家電Watch logo
記事検索
バックナンバー
【 2009/03/30 】
やじうまミニレビュー
DO-SEE「LEDライト付きスタンドルーペ」
[00:01]
家電製品ミニレビュー
ツインバード「コンパクトフライヤー EP-4694」
[00:01]
【 2009/03/27 】
家電製品ミニレビュー
三菱「蒸気レスIH NJ-XS10J」
[00:02]
やじうまミニレビュー
L.L.Bean「ボート・アンド・トート・バッグ」
[00:01]
【 2009/03/26 】
やじうまミニレビュー
アイリスオーヤマ「サイバークリーン」
[00:01]
家電製品長期レビュー
三洋電機「eneloop bike」(4/4)
[00:00]
【 2009/03/25 】
やじうまミニレビュー
オーエフティー「自動給餌機 Newビストロ」
[00:01]
家電製品ミニレビュー
日立「クリエア7 EP-CV1000」
[00:00]
【 2009/03/24 】
やじうまミニレビュー
「家庭菜園 かいわれくん」
[00:02]
長期レビュー
シャープ「プラズマクラスターイオン発生器&加湿空気清浄機」 (4/4)
[00:01]
【 2009/03/23 】
やじうまミニレビュー
撥水ペーパーのメモ帳と“現場仕様”のボールペンを試す
[00:01]
長期レビュー
三洋電機「eneloop bike」 (3/4)
[00:00]

大河原克行の「白物家電 業界展望」
シャープの太陽電池事業戦略を見る

~結晶と薄膜の両輪で、世界需要を開拓
Reported by 大河原 克行

シャープの太陽電池の生産拠点である葛城工場
 シャープの太陽電池事業が新たなフェーズへと入った。

 これまで同社では、結晶太陽電池を中心とした事業展開を行なってきたが、10月1日から、奈良県葛城市の同社葛城工場で、第2世代薄膜太陽電池の量産を開始。これにより、結晶太陽電池と、薄膜太陽電池の両翼による事業展開を加速することになった。

 「ここ数年の材料不足、需要の変化は、当社の太陽電池事業を転換するチャンスに恵まれたともいえる。2010年度には、薄膜太陽電池だけで、年間1GWの生産能力に拡大し、将来的には海外展開を含めて、6GWにまで能力を高めていきたい」と、シャープの濱野稔重副社長は語る。シャープの太陽電池事業を追った。

 シャープは、1959年から太陽電池を開発。63年から量産を開始するとともに、67年には宇宙用太陽電池を開発し、これを74年から生産している。81年には太陽電池生産の葛城工場を稼働させ、現在も同工場が、太陽電池生産の主力拠点となっている。

 これまでの累計生産は2GW。全世界の累計生産量が約8GWであることから逆算すると、4分の1のシェアを持つ計算だ。

 シャープの基幹事業となる液晶が、35年以上の歴史を持つのに対して、太陽電池は約50年という、それを上回る長い歴史を持つ事業でもあり、「シャープは、世界ナンバーワンの液晶ディスプレイで真のユビキタス社会を実現することを目指すとともに、省エネ・創エネ機器を核とした環境・健康事業で世界に貢献することをビジョンに掲げ、環境先進企業へと進化を遂げる。その上で、太陽電池事業は重要な柱となる事業」というのもうなづける。


シャープの太陽電池製品群。様々な用途を想定している
シースルー型太陽電池。窓などにも利用できる

 欧州を中心とした旺盛な需要に加え、新たなエネルギーとして太陽電池が世界的に注目を集めている。また、日本においても、2007年度を底にして、ふたたび需要が拡大すると予想されており、2010年度には国内だけで年間10万件を超える導入が見込まれている。

 経済産業省では、2020年には現在の8倍となる累計320万戸の住居に太陽光発電装置が設置されると見ており、グリーン電力の買い取り制度なども、これを後押しすることになりそうだ。

 現在、家庭用の電力料金は22円/kWhであり、太陽光発電では46円/kWhと2倍の発電コストがかかる。だが、技術進化によるモジュールコストの削減、システム設計の改善によるBOS(Balance of System)の低減により、2010年には23円/kWh、2020年には14円/kWhに、2030年には7円/kWhへと発電コストが減少。原子力発電並となる見込みだ。こうした発電コストの減少も、今後の太陽電池の普及を大きく左右することになる。

 シャープは、太陽電池事業を、結晶太陽電池と薄膜太陽電池の両輪で、推進していく姿勢を示している。


シャープの薄膜太陽電池
シャープの結晶型太陽電池

 「結晶太陽電池と薄膜太陽電池には、それぞれの特性がある。その特性に応じて、各地域での活用を推進していく狙いもある」と、濱野副社長は語る。

 結晶太陽電池は、モジュール変換効率が高いことから、設置面積が少なくて済むというメリットがある。そのたため、住宅の屋根などへの設置には最適だといえる。しかし、高温の環境では能力が落ちることから、比較的温度が低い北半球でのビジネスが中心となる。


設置面積や住環境によって地域ごとに特性がある 世界の地域別にたてられた需要予測

 一方、薄膜太陽電池は、高温でも効率が低下しないというメリットとともに、高電圧化が可能なことから、大規模な太陽電池システムとしての設置が可能であること、さらに並列型となっていることから拡張しやすいといった特徴を持つ。そのため、安価で広大な敷地がある地域で、平地に設置し、メガーソーラーシステムとしての利用に適しているといえる。つまり、南半球向けの技術ともいえる。

 また、薄膜太陽電池は、シースルー化によって、窓やトップライトなどの設置が可能になるといった特徴も持っているほか、ガラス基板に直接成膜を行なうため、短いプロセスを生産することが可能だ。

 シャープでは、こうしたグローバル戦略を前提に、地域にあわせた訴求や特性を生かした事業を行なっていく考えを示している。


太陽電池開発は次のステージへ

 シャープが結晶太陽電池の開発を開始したのは、1959年から。66年に長崎・尾上島灯台に採用されたのを皮切りに、これまでに1,900カ所の灯台などへの設置実績を持っているほか、屋根用の太陽電池としては、国内で40%以上の高いシェアを誇っている。

 2008年モデルでは、新開発の高効率セルを採用。メイン電極を2本から3本に増やすことでの集電ロスの低減、メイン電極とサブ電極を細線化することで、発生する電子の数を増やし、受光面積を向上。さらに、裏面反射率の向上などにより、14.4%という変換効率を達成している。


葛城工場の屋上には太陽電池パネルが設置され、自ら実証実験にも活用している
 主力工場となる葛城工場では、現在、結晶太陽電池だけで年間550MWの生産規模を達成しており、太陽電池事業の中核技術となっている。

 一方、薄膜太陽電池は、1980年から研究開発を開始し、98年には、第1号製品の出荷を開始。2005年にはタンデム構造の薄膜太陽電池を開発し、2005年1月からは、葛城工場において、560×925mmのガラス基板サイズによる第1世代の薄膜太陽電池の量産をスタートしている。

 そして、今年10月1日からは1,000×1,400mmのガラス基板サイズを用いた第2世代の薄膜太陽電池の量産を開始し、薄膜太陽電池の生産規模は160MWへと拡大した。

 第2世代の薄膜太陽電池では、業界トップクラスとなるモジュール変換効率9%と、128Wという薄膜太陽電池ならではの高出力を実現しているのが特徴だ。大型化と高出力化によって、設置コストの低減や、発電時のコストダウンが期待できるとしている。


葛城工場と境工場を拠点に生産能力の拡大
 ここで培った薄膜太陽電池生産のノウハウは、約720億円を投下して、2010年3月までに稼働させる大阪・堺の太陽電池工場に展開する考えで、同工場における第1次生産展開では480MWを目標にしている。

 「堺の新工場では、国内やアジアの需要拡大を見据えて、生産を順次拡大していくことになる」という。

 シャープの町田勝彦会長も、「葛城工場の新ラインでのラインオペレーションマネジメントの経験を、2010年3月までに稼働する予定の堺工場に生かしたい。さらに、世界展開にも生かしていくことになる。葛城から堺へ、堺から世界へというように、材料、製造装置、モジュール、プロセス、発電までのノウハウを世界に展開することで、液晶に次ぐ、強い柱になることを期待している」とする。

 町田会長が触れるように、太陽電池事業は、海外展開にも乗り出す計画を明らかにしている。


シャープの濱野稔重副社長
 「堺の太陽電池工場をモデル工場として、需要があるエリアを対象に、世界各地に工場を展開していく」(濱野稔重副社長)という。

 2010年度中までには、欧州に薄膜太陽電池セルおよびモジュールの生産工場を建設する予定で、戦略的提携をしている欧州第2位であり、イタリア最大の電力会社であるエネル社とも、「共同で太陽電池工場を建設することも考えていきたい。また、2011年末までに、累計で161MW相当の複数発電プラントを展開する」としている。

 こうした取り組みにより、2010年度には、薄膜太陽電池だけで、年間1GWの生産能力に拡大するととにも、2014~16年頃を目標に、海外展開を含めて6GWにまで生産能力を拡大する計画だ。


太陽電池工場は21世紀の油田

 また、技術進化にも積極的に取り組んでいく。

 薄膜太陽電池では、堺工場で生産される薄膜太陽電池は、スリージャンクション方式と呼ばれるもので、これにより、広範囲な波長を吸収することで、高効率化を実現。モジュール変換効率を10%以上に進化させることができるという。

 さらに、結晶太陽電池は、2010年を目標に20%以上の変換効率を達成する新プロセスを開発しており、この技術をもとに、結晶太陽電池事業を拡大していく考えであるほか、有機系の色素増感型の太陽電池も開発に取り組んでいる。

 濱野副社長が、この1年を振り返り、「太陽電池事業を転換するチャンスに恵まれた」と語る理由は2つある。

 1つは、シリコンが不足し、その調達が厳しくなるなかで、シリコンの自製化に乗り出すとともに、新規製造プロセスの導入により、結晶太陽電池事業の体質を強化できた点だ。

 シリコンの調達では、2007年1月から、約50億円を投資して、富山事業所を開設。年間約1,000トンのシリコンを自ら生産する体制を確立している。シリコンの自製化は、プロセス短縮による生産、輸送、管理コストの低減にも直結するという。

 これにより、シリコン自製化率を20%にまで引き上げ、安定した調達体制によって、太陽電池事業の成長に向けた地盤を確立する考えだ。

 そして、もう1つが、シリコンの使用量が少なくて済む薄膜太陽電池事業を加速するきっかけになった点だ。

 薄膜太陽電池はシリコンの厚さが結晶系の約100分の1で済むという特徴を持つ。

 シリコンの不足や高騰にも対応しやすく、さらに、結晶太陽電池にはない高出力などの特徴を生かした提案が可能になり、ビジネス領域の拡大にも貢献することになる。


シャープが考える将来構想
 シャープでは、「太陽電池工場は21世紀の油田」という言い方をする。

 電力供給のもととなる発電所で使用される重油は、中東などの油田から採掘され、日本には、その資源はない。

 一方、時代の電力供給システムとなる太陽電池を考えると、油田にあたる部分がちょうど太陽電池のセル工場に当たることになる。

 「油田を持たない国には願ってもないものである。しかも、枯渇することがない」と、濱野副社長は語る。

 しかも、シャープの場合、材料から発電プラントまでの一気通貫でのビジネスモデルを展開できる。


2012年には世界トップシェアを目指す

 工場プラントでは、原材料の製造から、製造装置の自製化をもとに、セル、モジュールを生産。さらに、これをシステムインテグレーションによって産業用発電に活用できるように提供することが可能な、世界初の一気通貫モデルとなる。

 「約半世紀をかけて培ってきた技術とノウハウをもとに、バリューチェーンを広げ、太陽電池のトータル・ソリューション・カンパニーを目指す」とする。

 現在、シャープは、世界シェア1位の独セルズとシェア争いを繰り広げている。

 シャープでは、2012年をめどに、技術先行し、今後需要が拡大すると見られる薄膜太陽電池で、年間6GWの生産規模とし、この分野での首位を確固たるものにする考えだ。

 両輪戦略によって、太陽電池事業が、液晶に続く、シャープの大きな事業の柱になるかどうかは、ここ数年の地盤づくりにかかっているともいえる。





URL
  シャープ株式会社
  http://www.sharp.co.jp/

関連記事
シャープ、第2世代の薄膜太陽電池の量産出荷を開始(2008/10/02)


2008/11/18 00:03

- ページの先頭へ-

家電Watch ホームページ
Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.