家電製品ミニレビュー

岩谷産業「カセットガスストーブ」

~ホースも電気も不要、カセットガスで暖まるポータブルストーブ
by 藤山 哲人
岩谷産業「カセットガス ストーブ」

 2011年の夏の節電を乗り越えたこの冬、D.I.Y店に行くと、石油ストーブがズラリと並んでいる。そう、冬の節電対策でストーブが注目を集めているのだ。

 聞くところによれば、灯油だけで暖が取れる昔ながらの石油反射式ストーブは、夏からすでに前年比2倍のペースで製造されているいるという。去年は暖房機器コーナーに1個ぐらいしかなかった家電量販店でも、数十種類もの反射式ストーブがズラリと並んでいるのだ。

 今回ご紹介するのは、ストーブとはいっても燃料は灯油ではない。カセットコンロ用のガスを使った「カセットガス ストーブ」だ。メーカーは、ガス事業大手のイワタニ(岩谷産業)だ。


メーカー岩谷産業
製品名カセットガスストーブ
希望小売価格15,750円
購入場所Amazon.co.jp
購入価格10,800円


ガスストーブなのにホース不要。手軽に持ち運び

 一般的なガスストーブでは、壁のガスコンセントなどからホースを接続する。さらにファンヒーターであれば、ファンを回すためにコンセントの電線を接続して使う。しかし、集合住宅などではガスコンセントがない場合が多い。たとえあったとしても、使っているうちにコードがとぐろを巻いてしまったり、ホースに足を引っ掛けたりして扱いづらい。

 しかしこのカセットガスストーブは、カセットガスを使うため、配線・配管が一切ない。つまりノートパソコンのように、いつでもどこでも簡単に持ち運んで、いろんな部屋で使えるのが最大のメリットだ。

ガスボースもコンセントも不要。どこにでも手軽に持ち運びできる居間でちょっと読書をするなんて場合も、足元に近づけてポカポカと暖まれる

 大きさは、ほぼカセットガスコンロと同じ。もちろん持ち運びの取っ手もついていて、重さは本体が2.4kgなのでカセットガスを入れたとしても2.65kgと超軽量。お年寄りや小学生の子供でも軽々持ち運べる。

サイズは308×205×306mm(幅×奥行き×高さ)。重さはカセットガスを入れても2.7kgなので軽い取っ手もついているので持ち運びも楽チン

 点火はカセットコンロとまったく同じで、本体横にあるダイヤルを「カチッ!」と音がするまで回すだけ。電池も不要だ。火力の調整はできないが、寒い場所に持って行って、とりあえず部屋を温かくするという用途であれば、不便はないだろう。実際に使ってみたが、ONとOFFだけで十分と感じられた。

点火もカセットコンロとまったく同じ。電池も不要だカセットガスは、背面下から投入する
磁石でロックするタイプなので、ワンタッチで装着OK火力調節はできないが、さほど不便は感じられない。凍える冬場の朝の洗面所、脱衣所や洗濯機置き場で使えば快適だ

電気がいらない、石油臭くない、でもスグに温かくなる

 本製品が熱を放つ仕組みは、本体前面にある10cm四方のセラミックヒーターを、ガスの燃焼で加熱し、そこから出る遠赤外線で暖めるというもの。いわゆる輻射熱方式となっている。太陽から届く熱と同じなので、体の芯からほっこり温まれるのがうれしい。

中央の白い部分がセラミックヒーター。無数の小さい穴からガスが出てヒーターを加熱し、ヒーターから遠赤外線が出る発熱部には点火装置と、立ち消え防止機能もある。右側から常に小さい炎が出るので、生ガスが出ないようになっている。

 ここで、本製品の温まり方を見るために、温度を図ってみた。次のグラフは、ストーブの手前15cmと、ストーブ上部20cmのところに温度センサーを置き、点火直後からの温度変化を測ったものだ。これは、寒い日にストーブの手前や上に手をかざして、暖めている様子を想定した。

ストーブ点火直後からの直射熱変化

 ストーブ上部20cmの場合、点火直後におよそ63℃ほどまで温度が上がっている。これはセラミックヒーターが全体的に温まらず、一部から出た炎で温度が瞬間的に上がっていたようだ。しかし1分もするとヒーター全体が安定しはじめ、30~40℃で安定した。なお2分と8分半のところでグラフが山状になっているが、これは筆者が歩いたため気流が乱れ、熱い空気が直接センサーを暖めたものと思われる。

 一方ストーブ手前15cmの部分の場合、セラミックヒーターからの輻射熱が安定して出ていることが分かる。10分もストーブの前に手をかざしていれば、単純計算で47℃まで熱くなることになる。じんわりと温まりたいなら、ヒーター正面で手をかざしておくのが一番だろう。


部屋全体で暖かくなる。“ガスだと湿度が上がる”って本当?

 今度は、空間をどれだけ暖めるのかを検証してみよう。マニュアルには「暖房の目安」として、「木造一戸建ての場合3畳まで、コンクリート集合住宅の場合4畳まで」とあるが、本当にこんなに小さいストーブで部屋が暖まるのか疑問だ。火力は1kWとガスファンヒーターに比べると半分以下だが、それで部屋がどのぐらい温まるのか?

 実験は、およそ6畳間の部屋に本製品を置いて、床上10cm(足元)と床上160cm(頭)の温度変化を調べてみた。なお温度センサーは、熱気や遠赤外線が直接当たらない場所に設置した。

ストーブ点火直後からの部屋の温度変化

 結果は上のグラフの通り。1時間で床上10cmは2.5℃、床上160cmだと3~4℃ほど上がった。

 さすがに部屋全体を暖めるのには、1時間ほど時間がかかってしまうが、ちょうど目の高さの160cmの高さでも、床上10cmの高さでも、均等に温まるように設計されているようだ。筆者の祖父母の家にあった反射式の石油ストーブは、部屋の天井付近ばかりが暖まり、座ってると寒いが、立つと頭ばかり暑かったが、その点このカセットガスストーブは部屋全体を暖めてくれるようだ。

 ついでに上下、左右への熱の広がり方を調べてみた。本当はサーモグラフィー(熱画像撮影機)で撮影するのがいちばんだけど、サーモグラフィーレンタルするだけでもウン万円もするので、手近な温度計で測定。結果は、上方向から斜め下方向まで、熱は広がっていた。左右については、正面が最も暖かく、熱は左右45度ほどまで広がるものの、それ以上になると、室温と変わらなかった。おそらく、ストーブのフチで遠赤外線を遮ってしまうためだ。ヒーターが見える角度イコール熱の広がる範囲と考えていいだろう。

上下への温度の広がり。上部がいちばん広がっているが、斜め下方向にも熱は広がっている。なお数値は、いずれもストーブから20cm離れた場所の温度左右へにはあまり熱が広がっていないが、おそらくストーブのフチで遠赤外線を遮ってしまっているのだろう。ヒーターが見える角度イコール熱の広がる範囲のようだ

 さらに、湿度に関する調査もやってみた。というのも、カタログに「カセットボンベの成分であるブタンガスは燃焼すると水蒸気を発生するので、ストーブをつけているだけでお部屋に水分を放出していることになります(理論上の目安として約80分の燃焼で1,500ccの水分が発生します)」とあったからだ。

ストーブ点火直後からの部屋の湿度変化。湿度の上昇は見られなかった

 この結果が上のグラフだ。グラフを見る限り、湿度は徐々に下がっている。おそらくブタンガスが発生する水蒸気以上に、燃焼による湿度低下があるのだろう。都市ガスを使うガスストーブや、反射式石油ストーブに比べると、湿度の低下は穏やかかもしれないが、カサカサ肌などで湿度が気になる場合は、やっぱり加湿機も併用した方がいい。加湿することで、体感温度も温かくなるというメリットがあるので、小さなカセットガスストーブでも、狭い部屋なら十分にポカポカと温かくできるだろう。


メイン暖房にもサブ暖房にも、アウトドアにも使える。気になるランニングコストは?

 このカセットガスストーブは、小さくてコンパクトな点が売りなので、6畳間以上ではメインの暖房とはならない。しかし、小さい部屋のメイン暖房として、またリビングのサブのストーブとして使えるだろう。

 また、電気を一切使わないので、非常用のストーブとしても大活躍するだろう。もしキャンプをするなら、ハウス型のタープ(雨よけ、陽除け)で暖を取るのにも最適だ。ただし、テントのような狭く密閉した空間では使用を控えたい。

 なお本製品には、不完全燃焼や転倒時、風で火がたち消えた場合や容器の圧力が異常に高くなった際には、自動でガスを切って運転を止める安全装置も付いている。

 気になるランニングコストについては、そこまで高くはない印象だ。ここまで小さなガス暖房機はほかにないので、他の暖房器具と比較すること自体が難しいのだが、カセットガスストーブの2.4倍の火力を持つ6畳用の2.4kWのガスファンヒーターと比べてみた。ガスファンヒーターの場合は、1時間当たりのガス代は約12円(都市ガス)で、これに毎月の基本料金と電気代も加わる。一方、カセットガスストーブの場合、1本のカセットガスで連続3時間20分利用でき、価格はスーパーの特売品で3本400円ほど(1本130円程度)。1時間使った場合のガス代は40円程度になる。

 単純計算ではやや割高ではあるものの、コードレスで使える利便性を考えれば、こんなものだろう。もっと安いカセットガスを使えば、コストはさらに下がる。ちなみに、朝のキッチン、夜の脱衣所で使うなら、カセットガス1本で、だいたい3日間は持つ計算だ。

カセットガス ストーブはこんな人にぜひオススメ!

 この製品には、エアコン暖房やガス・石油ファンヒーターほどの火力はないが、寒い冬にスグ暖を取りたいという場合に最適の暖房だ。冬に停電した場合の暖を取る選択肢は、これまで石油ストーブくらいしかなかったが、ススも出ず石油臭くなく、また持ち運びも簡単なカセットガスストーブという新たな選択肢が登場したことになる。

 このストーブは、こんな方におすすめしたい。

・早朝に朝食やお弁当作りで寒いキッチンを暖めたい人
・洗濯物や脱衣所、洗面所などに持っていて寒さ対策したい人
・エアコン暖房から温風が出てくるまでガマンできない人の補助暖房として
・計画停電中の暖房として備えたい人
・秋キャンプ用の暖房として

 価格は反射式ストーブとほぼ同じだが、コードレスで小型の暖房器具として、冬の備えにおすすめしたい。






2011年11月16日 00:00