藤本健のソーラーリポート
あと2年半でやってくる!「太陽光発電の2019年問題」を考える
2017年5月11日 07:00
筆者が太陽電池の家に住みたくて一軒家を買ってから12年。2004年末の新築と同時に太陽光発電による生活をスタートさせ、いまも順調に発電をする太陽電池とともに暮らしているが、あと2年半で「太陽光発電の2019年問題」というものに直面する。
2019年問題は一般にはあまり知られていない言葉だが、FITの終了、つまり高い単価での売電の終了が始まることを意味するもの。このことは今後のエネルギーとの付き合い方、もっと言えば日本のエネルギー政策においても重要なポイントとなることだ。太陽電池を追い続けて35年、太陽光発電を使って12年暮らしてきたソーラーマニアから見た2019年問題とは何なのか、12年間のデータなども見ながら考えてみたい。
筆者が中学3年生のときに太陽電池という存在を知ってこれに憧れ、高校に入ってすぐに太陽電池を初めて購入。その後、大学も電気工学科へ進み、太陽電池メーカーに入るか楽器メーカーに入るかを悩んだ結果、なぜか間違えてリクルートに入社してしまい、2004年末、ようやく念願叶って太陽電池で暮らせる家を作った、という話はこのソーラーリポートの連載をスタートさせる前の2010年に4回の記事として書いたことがあった。
設置当時の詳細については、以前の記事に譲るが、太陽光発電ブームなんていうものの遥か以前に購入した際はまだまだ価格も高かった。具体的には、今では小規模といわれる3.6kWのシャープ製のものが屋根への設置工事代金も含め、217万円。当時はまだ国からの補助金や横浜市からの補助金もあったので実質的な出費は183万円。まあ、その時の情勢から見れば、元を取るのは不可能という金額ではあったけれど、ソーラーマニアとして十分満足のいく買い物だったのだ。
それから12年ちょっとが経過したわけだが、その間、本当にいろいろなことがあった。当初は買電単価で売電できるという形で、いかに電気料金を安く抑えるか……と工夫していたが、福田内閣時代の洞爺湖サミットでの決定により2009年11月からFIT制度というのが始まったのだ。これは家庭の屋根で太陽光発電をしている人の余った電気をその当時の買電単価の倍となる48円(税込み)で10年間売電できるという制度。早く設置した人ほど、売電単価を高くして太陽光発電の普及を促そうという仕組みになっており、その後42円、38円、37円……と減っていき、この2017年度からは28円(出力制限対象地域は30円)となった。
また2012年からは、大規模のソーラー発電所の全量買い取り制度がスタート。こちらはやや想定外の大ブームとなり、いろいろな歪みも生じているようだが、その結果として日本でもある程度、太陽光発電も普及していったわけだ。とはいえ、資源エネルギー庁の資料によると、2014年度での発電電力量における再生可能エネルギーの比率は、水力を除くとたったの3.2%。
2015年度、2016年度でかなり伸びたとはいえ、欧米と比較しても圧倒的に少ないのが実情だ。もちろんいろいろな主張はあると思うが、個人的には将来的なベストミックスとはすべて再生可能エネルギーの中でのバランスをとるべきだと考えており、太陽光発電も主要なエネルギーになるはずだと思っている。
設置してから12年間で太陽光発電システムはどれくらい劣化したのか?
さて、ここで筆者個人での12年間の経過と実績について、少し紹介していこう。昨今の家庭用太陽光発電システムは、だいぶインテリジェントなものになっているが、当時のものはかなり原始的なモニターだった。
現在の発電状況をリアルタイムにモノクロのLCDの数字で見ることができる電力計と、クルマでいうとのころのオドメーター=積算発電量計とトリップメーター=区間発電量計が切り替えられるというだけのもの。筆者は毎月末にトリップメーターをリセットし、その月の発電量を確認しているが、先月の発電量のチェックはおろか、昨日の発電量を見ることもできないシステムではある。
とはいえ、ソーラーマニアとして発電量は非常に重要なデータ。そのため、この12年間、毎日発電量をチェックするとともに、天気とともに手書きで大学ノートに記録してきた。まあ、2011年12月からはNTTスマイルエナジーのエコめがねを設置したので、すべてのデータを記録できるようにはなったのだが、システム上、精密なデータは取得できないためと、まあ習慣というか趣味で、今もノートはつけているのだ。
その12年のデータを見ていくと、いろいろなことが見えてくる。まず一番気になるのが、12年前と今でどのくらい劣化しているか、という点だろう。各太陽電池メーカーの出力保証などのデータを見ると10年で10%程度の劣化が見込まれているが、筆者の12年間のデータを見る限り、ほとんど劣化は感じられない。
毎日の天気によって出力が変わるので、そもそも正確な比較自体が難しいのだが、2005年3月と2017年3月を比較した場合、月間発電量は2005年が324kWhで、2017年が323kWhとほぼ同じ。また3月の31日間の日々の発電量のうち晴れた日の最大発電量は2005年が18kWhで2017年が17kWh。6%程度落ちている可能性はあるけれど、際立った違いは感じていないのが実際のところだ。
屋根に設置している太陽電池を遠くから見る限り、特段変わったこともないし、外に設置しているパワコンも順調に動いてくれているようだ。もっとも以前の記事でも書いたとおり、実はパワコンについては10年の保証期間内に2回ほど故障して交換をしたことがある。1回目は設置した3か月後であり、完全な初期不良。2回目は2009年6月だったが、シャープの工事担当者の説明によれば原因不明とのことだったが、そこで新品に交換してもらったこともあり、それからは順調に動いているのだ。
電気代の収支は、年間通してほぼトントン
では筆者の家の電気代の収支状況はどうなっているのか。まずは直近の東京電力の検針票をご覧いただきたい。
太陽光発電ユーザーの場合、一般的な買電検針票のほかに売電検針票があるわけだが、これをみると分かる通り、基本料金1,296円を入れた買電が8,475円で売電が9,360円。相殺すると885円の黒字という計算だ。夏場はもっと黒字になり、冬場は赤字になるのだが、2016年のエコめがねのデータを見ると、1年間を通じてほぼトントンとなっているのが分かるだろう。
5人家族だが、金額面で見て電気代をほぼゼロに抑えられているのは、もちろん電気の使い方を工夫しているから、という面も大きい。まずは昼間発電した電気はなるべく売電に回すようにしているということ。昼間は留守がちなので、自動的にそうなるのだが、電気を多く消費するものは、できるだけ夜間にするようにしているのだ。実際、エコめがねには発電した電気のうち、売った電気と使った電気の割合を月ごとに見る機能がある。これを見てみると2016年10月で75%:25%。
年間を通しても、その程度となっているので、昼間の売電率がまずまずの結果になっているのが分かる。また、2004年末の設置の時点から、東京電力との契約を一般的な従量電灯契約ではなく、「おトクなナイト10」という昼高く、夜安いものにしているのもポイント。この制度自体は2020年には廃止になってしまうそうだが、電気を使う多く使う夜に安いからこそ、収支がうまくいくようになっていたわけだ。
12年間でいくら儲かったの?
ここで、多くの方が知りたくなるのが、12年間でいくら儲かったのか、初期投資の183万円は回収できたのか、ということではないだろうか? これについては、どう計算するかは難しいところだ。というのも売電収入だけが儲けというわけではないからだ。昼間電気を使った場合、本来であれば電力会社から購入すべきところ、自家発電で賄えるわけだから、そこも大きな利益になるからだ。そうなると、その両方を計算する必要があって、なかなか答えがでない。
とはいえ、12年間でどれだけ発電したかを見ると、そのメリット、社会貢献度も少しは見えてくる。パワコンが2度故障したためオドメーターが2回リセットされているが、それを足し合わせると、これまで発電した総電力量は45,369kWh。現在の東京電力の従量電灯Bでの1kWhの単価26.00円で換算すれば約118万円の価値を作り出したともいえる。
もっとも、これでは売電と日中の自家消費の関係などは分からない。そこで改めて先ほどのエコめがねの2016年1年間でのデータを見てみると「発電でまかなえた電気」というものも表示されている。それが22,250円となるから年間で117,898円儲かったと計算できるわけだ。
ではこれが12年だから、ざっくり140万円儲かったのかというと、そうもいかない。48円での買取がスタートしたのは2009年11月からであり、2005年1月~2009年10月の約5年間はその半額だったわけだから、そこを考えると概算で128万円。どう考えてもまだまだ元は取れていないということになる。
発電した電気を自家消費する流れに
さて、ここからが本題。まだまったく元が取れていない状況ではあるが、インセンティブということであった1kWhの単価での買取が2019年10月を持って終了するのだ。その後、いくらになるのかはまったく明らかになっていないが、市場での電力調達価格のあたりになるだろうといわれている。JPEX=一般社団法人 日本卸電力取引所の4月26日のデータを見ると、日中の太陽が出ている時間帯で1kWhあたり6~8円程度。
この単価での売電となれば、現在の1/8~1/6の価格となるわけで、収入はまったく見込めなくなる。というより、一般の買電単価が26円なのだから、電力会社が暴利をむさぼっているというようにも見えるわけで、これなら売るよりも使ったほうが圧倒的に得ということになる。また可能であれば、買電せずに蓄電して、夜間に使うようにするのが賢い電力の使い方ということになる。
実は、そうした動きはFITが終了してきているドイツなどでは当たり前のものとなってきている。発電した電気をできる限り自家消費する流れだ。テスラがパワーウォールという激安の家庭用蓄電システムの販売を始めているが、こうしたものと太陽光発電をどう組み合わせるかが、これから大きなテーマになってくるはずで、これにマッチした便利で手ごろなシステムが登場してくれることを期待しているところでもある。
気になるのは、買電単価のさらなる低下で、太陽光発電を導入する家庭が減ってしまうのでは……という懸念。住宅メーカーでも最近はZEH=ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスが大きなキーワードになっており、ソーラーパネルを屋根に付けるのが主流となってきているのはいいのだが、それに水を差すようなことにならないかが心配なところ。
増えたといったって、太陽光発電は国内電力の数%しか賄えていないので、まだまだ増やす必要があると思うが、新設が止まってしまったり、稼動済みのものが破棄処分になってしまうのはマズイ。FITが終了するのは、当面は10kW以下の家庭用であり、事実上は5kW以下が大半なので、まだそれほど大きい問題ではないかもしれないが、2032年以降にはメガソーラーや筆者が行なっている50kW以下の発電所なども対象になってくるため、それを維持し続けられるのかは重要な問題になってくる。しかもこれら産業用の場合は、そもそも自家消費という考え方は存在しないため、事業として成り立つのか、というのが最大のテーマになるから、ますます深刻なのだ。
パワコンの修理・交換ということはあっても、パネルのほうは20年経過しても、大きな問題もなく使い続けられることはほぼ間違いないが、オーナーがそれを維持するモチベーションを持ち続けられるのか。2019年のFIT終了後、制度としてどのようにしていくのは、今後の大きな試金石となりそうだ。