やじうまミニレビュー
Microplane「シトラスツール」
■おろし器の小さな不満
鋭い刃で食品を微細におろすMicroplaneの「シトラスツール」 |
料理をする人ならきっと賛同してくださるかと思うのだが、いわゆる「おろし器」で大根やショウガをすりおろすと、いくつかの小さな不満が生じる。
まず、「おろし器の目にくっついて残ってしまい、もったいない」。
ショウガなどは繊維が多いので、かなりくっつく。汁物の吸い口用にほんの少しおろすときなど「これじゃ食べる分とくっついた分と、どっちが多いかわかりゃしない」と、ぼやきが出そうな感じだ。
もったいないからと、くっついた分を指で取ろうとすると「トゲトゲが痛いわりに、あんまり取れない」のも不満だ。
次には「水気が出る」こと。特に大根をおろすと、大量の水気が出る。料理の本には「出た水気は切る」(つまり捨てる)などと書いてあるが、もったいなくて、とてもできない。お味噌汁に入れたりして消費するのだが、何だかすっきりしない感じだ。
そんな不便を解消する、ニュータイプのおろし器があることを知った。Microplaneという米国の会社から発売されている「シトラスツール」である。
本来、その名の通り、柑橘類の皮をおろしたり、飾り切りにしたりする道具であるようだが、ショウガ、チーズなどにもおすすめだという。
Amazon.co.jpの紹介文では「アメリカの木工ヤスリメーカーがその独自の技術で作った鋭い刃は、その1つ1つに“刃つけ”がされており、たくさんの小さなナイフが様々な食材をスムーズに削りとる」とある。
さらに、「おろし面の裏側がなめらかなので、くっついた分を指でかき取れる」、「細かく鋭い刃でおろすので、水分が出にくく、繊維の多いショウガもなめらかにおろせる」、という部分に、とても惹かれた。おろし器としては高価だが、名職人が目立てた銅や錫のおろし金を買うよりは、ずっと安い。試してみることにした。
メーカー | マイクロプレイン |
製品名 | フードグレーダー シトラスツール |
希望小売価格 | 2,730円 |
購入場所 | Amazon.co.jp |
購入価格 | 2,730円 |
カラーは鮮やかなオレンジ、イエロー、グリーンと3色ある。今回はオレンジを選んだ。
■ちょっと乱暴なパッケージまわり
届いた製品を見て、パッケージがあんまりあっさりしてるのには驚いた。
薄いビニール袋にくしゃっと包んだだけなのだ、日本のメーカーだったら、イメージ写真の入った台紙と、もう少ししっかりした透明プラスチックのケースくらい用意するだろう。さらに驚いたのは、製品の本体(おろし面の裏側)に、べったりと製品スペックやバーコードのシールが貼ってあることだ。
こんな感じで到着した | シールが製品にべったり貼られている | 細かい刃が一面についている |
発売元と代理店が貼ったシールは、丁寧に剥がせばきれいに取れたが、アメリカ側のバーコードシールは接着剤がきつくて、跡が残った。この跡は、食洗機の熱湯で何度か洗った今も、まだかすかに残っている。
左が、刃面を保護するカバー。固くて付け外しが大変 |
刃には、危険防止のためだろう、丈夫なプラスチック製のカバーがついている。これを外すのにも手こずった。ちょっと短くなっている爪に指をかけてひっぱるのだが、とにかく固くて力がいるのだ。最初、私は何度も何度も失敗した。子供があけてケガをすることが「絶対」ないように、過剰に保険をかけている感じだ。
もう少し、スライドさせて引き抜けるとか、どこかのロックを外せばパカッと取れるとか、親切設計があってもいいのにと思う。ここらへんのパッケージまわりは、外国製品ならではの大ざっぱさを感じさせるものがある。
本体のサイズは220×70mm(縦×横)とコンパクト。グリップに曲線がつけてあり握りやすい。
■薬味をおろす
我が家で一番おろす頻度が高いショウガとワサビで試してみた |
我が家で、おろし器やおろし金が一番活躍するのは、薬味を用意するときだ。マイクロプレインにとってはアウェーかもしれないが、これから試してみよう。
とりあえず、ショウガをおろしてみることにした。
おろしはじめると、手に伝わる感覚が、まず柔らかい。手持ちのプラスチック製おろし器だと、ゴリゴリと、繊維をひきちぎるような感じがするのだがシトラスツールは力を入れずにスイスイできる。ただ、細かくおろしているせいか、おろせる量は少なめで、欲しいだけの量ができあがるまでの時間は少々長くかかる。
ショウガをおろす。あまり力を入れずにおろせる | 裏側には刃がついていないので、くっついた食材を指で取ることができる | おろした断面は、切ったようになめらかだ |
おろしたショウガは、ペースト状でとてもなめらか。味わってみると、口に溶けるような食感で、匂いも上品な気がする。好きな味だ。醤油に溶かしても、よくなじむ。プラのおろし器でおろしたショウガは、もっと荒々しく辛いし、繊維が口に残るのだ。
マイクロプレインは、普通のおろし器とは、はっきりと違う仕事ができている。白身のお刺身につけたり、お菓子作りに使うなど、微妙な味わいを楽しむ用途にとてもいいと思った。パッケージは大ざっぱだが、製品はデリケートなのだ。
おろし面の裏側にくっついたショウガを指で取ってみたが、楽に取れる。こちら側には刃がついていないので、危なくない。
普通のおろし器でおろすと、このように繊維が立ってザラザラになる | 目にくっついた食材は取りにくい | シトラスツールでおろしたショウガ。なめらかで、溶けるような食感 |
おろしたショウガの断面がきれいなのも普通のおろし器と違う。普通のは、目の跡が線状について、繊維が毛羽立った状態になるのだが、シトラスツールだと包丁でスパリと切った感じによく似てきれいだ。
続いて、ワサビをおろした。
これもスムースな感触で、あまり力を入れずにおろせる。ただ、何かヘンだ。すりごまのような、乾いた感じの微細な粉末がお皿にたまっていく。一瞬「今日のワサビはハズレ? 水気のない古いのを買ってしまった?」と思ったほどだ。
結果としておろしワサビには見えにくいものができてしまった。味をみると、独特の香りがあまり感じられず、辛さも少ない。シトラスツールの「鋭い刃で微細に切る」というコンセプトは、ワサビには向いていないようだ。
比較のために、ワサビをおろすための専用品である「鮫皮のワサビおろし」でもやってみた。これは、鮫皮のザラザラで押しつぶすようにおろすので、適度な水気もあってねっとりとおろせ、香りも豊かだ。やはり餅は餅屋というか、専用ツールは違うものだと思った。
さらに、(結果は大体見えているのだが)プラのおろし器でワサビをおろしてみた。ゴリゴリと、おなじみのガサツな音がして、荒くおろすから粒が粗い。見るからに荒っぽい感じ。味わってみると、辛いけどワサビの芳香はあまりしない。予想通り残念な結果になった。
シトラスツールとほかの機器でわさびのおろし比べをしてみた | わさび専用のおろし器、鮫皮おろし | 普通のおろし器 |
シトラスツール。乾いた感じで、香りや辛さがあまりしない | 鮫皮おろし。ねっとりとして香りも豊か | 普通のおろし。粒が粗い。辛いけど、残念な味 |
辛味大根をおろす |
最後に、辛味大根をおろしてみた。
信州方面で取れる、そばの薬味に使う大根だ。ニンジンくらいの小型だがとても辛い。季節や、大根の個体差によるが、本当に涙が出るほど辛いことがある。
シトラスツールで辛味大根をおろしてみると、ツーンとくる激しい辛味が少なく、やや口にやさしい。しかし特有の風味は残していて、いい感じである。そして、余分な水気が出ない。
もともと、辛味大根は一般的な青首大根に比べると水気が少なめなのだが、それにしても、プラのおろし器でおろしたのに比べ、はっきりと差があった。この大根で冷たいおそばを食べた。おいしい。満足である。
まとめると、マイクロプレインはワサビには向いていないが、ショウガと辛味大根には、とても有効なツールだ。
細かい刃でおろすので、余分な水気が出ない | 普通のおろし器でおろすと、このように水気が出てしまう | おそばの薬味にして食べた |
■柑橘類の皮をおろす
ライムの皮をおろして、ヨーグルトにトッピング |
シトラスツールの名前本来の用途、柑橘類にも使ってみよう。こんどはホームグラウンドなので活躍を期待したい。
まずライムの青い皮を、ヨーグルトにかけて香りを楽しんでみることにした。音もなくサラサラとおろせる。粘らずくっつかず、乾いた感じの細かい粒が散り落ちて、きれいだ。
ワサビで試したときにマイナスだった要素が、完全にプラスになった感じである。白いヨーグルトに緑のライムが、とても映えて美しく、食べても爽やかでおいしかった。
シトラスツールの右端の2つの穴は、柑橘類の皮の飾り切りに使えるピーラーである。キューッと引っぱると細長いストリング状に切ることができ、ジュースやカクテルの飾りにできるらしい。かっこいいではないか。
しかしこれが、何度やってもうまくいかない。ライムの皮に刃をしっかりと立てたつもりでも、すべってしまうし、うまく刃が立てられたと感じたときでも、ホームページにあるような長いものにならないで、短く切れてしまうのである。どうも、無意識に、包丁で皮をむくときのように薄くしようとして、すべって刃が入っていかないらしい。
夫がやりたいというので渡してみたら、どういうわけか、普段不器用な夫の方がうまい。くるっと一回り削ってしまう。しっかり押さえて思い切り力を入れるのがコツだという。
「この機能は、なまじ包丁が使えて、『かつらむき』とかできる人にはむいてないんじゃないかなあ」と夫。「ほら、包丁の刃は鋭いから、余計な力を入れたら危ないっていうでしょ。その考え方とは対極なものだと思う」と言う。ちなみに、夫はリンゴの皮をむくことができず、刃物は苦手としている。
ライムの皮をむいている間、非常に爽やかな香りが家中に立ちこめ、長時間ただよっていた。
ピーラーでライムの皮を細長くむく。しっかり押さえて思い切り力を入れるのがコツ | ジュースのグラスにあしらってみた |
■チーズをおろす
マイクロプレインが生まれたのは、こんなエピソードによるそうだ。
チーズがおろし金できれいにおろせず、くっついてしまうことに腹を立てていた主婦が、家にあった木工用のヤスリでおろすという荒技に出たところ、大変うまくいった。これがヒントになったのだという。
誕生の発端となったエピソードをなぞって、スパゲッティにナチュラルチーズをおろしてかけてみることにした。
ゆでたてのスパゲティに、やはり熱々のソースを盛りつけ、チーズをその上からおろしてかけた。
すると、サラサラの、非常に細かいシュレッド状のチーズが、どんどん削れてスパゲティの上に落ちていく。とても楽しい。そして、落ちたチーズは、はじから泡雪のように溶けていく。これまで、こういう光景は見たことがない。ちょっと感動してしまった。食べてみても、もっちりと溶けたチーズが麺によくからんでおいしく、当たり前だが缶に入った粉末パルメザンチーズとはまったく違うものだ。大成功だった。
チーズをできたてのスパゲッティの上に直接おろした | 泡雪のように薄く細かなチーズがおろせる |
この細かで薄いおろしチーズは、サラダのトッピングにしてもきれいだし、おいしいと思う。
■万能ではないが、便利な一本
シトラスツールで、色々なものをおろしてみた。
ショウガやチーズのように非常によかった時もあれば、ワサビの時のように残念なこともあった。ただ「鋭い刃で微細に切る」という機能が、一般のおろし器とかなり違うものであることは、とてもよくわかった。普通のおろし器とは違うことができる商品なのだ。
シトラスツールがあれば、普通のおろし器は要らないとか、万能だということはできない。しかし、いったんこれのスムースなおろし心地や、食品がくっつかない使い勝手を知ったら、手放すことはできないだろう。
折に触れていろいろ使っていきたい一本である。
2010年 3月 8日 00:00
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