
※内釜には炭コーティングを施している
シリーズ名品番本炭釜蒸気レス
構造
炊飯
容量
店頭予想価格
蒸気レスIH 本炭釜NJ-XWB10J 5.5合 
11万円前後
蒸気レスIH 炭炊釜NJ-XSB10J-(※)5.5合
8万円前後
本炭釜NJ-KW061-3.5合6万円前後

――「本炭釜」と「蒸気レス」という2つの機能を搭載している点は、前年の2010年モデルと同じですね。まずは、最上位モデルの「本炭釜 NJ-XWB10J」についてお伺いいたします。この純度99.9%の炭の釜でごはんを炊くことで、どんなメリットがあるのでしょうか

炭でできた内釜「本炭釜」。純度は99.9%

久保田:本炭釜を使うことによるメリットは、炊飯器で一般的な金属釜と比べて、よりふっくらと炊くことができる点です。なぜかというと、炭素材の特徴として、一般的なステンレスの釜よりも、磁力線、電気抵抗、熱伝導率、密度の点で優れているからです。

 炊飯器市場は、安価なマイコン式と高価なIH式に大きく二分されますが、本炭釜では、電磁誘導で内釜全体を発熱する「IH式」の炊飯方式を採用しています。このIH式は、炊飯器内部にあるコイルに電流が流れると磁力(磁力線)が発生し、磁力線が釜を通過する際に、釜に電流が流れます。この時の電気抵抗で釜が発熱することで、ごはんが炊けるという仕組みになっています。

 このIH炊飯器の内釜は、銅やアルミ、ステンレスなどが多層に重なっています。磁力線は一番外側のステンレスですべて吸収され、そこで発生した熱をアルミや銅に熱を伝えながら、お米を炊くという仕組みになります。

 しかし本炭釜は、釜全体が磁力線を吸収するため、直火で炊いているのと同じように炊飯できる点がポイントです。特に、釜底中央部は7.5mmと厚く、米のすぐ近くまで発熱するため、強火で炊飯を実現していることになります。この火力の強さが、本炭釜が優れている点です。

内釜の素材による、性能の比較。銅やアルミニウムなどさまざまな素材があるが、同社調べでは、その中でも炭は磁力線の浸透の深さや電気抵抗などで有利とのこと炭にはIH式炊飯器に適した特性があるという釜全体が均一に加熱するため、直火で炊いているのと同じように炊飯できるという

久保田:また、本炭釜は“削り出し”で作っていますが、これもふっくらとした炊き上がりに貢献しています。金属の釜だと、プレス成形で作られているため、側面でも底面でも、釜は同じ肉厚になります。しかし本炭釜は、職人が炭を1つ1つ削り出しで作っており、中央部分を7.5mmと厚く、盛り上がるように作っています。この部分に熱がたくさん溜まるため、小さな泡が中央の盛り上がりのテーパ(傾斜)を伝わり、寄せ集まって、大きな泡になります。この大きな泡が、お米を押しのけて通るため、お米に空気層が作られ、ふっくらと炊きあげることができます。

長田:ごはんの炊きあがりの形状は重要です。今の炊飯器はどうしても真ん中が凹みますが、本炭釜は真ん中が盛り上がります。これは、それだけ中央に蒸気が通って、気泡が通過しているということです。熱伝導が非常に良いうえに、そこにガバっと蒸気が通ることで、釜の底から空気が抜ける道、通称“カニ穴”ができます。これにより、表面のごはんはどんどん立っていきます。

 昔から、カニ穴があってごはんが立っているのがおいしいごはんと言われますが、本炭釜はまさにその理屈通りに作ることができます。いかに中心部分に気泡を通すか――それが我々炊飯器を作っている者の目指すものです。

内釜は削り出しで作られているため、プレス加工ではできないテーパ(傾斜)が設けられている。小さな気泡がテーパを伝わり、大きな気泡が形成されるこの大きな泡が米を押しのけて、通称“カニ穴”と呼ばれるスキマを形成。ごはんがふっくらと炊けるという

――逆に、本炭釜の弱点みたいなものはありますか

久保田:製造に時間がかかるところです。本炭釜を作る作業は、釜の状態にするまでに約3カ月かかります。そこから荒削り、本削りをして、表面をコーティングした後、レーザーでのシリアルナンバーの刻印をして完了します。月産台数は1,000台です。

赤石:また、普通のステンレスと比較すると、強度面ではやはり弱いです。通常の衝撃では割れませんが、ごはんや水が入った重い状態で下にドーンと落とすと、割れる可能性があります。これは、今までの炊飯器ではありえない、考えられないので、そうした品質のものを発売して良いのかというのは、社内でも議論がありました。

 発売するまでの苦労はいろいろありました。営業サイドでも“食べたらおいしいのは分かるけれど、月産1,000台しかできないのはどうなんだ”、ということもあり、初代は広報発表をしませんでした。しかし、おかげさまで本炭釜は人気商品となりました。

 また、「蒸気レス」タイプは今回で第3弾となりますが、初代は2009年2月の発売以降、9カ月連続で1位となり、2代目も、10カ月連続で1位となっています(実売5万円以上の価格帯での販売台数。GfK調べ)。2代目は2010年2月に発売しているので、2010年は実質、蒸気レスIHがずっとナンバーワンということになります(編集部注:取材は2010年12月に行なわれた)。

本炭釜は炭素素材から職人による削り出しで作る。そのため、月間生産台数はわずか1,000台となっている実売5万円以上の高級ゾーンの販売台数では、初代で9カ月連続1位、2代目で10カ月連続1位を記録している(GfK調べ)

蒸気レスのメリットはおいしさにも。吹きこぼれを恐れず高火力で炊飯できる

――今度は、もう1つの特徴である「蒸気レス」機構についてお伺いします。蒸気レスとはどんな機能で、どのようなメリットがあるのでしょうか

蒸気を吹き出さない“蒸気レス”構造のメリット。置き場所が広がり、ニオイや湿気がこもらず、蒸気に触れにくいというメリットがあるという

赤石:蒸気レスは、炊飯器の本体から蒸気が出ないようにする機構です。もちろん本体内では蒸気は発生しますが、本体のタンクに備えた水を使って、蒸気を冷やして回収します。

 蒸気レスのメリットは、(1)置き場所が自由、(2)臭いや湿気がこもらない、(3)熱い蒸気に触れにくいという3点です。高温の蒸気に触れる危険を防止し、収納する家具に結露しないことから、経済産業省の「2009年キッズデザイン大賞」に選ばれました。

 さらに、ごはんがとてもおいしく炊ける点も特徴です。「蒸気密封うまみ炊き」という炊飯方式を採用していますが、これなら甘く、ぷりぷり感があるごはんを炊くことができます。また、保温したごはんもおいしく食べられます。

 こうしたごはんが炊ける理由は“火力”です。従来の炊飯器は、蒸気口からの吹きこぼれを防止するため、本来は強火で炊くべきところを、ONとOFFを繰り返す“間欠加熱”しなければなりません。しかし蒸気レスなら、蒸気口がありませんから、吹きこぼれを気にせず、高温を連続して続けることができます。さらに、連続して加熱することで、蒸気と一緒にうまみ成分が出ます。これをカートリッジに一度溜めて、後から還元することで、よりごはんに甘みをプラスできます。

 この連続加熱は他社製品でもありますが、蒸気レスではカートリッジを内蔵し、蒸気口をなくすことで、連続沸騰を実現しています。この蒸気レスのセンシングと連続大沸騰の制御において、当社は特許を取得しています。

蒸気レスは蒸気の吹きこぼれの恐れもないため、高温で連続して加熱できるというメリットもあるまた、うまみ成分をカートリッジに溜めて、炊飯後に還元する機能もあるごはんのふっくら感も差が出るという

高齢者でも簡単に使えるように――2011年モデルでは操作性を向上

――本炭釜と蒸気レスについてはよくわかりました。ですが、これらは2010年にされた旧モデルでも搭載されていたものです。今回の2011年モデルにおける、改良点を教えてください

3代目となる今回は、完成形を目指し、操作性を改良した

赤石 3代目となる今回は、より完成形を目指して、誰にでも使いやすい操作性の向上を狙いました。

 まずは、文字と液晶を大型化した「デカ文字&特大二重液晶」を採用しました。液晶と文字高さを1.3倍とし、文字の高さは今までは4mmだったのですが、5.5mmにしました。高齢者を対象に、暗いところでも楽に読めるかを調査したところ、従来モデルでは5割だったのが、約9割が読みやすいということになりました。

 あとは音声です。炊飯メニューや予約時間の設定間違いを防止するため、キーを押すごとに音声案内をしています。これは他のメーカーさんの機種でもありますが、当社では炊飯キーを押す前に設定内容が確認できるのが特徴です。

 例えば、「次の動作をどうすれば良いのか」と迷ったときには、音声ナビボタンを押すことで、現在の炊飯設定を読み上げます。また、「タンクに水がありません」など、蒸気レスIH特有のお知らせもします。

 通常の音量ともっと大きな音量、ブザーだけの3段階が用意されています。ブザーの時にも、ボタンを押せば音声を読み上げることができます。また、タンクに水がない場合も、音声で読み上げます。「よろしければ炊飯ボタンを押してください」など、単純に機能を読み上げるだけではなく、次のアクションを説明するようなナビゲーションを入れ込んでいます。

2011年モデル(左)と、従来の2010年モデル比べてみると、2011年モデルは液晶画面のサイズが大きくなっている
バックライトも採用エラー画面では、次の行動を促す文言が表示される

「よろしければ炊飯ボタンを押してください」という音声ガイド。次の行動を促すメッセージが多くなっている

――ナビゲーションなど操作面を強化するとうことは、ユーザーからの不満が多かったということでしょうか?

赤石:操作については、初めて炊飯器を買われる方がいらっしゃった時に、できるだけ使いにくさがないようにしていきたいという思いがあります。そう言う意味でも、蒸気レスの完成型を目指していきたかったためです。

 というのも、去年、視覚障害者向けの総合イベント「サイトワールド」に蒸気レス炊飯器を出展しましたが、蒸気が出ないという点では高い評価を頂いたものの、「どうして音声ガイドが付いていないの」という厳しい意見を頂きました。

 そこで今年のサイトワールドでは、隣り合っているボタンで音が異なる炊飯器を参考出品で出しました。しかし、蒸気レスではなかったので、逆に「蒸気レスじゃないとダメだね」と言われてしまいました。蒸気レスで、かつ音声ガイドが必須であることが分かりました。

久保田:たとえば、子供から親においしい炊飯器を買ってあげたい、と買ったときに、最初の機器は使いにくくてわかりにくいことが多いみたいです。こういうモードでこういう設定になっているというのを示した方が使いやすいようです

 微妙なことですが、声のスピードもかなりこだわっており、他社製品よりもゆっくりになっています。高齢者の方はそれじゃないと聞き取れないようです。そういったことも、実機を使って調査をして、聞き取りやすいというスピードに設定しました。また音声は、聞き取りやすいと思われる声優さんの声を採用しています。

音声ナビボタンを長押しすれば、音声なしにも設定できる。音声なしの状態でも、ナビボタンを押せばガイドが流れる


リリースには載っていない裏技「合ピタ」とは?

赤石:新モデルでは、実はもう1つ新しい機能がありまして、それが「合ピタ(ごうぴた)」機能です。合数に合わせて炊飯できるモードを追加しています。

――その機能は、2010年12月に発表されたニュースリリースには書いてありませんでしたね

赤石:説明書には書いてありますが、ニュースリリースにはこの機能を掲載しておりません。この機能は、5合炊きの炊飯器で1合を炊いたときに、よく「味が違う」と言われることを、解決するための機能です。

 炊飯量で味が異なる理由としては、2つのことが考えられます。1つが、水の量が合っていないという点です。炊飯器は釜の水位目盛りに水量が合う/合わないで炊きあがりが変わりますが、少量だと特に水あわせが難しくなります。

 もう1つが「火力」です。いまの炊飯器では、1合を炊いた時と5合を炊いた時でも、自動で火力を決めますが、この火力を決めるタイミングが、炊飯をスタートしてからしばらく経った後、温度上昇を見ながら、炊飯の途中で合数検知をして、そこから火力調節をします。水温の上昇具合に合わせて、合数の補整をかけていくのが、どのメーカーでも共通しているやり方です。

 しかしこれだと、1合も5合も、スタートから温度検知するまでの場合、ほぼ同じ制御で行なっていくことになります。そのため、水温の差などで味の変化が出やすくなってしまいます。

久保田:炊飯制御は、各社とも「仕込み(予熱)」「本炊き」「蒸らし」の3段階から成っていますが、最初の水温から予熱のところは、どの合数であっても同じくらいの制御で行ないます。そこからの本炊きに移る時に、温度の変わり具合を検知して、合数を判定しています。

 つまり、温度カーブが小さければ合数が多いことになりますし、温度カーブが大きければ合数が少ないということになります。そこまでいかない限り、合数判定ができません。本当は仕込みの部分の温度カーブで合数判定ができれば良いのですが、季節の水温の違いなどの問題もあり、どうしてもこうなってしまいます。

ニュースリリースに掲載されていない新しい機能「合ピタ」では、0.5合単位まで炊飯量が設定できる

赤石:そこで、より合数に合った炊き方をさせるために我々が考えたのが、炊飯合数を細かく設定できる「合ピタ機能」です。時間をかけておいしいごはんを炊く炊飯モード「匠芳醇炊き」のボタンを2回以上押すことで、これから炊く炊飯量を、1合から1.5/2.0/2.5~5.5まで、0.5合単位で合わせられます。この場合、炊飯開始のボタンを押した瞬間から、1合に適した火力で、最初から炊き始めます。

 これに似た機能は、他社さんでもあります。よく「少量炊飯」というボタンを搭載している製品があると思いますが、当社のように0.5単位でできるのはないと思います。

 かなりマニアックな機能なので、これを理解していただける方がどこまでいるか……という不安は正直あります。ですがこれを使えば、夏でも冬でも、1合でも5.5合でも、同じ炊きあがりになります。

――しかし、なぜニュースリリースに載せなかったのですか?

赤石:例えば販売店などで「三菱は合数設定できないとうまく炊けませんよ」と言われてしまうと、お客様に「三菱はめんどくさい」と誤解されてしまう恐れがあるためです。

久保田:本当に合数をしっかり判断するには、重量を量るなど専用のハードがないとできません。しかし、本炊き工程で温度上昇を見てから判断しているのは、ほとんどの製品で同じです。詳しく説明すると分かっていただけますが、店頭だと説明するのは難しいですね。

 ですが、“自分はいつも1合しか炊かないが、おいしく炊くのに3合くらい炊いて、余った分はわざわざ冷蔵庫で保存している”というのは不便です。ある意味で“冒険”ともいえる機能かもしれません。

赤石:クチコミで広がっていけばおもしろい機能とは思います。

久保田:おそらく「合数調節は炊飯器は当たり前にやってたんじゃないの」と思われる人も多いと思いますが、“本当の炊き方はこうなんだ”というのを、これから仕掛けていきたいです。


「小釜」ユーザーには味の提案ができていない――3.5合の「本炭釜」が登場

――最上位モデルについてお伺いしたところで、今度は新たに投入する、3.5合と小容量の本炭釜について聞かせてください。この3.5合クラスの炊飯器は、炊飯器の主流となる5合クラスと比べると、マイナーな位置にありますが、この小容量タイプの発売に至った経緯を教えてください

今年は3.5合炊きの「本炭釜 NJ-KW061」を新たに投入した

久保田:その理由は、3.5合以下――いわゆる“小釜”タイプで、かつIH式炊飯器の構成比が、これから増えていくと見込んでいるからです。

 小釜炊飯器の構成比は、2007年から18%くらいで推移しています。しかし、1.8Lの“大釜”モデルの割合が最近になって落ち始めており、2011年予測で18%と、小釜と並ぶようになりました。12年度にはこれが逆転するのではないかと考えています。

 特に小釜では、IH式が増えてきています。2007年はIH式が19%だったのですが、2010年、2011年予測は30%となっています。小釜を買われるお客様でも、おいしい炊飯器を求めているという傾向があるようです。

5.5合未満の“小釜”炊飯器の割合は18%(2011年予測)。1.8Lの“大釜”タイプも同じ18%だが、これからは小釜の割合が増えていくという小釜におけるIH式の割合は30%。小釜ユーザーにもおいしい炊飯器が求める傾向があるという

小釜タイプの本炭釜に搭載されている内釜。もちろん純度99.9%だ

赤石:一般的な5合クラスの炊飯器は、7割近くがIH式です。小釜については、もっとIH式の商品の提案があれば、もっと確実に伸びていくと思っています。ですが、現状はそこまでなかなかアイテムが揃っておらず、お客様に味の提案ができていません。

 小釜の炊飯器をどういった方が一番買われているかを調査すると、一番多いのが「60歳以上の2人家族」(14%)で、次いで「30歳台の1人暮らし」、「40歳台の2人暮らし」(いずれも9%)です。3.5合炊きなので、大家族で使う方は少ないですが、味についても小釜でおいしい味を出したいというニーズは多いです。そういった層に提案できれば、かなり広がっていくのではないでしょうか。ニーズとして確実にある「小さくてもおいしいごはんが食べたい」に、小釜の「本炭釜」で取り組んで行きたいです。

 ちなみに、この小釜タイプにはこだわりのコース「芳潤炊き」も用意されており、これで炊くと、ごはんの還元糖を通常より約11%上げることができます。

――細かいことを伺いますが、5.5合の本炭釜は側面の厚さが5mmです。しかし、3.5合炊きでは4.5mmとなっていますが、この違いは何でしょうか

久保田:炊きあがりはやはり5.5合とは違うので、小釜タイプでは4.5mmがベストということになりました。

従来までの3.5合タイプでは、炭コーティングの炭炊釜(左)が最上位だった本炭釜と炭炊釜の炊き上がりの比較炊き上がりを比べると、本炭釜の方がふっくら感がある。また、香りも本炭釜の方が高い
 

三菱電機が圧力式の炊飯器を作らなくなった理由

――ところで、他社の炊飯器では、釜内部に圧力を掛けて炊飯する「圧力式」もありますが、本炭釜では圧力をやらないのですか

赤石:圧力式ならではの良さもあると思いますが、一方で、おいしいごはんを炊くために圧力は必ず必要かというと、必ずしもそうではないと思います。それが非圧力式の「本炭釜」、また「蒸気レス 本炭釜」で証明されたと思います。非圧力式ならではのおいしさが我々の追い求める理想の味かな、というところに行き着きました。

 実は、当社の中位モデルは、2009年までは圧力式を採用していました。しかし、上位機種では非圧力の「蒸気レス 本炭釜」で、中位機種に圧力式があり、その下にはさらに非圧力式のものがあるという状態でした。そのため販売サイドからは、せっかく蒸気レスや本炭釜でおいしさのセールスをしているにもかかわらず、中位機種が圧力式だと、味の方向性が180度違っていることを指摘されました。

 そこで、“三菱の味って何なの?”というのを、一気通貫で持たせたいということから、今年の8月に、中位機種を非圧力式にフルモデルチェンジしました。三菱の味というのは、最高級の「蒸気レス 本炭釜」が一番上にあって、その味にできるだけ近づけるような商品をその下に作っていったということです。

 全シリーズに共通するのは「炭」です。最上位クラスには純度99.9%の「本炭釜」、下のタイプでは炭コーティングの「炭炊釜」ということで、炭のつながりで三菱の味を出していきたいというのがあります。


本炭釜の「都市伝説」を検証。“たまたま寄った店のごはんがきっかけ”はウソ?

――そういえば以前、本炭釜の開発のきっかけとなった焼肉店に行きました(大阪府高槻市の焼肉店「一寸法師」)。ネットの情報によると、開発者の方がたまたまこのお店に立ち寄り、そこの炭の釜で炊いたごはんに感動して……というのが、本炭釜のきっかけですよね。

赤石:いや、それは一部では合っているのですが、正確さを欠く部分がありますね。

長田:正確にいうと、ニュース番組で「炭を使った鍋をある業者が開発した」という情報を私が見て、「ひょっとしてこれは炊飯器で使えるのでは」と思いついたのがきっかけです。本炭釜はそのニュース番組で出ていた業者とは別の業者に製造を依頼しましたが、その業者が大阪の焼肉屋に炭のお釜を卸しているというのを聞き、食べに行ったというのが本当の話です。ですので、たまたま立ち寄った焼き肉屋で“これは!”と閃いたわけではありません。

――そうだったんですか……失礼しました。実はそのお店に行った時、炭の釜で炊いたごはんが売り切れで、食べられませんでした

長田:そうですか。ある意味、本炭釜で有名になったところもありますしね(笑)。でも、お互いにWin-Winの関係ができたと思います。あそこはお肉もおいしいですよね、京都肉で。

 お店といえば、こんな話もあります。大阪でおいしいごはんを出す有名なお店に、どこかのメディアが本炭釜を持ち込んだらしいのですが、そのご主人が「炊飯器でこんなウマイ飯が炊けるなんて、商売あがったりだな!」とコメントしたようです(笑)。この前もどこかのメディアが、とあるお店に蒸気レスを持ち込んだようで……もしかするとそこも有名になるかもしれませんね(笑)


三菱の炊飯器の理想は、蒸気レス本炭釜による「甘い」「ぷりぷり感がある」ごはん

――3.5合の「本炭釜」が出てきたとなると、3.5合の「蒸気レス」が出てくることにも期待が高まります。これについてはいかがでしょうか

久保田:小釜の蒸気レスを実現するとなると、冷却用の水の容量を確保することが難しいです。大容量でも小容量でも、ごはんをおいしく炊くためには、やはり蒸気をいっぱい出す必要があります。当社以外にも蒸気カット機能を搭載したタイプは出ていますが、三菱は出た蒸気を水で冷やすという水冷タイプです。ごはんをしっかり炊きあげるには、蒸気を一杯出して、熱をいっぱいかけるというのが重要、と我々は思います。

おいしいごはんを炊くには、蒸気をいっぱい出す必要があるため、出た蒸気を水で冷やす必要があるという

長田:蒸気を出すには、ちゃん沸騰させないといけません。何年か前にも“蒸気カット”を謳う炊飯器が他社から出ていましたが、1年かそこそこで消えてしまいました。それはなぜかというと、蒸気はカットするけれど、沸騰させていないからおいしく炊けないんです。お米は96℃くらいで炊けてしまうのですが、それだけではおいしくないんです。我々が蒸気レスを出す時には、“それと同じじゃない”というのが課題でした。

 蒸気レスを出した後、次にやってくるメーカーさんが「沸騰させずにごはんを炊く」ような炊飯器を出したとしても、蒸気レスと同じジャンルに入ってしまいます。例えば、「蒸気をカットする」コースのほかに「蒸気が出る」コースなどを付けていれば、蒸気カットコースではおいしくなくても、蒸気コースを使えばおいしいごはんが作れます。でも、我々がそういうようなことをしたら、(最初に蒸気レスを)提案したメーカーとしては負けになると思います。

 我々が水タンクを本体に搭載しているのは、使い勝手からすれば責められるところではありますが、逆にいえばこれくらいのことをしなければ、蒸気は水に戻らないからです。なので水タンクが必要になるわけです。

赤石:小釜の蒸気レスは、乞うご期待ということで……(笑)

――了解しました(笑)。では最後にお伺いしますが、三菱電機が理想とするごはんの味というのは、蒸気レス本炭釜による「ごはんが甘くて、ぷりぷり感がある」ということでしょうか

三菱電機が目指すごはんは、蒸気レス本炭釜による「甘くてぷりぷり感があるごはん」という

赤石:そうですね。それが我々の理想となっています。

 また、ある程度の堅さと弾力、そのバランスも大事です。炊きたてのごはんのおいしさと、冷めたときの状態がなるべく近い方が、味が変わらなくて良いと考えています。冷めるとどうしてもその部分が離れがちですが、そこをうまくバランスが取れるように、味を追求していきたいと思います。

久保田:炊きたてでもおいしい、冷めてもおいしい、おべんとうでもおいしい、というのが理想ですね。

――わかりました。本日はどうもありがとうございました。






2011年2月1日 00:00