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そこが知りたい家電の新技術

“高級扇風機”という新ジャンルを創った「GreenFan」ができるまで

〜バルミューダ・寺尾玄代表取締役社長に聞く
by 正藤 慶一
バルミューダの「Green Fan(グリーンファン)」シリーズ。高級扇風機という新ジャンルを創出したその理由は何か

 家電業界ではこのところ、“やさしい風”や“低消費電力”を謳う高級扇風機が各社より投入されている。価格帯は3万円前後と、これまでの扇風機と比べるとかなり高いものの、東日本大震災の影響による節電意識の高まりもあって、各社とも人気を博しているようだ。

 この高級扇風機の走りとなったのが、2010年4月1日、バルミューダ(当時はバルミューダデザイン)から登場した、希望小売価格33,800円の「GreenFan(グリーンファン)」だ。3Wという少ない消費電力で、“心地良い自然の風”を生み出すことが話題を呼び、ヒット商品となった。翌2011年には運転音を抑えた「GreenFan2」、そして2012年には、小型でバッテリー駆動に対応した「GreenFan mini(グリーンファン・ミニ)」が販売されるなど、シリーズが続々と登場している。

 しかしこのバルミューダという会社、グリーンファンが完成した当初の社員数は、たったの3名だった。グリーンファンのヒットがきっかけとなり、で現在は20名に増えたとのことだが、それでも大手家電メーカーと比べると、圧倒的に人数が少ない。それなのになぜ、高級扇風機という、これまでになかった市場を創出し、そこでヒット商品が生み出せたのか。

 そこで、バルミューダの寺尾玄社長に、グリーンファンができるまでの過程や新製品の特徴、そしてバルミューダという会社の狙うものなどについて、話を伺ってみた。

 

創業のきっかけは「かっこいいプロダクトメーカーを作りたい」

――まずは、バルミューダという会社について伺います。設立されたのは2003年ですが、社員はその当時から3名だったのでしょうか?

バルミューダ 代表取締役社長 寺尾玄氏

 いえ、当時は1名、つまり私1人でした。

 バルミューダを立ち上げる前は音楽をやっていましたが、夢が終わってしまった事がはっきりとわかった瞬間があって、次に何をやろうかと考えていました。当時からMacやハーマンミラー社の椅子「アーロンチェア」を使っていましたが、日頃からその2つがプロダクトとして優れているなと感銘を受けていたので、ものづくりをやろうと思いました。

 ものづくりといっても、デザインや加工というよりも、「かっこいいプロダクトメーカー」を作りたいという思いが強かったんです。自分が消費者の場合でも、単品ではなくて、その後ろに控えているストーリー込みで“いいな”とか“ほしいな”とか思っていたので。

 ものづくりのブランドとしてカッコイイと思ったのは、パタゴニア(アウトドアのブランド)とアップルですかね。その2つの影響が強かったと思います。

――昔からものづくりに対する勉強をされていたのですか? 学校で理系だったとか

 いや、一切ありません。そもそも高校を中退したので、(理系でも文系でも)どちらでもないです。

 でも、ものを作る以上はいろいろなことを学ばなければいけないので、ホームセンターや秋葉原に行って、「これは何でできているんですか」ということを聞いてまわることから始めました。


リーマンショックの末に「たくさんの人に作ったものを使ってもらいたい」という思いに

――グリーンファンを世に送る前のバルミューダは、ノートパソコン用の冷却台や、LED光源の高級デスクライトなどを作っていました。そこから、なぜ扇風機に移ったのでしょうか

 きっかけは2008年のリーマンショックでした。景気が悪くなるという肌感覚が日本中に行き渡って、高いものが売れなくなっていました。私達の商品も高かったので、一気に売れなくなりました。たとえばデスクライトは、組み立てるのに2時間かかるんです。今もオフィスの地下で作っていますが、手間ひまをかけて作っているので、ビジネスとしては利益を出すところまでは成り立っていませんでした。

 当初は好きなものを作っていればしょうがないか、との思いでやっていたのですが、いよいよ状況が悪くなってきて、“このままでいいのかな”という想いが生まれ、自分で何が一番したいのか、考えるきっかけになりました。人間って、困らないと真剣に考えないんですよね(笑)。

バルミューダの第一弾製品となったノートパソコンの冷却台「X-Base」。販売中で、価格は36,540円 高級LEDデスクライト「Highwire」シリーズ。インテリアショップでも扱われた。左の「Highwire Smooth」は現在も発売中で、価格は39,900円 当時から手作業で制作していたHighwire Smoothは、今もオフィス地下の工房で、手作業で作られている

 その時に思ったのが、「もっとたくさんの人に、自分たちが作ったものを使ってもらいたい」という純粋な想いでした。バルミューダは「世界で一番カッコイイものを作りたい」というところから立ち上がりましたが、言ってみれば当時でもそれはできていたように思います。自分の感覚ではカッコイイと思っているわけだったので。それでも、まだ満たされていなかったのです。もっと多くの人に製品を使ってもらいたいという気持ちがあることに気づきました。

 じゃあ、どうなすれば多くの人に使ってもらえるのか。参考にしたのが、今の大手メーカーの「立ち上がり」でした。何しろ彼らの製品は多くの人に使われていますから。今や完全に大手になってしまっている会社も、多くの場合、最初はガレージから始まっています。ホンダもパナソニックもマイクロソフトもアップルも。

 それらの会社には、ある共通点があることに気づきました。それは、「時代の波に乗った」ということ。それに乗らずに、大手と呼ばれる規模にはまずなれないと思います。日々仕事する、アイデアを出すことはもちろん重要ですが、時代の波に乗らないと、本当に強い成長には繋がらない。でも、波が来てから、車を飛ばしてその海岸に行っても遅いんです。どこに時代の波がやってくるのか自分の勘で決めて、最初からその海岸でパドリング(サーフィン用語。波に乗る前に手で漕いで準備しておく)して待っていなきゃいけないと思いました。

 そして、私達が選んだのが「冷暖房」でした。「省エネルギーで、人々の暑い寒いを解決するものを作りたい」と。

 化石燃料はいつかは無くなります。我々は何万年もかけて太陽エネルギーが蓄積した、言わば努力の結晶のようなものを掘り起こして使っています。エネルギーの調達が困難になる時代が来ると思いました。と同時に、地球の温暖化が進んでいるとしたら、夏はもっと暑くなるのに、使うエネルギーが足りなくなる時代が来ます。その時にどうするのでしょうか。みんな困りますよね。

 世界の多くの人たちが同じ理由で困る場合、事業のポイントの置き方としては、効率が良くなると思います。それを解決する1個の機械を作れば、みんなに必要とされて、多くの人に使ってもらえます。戦後の日本もそうだったと思います。洗濯機、テレビ、みんなが必要とするものをそのときにつくっていたことが、今の大手という会社の礎になっています。

 時代の流れによる大きな“波”というのは、ほかにもやってくると思います。風力発電、太陽光発電、ソフトウェア、半導体とか。でも、半導体を作ろうとしても、当時のバルミューダでは作れません。やっと部屋を借りて成り立っている程度でしたから。

 でも、“暑い”、“寒い”なら、親しみもあるし、自分たちもよくわかります。非常にシンプルな問題ですが、そこに「困る」という形で関わっている人数が、ものすごく多くなります。みんなが困るなら、それを解決する製品を自分たちが作れば、多くの人に作ってもらえるんじゃないかと思いました。

――冷暖房というと、エアコンやストーブなどもあると思いますが

 最初は熱交換器の実験もしましたが、実験をしていくうちに、送風こそが冷暖房の基礎中の基礎であることがわかりました。

 暖房は輻射熱や赤外線で、テーブルで火が燃えていたら暖かいんです。でも、例えばここ(テーブルの上を指す)に氷があったらどうですか。涼しそうだけど、涼しくない。涼しいというのは、空気を循環しないと人に伝わりません。送風というものは非常に重要であると。だったらまずここから極めるべきじゃないかと思いました。

グリーンファンの開発時、社員は3名。しかも倒産の危機に瀕していたという

 奇しくも、会社が本当に倒産寸前という状態でした。正直、「もって半年かな」と思いました。照明など既存のアイテムで何とかしようと思いましたが、それも手遅れだろうと。最後に、一番やりたかったことをやろう、倒れるなら前に倒れよう、という思いで、ほかの一切をやめて、扇風機の開発に突入しました。

――扇風機の開発をスタートしたのはいつですか

 2009年の初頭、1月でした。予定では、2009年の夏ごろに倒産する予定だったんですよ(笑)。

――2009年の秋には、ダイソンから羽根のない扇風機「エアマルチプライアー」が発表されました。グリーンファンが出たのが2010年春だったので、何か影響があるのかなと勘ぐってしまったんですが

 いやいや、それはまったくないです。秋から開発していては間に合わないですよ。完全に偶然です。こちらもびっくりしました。

当時の扇風機は、良いモノがひとつもない珍しい市場

――扇風機を作るということになったのはわかりましたが、それがグリーンファンの「自然の風」という形に行き着くまでに、どのような経緯があったのでしょうか

2010年に登場した第一弾のグリーンファン

 当時の扇風機市場は非常にユニークで、良いものが1個もないという珍しい市場でした。あたかもラジオのように、“過去的な商品”だと、メーカーも消費者も思い込んでいて、そこで何かが起こるというのは誰も想像していませんでした。そこにものすごいチャンスがあると思ったんです。“本当に扇風機ってそこまでのものなのか。もっとよくできないのか”、と。開発のスタートは、次の時代の良い扇風機を作りたい、ということでした。

 これまでのLEDデスクライトも良い製品ですが、“この「良い」では通用しない”ということはわかっていました。白物家電では、良い掃除機、良い洗濯機、良い炊飯機は存在します。例えば炊飯機は、ボリュームゾーンが2〜3万円に対して、高級モデルでは10万円くらいする。でも、それも何十万台も売れているのは、「見た目が黒くて四角くて、デザインがすっきりしているから」というわけではありません。

 何で売れているかというと、炊き上がりが違うから。そこに答えがあって、良い商品とは「ユーザーメリットが大きい商品」ということにやっと気づきました。そのメリットが3倍なら、3倍の価格でも売買が成り立つと思います。

 我々のようなハードウェアメーカーはつい勘違いしがちなんですが、ユーザーが買うのはハードではなくてソフトです。ハードを買うことによって、得られる効果や効能に対してお金を払う。それこそを大きくしなくてはいけない。

 その視点で扇風機を見ると、ハード的には風を送る機械ですが、ソフト的には涼しさを得る機械です。これは、同じようでいて実は違うんです。どっちを目的にするかで、ものづくりは全然変わってきます。

 今までの扇風機は、風が人工的なので、結局、当たり続けられなくて、みんな首振りを使う。そうすると、風が届くのが一瞬になってしまい、結局涼しくなく、熱い空気をかき混ぜてるだけのものにしかなれなかった。我々は、「風」ではなく「涼しさ」を提供しなければいけないと思ったわけです。

 じゃあ、涼しくて良い風ってどこに吹いているかというと、外に吹いている。 当時、たくさんの人に「自然の風と扇風機の風どっちが気持ちいい?」と聞くと、「自然の風」という答えが100%でした。ということは、みんなその違いを感じている。じゃあ、自然の風が出てくればいいじゃないのかと。まずはそこから解析し始めました。

自然な風を生み出したポイントは、平衡を好む「流体」を味方につけたこと

――自然な風と扇風機の風の違いとは、一体何ですか?

グリーンファンの特徴は、羽根を2重にした「グリーンファンテクノロジー」が特徴。しかし、なぜこの形状に行き着いたのか

 扇風機からは、旋回流といううずまきの風が発生しています。これは軸流ファンの宿命なので逃れられない。それに対して自然界の風は、うずを巻いておらず、大きな面で移動する「空気の流れ」です。そんな風が扇風機から出てきたら素晴らしいじゃないか、じゃあそれをやろう、ということになりました。

 ここで思い出したのが、私がものづくりをはじめてお世話になった、東小金井の町工場の職人さんです。彼らは扇風機を壁に向け、はね返ってきた風に当たっていました。そうすることで、風がやさしくなると言っていたのです。それを思い出してすぐやってみると、本当にやさしく感じました。なぜなら、うずまきの風が壁に当たることで渦が壊れます。推進力は失われますが、後ろからどんどん新しい空気が送り出されるので、背中を押されるようにして、面で移動するやさしい風に生まれ変わります。こうして風を一度ぶつけることによって、渦を壊せば良いということがわかりました。 

 次は、一枚の羽根から送り出される風をどうやってぶつければ良いか、という課題がありました。

 答えのきっかけは、テレビで小学生が長い二人三脚をするのを見ていた時のことです。遅い子と早い子がいて、最初は一直線だった子供たちの列が、必ず遅い子を中心に引っ張られるんです。それを見ていくと、流体でも同じことが起こるんじゃないかと思いました。

 流体とは空気や液体など流動性を持ったもののことですが、それに著しく大きな差が生まれた場合、その差をなくそうとする運動がはじまります。

 例えば、水面が高いところと低い所があって、水路がつながっていると、同じ高さになるまで運動が続きます。スピードが著しく違う2種類の風が隣りあわせで進んでいったとき、違う何かが起こるんじゃないかと思いました。

 そのアイデアで、ほぼこの羽根が完成しました。遅い・早い2種類の風を出す羽根が頭の中にぱっと浮かんで、試作品を作ってみると、案の定、空気が違う流れ方をするというのがわかりました。

 内側の羽根は、送風効率を落とした設計にしており、遅い風を送り出します。一方外側の羽根は、最大まで送風効率を上げています。内側から送り出される風に対して、外側の風の速度は約2倍。速度が違うということは、送り出される空気の量が違うということです。

 この羽根が回った時、内側の羽根の前方では、送り出された空気が少ない状況が生まれます。この空気が少ない状態を無くそうとして、外側の大きな風が内側に引き込まれてきます。途中までは渦を巻きながら引きこまれていって やがて一点で集中します。

 こうして風をぶつける架空の壁ができて、渦成分が壊れ、そこから先は面で移動する空気の流れに変化します。これが「グリーンファンテクノロジー」です。この羽根の最初の試作品ができたのが、2009年の4月でした。

グリーンファンの風は、外側が強い風を、内側が弱い風を放つ構造になっている こちらは普通の扇風機。羽根でカットした風がそのまま送られる。そのため、自然の風とは程遠かった グリーンファンでは、羽根の少し先のところで、内外の風が当たり、そこから自然のような面の風が広がっていく

――グリーンファンでは、だいたいどのあたりに“壁”ができますか?

 ファンのすぐ近く、風が出たばかりの地点では、渦が巻いています。少しずつ手を離していくと、ある一転で急にやさしくなります。だいたいこのあたり(羽根の50〜60cmほど前のところを指す)でしょうか。その前後で比べると、風の質が全然違います。


DCブラシレスモーターは緩い風を出すため。省エネは結果的に気づいた

――羽根の構造についてはよくわかりましたが、一般的な扇風機では使われていないDCブラシレスモーターを採用した理由は何ですか

グリーンファン・ミニの発表会で展示された、羽根を回すモーター部。一般的な扇風機よりも高い「DCブラシレスモーター」を搭載している

 この羽根は面積がとても広いため、普通に回すと、風が出すぎてしまいます。一般的なACモーターの扇風機の場合、弱運転が毎分600回転、中が800回転、強が約1,000回転でした。一方、グリーンファンで600回転をとなると、この風になります(グリーンファンの3段階目の風量で送風する)。

――ちょっと強すぎますね

 目指していた自然のそよ風を実現するためには、もっと低い回転数で回す必要がありました。従来のACモーターではそれができません。

 それができる技術を探していたところ、DCブラシレスモーターという、とても高価なモーターに行き当たったわけです。

――モーター単体でいえば、どれくらいの価格差がありますか

 コスト的にはおよそ20倍、30倍違うと思います。モーター単体というよりも、回すために多くの電子部品も必要になります。

 DCブラシレスモーターは高度な制御が必要になります。そのかわり、低い回転数でも高い回転数でも、細かい制御が1個のモーターでフォローできるという特徴があります。

――価格の面では気になりませんでしたか

 最初から良い製品を作るという想いがありましたので、やさしい風、当たり続けられる風を実現しないことには、それが9,000円であろうが10万円だろうが、自分たちにとっては意味がなかったのです。できるか、できないかだけだったので。価格は気にしませんでした。

最小消費電力は、たったの2W(グリーンファンミニの場合)。しかし、DCブラシレスモーターが省エネであることは、結果的に気づいたという

 結局、このモーターを選んで実験していくうちに、消費電力を測ったら、とても低かったのです。これは大変なことになったと(笑)。正直に言うと、最初から消費電力が低いことを狙ったわけではありませんでした。低回転で回して、涼しさを作りたい。それを目的に試行錯誤していくなかで行き当たって、結果的に省エネだった、というわけです。


グリーンファンの開発は、約束のない道を全力で走っているという疾走感

――いざ完成した後、どのように販売しましたか。既に発売していたLEDデスクライトの販路などを活用したのでしょうか

 いえ、むしろ新規開拓が重要だったので、当時たった一台しかなかった試作品グリーンファンを私が持って、家電量販店の本部や、カタログ通販のバイヤーさんに会いに行ったりしました。羽根ができて、自分たちも浴びたことがない風でしたので、“これは会社を潰している場合じゃない”と。なんとしてでも商品化しなければいけないと使命感が湧きました。

 当時のバルミューダは本当に倒産寸前でした。でもギリギリで素晴しい技術と出会いました。それをモノに出来るかどうかは、まさに自分達の働きにかかっていました。倒産するのか、新しい扉を開くのか、のるかそるかです。約束のない道を全力で走っているという実感がありました。あの時の疾走感は今でも忘れられません。

――第一弾のグリーンファンは2010年の春に発売されました。発売後の反響はどうでしたか

 3万円の扇風機というだけで笑われたり、また今までの商品と同じ運命じゃないかなど言われたこともありましたが、結果的にグリーンファンが理解され、メリットがユーザーに伝わって、我々の予想を上回るセールスを初年度から記録しました。

 4月1日に新製品発表会を行い、同日にアメトーーク(テレビ朝日)やトレたま(テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」の番組内コーナー)で紹介され、その後も多くのメディアに取り上げてもらいました。特に初年度に関しては、「新しくて良い」扇風機という新鮮さが大きな突破力になったと思います。

震災の中で登場したグリーンファン2は、増産が追いつかないほどの人気商品に

2011年には、第二弾製品となる「グリーンファン2」が登場。静音性が向上し、リモコンも搭載された

――そしてその翌年には、グリーンファン2が登場しました。これは初期タイプと何が違いますか?

 リモコンを付けたこと、モーターが静かになったというところです。初期グリーンファンでは、回転するときにDCブラシレスモーター特有の音が鳴っていたのですが、ソフトウェアと中のハードを変えることで、ほぼ無音で回るモーターになっています。

――製品のリリースが発表されたのは、東日本大震災直後の4月でした。ちょうど電力不足が叫ばれたタイミングで登場しましたが、もともとその予定だったのですか

 発表日は当初から一切変更しませんでした。4月の段階では、余震が発生するんじゃないのかとか、原発も落ち着いていなかったし、そもそも商取引が成り立つ国になるのか、というのも分かりませんでした。でももし安定したら、より多くの人に必要としてもらえると思っていました。

――部品が調達できないなどの問題はありましたか

 ありました。マイコンの材料は東北で作っているので、材料工場が被災して、タイに送り込んだ分しか調達できないという状況でした。それよりも、去年は5月20日くらいで、ひと夏に作る予定だったすべての予約がついてしまい、そこからどうやって増産するのかということになりましたが、やはり震災の影響で少ししか増産できませんでした。


新製品ではバッテリーを搭載。「今度はコードがついてる扇風機がありえなくなる」

――そしてこの夏、グリーンファンを小型化し、バッテリー駆動にも対応した「グリーンファン・ミニ」が登場しました。小型化に至った経緯を聞かせてください

今年の新製品となる「グリーンファン・ミニ」(写真中央)。バッテリーを内蔵しており、持ち運んで気軽に使える点が特徴

 グリーンファンは広くて豊かな風が出るので、広いリビングで使うのにちょうど良いのですが、寝室や子供部屋で使う場合には、ここまでは必要ないな、という想いがありました。

 扇風機って結構運ぶことが多いと思います。昼間リビングで使って、夜に寝室で使うなど。いろんなものがポータブルになっている中、これはもっと便利になるべきじゃないかなと思いました。

 去年、震災のこともあって、グリーンファンが動かせるリチウムイオンバッテリーを仕入れて販売していました(2011年5月発売の「minigorilla[ミニゴリラ]」)。しかし、グリーンファン・ミニのバッテリーセットでは、いざという時のためよりも、持ち運べる便利さや自由さにフォーカスしています。

 今までなかったのでわかりにくいかもしれませんが、コードレスで持ち運べるのは本当に便利ですよ。今度はコードがついてる扇風機がありえないということになるかもしれません。

――グリーンファン・ミニでは、台座の中にモバイルバッテリー「UniPack(ユニパック)」を内蔵して使うというアイデアが斬新です。このアイデアはどこから出たのでしょうか?

グリーンファン・ミニの底部には、電源となるモバイルバッテリーが内蔵できる。他社製品にはない、おもしろいアイデアだ

 モバイルバッテリー方式にすると、例えばiPhoneも充電できます。扇風機を使わない冬でも、バッテリー単体で使用することが可能です。

 また、これを完全内蔵タイプにすると、今までのグリーンファンユーザーにバッテリーが届けられません。今までのお客様のフォローも含めて、取り外して使えるようにしたらよいと思いました。

 あとは価格の幅もありますね。必ずしもバッテリーが必要じゃないユーザーもいます。バッテリーなしでも提案できると、お客様の選択肢も増えると思いました。※編集部注:グリーンファン・ミニのバッテリー付きは希望小売価格34,800円、バッテリー無しは24,800円。

――本体も小型化されたことで、羽根も小さくなったと思います。それでも、従来のグリーンファンと同じ風が出るんでしょうか。

  能力は当然ながら落ちますが、自然な風が出るという点では同じです。寝室や子供部屋なら十分な風を届けることができます。

 グリーンファン・ミニでは細部にこだわった部分が多く、例えば裏面は1個もネジはありません。どこを見ても綺麗な美しい商品を目指そうとしました。隠れているところまで、きちんと処理しています。

 こういうことは本来、やらなくても良いかもしれません。でも、やることによって、商品にオーラが出てくる。羽根の黒い枠も、金型にGOサインを出してから、1mmだけ大きくするために、設計変更を入れました。製品ができれば良いだけなら、やる必要はありません。良い製品を作るにはやらなければいけないのです。開発は効率ではなく、情熱です。


真似をされるということは、そのアイデアが優れていたということの証

――グリーンファンの発売以降、他社からも“やさしい風”を謳ったり、DCモーターを採用するなどの高級扇風機が出てきています。これについては、どのように考えていますか?

  それだけ、自分たちの模倣と競争を引き起こすのは、ヒット商品の宿命なんですね。アイデアが優れていたということの証明なのだと思います。

――中にはモロにデザインも真似しているものもありますが

 優れたアイデアやコンセプトは真似されるものだと思います。それに対して必要な場合は、しかるべき対応をとるかもしれませんが、なるべくならそこに労力をかけたくありません。時間も人も限られていますし。中国でも、グリーンファンの偽物はたくさんありますからね。それにいちいち対応しているよりも、もっとすごい新製品を作る方が、よほど利益になると思います。

 この会社にいるメンバーは、バルミューダの雰囲気や楽しさを理解して、楽しむために働いています。ものづくりをやっていて一番楽しいのは、自分たちが作ったものを多くの人が使ってくれて、「いいね」と思ってくれること。「これがあってよかったよ」と言ってもらう、人に必要とされるということです。これは一番の生きがいです。この楽しさの追求がバルミューダのやり方だと思っています。


大手メーカーにできなくてバルミューダにできることは

――開発当初は3名だった社員も、今は20名に増えたとのことですが、仕事はやりやすくなりましたか

オフィスでの寺尾氏。社員数が増えたことで、舵取り役に専念できるという

 個人的には、舵取りに専念できるというのが一番です。以前は営業から何からなんでもやっていたのですが、重要なポイントだけ自分がやって、あとは優秀なみんなが力を合わせてやるというチームができているので、会社としてのパフォーマンスは高くなりました。ただ、逆に忙しくはなりましたね(笑)。

――意地悪な質問ですが、逆に人数が増えたことで、やりにくくなった部分もあったりしますか?

 もちろんです(笑)。人間が2人集まった時点で、1人の時より大変な事が多いんですよ。人間が集まるというのは、争いやいさかいが起きる原因ですよね。集まらなければ起きない。組織の宿命だとおもいます。

 それでも何で集まるのかというと、1人より2人でやることによって、仕事の質とスピードを上げるためだからだと思います。そういう組み合わせでないと、組織ではないです。2人になって落ちることもありますが、それは組織である必要がないと思います。

 組織の目的は、パフォーマンスを上げること。そのために面倒さを承知の上で人間が集まるというものだと思います。

――大手メーカーと比べると、できないことも多いでしょうが、だからこそできることもあると思います

吉祥寺の新オフィス前での記念撮影の ようす。現在の社員数は20名

 できないことを一言で言うと、大きな規模が必要な事業です。例えば、チップを自分たちで開発するのは、今の我々にはできません。でも、逆に出来ることも山ほどあるんですよ。端的に言えば、自分たちが信じたアイデアを、責任をもって製品化して、責任を持って世に問うことです。

 事業というのはアイデアを実現するためにあると思います。1個のアイデアがあって、これを実現したら、世界が良くなるんじゃないか、あの人に褒められるんじゃないか、という単純な気持ちです。でも、それを本当のことにするには、数々の困難があります。必要な場合はお金を持ってきて、必要な場合は仲間を集めて、実現させて世に問うのが、事業の本来の姿だと思うんです。だからこそコアになるアイデアがとても重要だと思います。何しろ、その実現のために人生の多くの時間を使うのですから。

扇風機市場に革命を起こした「グリーンファン」。バルミューダは次にどんな革命を起こすのか

――わかりました。最後に、今後発売される製品について、何か一端でも教えていただけませんか?

 いやいや(笑)。以前は気軽に話していたんですが、仮にも真似される立場になりましたから。社員にも未来の商品について話すのは完全に禁止している手前、私が喋ってしまうと問題があるので、勘弁してください。

――でも、グリーンファンと同様、ユーザーメリットがある商品にはなりますよね

  そうですね。省エネと空調は今の事業のコンセプトなので、そのフィールドでまだまだ工夫はたくさんあると思います。

 それ無理でしょうって言ってしまうと、絶対無理ですからね。“いやいやわからいないぞ”という、「不可能」に疑問を持てるところこそバルミューダの良いところです。






2012年7月9日 00:00