三菱電機、家電の自己循環リサイクルシステムの拠点を公開

土気(とけ)緑の森工業団地内にあるグリーンサイクルシステムズ本社工場

 平成13年4月1日に施行された家電リサイクル法は、エアコン、テレビ、冷蔵・冷凍庫、洗濯・乾燥機の4品目の廃家電から、有用な部分や材料を回収し、一定比率(品目により異なり50~70%)の再利用を定めている。

 家電製品に用いられている様々な素材のうち、金属やガラスに比べて、プラスチックは素材毎の分別が困難で、リサイクルが難しいと言われてきた。手で簡単に分別可能な高純度プラスチック部品(単一の素材でできたプラスチック部品)を除き、大半は建築材料(セメント、くい、ベンチetc)や、雑貨類(ウチワの柄、ハンガーetc)等に再利用されることが多く、再び家電製品として再利用される割合は低かった。

 三菱電機では、これまでリサイクルが難しかった家電製品のプラスチックを回収し、家電製品として再利用可能な高純度プラスチックにリサイクルする「大規模・高純度プラスチックリサイクル」という試みをこの4月からスタートさせた。家電製品に含まれる家電製品のリサイクルプラントから排出される混合プラスチック(様々な素材が混在するプラスチック片)を、自動で選別しりリサイクルするという。今回その中核施設が公開されたので、その模様をレポートする。

 実際にプラスチックの高純度リサイクルを行なっているのは、三菱電機の子会社となる株式会社グリーンサイクルシステムズ。千葉市緑区の土気(とけ) 緑の森工業団地内に本社工場を持つ。グリーンサイクルシステムズでは、同じく三菱電機子会社で、家電のリサイクルを行なう株式会社ハイパーサイクルシステムズから出た混合プラスチックを、高純度プラスチックに分別し、一部は再利用可能なペレットにまで加工する工程を請け負っている。

 ハイパーサイクルシステムズが年間に処理する廃家電は約5万6,000トン。そのうち金属やガラスが約4万6,000トンを占め、残りの約1万トンがプラスチックとなる。従来は、1万トンのうち高純度プラスチックとして再利用されるのは600トンあまりで、大半は建築材料として利用されてきた。

 グリーンサイクルシステムズでは、残り9,400トンの混合プラスチックから約6,400トンを高純度プラスチックとして選別、計7,000トンの再利用を実現する計画だ。この再利用により、プラスチック製造に関わるCO2排出量が年間7,300トン(杉の木52万本が1年間に吸収するCO2量に相当)削減されるという。このプラスチック7,000トンという数字は、三菱電機が使用する全プラスチック量の20%に相当する。

三菱電機と、リサイクル子会社2社との関係高純度プラスチックリサイクルの流れ


3段階の自動選別で回収効率を向上

 グリーンサイクルシステムズによる混合プラスチックの選別は、大きく3段階に分けられる。最初に行なわれる湿式比重選別は、液体(水)に浮く(軽い)か、沈む(重い)かで、素材の選別を行なう。家電製品に使われるプラスチック類のうち、最も多く使われているのは、ABS(アクリニトリル・ブタジエン・スチレン)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)の3種。このうち水に浮くのは比重が1より小さいPPだけのため、ここで選別される。

 次に比重の近いABSとPSは、こすり合わせて帯電させた後、プラス電極とマイナス電極に引き寄せて選別する静電選別を行なう。これはPSは必ずマイナスに、ABSはプラスに帯電する性質を応用したものだ。

 これでABS、PP、PSが分別できたわけだが、これだけではまだ十分でない。これらのプラスチックには、臭素系の難燃剤を含有したものがあり、これはRoHS規定により家電製品に再利用することができない。そこで、これを取り除くために行なうのがX線分析選別装置だ。X線透過像により臭素系難燃剤を識別し、含有したプラスチック片を、エアガンではじきとばすことで選別を行なう。このX線を使った選別方法は、従来の比重差を使った選別に比べ、格段に回収効率が向上しているという。この技術は2010年度環境賞環境大臣賞優秀賞を受賞している。

湿式比重選別機のデモモデル。上部に投入された混合プラスチックは、水に浮くものと沈むもので選別される実作業に使われている湿式比重選別機グリーンサイクルシステムズのプラント全景。湿式比重選別機が用いる水も、再処理されて繰り返し利用される
静電選別機のデモモデル。上部、四角い金属製の箱の中にある帯電筒の中で、ABSとPSは拡販され、それぞれ帯電する。それを中央にある電 極でよりわける静電選別機は空調された部屋の中にある

リサイクル後の最終製品であるペレット。射出成型器に入れて、新しいプラスチック部品へと生まれ変わる

 水、帯電、X線を使った選別のあと、混入した金属片等の異物を除去する行程などを経て、リサイクルの難しかった混合プラスチックを、樹脂毎の高純度プラスチックへ選別していく。

 樹脂ごとに選別されたプラスチック片の多くは、この状態でプラスチック材料としてリペレット業者に渡されるが、一部はグリーンサイクルシステムズでリペレット(再ペレット化)される。こうして作られたペレットは、家電メーカーの工場にある射出成型器で、そのまま材料として利用することが可能だ。


事業化も視野に入れて運用効率をさらにあげていく

冒頭、三菱電機の家電リサイクルへの取り組みについて紹介した中村一幸リビング・デジタルメディア事業本部長

 廃家電から出たプラスチックが、再び家電製品として生まれ変わるには、これだけの手間をかけねばならない。三菱電機は、この処理施設に、土地代も含めて総額約40億円を投資。見学会の冒頭で三菱電機の家電リサイクルへの取り組みについて述べた同社リビング・デジタルメディア事業本部長の中村一幸執行役副社長は、同様な処理施設を第3プラントまでは作りたいとの意向を示した。

 さらに、将来的には事業化を進めていきたいとも語った。現時点では子会社であるハイパーサイクルシステムズの混合プラスチックのみが選別対象で、選別された高純度プラスチックは基本的に三菱電機社内で利用される。が、現在の原油価格水準であれば、事業ベースに乗せることは十分可能であるらしい。選別処理は機械化、自動化が進んでおり、プラント全体の運営を6人の従業員でまかなっているという。現在は行なわれていない夜間操業の実施も含め、さらに運用効率を改善することは視野に入れていると話した。

 現時点では商業ベースにはなかなか載りにくいリサイクルだが、技術開発によりそれが実現する日もそう遠いことではないようだ。

リサイクル率100%のブラウン管テレビのリサイクル工場を見る

ハイパーサイクルシステムズによるブラウン管テレビリサイクルの流れ

 高純度プラスチック選別を行なっているグリーンサイクルシステムズ本社工場の3Fには、株式会社ハイパーサイクルシステムズの千葉工場がある。ここは市川市に本社があり、本社工場で家電リサイクル法が定める4品目(薄型テレビ、洗濯機、冷蔵庫、エアコン)と、OA機器(コピー機、FAX、パソコン等)のリサイクルを行なっているという。今回、こちらの工場も報道陣に公開されたので、併せてご紹介しよう。

 千葉工場では家電リサイクル法に含まれないブラウン管(CRT)テレビのリサイクルを専門とするわが国最大規模の工場だ。エコポイントの導入もあり、ブラウン管テレビから地デジ対応の薄型テレビへの買い換えが急速に進んでいるが、リサイクルに回されたブラウン管テレビは、ここのようなプラントでサイクルされているのだ。

 回収されたブラウン管テレビは、家電リサイクル法が定めるAグループ(パナソニック、東芝、等)とBグループ(三菱電機、日立製作所、シャープ、ソニー、三洋、等)の2つに分かれて、引き取られ、処理される。ハイパーサイクルシステムズ千葉工場は、Bグループのブラウン管テレビのリサイクル施設だ。

 引き取られたテレビは、コンテナで運び込まれ、前処理として背面カバーを取り外される。取り外された背面カバーは、プラスチック素材として再利用される。カバーが外され内部がむき出しになったテレビは、エアブローにより内部にたまった埃を吹き飛ばした後、プリント基板が取り外され、本解体へと進む。本解体では、人間の手作業によって偏向ヨークやスピーカー、電線類が取り外され、次にブラウン管の電子銃が切断される。

運び込まれたブラウン管テレビは、人手によりまず背面パネルが外される背面パネルが外されたテレビからプリント基板が取り除かれ、別の業者によるリサイクルに回る基板が外されたテレビは、本解体を行なうセルに運ばれる

 前面パネルも取り外されたブラウン管を待っているのはPF分割だ。ブラウン管は、映像が映し出されるパネル部と、後ろのファンネル部(漏斗状に絞られた部分)が接合された構造を持つが、パネル部とファンネル部はガラスの組成が異なる(ファンネル部は高濃度の鉛を含有したガラスでできている)ため、リサイクルする前に分離する必要がある。

 分割工程は、まず接合部に貼られた防爆バンド(テープ)を除去し、接着剤をワイヤーブラシでこそげ落とす。次に接合部全周を熱線ワイヤーで加熱し、ガラス組成の違いによる熱膨張率の差を利用してヒビを入れ、そこを人間がハンマーで叩く。PF分割が終わったブラウン管からは、内部のシャドウマスク等が取り外されて、ガラスだけになる。

本解体は、1人が1台のテレビを解体するセル方式をとる。ハイパーサイクルシステムズ千葉工場では、8つのセルで解体が行なわれる解体が済んだブラウン管は、電子銃のカットへと進むブラウン管から切断された電子銃。真空管の山のように見える
電子銃が取り除かれたブラウン管PF分割工程。左から2番目(中央)、一段低い位置にあるブラウン管が現在加熱処理中のもの。PF分割ラインは全部で5つある

 パネル部とファンネル部はそれぞれ砕かれ、別々の洗浄機でガラス同士をこすり合わせて、蛍光体やカーボン、アルミニウム等を洗い落とす。洗浄作業が終わったガラス片は、再びブラウン管に再利用されるという。すでに国内ではブラウン管方式のテレビは製造されていないが、途上国ではまだ製造されており、そうした用途に使われるとのことであった。

 グリーンサイクルシステムズにおける高純度プラスチックリサイクル処理と異なり、テレビのリサイクルは人手を要する。現在、このハイパーサイクルシステムズ千葉工場では、60人の従業員がブラウン管テレビのリサイクル作業にあたっている。こうした苦労もあって、ブラウン管テレビのリサイクル率100%が実現している。




(元麻布 春男)

2010年6月8日 00:00