家電製品ミニレビュー

ダイソン「エアマルチプライアー AM03 フロアーファン」

~もはや別物! 優しい風が心地良い羽根のない扇風機
by 阿部 夏子
ダイソン「エアマルチプライアー AM03 フロアーファン」

 エポックメイキングという言葉がある。ある分野においてそれまでにない画期的な製品を出し、新たな時代を開くことだ。

 今回紹介するダイソンのエアマルチプライアーは、その意味で間違いなくエポックメイキングな製品だろう。初めてこの製品が発表された時、私も発表会に出向いていたのだが、これまで全く見たことのない形状はもちろん、従来の扇風機の風質に問題を提起したのも、新鮮だった。

 節電対策で扇風機に注目が集まっている今、改めてこの製品を紹介したい。エアマルチプライアーでは、卓上タイプ、タワータイプ、フロアタイプの3製品をラインナップしているが、今回紹介するのは、その中でも一番サイズの大きいフロアタイプ「エアマルチプライアー AM03 フロアーファン」だ。


メーカーダイソン
製品名エアマルチプライアー AM03 フロアーファン
購入場所ダイソンオンラインストア
購入価格54,000円

 製品の詳細を紹介する前に、エアマルチプライアーのことを簡単に説明しておこう。エアマルチプライアーは、ダイソン独自の技術によって実現した“羽根のない扇風機”だ。ハンドドライヤーなどに使われている風の技術を応用したもので、1秒間に約33Lの空気を吸い込み、その約18倍にあたる594Lの風を生み出すという。羽根がないという独自の構造を採用したことで、風にムラが起きにくく、手入れが楽で安全性が高い点が特徴だ。ちなみに、消費電力は約65W。

 本体の組み立ては迷うことなく行なえる。羽根がない分、部品の数も少ないので、組み立ては5分ほどで終わる。

本体部品。羽根がない分、部品が少なく、組み立ても簡単本体付属のリモコン組み立てた後の製品本体
本体ベース部分。リモコンのほか、ここでも操作できる風発生部の内側。細かい穴が開いている。ここから高速な空気を発生させ、傾斜の上を通過することで、円形気流を生み出す製品名が控えめに書いてある

動いているのか分からない

リビングに設置したところ。42型の液晶テレビに負けない存在感がある

 国内メーカーでいうところの「リビング扇」にあたるこの製品、実際自宅に置いてみると、圧倒的な存在感だ。42型の液晶テレビと並べておいてもヒケを取らない程の大きさで、これまでの扇風機というイメージとはかなり違う。羽根のない独自の形状と、曲線が目立つデザインも強烈で、部屋に入るとまずエアマルチプライアーに目が行く。

 部屋に設置したところで、付属のリモコンを使ってさっそく起動してみた。ところがスイッチを押しても、うんともすんとも言わないのだ。「あれ、これもしかして壊れているのかな」と思い、何気なく風量ボタンを触っていると、風量がどんどん大きくなってきた。そう、今さらだがエアマルチプライアーには羽根がないのだ。ということは見た目には何の変化も起こらなくても不思議ではない。

 理屈では分かっていたが、いざ自宅で体験すると改めて驚いた。何もないところから風を発生させるこの技術は、いわゆる「扇風機」とは別物だ。

 本体の基本的な機能は、首振り運転、風量調節といったごくシンプルなもの。いずれも付属のリモコンで操作できる。風量は本体ではツマミで無段階調節、リモコンでは8段階調節できる。また、角度調節や高さ調節にも対応しており、これは手動で行なう。

正面手前に倒したところ角度調節は手動で行なう
高さを最大にしたところ。最大で約140cm一番短くしたところ。約119cm

 8段階の風量は、最大だとかなりのもの。運転音も大きく、同じ部屋でテレビを見るのはちょっと無理だ。一方、最弱にすると、運転音はほとんどしない。私の場合、お風呂上りで汗が止まらないときは最大、真夏日の日中リビングでくつろぐときは中、就寝時は最弱と使い分けている。


電源を切った状態から徐々に風量を上げた。最大風量だと運転音もかなりのもの

微風が気持ちいい

窓から入って来る風なのか、エアマルチプライアーによる風なのか区別が付かないほど自然な風。エアコンとの併用にお勧めだ

 前述したように、ダイソンでは従来の羽根で起こす風を「不快な風」としていた。では、エアマルチプライアーの風はどうかというと、一言でいうと「柔らかい」。窓を開け放している時に外から入って来る風のように自然で、顔や肌に当たっても違和感がない。

 特に差を感じたのは、寝ている時だ。扇風機を寝ている時に使うと、風が当たる部分だけが冷えてしまうような感覚があるが、エアーマルチプライアーは風が一点に集中しないので、変に冷えたりすることもなく、顔に当たっても息苦しさがない。

 そこで活躍しているのが、風量最弱の“微風”だ。この微風モードは、最近の一般的な扇風機に多く搭載されてきているモードで、とにかく静かな運転音で、わずかな風を発生させる。白黒はっきりしないと嫌な性格の私は、これまで扇風機といえば風量強! エアコン28℃に設定するくらいなら切る! という具合で、微風モードにも興味はなかった。

 それが、エアマルチプライアーの微風は本当に心地良い。肌をなでるようなわずかな風で、室内の風をゆっくりと動かしていく。特に就寝時やエアコンとの併用にはとても便利。かなり30℃を超すような暑い日でも、エアコン設定温度28℃、エアマルチプライアーの微風で充分快適に過ごすことができた。

タイマーがないのが残念

就寝時にタイマー運転がないのは不便。移動もしずらいのが難点

 革新的ともいえるビジュアルと機能を兼ね備えたこの製品。毎日のように使っていて、気になったことが2つある。1つはタイマー運転がないこと。特に就寝中の使用は、タイマーオフ運転がないと一気に使い勝手が下がる。

 2つ目は、本体が移動しにくいということだ。今回エアマルチプライアーを使って改めて思い知ったことだが、扇風機というのは意外と移動させる場面が多い。夜は寝室、昼間はリビングにと、部屋の移動はもちろん、風向きをちょっと変えたかったり、首振りの範囲を少し変えたいから、ちょっと角度を変えたいというシーンが多かった。

 エアマルチプライアーは、モーターが下にあるため、本体の安定感が高く、倒れにくい造りになっているため、本体を持ち上げて移動させるというのが結構大変だった。今後の改良に期待したい。

掃除が楽々できる

 羽根がないことのメリットとして、まずは「風の質」を挙げたが、そのほかにも便利なところはある。まず、羽根がないことで、掃除が楽にできるほか、子供のいたずらも防ぐことができるのだ。個人的に嬉しかったのが、部品が少ないこと。

 扇風機のような季節家電は、オフシーズンの時は収納しておくため、梱包の箱などは必ず取っておく。収納時に特に気を付けるのが、羽根の収納だ。梱包されていた専用の段ボールを使って、羽根を割らないように丁寧にしまっていくのだが、エアマルチプライアーではその必要がない。

 5万円を超す価格を考えると、誰にでも勧められる製品ではないが、新しい技術ならではの楽しさや違いを実感できる製品。リビングに置いてあると、来客した誰もが真っ先に「ダイソンの!」と、声を挙げるし、独特の形はまるでオブジェのようだ。扇風機としてではなく、もっと別の「快適な風を起こすもの」として考えると、また別の見方もできるだろう。最近では家電量販店の店頭でも見かけるので、是非一度“微風”を試して欲しい。






2011年7月4日 00:00