大河原克行の「白物家電 業界展望」
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「夜家事家電」と呼ばれる商品が注目を集めている。
これは、運転時の騒音を抑えるなど夜でも安心して使えるよう配慮された家電製品のこと。共働き世帯の増加や、単身赴任、ひとり暮らしなど、夜の時間帯に家事をしなくてはならない世帯が増加していることから、注目が集まっている。
特に、洗濯乾燥機、掃除機など、騒音を発しやすい商品での改良が進んでいる。洗濯乾燥機では、深夜、早朝の時間帯での利用に適した「おやすみコース」、「ナイトモード」といったコースが用意されており、「夜ボタンを押せば、朝には洗濯物が乾いている」ということも可能になる。
夜家事家電はどの程度の人気を博しているのか。この分野で先行している東芝の動きを捉えながら、動向を追ってみた。
■女性の社会進出で洗濯時間が夜に移行。二世帯住宅などで洗濯物の増加も影響
全国有力家電量販店の販売実績を集計するGfKジャパンの調べによると、洗濯乾燥機のうち、洗濯運転音が30db未満の商品の構成比は、今年3月の実績で45.1%を占めた。30dbは、ささやき声レベルの静かさといわれる水準だ。
昨今では省エネモードを優先する商品企画が先行していることから、売れ筋商品の特徴が、音よりも、省エネに移行している傾向にある。そのため、昨年秋時点で30db未満の商品構成比が9割を超えたという状況に比べると減少しているが、それでも量販店店頭では「静かさ」に対するニーズは高い。
掃除機でも50db未満の掃除機の構成比が昨年11月までは1%未満だったものが、今年3月には3.0%にまで上昇している。現時点では、ハイエンドモデルにおいて低騒音化が進んでいるため、メインストリームの商品での搭載はこれから。そのため構成比は少ないが、着実に需要は増加しているようだ。ちなみに、50dbは一般的なオフィスレベルとされる。
一方、東芝によると、洗濯乾燥機の購入時に検討する重視点として、「省エネ性」に次いで、2番目に「音・振動」が入っているという。実に6割以上の人が静かさを求めていることが明らかになっている。
さらに同社の調べでは、音の静かなタイプの洗濯乾燥機を購入した人のうち、午後10時から深夜0時までに洗濯をしているという人が25%、深夜0時から午前7時までとした人が22%に達しているという。合わせて47%と、半分近くのユーザーが、深夜・早朝に洗濯をしていることがわかった。購入前はそれぞれ10%、12%に留まっていたことと比べると、低騒音性を生かして、夜に家事を開始した人が増加していることがわかる。
東芝ホームアプライアンス アプライアンス事業部アプライアンス商品企画部ランドリー商品企画担当参事・森田いづみ氏 |
静音タイプの洗濯機・洗濯乾燥機の購入者を対象とした、洗濯時間の変化。購入後は深夜早朝帯に使用する割合が増えている |
■1997年から静音タイプ洗濯機を展開。最新モデルでは乾燥まで42dB以下で運転可能
東芝の静音タイプの洗濯機の変遷 |
夜家事家電で先行している東芝が、洗濯機で低騒音性を追求した商品を初めて投入したのが、1997年に発売した縦型洗濯乾燥機「うるさくしま洗 からみま洗 AW-B70VP」である。
同社の洗濯乾燥機事業における基幹技術の1つであるDD(ダイレクトドライブ)インバーターモーターを搭載し、それまで洗濯機の騒音の問題となっていた運転時のギア音やモーターのうなり音の削減、モーターのバランスを図ることで騒音の元凶となる振動を抑えることで、脱水時の騒音を従来の54dbから45dbに低減することに成功した。
また、2000年のドラム式洗濯乾燥機「ホームランドリー銀河 TW-F70」にも、DDインバーターを採用。とくに、木床が中心となる日本においては重量による振動が伝わりやすく導入しにくかったという、それまでのドラム式洗濯乾燥機の欠点を補い、「夜洗って、朝着られます」のキャッチフレーズとともに、商品化した。
2005年に発売した「ザ・フロントインドラム TW-130VB」では、DDインバータを進化させたS-DDエンジンを採用。さらに、洗濯物の量や状態、ドラムの振動を検知し、回転を制御する振動センサーおよびDSPコントロール機能によっても低騒音化を進化させている。
また、「おやすみコース」を用意。深夜という長い時間を利用できるメリットを生かして、時間をかけながら、静かに洗濯するといったモードによって、低騒音化を実現するといったことにも取り組んでいる。
その後の進化によって、現行の縦型洗濯乾燥機では脱水時に37db、ドラム式では洗濯時に31db、脱水時に39db、乾燥時に42dbにまで低騒音化している。こうした機能によって、脱水時および乾燥時を低騒音化したことが、夜家事利用を促進するきっかけとなっている。
東芝の縦型洗濯乾燥機の最新機種「AW-80VF」。運転音は、洗濯時が26dB、脱水時が37dB、乾燥時が45dB。このうち、洗濯と脱水時については「業界トップ」の低騒音を謳っている | 東芝のドラム式洗濯機の最新モデル「TW-5000VFL」。洗濯/脱水時は31/39dBと縦型よりも若干運転音が大きいが、乾燥時は42dBに抑えている |
■東芝独自のモーター技術で50dBを切る運転音を実現――「Quie(クワイエ)」
一方、掃除機においても、昨年3月に低騒音化を図った「Quie(クワイエ) VC-1000X」を発売した。9月には上位機となる同-VC2000Xを投入。さらに、紙パック方式の商品もラインアップした。
かつては吸引力を下げながら、低騒音化を図ったものもあったが、クワイエでは吸込仕事率450Wという吸引力を維持しながらも、49dbという低騒音性を実現したのが特徴だ。
東芝ホームアプライアンス リビング機器事業部リビング機器企画部クリーン商品企画担当グループ長・大塚裕司氏 |
東芝が、吸引力を維持しながら、低騒音化を実現できたのには、大きく4つの要素がある。
1つは、強い吸引力と高い静振性を両立した東芝独自開発のハイバランス静振モーターの採用。モーターを自社開発している強みを生かした東芝ならではの強みといえる。
2つ目は、モーターをスプリングで宙づりに固定する「モータショックアブソーバー機能」の採用。モーターによる振動を減らし、さらにモーター全体をカバーすることで運転音を低減した。
そして、3つ目にはモーターの下で4つのサスペンションが支える「振動吸収サスペンション」の採用。これによつて、モーターから伝わる振動音を低減する。
最後に、外部に漏れる排気音を低減するために排気風路全体を吸音素材でカバーリングする「排気音吸収バイパス」の採用。これにより、排気音を吸収することに成功した。
運転音が49dBのサイクロン式掃除機「Quie(クワイエ) VC-1000X」。現在では第二世代のVC-2000X、紙パックタイプの「VC-P100X」を中心に、家電量販店などで展開されている | クワイエではモーターをバネで宙づりにすることで、振動を減らしている | モーター下部には振動を吸収するサスペンションも備えられている |
モーターの周りには振動を吸収するバネが設けられている | 試作段階のクワイエのモーター。周りにはそれぞれの場所の振動の数値が細かく書き込まれている |
「49dbの低騒音化を実現する一方、高周波帯の高い音を消す工夫をすることで、耳にやさしい、不快感を無くした『音』を実現した」(東芝アプライアンス・大塚グループ長)という努力も見逃せない。普及モデルでは、50db後半から60db前半という運転音だが、これに比べると大幅に低減しているのがわかる。
実は、東芝では、掃除機の低騒音化に対しては、独自の研究を続けてきたが、吸引力といった基本機能、排気のクリーン化、あるいは小型化という動きが優先され、なかなかすべての研究成果を取り込むことができていなかった。
だが、夜家事という需要層が顕在化しはじめたこと、それに伴い、低騒音に対する要望が高まってきたことから、開発成果を全面的に採用することになったという。それが、クワイエの商品化につながっている。
■乾燥後のシワの抑制や排気のキレイさなど、使い勝手の面でも進化
夜家事家電の要素は、低騒音に集中しがちだが、実は、それ以外の機能でも、見逃せない要素がある。
それは、使い勝手という観点からの要素だ。
例えば、東芝の場合、洗濯機の洗濯予約を簡素化するために、それまでの洗濯乾燥機には搭載していなかった時刻による設定を実現した。
「従来の洗濯乾燥機では、何時間後というような設定が可能だった。しかし、日付をまたぐ設定をすることが多いため、何時間後に仕上がるように設定すればいいのかという計算が繁雑で、設定操作を難しくしていた。炊飯器と同じように、直接、予約時刻を設定できるようにし、さらにジョグダイアルにより、簡単に10分単位で設定できるようにした。また、大型液晶パネルの採用によって、時刻設定時の操作などを、高い視認性で行なえるようにした」(東芝アプライアンス・森田参事)。
加えて、ヒートポンプ機能の搭載によって、乾燥後もしわが少ないようにすることで、朝、着ていく服の仕上がり状態を高めることも、夜家事を実現するための要素の1つだといえる。
東芝の調べによると、ヒートポンプ機能を搭載したドラム式洗濯乾燥機の利用者のうち、予約機能を利用しているユーザーは、毎日使っているとした人が30%、時々使っている人が29%。約6割のユーザーがこれを利用しているという。
従来の予約運転は「*時間後にスタート」といったものだったが、仕上がりの時間を液晶画面で設定できるようになった(写真は東芝「TW-170VD」) | 写真右がヒートポンプ乾燥方式のYシャツで、左が天日干し、中央がヒーター方式で乾燥したもの。ヒートポンプユニットを搭載することで、乾燥後のシワができにくくなった(東芝「TW-3000VE」発表会より) |
0.15μmの粒子に対して99.9995%以上の粒子捕集率を持つウルパクリーンフィルターを搭載 |
一方、炊飯器でも、東芝の場合は、ダブル真空新鮮予約機能によって、深夜に炊飯予約のセットをしても、朝の炊きあがりをおいしくすることができる機能を実現しているという。
「深夜に炊飯をセットすると、どうしても、長時間に渡り米に水が浸り、これが米粒の煮くずれの原因となる。当社の炊飯器で搭載している真空技術によって、米の芯まで浸透吸水したあと、常圧と真空を3時間ごとに繰り返すことで、深夜の予約炊飯でも、朝にはふっくらご飯が炊きあがるようにしている」(東芝ホームアプライアンス経営企画本部ブランド推進担当グループ長・本田要一郎氏)。
こうした機能も、夜家事家電を支える重要な機能だといえる。
クワイエでは、排気のホコリを巻き上げにくくする「新・上質クリーン排気設計」を採用している | 東芝の炊飯器「RC-10VGB」では、予約炊飯の際に米に水が入りすぎて煮崩れしないよう、3時間ごとに釜内を真空/常圧に切り替える機能を備えている |
■「今後も低騒音に対するニーズが増えていくことは確実」
では、今後、夜家事家電はどうなるのだろうか。
東芝ホームアプライアンスの森田氏は、「売れ筋の変化によって、低騒音モデルの構成比は変わる可能性があるが、静音性に対する潜在的な需要が減る理由は考えられない」とする。
一方、同社・大塚グループ長も、「掃除機の場合は、コストの観点から、現段階ではすべての機種に搭載することが難しいこと、一軒家などではあまり騒音を気にしないで済むといった背景もあり、すべてのユーザーに当てはまるとはいえないが、店頭にきてから低騒音性を知って購入する人が確実に増えているのは確か。具体的なデータではないが、若い人を中心に3人に1人は低騒音性を重視しているという感覚がある。今後も低騒音に対するニーズが増えていくことは確実であり、当社以外にも商品が広がれば、需要が顕在化する」と期待を寄せる。
生活スタイルの変化とともに、深夜・早朝に家事を行なうための「夜家事家電」は、着実に広がりを見せることになりそうだ。
2009年5月11日 00:00