藤本健のソーラーリポート
マンションでも太陽光発電はできる?
共用部に利用する「パークホームズ大倉山」の場合

 「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)


太陽光発電を採用したマンション「パークホームズ大倉山」。東急大倉山駅を南に5分ほど歩いたところにある

 住宅用の太陽光発電というと、一般的には一戸建て屋根での設置となっており、マンションやアパートなどの集合住宅ではほとんど普及していない。しかし、最近になって太陽電池パネルを設置した集合住宅が少しずつ登場してきている。

 分譲型のマンションの場合、マンション完成後に設置するというのは、管理組合での決議が必要となるため現実的ではないが、新築物件であれば、ディベロッパーが予め設置しておくことは可能であるし、今の時代、そのことが「売り」となり、マンションの付加価値向上にも寄与する。

 先日、そうしたマンションの1つで、横浜市が行なうスマートコミュニティの社会実証プロジェクト「横浜スマートシティプロジェクト」にも参画している、ユニークなマンション「パークホームズ大倉山」について取材をしてきた。

 このマンション、屋上に太陽電池を設置したというだけでなく、各家庭に電気使用量や電気料金の目安を知らせるホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)を導入したり、蓄電池や電気自動車を利用することで、マンション全体のエネルギー管理もできる。さらには、横浜市による街全体のエネルギーマネージメントシステム(CEMS)との連携もできるようになっているなど、複合的なシステムになっているのだ。

 実際に、太陽電池が住民に対してどんなメリットを出すことができるのか、仮に災害でライフラインが止まったときにどのように役立つのかなどを聞いてきたので、紹介しよう。

屋上のパネルで発電した電気は、売電せずにすべて蓄電池に貯めて共用部に使用

パークホームズ大倉山は、7階建て、総住戸は177戸の大規模なマンション。実は筆者の近所で、前々から注目していた

 今回取材した「パークホームズ大倉山」は、横浜市港北区の東急大倉山駅近くにある、総戸数177戸の大規模マンション。昨年記事にした「太陽光発電シンポジウム」においても先進的な事例として発表されており、また筆者の自宅のすぐ近所ということで、建設前から完成までずっと工事の成り行きを見てきた。完成したらぜひ一度見学して詳しい話を聞いてみたいと思っていたのだが、ディベロッパーである三井不動産レジデンシャルに取材依頼を申し込んだところ、入居直前の10月に現地で話を伺うことができた。すでに全住戸が完売したという。

 マンションは7階建てで、その屋上にはソーラーフロンティア製のCIS太陽電池が、20kW分ズラリと並んでいる。


パネルは7階の屋根に設置されている屋根に設置された太陽光パネルは、ソーラーフロンティア製のCIS太陽電池。合計出力は20kW

 一般的に太陽光発電というと、電力会社と接続(系統連携)して、発電した一部の電気またはすべての電気を売電する形が基本。10kWを超える規模ならば、発電したすべての電力を、1kWh当たり42円で、電力会社に買い取ってもらうことができる。この全量買取制度は、7月に施行された再生エネルギー法によって可能になった。

 だがこのマンションでは、売電の形式をとっていないという。三井不動産レジデンシャル株式会社の横浜支店開発室の小松原高志主査は次のように話す。

三井不動産レジデンシャル 横浜支店開発室 小松原高志主査

 「これまでは、マンションの共用部用に太陽光発電を設置するだけで先進的と言われてきました。しかし震災後は“非常時に役立つ蓄電池が欲しい”という声が高まり、当社のアンケート調査でも9割近くが、今後のマンションに太陽光と蓄電池の両方が必要と答えています。それを実現するために、このパークホームズ大倉山では『省エネ』、『蓄エネ』、『創エネ』の3つをキーワードにさまざまな角度から取り組みました」

 つまり、屋根にある太陽光パネルで発電した電気は、まず共用部で利用し、そこで余った電気は、売電するのではなく、マンション敷地内に設置された、容量30kWhのリチウムイオン蓄電池へと送られ、充電を行なうのだ。夜間は蓄電池に貯めた電力を共用部用に利用するため、ピークシフトなどにも貢献するという。廊下の照明などはすべてLEDするなど、省エネ化がされているようだが、全体的には共用部で使う電力の20%程度を太陽光発電で賄える計算となっている。

廊下の照明にもLEDを採用。光が壁に当たるよう、光源の位置が壁に寄った位置にある中庭の明かりもLED。すべて東芝製
蓄電池はマンションの敷地の裏手にある。容量は30kWh蓄電池は「安全」「長寿命」「急速充電可能」が特徴の東芝製リチウムイオン電池「SCiB」を採用する

 なお、このマンションの建った敷地は、もともと東芝の社宅である団地が並んでいた場所であることもあり、太陽電池や蓄電池、HEMSなどのエネルギー管理システムの設計は、東芝が担当している。

蓄電池は緊急時の備えとしても

 通常時だけではなく、非常時にも太陽光発電と蓄電池の組み合わせが大きく役立つというのが、このマンションの特徴。蓄電池に貯めた電気は、停電でも共用部にそのまま電気が供給できるようになっているのだ。

 「停電になると、自立発電を行なう非常時モードに自動で切り替わるようになっています。この状態になっても共用部には電気が行きますが、エレベーターなどの動力系は切断されます。やはりエレベーターで利用するとすぐに蓄電池に貯まった電気を消費してしまいます」(小松原氏)

 となると、廊下やロビーの照明がつくだけなのかな? と思っていたら、そうではなかった。まず給排水用のポンプが稼動するので、水道が来ていれば断水しないし、トイレも利用可能。ディスポーザー(生ゴミ処理機)のポンプも利用できるようになっている。またセキュリティーカメラなどのセキュリティーシステム、管理室にも電源供給されるとのことだ。

 そして重要なのはインターネット設備にも電源供給される、という点。もちろんインターネット側が落ちていないことが前提とはなるが、マンションまでインターネット回線が届いていれば、停電などの非常時でも、各戸に対してそれが届くようになっているのだ。当然、停電時は各戸への電源は遮断されてしまうが、ノートパソコンなどバッテリーを装備したマシンであれば、インターネット接続が可能というわけだ。

 もう1つキーになるのが、集会室への電源供給だ。停電時にも太陽光発電や蓄電池からの電力供給によって照明は点灯するし、壁に設置されているコンセントから電源を取ることもできる。また集会室には非常時用の水や食料が備蓄されているので、いざというときは、ここがマンションにおける重要な役割を果たす場所となるようだ。

停電時にも電源が供給される集会室集会室の明かりもLEDを採用している集会室には非常時用の備えが備蓄されている

太陽光と蓄電池で足りなくても、日産リーフのバッテリーがある

日産のEV「リーフ」も置かれている。普段はカーシェアリングとして住民に開放されるが、非常時にはマンションに電力を供給する

 ただし、177戸もある大規模マンションにおいて、20kWの太陽光発電と30kWhの蓄電池というのは、十分といえるほどの容量ではないことも確か。エレベーターなどの動力系を除いた共用部分の電力消費量は、普段で1時間あたり6.6kWh。蓄電池も常に満充電になっているわけではないので、停電してからの電力供給は、3時間程度が限界とのこと。昼間であれば太陽光発電があるので、晴れてさえいればそれなりの電力供給が可能ではあるが、これで万全とまではいえないようだ。

 そこで、バックアップのために用意されているのがEV(電気自動車)だ。このパークホームズ大倉山には、日産の電気自動車「リーフ(LEAF)」が置かれており、これが補助用バッテリーとして活用できる設計になっているのだ。

 このリーフは、普段はカーシェアリングという形式で、マンション住民が利用できる形になっている。インターネットを介して予約、各戸に配布されている共用キーを使えば利用でき、30分ごとに課金される。非常時には、リーフに搭載された24kWhのバッテリーを利用して、マンションへと電力供給を行なうのだ。

 こちらは前述の太陽電池や蓄電池とは別系統。リーフから供給される電力は、集会室にある赤い非常用コンセントでのみ使える形になる。したがってテーブルタップなどでうまく配分すれば、マンション住民の携帯電話の充電用の電源などとして使えそうである。

リーフ前面の接続部。写真左側が、リーフからマンションに電力を供給するプラグとなるリーフから供給される電気は、集会室の赤い非常用コンセント(写真右)から利用できる

 もう1つ、このカーシェアリングと似た機能がパークホームズ大倉山には用意されている。それが「シェアサイクル」、つまり自転車のシェアリングだ。ここには12台の電動アシスト自転車があり、無料で住民が利用できるようになっている。

 こちらもリーフのように、マンション住民に配布されているICカードキーを使って利用することができ、使用しないときは、専用のロッカーで電動アシスト自転車のバッテリーを充電する仕組みになっている。また、非常時には電動アシスト自転車のバッテリーに貯めた電気をある程度活用できる仕掛けが作られている。いざというときに電源確保をさまざまな角度から行なっているのだ。

電動アシスト自転車も用意しており、マンションの住民がシェアできる仕組みになっている電動アシスト自転車のバッテリーを充電する専用のロッカーロッカーには電動アシスト自転車のバッテリー

各住戸、マンション、地域でエネルギーをネットワーク化。居住者による節電の実験も

 ところで、パークホームズ大倉山での電力マネージメントに関しては、非常時だけでなく、平常時にも非常に先進的な工夫が数多く施されている。

 まずは全戸に設置されている「HEMS」で、これは各戸に配布されているタブレットを利用することで、電力の使用状況の「見える化」を実現するというもの。エアコン、エコキュート、IHクッキングヒーター、浴室乾燥機……と、全部で10回路に分類したそれぞれの電力使用状況が、リアルタイムに確認できる。さらに「今日までの今月の電気料金合計金額」などもチェックできる。省エネ行動のモチベーションアップを実現するのが狙いだ。

パークホームズ大倉山の一室各住戸にタブレットが配布されている。プラットフォームは、東芝の「FEMINITY(フェミニティ)」エアコンのON/OFFや冷房、暖房の切り替えなども、タブレットで操作できる
エコキュートによる給湯も可能今使っている電力や、今日使った電力量なども、リアルタイムに表示できる時間毎に電気使用量のグラフを表示することも可能
分電盤は細かく別れており、回路毎に電力使用量が算出される操作はタブレットだけではなく、テレビでも可能だ

マンションエントランス部のモニターでは、全戸の使用電力量や、太陽光発電の発電状況、蓄電池の残量などが表示される

 また、このHEMSは各戸それぞれに閉じたものではなく、マンション全体のエネルギー管理システムであるMEMS(マンションのエネルギーマネジメントシステム)、さらには横浜市による地域内エネルギー管理システム「CEMS」とのネットワーク化がされており、さまざまな連携が可能になっている。

 まずMEMSを見てみると、マンションエントランス部分に「見える化モニター」という大きなディスプレイが置かれており、ここに全戸の合計使用電力量などが表示されるようになっている。もちろん、太陽光発電による現在の発電状況、蓄電池の残量なども同時に表示されるようになっている。

HEMS、MEMSのデータは随時、横浜市へと送られる。電力不足が予測される場合には、横浜市からマンションへ、マンションから各住戸へ、節電の協力依頼が届くシステムになっている

 さらに面白いのはCEMSとの連携だ。HEMSやMEMSなどのデータが随時、横浜市へと送られているため、横浜市側で現在の使用電力量を細かく把握できるだけでなく、天気予報などによって翌日の使用電力予測などができるようになっているのだ。そうした中、電力不足が予測される場合には、横浜市からマンション、さらには各家庭へと節電の協力依頼が行くシステムになっている。

 MEMSはこうした協力依頼が来ると、自動的に省エネ行動を実行するようになっている。具体的にはエアコンの設定温度を変更して省エネ運転にしたり、照明の照度を下げたり、間引き点灯するようになる。また協力依頼時には電気自動車の充電をストップして充電待機状態にしたり、蓄電池への充電もストップして放電に切り替えるなど、さまざまなことが行なわれる

エネルギー利用の最適化に有効な方法を実証する実験も行なわれる。入居者は3グループに別れ、自動で節電、手動で節電するなど、グループ毎の節電を行なう

 一方、各戸に設置されているHEMSへも協力依頼がいく。来年4月より、エネルギー利用の最適化に有効な方法を実証する実験が行われ、177戸を3グループに分けて運用される。そのうち1グループは、MEMSと同様に自動で省エネが行なわれ、エアコンの温度が切り替わったり、エコキュートでの湯沸し時間をシフトしたりするようになる。またもう1グループには、予め協力依頼の電子メールが届き、それに応じて各住人が省エネ行動をとる形を取る。残りのもう1グループは、特にそうした依頼がいかず、見える化システムだけで省エネする形になっているとのこと。まさに将来、スマートグリッドが実現した際に備える実証実験といえそうだ。



三井不動産レジデンシャルでは、新規のマンションも「スマート化」していく方針を明らかにしている(写真はパークホームズ大倉山の公共緑化スペース)

 以上、パークホームズ大倉山での太陽光発電や蓄電池、エネルギー管理システムについて見てきたが、かなり先進的なシステムであることは間違いない。ただし、太陽光発電だけに着目すると、177戸のマンションに対して20kWというのは、かなり小規模だ。1戸あたりで割ってみるとたった113Wに過ぎず、オマケ的なものである印象は拭えない。屋上のパネルもわずかなスペースに過ぎないので、もう少し多く設置してもよかったのでは……と感じたのが正直なところだ。

 とはいえ、マンションでの太陽電池活用のあり方を示す事例としては大きな意味を持つプロジェクトであることは確か。三井不動産レジンシャルは7月に「全マンションのスマート化」というプレスリリースを出しており、パークホームズ大倉山で培ったノウハウを、新規のマンションでも展開していくという。今後、他社がどう対応するのか、マンションにおける太陽光発電がどう広まっていくのか、注目していきたい。






2012年11月2日 00:00