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東芝ライテックといえば「ネオボール」シリーズ。店頭で商品を見かけたり購入した人もいるだろう(写真は最新モデル「ネオボールZ リアルPRIDE」)
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世界初の電球形蛍光灯を送り出し、現在も電球形蛍光灯「ネオボール」シリーズを発売している、東芝グループの老舗メーカーといえば、東芝ライテック株式会社だ。経済産業省の呼びかけにいち早く応じ、“2010年を目途に一般白熱電球の製造を中止する”ことを他社に先駈けて発表したのも東芝ライテックだった。同社は言うなれば、業界をリードする存在なのである。
しかし、業界に先駆けて白熱電球の中止と電球形蛍光灯への切り替えを宣言したということは、それだけ自社の電球形蛍光灯に自信があるということの表われのように思える。そこで話を伺ったところ、同社には“形状や光を、どれだけ白熱電球に近づけるか”という観点から開発を重ねた、確かな歴史があった。
● 世界初の電球形蛍光灯。しかしサイズと重量が課題
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1980年に発売された「ネオボール」。電球型蛍光灯としては“世界初”となる
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同社の最新モデルの電球形蛍光灯は、2008年7月に発売された「ネオボールZリアルPRIDE」だが、この28年前の1980年、世界初の「電球形蛍光灯として「ネオボール」が発売された。発売の目的は、消費電力の大きい白熱電球からの置き換えだった。
「電球形蛍光灯が登場する以前に、白熱電球を取り付ける口金にサークライン(環形の蛍光灯)を取り付けて利用するための照明器具は存在していました。ただその場合には、取り付けられる場所が限られてしまいます。そこで、蛍光管と点灯に必要な回路を一体化して、電球のようにソケットに直接取り付けられるボール形にしたのがそもそもの始まりです」。こう語るのは、東芝ライテック株式会社 管球事業部 商品部 商品企画担当 グループ長の鈴木康之氏だ。
ただ、初めて登場した電球形蛍光灯は、直径が110mmとかなり大きなものだった(現在の東芝の最新モデル「ネオボールZリアルPRIDE」は60mm)。当時利用されていた蛍光管や点灯回路(安定器)がかなり大きかったために、それ以上の小型化ができなかったからだ。また、重量420gとかなりのもの(最新モデルでは64g)。事実、当時東芝でも、この重量やサイズで大丈夫なのか、という意見もあったようだが、この形の製品を送り出すことが重要ということで、製品として発売されることになった。
このような経緯で登場した初の電球形蛍光灯は、当時かなりの話題となった。しかし、やはりその大きさとサイズでは、取り付けられない照明器具が多く、現在の電球形蛍光灯のように、白熱電球を置き換える用途として利用するにはほど遠いものだったという。白熱電球を置き換えるには、当然白熱電球とほぼ同じ大きさを実現しなければならない。そこで必要になるのが小型化と軽量化だった。
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「ネオボール」を手で持ったところ。直径は110mmとかなりの大きさだ
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東芝ライテック株式会社 電球事業部 商品部 商品企画担当 グループ長 鈴木康之氏
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● 蛍光管と点灯回路の改良で小型・軽量化を実現
大きさと重量のうち、まず始めに改善されたのが大きさ。これは、内部の点灯回路を小型化するとともに、蛍光管の形状や配置を見直すことで実現していった。
「内部の蛍光管を単に長くすれば明るくなるというわけではありません。蛍光管をU字に2本や3本並べてみたりと、いろいろな形を試しながら、内部の回路とのマッチングも加味して、いちばん最適な部分を見つけ出す必要があります」(鈴木氏)
そういった苦労の結果、1991年に登場した「ネオボールQ」では、直径が72mmと小型化が実現された。
しかし、この時点では重さの問題がまだ解決されていなかった。ネオボールQでは、内部の点灯回路として、鉄芯にコイルを巻いた安定器を搭載していたため、重量は430gと、逆に重くなってしまった。そこで、さらなる小型化に加えて軽量化を突き詰めるために、点灯回路としてインバーター回路を採用することになった。それが、1994年に登場した「ネオボール5」だ。これによって、重量も一気に140gに軽くなった。
さらに、1998年に登場した「ネオボールZ」では、インバータ回路の小型化と蛍光管の小型化も同時に実現することで、白熱電球にかなり近い大きさが実現された。ネオボールZの登場によって、電球形蛍光灯は白熱電球の代替用途として一気に注目を集めることになった。
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初代ネオボールから幅を縮めた1991年「ネオボールQ」
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左から、ネオボールQ(1991年)、ネオボール5(1994年)、ネオボールZ(1998年)。小型化と軽量化が図られていった
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● 電球らしい“くびれ”を実現。秘訣はインバーターの設置箇所
ネオボールZの登場で、電球形蛍光灯の大きさや重さが大きく改善され、白熱電球に非常に近いサイズとなった。これによって、照明器具への適合率は9割ほどにまで向上したという。
しかし、これを逆にとらえれば、取り付けられない照明器具がまだ1割ほど残っていたということでもある。
「白熱電球と比べて形が違うために、自分が使っている照明器具に使えるかどうかが判断できずに、店頭で迷ったあげく結局買わない人が多い、というリサーチもありました。そこで、性能向上もやらないといけないのですが、使用条件で無理な場所を除いて100%適合するように作ろうじゃないか、ということで新たな製品に取り組んだのです」(鈴木氏)
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写真右が2005年のネオボールZリアル。左の旧製品「ネオボールZ」「ネオボールZ ジャストサイズ」と比べると、電球の下部に電球らしい“くびれ”を設けているのがわかる
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その結果、2005年に登場したのが、「ネオボールZ リアル」である。ネオボールZ リアルでは、それまでインバータ回路が入っていた口金上部のプラスチック部分が大幅に小さくなっており、白熱電球のように電球下部が細くくびれた形状を実現。これによって、従来までプラスチック部分がぶつかって取り付けられなかった照明器具でもほぼ問題なく利用できるようになったのである。
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口金内部にあえてインバーターを設置。これにより、省スペース化が実現できた
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ところで、このネオボールZ リアルの形状を実現するうえで、ある大きなチャレンジがあった。それは、それまで何も存在していなかった、口金の内部にも回路を設置するというものだ。インバータ回路の容積を従来の2/3に小型化することで、インバータ回路自体を口金の内部に設置できるようにし、口金付近のくびれを実現したのである。
「口金は発光管から遠くにあるので、その内部温度は予想していた以上に低いことが分かり、その小さな空間に回路を押し込めるため、徹底した部品の小型化を進めました。その結果、口金に回路が収まり、白熱電球に近いサイズが実現できたのです」(鈴木氏)
● 白熱電球の光り方を追求した最新モデル「ネオボールZ リアルPRIDE」
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最新モデル「ネオボールZ リアルPRIDE」。蛍光管をキノコ形の渦巻き形状としたところがポイント
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ネオボールZ リアル登場後、形だけでなく光り方も白熱電球に近づけることに注力し、新たな形状の蛍光管を開発。その新しい蛍光管を採用する製品が最新モデルの「ネオボールZ リアルPRIDE」だ。
「初代ネオボールZ リアルでは、U字管を組み合わせた形状の蛍光管を利用していましたが、ネオボールZ リアルPRIDEでは、中央部が太く、根本と先端部が細くなった、キノコ形の渦巻き蛍光管を採用しています。これによって、白熱電球と同じような光りの拡がりを実現できました」(鈴木氏)
蛍光管の先端部分をらせん状にすることで、従来のU字管を組み合わせたものよりも先端部分の明るさが増し、白熱電球に非常に近い光り方を実現しているのである。
ただ、この形状の蛍光管にしたことで、1点大きな問題が発生することになった。それは、「グローブ」と呼ばれる周囲のカバーの下から蛍光管を入れられなくなったということだ。蛍光管の先端部分が根本側よりも太くなっているために、狭くくびれているグローブの口金付近からは当然入れることができない。そこで、それまでガラス製だったグローブを樹脂製(ポリカーボネート)に変更するとともに、グローブを2ピース構成とし、蛍光管を入れたあとに接合するという方法を採用している。グローブ中央部のラインが、その接合面となる。
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白熱電球(左)とネオボールZリアルPRIDE(右)を並べたところ。外側の形状は一緒だが、中身はここまで違う
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上下2つに分かれた樹脂製のグローブを、中央で接合する。ガラスではないため割れにくい特徴を持つ
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「樹脂製のグローブでも、ガラス製のグローブと比較して光の透過率は同等で、実用的な耐熱性にはまったく問題がありません。加えて、樹脂製にしたことで、万が一落下した場合でも割れにくくなっています。ガラスのグローブを使っているものでは、落とすとグローブごと粉々に割れてしまいますが、ネオボールZ リアルPRIDEでは内部の蛍光管は割れてもグローブは割れにくいので、破片が飛び散ることも防げます。」(鈴木氏)
もちろん、扱い方によっては、ネオボールZ リアルPRIDEの樹脂製グローブも割れてしまうことがあるだろう。それでも、ガラス製のグローブに比べると割れる危険性がかなり低いのは間違いなく、従来モデルに対する大きな優位点だ。もしかすると、樹脂製のグローブを採用する電球形蛍光灯が今後主流になるかもしれない。
また、点滅性能についても向上している。電球形蛍光灯は、点滅を繰り返すと寿命が短くなるという点が良くあげられる。しかし、ネオボールZ リアルPRIDEで40,000回と、ネオボールZ リアルの20,000回の2倍の点滅性能が実現されている。点滅を繰り返すトイレや廊下での使用も対応できるように改善されている。
● 課題は立ち上がりの遅さや調光器への対応
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形状、点滅回数、密閉型器具に対応……などさまざまな課題をクリアした電球形蛍光灯。しかし、まだまだ改善するべき点があるという(写真はネオボールZリアルPRIDEのパッケージ)
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しかし、ネオボールZ リアルPRIDEへと進化を遂げても、電球形蛍光灯にはまだ課題はされている。
例えば、既存の調光機能付き照明器具への対応が取れていないという点だ。この点に対し鈴木氏は、「適合できません、と言った方が正解かもしれません。」と語っており、対応はかなり難しいようだ。「既存の調光器に対応するには、回路のサイズが大きくなり、ランプ自体も大きくなってしまいます。しかも、調光の機能も十分とはいえません。電球形蛍光灯内部の回路と調光器側の回路とのマッチングが取れずに、寿命や性能が発揮できなかったり、明るさが保てなかったりと、機能が満たせないのです」
また、課題の中で最も大きなものとなるのが、立ち上がりの速度だろう。東芝としても、立ち上がり速度の遅さついてはしっかりと認識していて、鈴木氏も「我々としても、満足しているわけではありません。」と語っている。
実はネオボールZ リアルPRIDEでも、それ以前の製品よりも点灯直後の明るさがかなり改善されており、以前の製品ではピークの2割程度の明るさだったものが、4割程度にまで向上しているそうだ。とはいっても、白熱電球は点灯直後から100%の明るさになるため、それと比べるとまだまだ物足りないのも事実である。
この点について、鈴木氏はこのように語っている。
「ネオボールZ リアルでは、お客様が商品を購入して問題なく使えることに焦点を当てたというのが本音です。電球形蛍光灯には、立ち上がりの遅さ以外にも、調光機能の付いた照明器具や、サイズ、点滅回数というように、様々な課題がありますが、一気に全てを改善するのは難しいのです」
そういう意味では、今後の製品で立ち上がりの遅さや適応器具については、改善されていくと考えていいだろう。
● 電球形蛍光灯の省エネ性は既に限界に近い
今度は、電球形蛍光灯の省エネ性能について注目しよう。初代ネオボールでは、60W相当の明るさで消費電力が20Wだった。それに対し、最新の製品となる「ネオボールZリアルPRIDE」では、60Wの明るさで消費電力が10W。つまり、同じ明るさで消費電力は半減しているのだ。これは、蛍光管の仕組みを改善するとともに、回路の効率を高めることによって実現されている。
ただ、これ以上の省電力性を実現するのはかなり難しいようだ。
「1998年に登場したネオボールZでは、60Wの明るさのもので消費電力が14Wでしたから、10年かけて4Wしか減っていないのです。これ以上消費電力を落とすと、今度は明るさが得られなくなる可能性が高くなります。ですので、これから1W、2Wを落としていくのはかなり厳しいでしょう」と鈴木氏が語るように、既に限界まで省電力性が突き詰められていると言ってもいい状況だ
しかし、この省電力性の高さこそ、白熱電球から電球形蛍光灯に置き換える重要なポイントになってくる。
「日本では、一般家庭の照明器具としてサークライン(環形蛍光灯)が浸透していますし、事務所や店舗なども大半が蛍光灯を使って、白熱電球は補助照明や演出用として使われることがほとんどです。つまり日本では、以前から意識することなく省エネ商品を使っていたというのは事実です。当たり前のように使っていたため、蛍光灯と白熱電球の比較もほとんど行われずに現在まで来たわけです。しかし、白熱電球はまだ日本で1億個(1年間の全メーカーの販売数の合計)以上使われています。蛍光灯の省エネ性能を上げてもその割合はわずかなものですから、照明の分野で省エネを突き詰めるには、エネルギーの大部分を熱として消費している白熱電球をどうにかしなければならないのです」
ところで、同じ電球形蛍光灯でも、製品によって価格にばらつきがある。どれを買ったら良いものか、読者の中にもお困りの方がおられるだろう。
ここで最新モデルの「ネオボールZ リアルPRIDE」と、旧モデルの「ネオボールZ リアル」を比較すると、実売価格では300円ほどネオボールZ リアルPRIDEのほうが高い。しかし同じ60Wタイプで比較した場合では、ネオボールZ リアルは消費電力が12W、定格寿命が6,000時間、点滅性能が20,000回なのに対して、ネオボールZ リアルPRIDEでは消費電力が10W、定格寿命が12,000時間、点滅性能が40,000回と、性能に大きな差がある。ネオボールZ リアルPRIDEのほうが電気代は安くすむうえに、2倍の長時間利用できるため、長期間で考えると300円の価格差も十分元が取れることになる。
鈴木氏も「それほど大きな価格差でなければ、新しい技術の入っている最新の製品を買われた方がお得だと思います」と太鼓判を押すように、電気代や将来の交換コストを考えると、やはり多少高くても最新のもの、また上位モデルのものを購入した方が、トータルではお得になる可能性が高いのだ。
● LEDは今後飛躍的に伸びる可能性を秘めている
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電球形蛍光灯に変わる省エネ照明として期待されているLED。東芝では電球ソケットに接続できるLEDライト「E-CORE」を発売している(写真はエコプロダクツ2008のもの)
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最後に、蛍光灯に変わる次世代照明として有望視されているLEDについて尋ねてみたが、現時点では光り方や形、色の見え方、コストなど、多くの点でまだ蛍光灯のほうが有利だそうだ。
「LEDにはまだまだ課題が山ほどあります。現在発売しているLED照明では、1Wあたり67ルーメンぐらいの発光効率を実現しています。それに対して、ネオボールZ リアルPRIDEでは、1Wあたり81ルーメンですから、発光効率はまだ蛍光灯の方が優れています。また、コスト差も10倍ぐらいです」
ただ、鈴木氏によると、LEDは進化のスピードが速く、特にここ1~2年の進化のスピードは目を見張るものがあるそうだ。
「昨年末に40Wタイプのダウンライト用LED照明を発売しました。そして、それからわずか半年後に60Wタイプの製品を発売しました。しかし、実はどちらも消費電力は同じなのです」
つまり、わずか半年の間でも、LED素子の効率効率が大きく向上したというのである。
下の表は、LED照明推進協議会が発表しているLEDの発光効率のロードマップだが、これを見てもわかるように、今後LEDの効率はかなりのスピードで向上していくことがわかる。確かにこのペースでLEDが進化していけば、LEDを利用した照明器具が広く利用されるようになるのもそう遠くないかもしれない。
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LEDの発光効率は年々向上している(資料元:LED照明推進協議会「白色LEDの技術ロードマップ」)
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LEDは直進性に優れる光を放つため、現時点ではスポットライトなどの用途が中心となっており、家庭の一般照明が蛍光灯からLEDに置き換わるようになるにはまだまだ時間がかかるはずだ。しかし、点滅性能や寿命では蛍光灯よりも優れているため、特定の用途に限っては、今後徐々に浸透していくことになる可能性が高い。
「LEDは早いうちに白熱電球や蛍光灯に取って代わる存在になる思います。今後は今までにはないスピードで急激に伸びていくのではないでしょうか」(鈴木氏)
現在では“エコ”の代名詞とされる電球形蛍光灯だが、省エネが進んだ未来になれば、もはやエコですらなくなる日も来るかもしれない。しかしその時こそが、当面の“エコ”を達成したと言えるのではないだろうか。
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2009/01/05 00:02
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