iRobot CEOが考えるロボットの今と未来
会見の様子。左からルンバの日本代理店セールス・オンデマンド 代表取締役社長 木幡民夫氏、iRobot CEO Colin Angle氏(コリン・アングル)、明治大学理工学部機械工学科専任准教授 黒田洋司氏 |
ロボット掃除機「ルンバ」などで知られる米国のiRobot(アイロボット)は、創立20周年を記念した日本でのプロモーション活動の一環として、CEO(最高経営責任者)のColin Angle氏(コリン・アングル)が記者会見を行なった。
日本では人工知能を搭載したロボット掃除機「ルンバ」のメーカーとして知られるiRobotだが、米国ではルンバ以外にもプール掃除ロボットなどを展開。さらに、政府や軍からの依頼で地雷除去ロボットなども作っている。会見では、同社のこれまでの取り組みなどが紹介されたほか、今後の方針や可能性についても言及した。
■夢や憧れだけではなくて、実用性や製品化が重要
コリン・アングル氏 |
iRobotは、米国マサチューセッツ工科大学で、人工知能研究を進めていたロドニー・ブルックス氏、ヘレン・グレイナー氏、コリン・アングル氏の3人によって創設された。
その当時についてコリン・アングル氏は「会社創設時の私たちの目標は、かっこいいロボットを作りたいということだった。見た目もいかにもロボットらしくて、テクノロジーを感じられるものに没頭した。ただ、それでは収益が出ずに苦しい状況が続いた」という。そこで、同社は方向を転換。人間にはないロボットの強みとして、頑丈性や耐水性に着目し始めた。
「実用性や、製品化ということにこだわって、開発を進めていった。人間が嫌がる、危険な仕事や汚い仕事をロボットが代わりにするというところに需要があると思いついた」(コリン・アングル氏)
この発想を元にロボット掃除機「ルンバ」や、プール洗浄用ロボットなどを製品化。ルンバはアメリカで、500万台を超える大ヒットとなり、会社経営も軌道に乗ったという。会場ではiRobotという社名に対するエピソードも披露。これは米国のSF作家Isaac Asimov(アイザック・アシモフ)の「アイ・ロボット」からインスパイアされたものだという。
日本未発売のプール洗浄用ロボット「Verro(ベロ)」 | 日本未発売のフロア洗浄用ロボット「Scooba(スクーバ)」 | 雨どい掃除ロボット「Looj(ルージ)」 |
今、最も注目しているのは介護ロボットだという。「私たちが抱える最大の問題の1つが高齢化だ。今後ますます高齢化が加速していく中で、家事や医療介護ができるロボットは必ず必要になる」(同)
米国よりも高齢化が進む日本に対しては「介護ロボットは日本が先導していくことになるだろう」(コリン・アングル氏)と予測。日本のロボット市場については「アメリカ以外で最大の市場。日本の消費者は、製品に対して厳しい目を持っていて、その分製品への期待も大きい。成長機会のある重要な市場として、まだまだ可能性を秘めている」(同)とコメントした。
また、同じアジアで経済成長が著しい中国市場に対しては「色々な可能性を感じているし、今後重視していきたいマーケット。ただ、中国の人はロボットの有用性について懐疑的であることが多く、マーケティングに苦戦している」(同)と話した。
■日本のロボット市場が発展しないワケ
明治大学理工学部機械工学科専任准教授 黒田洋司氏 |
会場では、明治大学理工学部機械工学科専任准教授の黒田洋司氏も登場。黒田氏はロボット研究に深く関わっている人物で、「はやぶさ」の愛称で知られる小惑星探査ロボット「JAXA MUSES-C」のプロジェクトにも参加している。黒田氏は、アメリカでの研究経験もある自身の経験から、日本とアメリカのロボットへの考え方には大きな隔たりがあることを紹介。
「日本のロボット研究は、夢を原動力として、ロボットを作ること自体が目的になっている。そのため、実用化や製品化が遅れている。一方、アメリカでは、もっと具体的な用途や目標が設定されている。iRobotは、ロボットを夢や目標としてではなく、利益を追求する企業として成立させているが点が素晴らしい」(黒田氏)
コリン・アングル氏は、日本企業のロボットへの取り組みについて「日本は最も高度なロボットテクノロジーを有する国。もし、日本が実用ロボットに乗り出したら、この分野においてリーダー的な位置になるだろう。ただし、高度な技術や細かい制御にこだわったこれまでのアプローチを変えなければ、日本のロボットは高級品で終わってしまう」と語った。
■軍や政府からの依頼にどこまで答えるか
成功企業の前例が少ないロボット分野において、ビジネスを成功させる秘訣を聞かれると「私たちの場合は、投資家に恵まれたことが大きい」と回答。これについて、会場からは軍や政府からの依頼や報酬が占める割合も多いのではないか、軍事用と民生用どちらのロボットに重点を置いているのかという質問が出た。
「資金源として考えた時に、民生用、軍事用ともに重要な要素である。テクノロジーのレベルにおいては、地雷探知の技術がルンバに活かされることもあるし、その逆もあり得る。両者のもっとも大きな違いは価格にある。軍や政府に依頼されたものであれば、価格を気にせずに高度なセンサーやクオリティの高い素材を使用できるが、民生用では消費者が買える価格にしなくてはならない」(コリン・アングル氏)
テロ発生時などに爆弾を持ち出したりするために使われている多目的作業ロボット「PackBot(パックボット)」 | 米国防省国防高等研究計画庁(DARPA)の資金供与によって開発が進んだという | 段差などを越えられるようにキャタピラーが採用されている |
アーム部分 | 先端にはカメラが設けられている |
また、現時点では、人命救助を目的としたロボットを作っているが、攻撃用のロボット作成依頼が来たらどうするかというという問いについては「現時点では作っていないし、政府もロボットを攻撃に使うことに対しては興味がないようだ。しかし可能性がないとは言えない。たとえば銃を持っている人間に対して、丸腰の人間は何もできないが、ロボットであればできる。状況が分からない場所や建物に、人間より先に入って、状況を把握するというような、現在の軍事用ロボットよりもアクティブなロボットを作ることはありえるかもしれない。私たちは、自分たちが作ったロボットによって、1,000人以上の人命が救われたということについて誇りを持っている」(コリン・アングル氏)と話した。
ロボットは、映画や小説などで人間を脅威に陥れる存在として描かれることも多く、道義的・仁義的な観点からロボットを問題と捉える人も多い。会場からはiRobotでは、今後の進展を含めてそのあたりをどう考えているのかという質問が出た。
「現時点ではロボットが人間に代わるということは考えられないし、技術もそこまで進化していない。ただ、人間の聴力を補うような人工的な耳や、ロボットアームを作るといったような取り組みは行なわれているし、10年後には可能になっているかもしれない。たとえば、40年後には10代の子供たちがファッション感覚で人工的な目や足を付けている日がくるかもしれない。私たちが製品の開発を進める上で、最も重要視しているのは安全性なので、ロボットが人間を攻撃するということは考えられない。しかし、ロボットの技術が進むことで貧富の差が一層激しくなるということはあり得るだろう。つまり、お金があることで、体の一部をより良いものに替えるということが一般的になれば、お金を持っている人と持っていない人の間の問題がより複雑化するかもしれない」(コリン・アングル氏)
会場では、参考出展として純金箔24Kを施した「黄金ルンバ」ほか、ルンバの歴代モデルも展示されていた。以下、写真でご紹介する。
黄金ルンバ | 本体上部 |
2002年に発売した「初代ルンバ」 | 2003年の「ルンバ・プロエリート」 | 2004年に発売したモデル |
2005年「ルンバ・スケジューラー」 | 現行モデル |
(阿部 夏子)
2010年10月7日 18:05