そこが知りたい家電の新技術
日立「ビートウォッシュ BW-D9LV」
日立「ビートウォッシュ BW-D9LV」 |
日立アプライアンスの「ビートウォッシュ」といえば、縦型洗濯乾燥機の中でも異色の存在であり、確固たるブランドを誇っている。
ここ数年、高級タイプの洗濯乾燥機といえば、ドラム式ばかりが注目されてきた。日立の縦型洗濯乾燥機「ビートウォッシュ」はそんな洗濯機市場においても目立つ存在だ。安いから縦型とか、乾燥がいらないから縦型ではなく、縦型だからこそ購入するという層に、ビートウォッシュは広く浸透している。「ビートウォッシュだから買う」というファンがついている洗濯機なのだ。
では、そのビートウォッシュの特徴と魅力は何なのだろう。今回登場した新型機の特徴と共に見ていこう。
■縦型最大の利点は洗浄力にあり
日立アプライアンス家電事業部 家電事業企画本部 事業企画部 部長代理 津坂明宏氏 |
「ビートウォッシュは、今年で7年目を迎えました」日立アプライアンス家電事業部 家電事業企画本部 事業企画部 部長代理の津坂明宏氏は切り出した。
「ビートウォッシュのビートウォッシュたるゆえんは、“ビートウィング”という特別なパルセータにあります」(津坂氏)
パルセータとは、洗濯槽の底で回転する皿状のプレートのことだ。
「このビートウィングは、独特の形状をしており、洗濯物を大きく動かすことができます。洗濯物同士をこすりあわせたり、ビートウィングと洗濯物がこすれることで、効果的に汚れを落とすことができます。洗濯物を押し、叩き、揉み洗いをする動きです。これによって効果的に衣類から汚れが押し出されるわけです」(津坂氏)
このビートウィングは、年々改良が加えられており、当初のすべすべしたものから、新製品のBW-D9LVでは半球状の突起が加えられている。
「この半球状の突起は“ビートボール”といっています。これをビートウィングだけでなく、洗濯槽の内壁に付けることで、ちょうど洗濯板で洗うような効果が得られます。これによってさらに洗浄力がアップしました。縦型の最大の利点は洗浄力ですから、常に磨きをかけています」(津坂氏)
ビートウォッシュの洗濯槽 | 洗濯槽の底面には独特の形状をしたパルセータ「ビートウィング」が設置されている | 底面のパルセータだけでなく、洗濯槽内壁にも突起物を備える(写真は製品発表会時のもの) |
実際にビートウォッシュを見ると、パルセータであるビートウィングは洗濯槽の底の部分のほとんどを占めている。
また、洗濯槽の形が、浅く、口径が大きい。極端に言えば、普通の洗濯機がバケツのような形の洗濯槽だとすると、ビートウォッシュの洗濯槽はタライのような形だ。
「洗濯槽を浅くすることで、洗濯物を取り出しやすくなります。また、口径を大きくすることで、ビートウィングも大きくしているのです」(津坂氏)
しかし、洗濯槽が浅くなることで、洗濯機の重心が高くなり、振動が大きくならないのだろうか。
家電第一設計部 技師 松本幸司氏 |
技術者である家電第一設計部 技師の松本幸司氏は「たしかに重心は高くなりますが、振動は大きくありません。ビートウォッシュでは、本体を4本の吊り棒(振動を減衰させるためのダンパー)で支え、振動を吸収しているのです」と語る。
「振動や運転音については、設計段階はもちろん、試作機段階でも何度も見直します。試作機で、気になる音や振動については、設計にフィードバックし、コスト効果を見ながら、設計を修正していきます。設計と生産は別々に動くのではなく、ある段階からは一緒に動き、常にフィードバックが働くようにするのが重要です」(松本氏)
やはり、音や振動の面では、実機による検証と設計へのフィードバックが重要なのだという。
本体正面 | 本体側面 |
■エコビート洗浄でドラム式に負けない節水能力を獲得
今年のビートウォッシュの進化のキモは、「エコビート洗浄」にある。
「エコビート洗浄は、節水を突きつめた末に生まれた方式です。洗濯槽に水をほとんど溜めず、高濃度洗剤液のシャワーを上から降らせながらビートウィングで洗います。シャワーはポンプで循環しますから、節水にはきわめて効果があり、9㎏の洗濯の使用水量は73Lとなっています」(松本氏)
エコビート洗浄のキモとなっている循環ポンプは、ドラム式では例があるが、縦型で使用しているのはビートウォッシュだけだ。
洗浄液を循環する「節水循環ポンプ」(写真は発表会時のもの) | エコビート洗浄は水を洗濯槽にほとんど貯めずに、シャワーとビートウィングで衣類を洗うという独自の洗浄方法(写真は発表会時のもの) |
「ビートウォッシュは、常にドラム式洗濯機と競ってきた歴史があります。特に節水については、常に比較されてきました。エコビート洗浄は、縦型ならではの洗浄力とドラム式に負けない節水の両方を実現するための方法です」(津坂氏)
ビートウォッシュが、ドラム式と競ってきたという言うには訳がある。実は、日立はドラム式洗濯乾燥機において、国内メーカーでは後発だった。他社がドラム式の開発に力を入れている時に、日立ではドラム式に負けない、縦型洗濯乾燥機の技術を磨く必要があったのだ。
しかし、エコビート洗浄は最上位機種の洗濯乾燥機BW-D9LVにのみ採用されており、下位機種には未搭載だ。
「エコビート洗浄は構造の複雑化もあり、コストもかかります。今回は最上位のフラッグシップのみとなりました。BW-D9LVは構造の違いが、組み立て方の違いにまで及んでおり、他のビートウォッシュとは別のラインで生産されています。今後、技術の進化によりコストの低減が進めば、他の機種にも搭載されるでしょう」(津坂氏)という。
エコビート洗浄という独自の洗浄方法は、現時点ではBW-D9LVのためだけに開発された洗浄方法でもあるのだ。しかし、エコビート洗浄にも欠点はある。工程中でポンプを使うため、電気使用量が増えてしまうのだ。
「使う電気は増えていますが、節水効果が高いので、トータルのランニングコストは下がっています。多少電気を使っても、メリットの方が大きいと判断しています」と津坂氏は言う。このあたりは、電気代と水道代が変わるとバランスも変わってしまうところだが、節水性を優先しているという。
■水の硬度まで検知する4つのセンサー
地域によって水の硬度にはバラつきがあり、それが洗濯の泡立ちに影響するという(写真は発表会時のもの) |
BW-D9LVのもう1つの大きな特徴が「ECO水センサー」だ。本体には水硬度、水温、布質、布量を検知する4つのセンサーが搭載され、自動的に運転が制御される。水温や布量によって、運転を制御するという機能は、他社の上位機種にも多く搭載されている機能だが、水の硬度を検知するというのは日立だけだ。
「水硬度センサーは、昔からの課題への答えとして用意したものです。水の硬度によって、洗剤の泡立ちが変わるというのは、以前から把握していた問題でした。比較的硬度が高い沖縄県などでは、泡が立たないというクレームをいただいたこともあります。硬度が上がると、洗剤に含まれる界面活性剤の働きが鈍り、泡立ちも悪くなり、洗濯機の基本性能である洗浄力が低下してしまうんです。逆に硬度が低い場合は、少ない洗剤量で同等の洗浄性能を発揮します。つまり、センサーで硬度を見極め、投入する洗剤量を調整し、無駄を抑えるのです」(津坂氏)
水道水の硬度は、場所によって大きく異なるものだという。日立では、以前からこの問題に着目。水質を改善するために、硬度対策としてイオン交換樹脂を水路に入れ、水質を改善するという洗濯機も発売していた。
「イオン交換樹脂は良いアイディアだったのですが、定期的に塩を補給する必要がありました。ただ、洗濯機本来の機能のためではなくメンテナンスを目的としているため、面倒だというユーザーからの声や、塩が本体のサビの原因になってしまう、ということもあり、その機能は廃止したんです。しかし、硬度の問題を何とかしたいという思いはずっとあったんですよね。そこで、思いついたのが、水の硬度によって運転の仕方を替えるという方法でした」(松本氏)
メンテナンスの手間が壁となった課題を、別の方法で解決したわけだ。本体には、硬度センサー以外にも3つのセンサーが搭載されているが、センサー検知は実際の運転にどう反映されるのだろう。
「水温センサーは、水温が高いときには洗濯時間を短くします。布質センサーは、化繊を含む衣類の割合が多いときに、水量を調節して洗濯する機能です。化繊は綿などと比べると洗剤が落ちやすいので、短縮できるのです。布量センサーは、洗濯物の量に応じて、スタート時の水位を決めています」(松本氏)
これらのセンサーによる調整で、一回当たりのランニングコストは最大で約8%減らすことができるという。
■風呂の残り湯を徹底活用
家庭でできる有効な節水方法と言えば、風呂の残り湯の再利用だ。
ビートウォッシュでは「湯効利用」という独自の機能を使って、モデルチェンジのたびに水道水の代わりに風呂水を使う領域を広げてきた。
「これまで、洗濯、すすぎ、2回目のすすぎと、風呂の残り湯が使える範囲を広げてきました。さらに、乾燥時にも風呂水を使えるようにしました」(津坂氏)
風呂水をポンプで吸い上げて洗濯に使用する湯効利用機能(写真は発表会時のもの) | 本体には水道水用と風呂水用の2種類の吸水口が設けられている |
乾燥に水を使うというのはちょっとわかりにくいが、これは日立の洗濯乾燥機が「水冷除湿機構」という構造をとっているからだ。洗濯物を乾燥させるためには、湿っている洗濯物に乾いた暖かい空気を吹き付ける。すると、洗濯物の水分が揮発し、湿気を帯びた空気が出てくる。他社製品では、この湿気をそのまま部屋に出してしまう製品もある。ところが、日立の水冷除湿機構では湿った空気を部屋に出すのではなく、機内の除湿機構部内にあるステンレスプレートに水を流水させることで、効率よく除湿し排水する。冷たい飲み物を入れたコップの表面に、水滴ができるようなイメージだ。
水冷除湿機構を採用している洗濯機は湿気を取るための冷却水に水道水を使っていたのだが、BW-D9LVではこれもお風呂の残り湯でまかなっているという。ただ、これは一筋縄ではいかなかったという。
「洗濯時にくみ上げる水は1分間に10Lですが、乾燥時にはそんなに水はいりません。1分間に0.4Lで足ります。この汲み上げ量を調節するため、ポンプの水路にバルブを搭載しました」(津坂氏)
水量が多い分にはかまわないのではないかと思うが、水の使用量が増えること自体が好ましいことではないそうだ。少ない水でも効率的に冷却できるように、BW-D9LVではステンレスプレートに「蛇行リブ」という凹凸をつけているほどだ。
BW-D9LVでは、6kgの洗濯物を、洗濯から乾燥まで行なった場合、約96Lの水を使用する。しかし、お風呂の残り湯を使用すると、水道水の使用量は6分の1以下の約15Lに抑えられるという。ランニングコストで言うと、6kgの洗濯物を洗濯乾燥した際のコストが約78円なのに対し、残り湯を使うと水道代が約18円下がるため約60円となる。
なお、お風呂の残り湯を使うにあたっては、清潔さが気になる人もいると思うが、BW-D9LVでは水の吸い込み口にゴミを取り除くフィルタとAgイオンによる除菌機能を搭載している。
「フィルタは簡単にはずせるので、水量が減ったら水ですすいで下さい。普通の使い方をするなら、月に1度も洗う必要はありません。Ag除菌ユニットの寿命は、一般的な家族構成で1日1回使用した場合、約4年となっています。オプションで販売していますので、簡単に交換できます」(津坂氏)
■機能は増えても使いやすさはそのまま
いくら家電が高機能になっても、使いこなせなければしようがない。とくに洗濯機は、家族の誰でもが使える製品である必要がある。
BW-D9LVの操作部 |
BW-D9LVでは、よく使うボタンが光って表示される。基本的には、洗濯物と洗剤を入れ、「洗濯」のみか「洗濯乾燥」かを選び、スタートボタンを押すだけだ。設定されたコース内容や、衣類の偏りなどについては音声で知らせる機能も装備されている。
洗濯乾燥機でよくあるエラーの1つに、洗濯時の容量と、乾燥時の容量の違いがある。BW-D9LVの場合、洗濯容量は9kgだが、乾燥容量は6kgまでとなっている。これは日立の洗濯機だけに限らず、どこのメーカーの洗濯乾燥機でも乾燥容量の方が洗濯容量より少ない。
そのため、9kgの衣類の洗濯をして、そのまま乾燥工程に移るという使い方はできないのだ。
BW-D9LVでは、洗濯物の容量をセンサーで量って、容量が多すぎた場合警告してくれる。つまり6kg以上の衣類を入れた状態で洗濯乾燥運転はできないようになっているのだ。
一方で、好みの洗濯時間やすすぎ回数などを設定し、3つまで記録できる「わがや流」という機能も備える。
また、以前のビートウォッシュに比べ、上面のパネルが前下がりになっているのも、使いやすさのためだそうだ。ここが低くなっていると、洗濯槽の底まで手が届きやすいからで、本体が大きいBW-D9LVでも、手前側の位置は、下位機種よりも低くなっている。
■あえてリクエスト
話が逸れてしまうが、ここで筆者の個人的な要望を1つ。実はビートウォッシュは、2世代前まで、洗濯している様子が外から見えるガラス製の中ブタを搭載していた。筆者は、洗濯物が回っているのを見るのが好きなので、この仕様がとても気に入っていた。
しかし、今回のモデルでは、ガラス製の中ブタは廃止されていて、ビートウォッシュ独自の洗いた方で回っている洗濯物を見ることができないのだ。
「あの覗き窓は凝った構造だったのですが、調査してみると、使っている人が少なかったのです。みなさん、洗濯物と洗剤を入れ、ボタンを押すと、洗濯機の前を離れてしまうのですね」(津坂氏)
また、松本氏も「現在のような構造にすると、振動面でも有利になります」と相鎚をうつ。内蓋の構造や強度はセンシティブなものなのだという。
やっぱり、ぐるぐると回っている洗濯物を見ていたいというのは、二槽式洗濯機で育った世代の郷愁なのかもしれない。でも、別売のオプションとかでなんとかならないものだろうか。
■節水・省エネだけでない「eco+α」の洗濯機
洗濯機の高級モデルといえば、ドラム式という時代にあえて、縦型で高級路線を進むビートウォッシュ。新製品では洗浄力、節水、使いやすさがさらにブラッシュアップされている。高機能である分、価格も強気の設定となっている。
「私たち企画担当者・技術者の間でもビートウォッシュはもう別格の存在なんですよね。その時持っている、最高・最新の技術をあますところなく詰め込んでいます。発売当初は縦型洗濯乾燥機としては大きいサイズや価格設定に、社内から不安の声もありましたが、今はプレミアムクラスの製品として自信を持っています」(津坂氏)
実は今回の話に中でも、今後の構想についての話が何度か出た。
ビートウォッシュに搭載したいと思うアイディアは次々と生まれてくると語る松本氏 |
「ビートウォッシュに搭載したい機能やアイディアはそれこそ山ほどあるんです。ただ、そうすると本体の値段がどんどん上がってしまうんですよね(苦笑)。本体価格50万円でいいっていうなら、ものすごいものを作れる自信があります」(松本氏)
今回新たに搭載した「硬度センサー」など他社にはないアプローチで、独自の路線を進んでいくビートウォッシュ。省エネ性や節水性だけに着目するのではなく、たとえ、消費電力が増えてしまっても、使いやすさや洗浄力に注力したBW-D9LVは、同社が先般より家電製品のスローガンとして発表した「eco+α」(エコプラスアルファ)という、エコ技術だけでなく、機能にもこだわった製品をめざすという考え方に沿った一台と言えるだろう。
2010年9月27日 00:00