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大河原克行の「白物家電 業界展望」
パナソニックによる三洋電機子会社化はどんな利益を生むか

Reported by 大河原 克行

11月7日に行なわれた両社の会見の様子。左から、パナソニックの大坪文雄社長と、三洋電機の佐野精一郎社長
 「正直なところ、いまの段階で、相手の社風はわからない。だが、同じ地域に本社を置く会社、業績悪化から改革に取り組むという同じ経験をした会社であることを考えると、根本に持っているものは同じではないか」

 パナソニックの大坪文雄社長は、三洋電機の社風について、こう語る。

 三洋電機の創業者である井植歳男氏は、パナソニックの創業者である松下幸之助氏の妻、むめの氏の実弟。パナソニックが、松下電機器具製作所として創立した1918年には、創業メンバーの一人として名を連ねている。

 それだけにパナソニックと三洋電機の経営に対する根幹ともいえる部分においては、基本的考え方が近いことは容易に推測できる。

 大坪社長も、「三洋電機が掲げる『私たちは世界のひとびとになくてはならない存在でありたい』という経営理念は、パナソニックの『企業は社会の公器である』という考え方に、相通じる考え方である」と語る。

 日本ビクターの売却の際に、大坪社長が日本ビクターを指して、「体質的に相容れないものがあると感じていた」と発言していたのとは、あまりにも対照的なコメントだ。


具体的な見通しについては未定

大阪・門真のパナソニックの本社。三洋電機の本社はここから約1.4kmの場所にある
 本社は、いずれも京阪守口市の駅から歩いていける距離にあり、国道1号線沿いの約1.4kmに本社を置く。この両社の関係を称して、「近くて遠い会社」と比喩されてきたが、それが今回の発表で、「距離」は一気に縮まった。

 今回の発表は、パナソニックによる三洋電機を子会社化することを前提とした資本・業務提携について、両社が協議を開始したというものだ。

「まだ協議を開始した段階。それ以上のことは現時点では語れない」と、大坪社長は詳細には触れようとはしない。

 実際、11月7日に大阪・OBP(城見)のホテルニューオータニ大阪で開催した会見でも、子会社としてスタートすると見られる2009年度において、三洋電機の体制・ブランドを維持することには触れたものの、将来に向けての人員削減、ブランド存続についての可能性には一切言及しなかった。

 関連会社約800社、従業員約40万人という規模を誇る電機メーカーの誕生だけに、重複事業、不採算事業の見直しを背景にした再編は避けては通れないというのが関係者の見方だ。

 だが、今回の三洋電機の子会社化が実現すれば、パナソニック、三洋電機にとってのメリットは少なくない。


子会社化で実現する事業拡大の可能性

いまや三洋電機の主力製品でもあるeneloop製品
 パナソニックにとっては、いくつもの報道で指摘されているように、太陽電池、二次電池といった電池事業でのシナジー効果が大きい。

 三洋電機のHIT太陽電池は、アモルファスと単結晶のハイブリッド化による三洋電機独自のもの。セル変換効率は19.7%、モジュール変換効率は17.0%と、業界トップクラスを達成。さらに両面発電を行なえる仕組みとすることで、裏面にも反射光も吸収するHITダブルにより、効率をさらに30%ほど高めることができるという。

 現在、三洋電機の太陽電池のシェアは、2007年生産量実績で全世界で4.3%。世界では第7位。国産メーカーでは、シャープ、京セラに続き、3番目のポジションにある。

 三洋電機は、2008年には、全世界電力の0.1%に過ぎない太陽光発電が、2040年には25%にまで成長すると予測。2007年度には260MWであった生産能力を、2008年度には340MWに引き上げるほか、2010年には、2007年度の約2.5倍となる600MWにまで拡大する計画を掲げる。これにより、HIT太陽電池および薄膜太陽電池技術により、2010年には世界シェアの10%を獲得。さらに、2020年には4GWの生産能力にまで高め、10~15%のシェアを獲得する計画だ。

 もともと三洋電機には、ウェハーからシステム、ハウスメーカーまでを含めて、グループとして一貫して、太陽電池事業を推進できる体制を整えていた。

 それがパナソニックのグループ化によって、さらに戦略的な展開が可能になる。住宅設備を得意とするパナソニック電工などとのコラボレーションも期待できるからだ。


パナソニックが7月から出荷を開始した家庭用燃料電池
 もちろん、パナソニックが持つ家庭用燃料電池事業とも補完関係もあり、パナソニックは、グループとして、2つの将来のエネルギー技術を持つことになる。

 一方、電池事業のもう1つの柱である二次電池事業も、パナソニックにとっては魅力的な事業だ。

 一般ユーザーが意識しやすいeneloop事業の経営への影響はそれほど大きくはないが、PC向け、携帯電話向けなどに利用されているリチウムイオン電池では、全世界で30%のシェアを持ちトップシェア。さらに、自動車向けのHEV事業では、アウディを含むフォルクスワーゲングループと提携。2020年には同グループに留まらず、全世界累計1,300万台の搭載を目指し、HEV市場において40%のシェア獲得を目論む。

 HEV事業では、パナソニックはトヨタと提携しており、複数の大手自動車メーカーに対するパートナーシップをグループでカバーする体制を敷くことができる。

 さらに、これらの事業の拡大は、環境面でも大きなメリットがある。

 三洋電機が太陽電池事業で4GWの生産能力を実現した時点では、550万トンのCO2削減効果を発揮。さらに、2020年にHEVで40%のシェアを獲得した際のCO2排出量削減効果は1,300万トンに達する。また、eneloop事業においては、一次電池が年間400億個生産されるうち、2020年には約半数が二次電池に置き換えが可能になると見ており、仮一次電池の100億個を置き換えた場合には、100万トンのCO2排出量の削減が可能だという。

 環境を中期経営計画の指標に取り込んだパナソニック、「環境・エナジー先進メーカー」を目指す三洋電機の環境活動の旗頭としても、これら事業の位置づけは見逃せない。


海外事業拡大へのメリット

 また、グローバルエクセレンスを目指すパナソニックにとって、海外事業の強化は必要条件。2007年度実績では49%に留まっていた海外売上高比率を、2007年度実績で63%の海外売上高比率を持つ三洋電機を取り込むことで、引き上げることが可能になり、2007年度で52.3%と、2.4ポイントも上昇させることができる。

 将来的には60%以上の海外比率を目指すパナソニックにとって、三洋電機の海外事業は魅力的だ。

 さらに、海外では、三洋電機が持つ低価格製品の強みを生かして、新興国を攻略するための新たな手段も手に入れることができる。三洋電機の白物家電事業では、冷蔵庫事業の縮小などの動きは見られるが、パナソニックでは、EM-WINと呼ばれる新興国市場向けの白物家電、AV機器製品群の開発をスタートし、今後、このラインアップを拡大する姿勢を見せるだけに、この領域における三洋電機の資産も活用できるだろう。


三洋電機の佐野精一郎社長
 先頃行なわれた三洋電機の上期決算発表の席上、三洋電機の佐野精一郎社長は、「テレビ事業に関していえば、北米での販売チャネルの強みを生かし、中低価格機による買い換え需要を確実に獲得し、黒字を維持していく」と、下期の戦略に触れたが、これはフルハイビジョンテレビを中心とした付加価値製品戦略を主軸とするパナソニックとは明らかに補完関係にある。

 「白物家電やデバイス、デジタルAVなど、大きな括りで見れば重複しているものがあるが、詳細に見ていくと、市場やターゲットが異なる例があり、その点では、重複部分はそれほど多くない。むしろ、ラインアップの充実できるのではないか」と大坪社長も語る。

 そして、OEMビジネスによって年間1500万台の生産規模を誇る三洋電機のコンパクトデジカメ事業も、付加価値商品によるシェア拡大や、デジタル一眼レフ市場に本格的に踏み出したパナソニックのデジカメ事業とは対照的であり、ここでも補完関係が生まれることになる。

 一方、三洋電機にとっては、モノづくりがわかる会社が親会社となることで、モノづくり視点での事業再編が行なわれるという点はメリットになるだろう。


子会社化に向けての今後の課題

 今回の子会社化に向けては、ゴールドマンサックスなど金融系3社が保有する優先株式をパナソニックが取得することで実施するもので、来年1月を目処にTOB(株式公開買い付け)を実施し、新年度には三洋電機を子会社化した体制でのスタートを目指す、というのが青写真だ。

 パナソニックにとっては、この金融3社との交渉が鍵となり、価格面での折り合いどころが焦点となる。

 仮に、このまま金融3社が優先株式を所有していた場合、事業の再編にまで口を出してくるか、新たな売却先を模索するのは明らかだった。しかも、昨今の経済環境の悪化で、その決断を前倒しで迫られていたともいえる。

 三洋電機の佐野精一郎社長が、会見の席上、「2010年までの中期経営計画の達成を経営の最優先課題とし、優先株の問題は将来の課題と考えていた。だが、9月の金融危機以降、具体的に考えなくてはいけないタイミングが早まった」と語ったこともそれを裏付ける。

 今年5月の中期経営計画の発表時にも、佐野社長の発言は、中期経営計画達成時まで、金融3社の支援体制は変わらないとしていたが、昨今の経済情勢がそれを許さないものにしたといえよう。

 だが、今後、事業再編に踏み出す場合、金融面からの判断ではなく、モノづくりの観点からの判断が前提となるのは、メーカーである三洋電機には喜ばしい状況だといえる。

 佐野社長は、「今後の当社の資本政策のパートナーの選定に当たっては、十分な企業体力があり、グローバル競争で勝ち残っていくという観点から、大きなシナジーが期待できる事業会社が、最も理想的だと考えていた」と語り、続けて「パナソニックは、その条件に合致するものとして、申し入れに対して真摯に検討した」とする。

 この言葉からも、メーカーへの優先株売却が、三洋電機が求めていた回答であったことが予想できる。

 では、パナソニックによる三洋電機の子会社化に関する今回の課題はなんであろうか。


10月1日からの社名変更に伴い白物家電もナショナルからパナソニックにブランドを変更した
 1つは、白物家電事業および半導体事業という、パナソニックが黒字化しており、三洋電機が赤字に陥っている事業の再編だ。

 ここでは重複する領域もあり、それをどう統合、再編するのかが注目される。

 また、両社統合を速やかに実行できるかも課題だ。

 もともとパナソニックは、2004年に、パナソニック電工(旧・松下電工)を子会社化し、その統合を迅速に実行してきた経緯がある。


松下電気器具製作所の創業時の写真。後列左端が松下幸之助氏、後列中央が創業メンバーであり、三洋電機の創業者でもある井植歳男氏、後列右端が幸之助氏の妻で、井植歳男氏の実姉である、むめのさん
 同じ松下幸之助氏を創業者としながらも、長年ライバル関係にあったパナソニック電工は、「生まれは一緒だが、育ちは違う」ともいわれ、両社の統合には多くの困難を伴った。

 だが、これらの統合を迅速に成し遂げたのは、各部門ごとにプロジェクトチームを設け、それぞれが統合に向けた議論を徹底的に行ない、両社納得の上で事業再編に取り組んでいったからだ。

 会見では、今後、両社において、子会社に向けた協議において、プロジェクトチームを立ち上げて詳細を検討することを発表したが、これが経営レベルでの統合手法だとすれば、子会社化後には、事業部レベルに落ちし込んだプロジェクトチームによる議論が行なわれることになるだろう。


パナソニックの大坪文雄社長
 パナソニックの大坪文雄社長は、「今後の成長を考える上では、大きな成長を担うエンジンがもう1つ必要である。三洋電機の事業は大変魅力があり、我々の技術や経営資源をもってすれば、もっと大きなシナジーが期待できる」と、今回の子会社化の狙いを語る。

 10月1日からの社名変更とともに、中期経営計画GP3は後半戦に入った。そして、いよいよポストGP3の策定に向けた準備も始まることになる。

 来年1月10日には、パナソニックの新年度の経営方針が発表される。ここに三洋電機とのシナジー効果がどう盛り込まれるかも注目したい。





URL
  パナソニック株式会社
  http://www.panasonic.co.jp/
  三洋電機株式会社
  http://www.sanyo.co.jp/
  ニュースリリース
  http://panasonic.co.jp/corp/news/official.data/data.dir/jn081107-1/jn081107-1.html

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2008/11/12 00:00

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