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そこが知りたい家電の新技術
ナショナル「ホームベーカリー」

~1時間でお餅もつける自動パン焼き機
Reported by 大河原 克行

再び膨らみ始めた市場

ナショナルホームベーカリー「SD-BM101」
 ホームベーカリーが隠れた人気を集めている。

 業界筋の調べによると、2007年度のホームベーカリーの市場規模は約30万台。前年の約25万台から20%増という高い成長を遂げているのだ。

 「味へのこだわりや、健康志向の高まりなどを背景に、自分でパンを焼きたいといった需要が増加している。全粒粉100%でパンを焼く機能や、たまに餅を食べたい場合にも自分で作れる『もちコース機能』を加えたことで、新たな需要層を開拓している」と、松下電器産業株式会社松下ホームアプライアンス社家庭電化事業グループクッキング機器ビジネスユニットマーケティング推進チーム・八木純一チームリーダーは語る。


マーケティング推進チーム・八木純一氏
 実際、同社の調査でも、今後欲しい調理家電のトップにホームベーカリーが挙がっており、「全体では27.3%、30代では約40%の回答者がホームベーカリーを欲しい調理家電にあげた。朝食はごはんとする人が35%であるのに対して、パンは41%に達している。第3次ベーカリーブームが訪れている」と分析する。

 もともとホームベーカリーが登場した1988年には、年間76万台という市場規模に一気に膨れ上がった。だがその翌年には、総需要が10万台弱にまで激減した。多数の商品が市場に溢れ、ユーザーの期待に満たない商品も中にはあった。

 松下電器では、他社が市場撤退したあとも、地道に研究開発を続けた。一時はソフト食パンが作れる機能を搭載したことで、需要回復の兆しも見えたが、2005年度までは20万台を切る市場規模で推移するに留まっていた。ところが、前述した背景から、ここにきて年間30万台が視野に入るところにまで拡大してきているのである。


ホームベーカリーが今再び人気を得てきているという 朝食にパンを取る人が増えてきている 今後欲しい家電のトップに挙げられている

ナショナル独自の「中麺法」

ナショナル 1斤タイプのホームベーカリー「SD-BH101」
 現在、ホームベーカリー市場における松下電器のシェアは約8割。第1号商品の投入当初から、品質の高い商品を投入し続けてきた実績が、これだけの高いシェアにつながっている。松下電器のホームベーカリーに対する評価の多くが、「おいしいパンを、失敗なく作れる」という点に集中していることも、信頼性の高い商品づくりを続けてきたことを裏付けている。

 言い換えれば、ここ数年のホームベーカリーの市場拡大は、8割のシェアを持つナショナルが、長年に渡り地道な努力を続けてきたことが報われたものだといえるだろう。

 「ナショナルが、20年間に渡ってこだわってきたのは、おいしいパンをどう作るか、というその1点のみ」と切り出すのは、クッキング機器ビジネスユニット技術グループ・平田由美子主幹技師。


技術グループ・平田由美子主幹技師
 当時の開発チームが全国各地の有名なベーカリーや、ホテルのベーカリーのパンを食べ歩き、おいしいパンの条件を探し求めた。その結果、「持った感じがフワっとして、軽い。そして、弾力があり中まで火が通って、噛みごたえがある。さらに、皮にムラがなく“釜伸び”をしていることや、内層が“すだち”の状態になっていることも重要。これらがおいしいパンの条件になる」ことが分かったという。

 釜伸びとは、パンを焼いた際に、パンが膨らむ際に見られる現象だ。パンが生地が伸びたように見える。これがあることで、パンが十分に膨らんだということがわかる。また、内層のすだちとは、キメや気泡膜の状態を指すもので、食感、味、香りにも影響する。


 また、「おいしいパン」を評価するために独自の手法も用いている。

 まずは、焼いた翌日にパンの味を評価することだ。「焼きたてはどのパンもおいしい。そのため、出来映えの善し悪しがわかりにくい。シビアに評価するために、味が落ちる翌日にパンの状態を見ている」(平田氏)。

 もう1つが、季節による温度変化を想定して、室温の低い冬場、高い夏場の双方で実験を行なっている点だ。「パンは、室温によって味が変化する。年間を通じて、おいしいパンを食べていただくための工夫を凝らしている」というわけだ。

 この実験では、蓄積したノウハウをもとに、室温の設定にマイコン制御を採用。運転中にセンサーで室温を検知し、最も適した条件にコントロールする温度プログラムによって解決をしている。

 また、室温のばらつきに対応するとともに、失敗を少なくするため「中麺法」という焼き方を採用したことも、松下電器のホームベーカリーの大きな特徴となっている。


ナショナルが考えるおいしいパンの定義
 一般的な手法の「直種法」では、イースト、粉、水を最初から一緒に練り込むのに対して、中麺法では、先に生地を作り、グルテンが十分に生成されたのちに、あとからイーストを練り込むという手順を踏む。業界では松下電器だけが採用している手法だ。

 「直種法では、イーストが水に混ざるとすぐに発酵が始まり、過発酵になりやすい。生地に張りがなく、焼くとムラが出たり、扁平で高さのないパンになってしまうケースが多い。職人は、発酵の状況を見極めて作業のタイミングを調整することができるが、ホームベーカリーでは、直種法でおいしいパンを年間を通じて作るのは難しい」(平田氏)

 一方で中麺法では、イーストの投入タイミングにノウハウが必要であるとともに、投入する機構を用意しなくてはならず、これが最終製品のコストアップにもつながってくる。

 だが、松下電器では、「年間を通じて、誰もがおいしいパンを作る」という開発コンセプトのもとに、中麺法を採用した。第1号機の投入以来、この手法を継続、進化させている。イーストをどのタイミングで、どの程度の分量を自動的に投入するかといったノウハウは、まさに松下電器が20年間に渡り蓄積した独自のものであり、他社が中麺法の導入に踏み出しにくい差別化要因の1つだといっていいだろう。


ハードルが高かった「全粒粉パン」機能

同社の主力モデル左から1斤タイプのSD-BM101、1.5斤タイプのSD-BM151
 現在、松下電器では、餅をつくことができる1.5斤タイプの「SD-BM151」一斤タイプの「SD-BM101」下位モデルとして同じく1斤タイプの「SD-BH101」の3機種を、主力モデルとしてラインアップしている。

 なかでも、今年の戦略製品といえるのが、9月10日から発売した1斤タイプのホームベーカリー「SD-BM101」である。

 全粒粉100%のパンや、メロンパンなどを焼ける機能に加えて、新たに「もちコース」を搭載。健康志向のユーザーや、付加機能を求めるユーザーの取り込みに成功した。


全粒粉のパンが求められている市場背景
全粒粉のしくみ
全粒粉の栄養成分

調理開発チーム・垣本泰洋氏
 「食パンを焼くという基本性能を高めながら、新たな付加機能を搭載するのは大きな挑戦があった」と語るのは、クッキング機器ビジネスユニット技術グループ調理開発チーム・垣本泰洋主任技師である。

 小麦を丸ごと使う全粒粉は、食物繊維が豊富で、鉄分やビタミンも多く含まれる。現代人に不足しがちな栄養成分をバランスよく吸収できるものとして注目を集めている。

 だが、同じ小麦からできたものとはいえ、従来の調理プロセスをそのまま応用すると、膨らみのないパンができあがってしまうのだ。

 松下電器では試行錯誤を繰り返した結果、1回目の練りと、2回目の練りとの間に、十分に生地を寝かす時間を取り、小麦粉と水をよく馴染ませることで、グルテンの形成を促進し、全粒粉特有のパサつきをなくした。

 さらに、低温で時間をかけて発酵させることで、グルテンで破壊されてしまう酵素の働きを抑え、ふっくらとした焼き上がりを実現した。


100%全粒粉を使った時の仕上がりの違い
全粒粉パンコースの特徴

 小麦粉による食パンは、約4時間で焼き上がるが、全粒粉の食パンは約5時間。この1時間の増加によって、全粒粉でもおいしいパンが簡単に焼き上がるようになった。

 「最初にこの機能を搭載するという話が持ち上がった時には、できるのだろうかというのが正直な感想だった」と語るのは平田主幹技師。「何度も実験を行ない、工夫を凝らした結果、実現できた。健康な食生活を実現し、パンづくりを楽しいものにするという意味では、全粒粉によるパンづくりは、必須だと考えた。ホームベーカリー業界全体を伸ばす上でも越えなくてはならない壁だった」と振り返る。

 メロンパンコースの搭載も、同様に、おいしく、楽しいパンづくりを実現するための機能の1つだ。

 成形発酵前に、別途作ったクッキー生地をパン生地に載せて発酵、焼成することで、メロンパンを作ることができる。この機能を応用することで、シナモンロールや中に具を包み込んだパンなども作れる。


メロンパンコースの特徴 生地を発酵させているところ 発酵させた生地に別途作ったクッキー生地を乗せるようにしていれる

クッキー生地を入れた状態 完成したメロンパン。クッキー生地を別途乗せることで表面がさくさくしたメロンパンを作ることができる

 さらに、中麺法によるイースト投入機構のノウハウを応用して、レーズン・ナッツの自動投入機能を搭載しており、投入時間や練り時間を制御することで、粒がつぶれないレーズンパンを焼き上げることもできる。これも楽しいパンづくりを支援する機能だといえよう。


中麺法を利用してレーズン・ナッツパンを作ることもできる 完成したレーズン・ナッツパン 切ってみると中のレーズンがつぶれていない

もちつき機能も妥協せず

 ところで、SD-BM101の型番にある「B」はブレッドを意味するのに対して、「M」は、餅を意味する。

 SD-BM101は、その型番からもわかるように、もちコースが大きな特徴となっている。

 同社が調査したところ、約4割の人が、パン焼き機能に加えて、もちコースを追加して欲しいと回答しているという。


もちコースへのニーズは高かった もちコースを搭載したことでホームベーカリーの購入層が広がったという

 「本格的に餅をつきたいという人には、もちつき機。正月などにちょっと餅を食べたいという人にはベーカリーのもちコースが最適」と、八木チームリーダーは語る。

 だが、当然のことながら、パンを焼くことに最適化して開発した商品に、おいしい餅をつきあげる機能を搭載するのは、苦難の連続であったであろうことは容易に想像できる。また、一般的に餅をつくには、餅米を一晩水につけておく必要があったが、こうした手間をなくし、より短時間で餅をつくことができることも同時に目指したため、ハードルはさらに高まった。


ホームベーカリーでもちを作った様子
取り出したもち

 そこで、松下電器が採用したのは、「炊き混ぜ方式」と呼ばれる仕組みだ。蒸した餅米をつくのではなく、生の餅米から炊く方式を採用。洗米し、水切りした餅米を、ベーカリーのなかでほぐしながら、時々羽根を回転させ、短時間でムラなく炊きあげる。さらに、蓋を開けて、約10分間、餅をつくことで、「業界最速」となる約60分で、餅米から餅をつきあげることを可能にした。さらに、炊き混ぜ方式によって、もちつき専用機よりも甘みが3倍に向上するというメリットも生まれた。


もちコースの特徴
炊き混ぜ方式を採用したことにより、約60分でもちを作ることが可能になった 炊き混ぜ方式は時間の短縮だけでなく米の甘みも引き出す

餅用羽根の最適形状を探る

 一方、餅米をかき混ぜるには、ベーカリー用の羽根では適当ではない。そこで、材質を変え、高さのある形状のもちコース専用の羽根を開発。パン用の羽根と比べると、高さが低く、餅の粘り着きを抑えている。また、羽根の先には餅米をつぶすため、エッジが立った加工がされている。これにより、米粒が残らずに、練りつぶすことが可能になった。

 この羽根の形状にも工夫がある。垣本主任技師は、毎日のように形状を変えては、それを利用して実際に餅を作り、そしてまた形状を変えるという作業を繰り返した。試作した羽根は100を遙かに越え、今でも垣本主任技師の机のなかには、多くの羽根が入っているという。


ホームベーカリーの本体に付属している羽根。これでパンの生地やもち米をかき回す 左がパン用の羽根、右がもち用の羽根 上面からみたところ

 羽根の形状をひと目みただけで、パンや餅米、麺がどんな風に仕上がるかが、だいたいわかるというから、まさに職人技だ。

 「羽根の形状、重さ、回転数、ケースの形状、時間といった要素を組み合わせることで、おいしいパンやおいしい餅が作れる。これは終わりがない挑戦」と垣本主任技師は語る。

 もちろん、課題がないわけではない。

 パンが焼き上がるまでの時間を、現在の4時間からさらに高める努力、また途中のプロセスで音が出る部分を静音化することも必要だ。

 「焼き上がりのパンを朝食べたいという人には、夜、タイマーをセットする。すると、ホームベーカリーが作動した音が就寝中に気になるという声もある。時間を短くすることも、これを解決する手段の1つになる」(平田主幹技師)。

 ホームベーカリーの市場は、現在の成長を維持すれば、2010年には過去最高だった76万台の規模にまで市場が回復すると予想される。

 「ホームベーカリーの世帯普及率は、まもなく10%を超えようとしている。10%を超えると一気に普及段階へと突入する。また、食育の意識の高まりも後押しする。実際に、アレルギーを持った子供に天然酵母のパンを食べさせている、あるいは朝食を食べなかった子供が焼きたてパンを食べるようになった、という声もいただいている。当社が蓄積したホームベーカリーに関する20年間に渡る蓄積が、これから生かされることになる」(八木チームリーダー)と語る。

 松下電器のホームベーカリー事業は、これからが本番だ。





URL
  ナショナル(松下電器産業株式会社)
  http://national.jp/
  ホームベーカリー製品情報
  http://national.jp/product/cooking/bakery/index.html

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2007/12/27 00:03

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