大河原克行の「白物家電 業界展望」
シャープが家庭用LED照明事業に参入する理由とは

~コンセプトは「電球」ではなく「照明器具」!?
シャープのロゴが新鮮なLED電球

 シャープが、家庭用LED照明事業に新規参入すると発表した。

 発売するのは、電球タイプのLEDで、調色および調光が可能なフラッグシップのDL-L60AVのほか、600シリーズ、400シリーズを用意。それぞれに調光に対応した白昼色相当、電球色相当の製品のほか、調光に対応していない標準モデルの白昼色相当、電球色相当の製品を用意。全9モデルをラインアップした。

 同社では、2008年9月から、業務用LED照明事業を開始。すでに21モデルの製品を投入しているが、家庭用LEDは今回の製品が初めて。これまで電球、蛍光灯など家庭用照明事業の経験がない同社が、新たな事業として新規参入する事業だ。電球の上に書かれた「SHARP」のロゴは、実に新鮮なものだといえる。

30年以上に渡る技術的蓄積

 シャープが照明事業に参入する背景には、長年に渡るLEDに関する技術的蓄積がある。

 1968年にLEDの研究開発に着手して以来、これでの41年間に渡る蓄積がある。1970年からはLED素子の量産を開始。液晶パネルなどにも応用しており、いわば、LED照明事業には参入しやすい環境にあった。

 さらに、昨今の環境指向の高まりにあわせてLED照明に対する注目が集まり、満を持したタイミングで市場参入になったともいえる。

 全世界の照明市場は、2008年度実績で約9兆円。LED照明はそのうち約3,000億円と見られているが、2012年度には照明市場は11兆円にまで拡大。そのうちLED照明は2兆円を超える規模となり、全体の2割程度を占める規模が見込まれている。

 技術の変わり目は、いわば市場参入のチャンス。これまで電球事業を持っていないという、他社とは異なるしがらみのなさは、事業拡大にはプラスに働く可能性が高い。実際、スタンダードタイプの電球で4,000円前後とする価格設定は、先行する他社に比べても戦略的な価格だといえる。

季節、時間などにあわせた調光、調色

 また、調光、調色という付加価値も差別化の切り札となる。

 今回の製品発表とともに、同社が打ち出した「Change your Light,Change your Life!」のキーワードは、明かりを変えることで、生活を変えていこうというものだ。これを「照明革命」とし、人に優しい上質なあかり、環境に優しい次世代のあかりを提供することで、生活シーンにあわせた照明利用の提案を行なっていくことになる。

シャープ健康・環境システム事業本部LED照明事業推進センター副所長兼商品企画部長の桃井恒浩氏

 シャープ健康・環境システム事業本部LED照明事業推進センター副所長兼商品企画部長の桃井恒浩氏は、「調光で7段階、調色で7段階の49パターンの光を生み出せる。1つのLED電球で、部屋のイメージを変えたり、生活シーンを変えたりといったことが可能になる。用途や季節、時間帯によって最適な色を作り出すといった使い方も可能になる、様々な光が生み出すことは、生活をより豊かにすることにつながると考えている」とする。


狙ったのは照明器具としての製品化

 今回、シャープが投入したのは、電球型のLED照明だが、本質的なコンセプトは「照明器具」という点にあるといえる。

 フラッグシップとなるDL-L60AVは、電球にリモコン受光部を取り付け、標準添付しているリモコンで調色および調光の操作ができる。つまり、電球というよりは、それ1つで「照明器具」と位置づけることができる。

 デザインされた傘などを取り付ければ、そのまま照明器具となるからだ。

 6月11日に行なわれた記者会見の場でも、DL-L60AVを使用し、お洒落にデザインした照明器具が参考展示されていた。今後は、サードパーティーとの連携によって、こうした提案も増えていくことになりそうだ。

発表会で展示された、DL-L60AVの照明器具。セードを取り付けるだけで、照明器具としての提案も可能になる

 「赤外線で発熱しないというLEDの特徴を生かして、和紙を利用したデザインなども可能になる。デザインという観点でも、これまでの照明器具の概念を変えることもできるだろう」とする。

健康指向型の照明機器に

 新規参入の発表時点で、先の話をするのもどうかと思うが、やはり楽しみなのは次のステップへの取り組みだ。

 当然、今回の電球型に留まらず、埋め込み型などへの展開も視野に入れているだろう。

 現時点では、具体的なプランは提示していないが、「家庭における照明機器としてのラインナップは増やしていきたい」と桃井氏は語る。

 省エネ、長寿命のほか、紫外線レスおよび赤外線レスといったメリットも大きいが、シャープでは、そうした提案に加えて、健康指向という観点からの提案にも乗り出す考えだ。

 会見では、シャープ執行役員 健康・環境システム事業本部長の高橋興三氏が、「光によって、人の気持ちが変わるということが実証できているわけではないが、リラックスできる光や、暑さや寒さを感じない光もあるだろう。光と人間との関係は大きいと思っており、こうした研究を進めることで、健康につながる光の提案も可能になるだろう」とする。

 LEDは、三色の組み合わせで様々な調光、調色が可能になる。この機能を生かすことで、健康面からのメリット創出につなげていくことが可能になるかもしれない。

 また、シャープが得意とするプラズマクラスターイオン発生器を家庭用照明に採用するといったことも十分想定されるものだ。

 現在、空気清浄機のほか、エアコンや洗濯機などにも広くプラズマクラスターイオンを展開しているのに加え、すでに業務用埋め込み型のLED照明では、プラズマクラスターイオン搭載モデルを商品化している。

 プラズマクラスターイオン搭載モデルは、空質を高めるという点で、そのままLED照明製品の健康対応へと直結することになるだろう。

垂直統合と外部調達の両輪体制に

シャープが投入した家庭用LED照明器具の第一弾製品群

 今回の新規事業参入において、もう1つの見逃せないポイントが、垂直統合モデルによる展開だ。

 LED素子の生産から取り組むシャープは、垂直統合型のビジネスモデルを構築できる。

 最新のデバイスをいち早く活用するとともに、ユーザーのニーズをデバイスにまで反映できる体制は、最終製品での差別化や、技術進化でも優位性を発揮できる。

 だが、今回の新製品では、他社から調達した素子を利用している。

 実は、同社では、自社開発による垂直統合だけでなく、外部調達をうまく連動させながら事業を推進する体制をとる考えだ。

 「他社から調達するのか、自社生産品を利用するのかは、商品の方向性にあわせて決定する」(桃井氏)という。

 一般論として、自社開発による完全垂直統合体制だけでは、デバイスの開発において、他社との競争環境を排除してしまう可能性がある。外部調達を活用することで、競争環境を維持する効果を視野に入れたともいえる。家庭用では今回の製品が初めて。これまで電球、蛍光灯など家庭用照明事業の経験がない同社が、新たな事業として新規参入する事業だ。

 現在、建設中の液晶パネルおよび薄膜太陽電池の生産拠点である堺工場では、10万台のLED照明が導入され、6,000万のLED素子が活用されるという。早くもこれだけの量産が開始されているともいえ、自社生産と外部調達を組み合わせることでの量産効果も生み出せることになろう。

節目の年にスタートし、節目の年に成果を目指す

 LED照明は、大阪・八尾のシャープ八尾工場で開発される。

 八尾工場は、1959年に白物家電生産の一大生産拠点として、当時の最先端設備を導入し、業界に大きな衝撃を与えた形で操業。今年はちょうど操業50周年を迎える。

 その記念すべき年に、新たなに家庭用照明事業に参入することになるのだ。

 そして、シャープが創業100周年を迎える2012年度を見据えて、早期にLED照明事業を500億円規模にまで成長させる考えだ。

 そうした節目の年に参入した、家庭用LED照明事業は果たして、どんな成長曲線を描くのか。

 量販店店頭などでの売り場づくりも、これから開始することになり、また。照明市場におけるシャープのブランドづくりもこれからの課題だ。

 最後発は、不利な点が目立つ傾向があるが、過去のしがらみがないという状況を、いかに有利な要素にできるのかが鍵になるだろう。





(大河原 克行)

2009年6月11日 17:40