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そこが知りたい家電の新技術
ナショナル「大火力竈釜」

~内釜だけでなく火力の限界にも挑戦したプレミアム炊飯器
Reported by 三浦 優子

ナショナル「大火力竈釜」
 2008年2月に発売されたナショナルのジャー炊飯器「大火力竈釜(だいかりょくかまどがま) SR-SVシリーズ」は、同社が満を持して発売したプレミアム炊飯器だ。

 炊飯器は、2006年あたりから10万円を超えるプレミアム製品が発売され、話題となっている。新製品はナショナルブランド初の実売が10万円を超えるプレミアム炊飯器。プレミアム炊飯器としては後発となるため、営業サイドからは、「早く、競合製品を!」とのリクエストもあったそうだ。が、開発サイドは「中途半端なものは発売したくない」と納得ができる製品が出来上がるまではとこだわりの開発を続けた。こだわりの開発の末、完成した「大火力竈釜」とはどんな製品なのだろう。


IHジャー炊飯器誕生から20年目に誕生したこだわりの新製品

今回お話を伺った技術グループの大橋秀行氏
 「大火力竈釜という製品を開発した背景として、我々がジャー炊飯器にどんなこだわりを持っているのか、当社の炊飯器事業の歴史を説明するのが一番わかりやすいと思います」

 取材の冒頭、松下電器産業 松下ホームアプライアンス社 クッキング機器ビジネスユニット 技術グループ 先行開発チームでチームリーダーを務める大橋秀行氏はこう切り出した。

 「現在では当たり前になっている、IH炊飯器を業界に先駆け発売したのはナショナルです。最初にIH炊飯器を発売したのはちょうど20年前、1988年のことです。IH炊飯器は2007年9月には累計生産台数1,300万台を突破しています。IHに限らず、『業界初』の炊飯技術はナショナル発であることが多いのです」

 主な『業界初』を紹介すると、1956年には「直接炊き 自動炊飯器」、1972年には「電子制御の保温機能を採用した電子ジャー炊飯器」、1979年には「マイコンジャー炊飯器」を発売している。


炊飯器販売の先駆けでもある同社。写真は歴代の炊飯器
同社のIH炊飯器初期モデル
マイコンジャーを業界で始めて発売したのも同社だという

 ただし、こうした熱源技術の進化だけでは、「おいしいご飯」を炊くことはできない。そのためナショナルでは、20年前の1988年から現在のプレミアム炊飯器の特徴ともなっている「内釜」の改良に積極的に取り組んできた。

 「おいしいご飯を炊くために、2つの大きな要素があります。1つは炊飯技術を強化し、より大火力を実現する加熱方式。もう1つが内釜です。実は1999年には備長炭を利用した内釜、2000年には銅釜、2005年には約2億個のダイヤモンド粒子をコーティングしたダイヤモンド銅釜と、他社さんが採用されている内釜の素材改良はすでに取り組んできていたのです」

 こうしたこれまでの歴史を聞くと、「開発サイドとしては、どうせプレミアム炊飯器を発売するのであれば、中途半端なものは発売したくない」と考えたのも無理はないと思える。火力、内釜ともにすでに様々な試行錯誤を進めてきただけに、「これまでのものを超える製品の開発を」と開発サイドは考えたのだろう。

 だが、「これまでのものを超える製品を作る」のは容易なことではなかった。


目指すは竈+羽釜で炊いたご飯

 他社に先駆け、新技術を採用した炊飯器を開発してきただけに、ナショナルとしてはプレミアム炊飯器発売にあたっても、納得のいく製品を発売したいという思いが強かった。

 しかし、実際の開発は容易には進まなかった。

 大橋氏も、「プレミアム炊飯器は、従来製品よりも高額設定が可能となるため、これまでは価格的な制約があり実現できていなかった機能や素材を採用できます。開発当初は、その喜びと共に、『半端なものは作れない』というプレッシャーも感じていました」と振り返る。

 実際に開発期間も長期に及んだ。通常の新製品開発がほぼ1年で開発されているのに対し、今回の新製品開発は2年半かかっている。

 「開発ごとに行なう試し炊きをしたお米の量だけで3トンに及びます」と松下電器産業 松下ホームアプライアンス社 クッキング機器ビジネスユニット 技術グループ 調理ソフト開発チームの加古さおり氏は言う。


調理ソフト開発チームの加古さおり氏
 加古氏は、炊飯器の調理ソフト開発を担当するライスレディのリーダーだ。ライスレディは、炊飯器開発のスペシャリストとして要素技術開発、企画作りなどにも携わっている。もちろん、味にもうるさい。こうしたスタッフの力を終結して開発は進められた。

 プレミアム炊飯器開発にあたり、開発スタッフは原点に戻るという意味で、あらためて「おいしいご飯とはどんなものか」を考え直した。

 「個人差はあると思いますが、日本人誰もがおいしいと感じるご飯というのは、外観は粒がよくふくらみ、ハリがある。粒表面の組織の崩れはなく、白く、透明感とつやがある。食べると、一粒を感じ取れて、適度な弾力があり、粘りもあるのにべたつかない。粒の中心部まで柔らかく、適度な甘みがあるもの……要するに全てのバランスがよいご飯を日本人の誰もがおいしく感じるのだという結論に達しました」


「竈」というのが同社のプレミアム炊飯器開発のキーワードとなった
 それを実現するのが、竈(かまど)と鉄製の鍋部分と重い木のフタの羽釜を使って炊いたご飯だという結論に達した。

 「熱伝導性がよく、一気に発熱する羽釜、蓄熱性がある竈、そして大火力を実現する炎の三つが揃っておいしいご飯が炊けるのです。釜だけ、火力だけといった改良では本当においしいご飯を炊くことはできません。そこで発熱がよく、しかも蓄熱性のある内釜、炎並みの大火力を実現するヒーターをもった炊飯器を作るという方向が定まりました。ハイテク技術を使って伝統的な竈炊きを再現する、これが当社のプレミアム炊飯器となりました」(大橋氏)

 この言葉を聞くと、製品名に「竈」という文字が使われている理由が納得できるのではないか。


試作された内釜だけで300個以上

 竈+羽釜が一体となることで実現している熱伝導性の良さと蓄熱性を、炊飯器で実現するのは決して容易なことではない。竈と羽釜は、2つの異なる器具がセットになっているからこそ、本来は相反する熱伝導性のよさと蓄熱性という2つの要素を持っている。ところが炊飯器でそれを実現するためには、内釜という1つのものに熱伝導性の良さと蓄熱性という2つの要素を持たせなければならない。

 相反する2つの要素をあわせもった内釜を作るために、ナショナルが選んだのは金属と非金属を密着形成させる方法だった。

 「通常、新しい素材を採用した試作品を作ると、従来製品よりも2割程度は炊いたご飯の味が落ちてしまいます。そこからブラッシュアップしていくことでクオリティをあげるわけですが、今回に関しては最初の試作品からおいしいご飯が炊けました。我々が考えた方法は間違っていないと確信しました」(大橋氏)

 製品開発を進めていく課程で、社内で味にうるさいスタッフ、外部の専門家、一般消費者などに試食をしてもらう。加古氏によれば、「一般消費者に試食してもらっても、このご飯はおいしいという評価を得ました。開発の初期段階の評価としては、これまでの製品にはなかったことでしたね」という。

 もっとも、いくら最初からおいしいご飯が炊けたといっても、「市販できる内釜に仕上げていくのは容易なことではありませんでした」(大橋氏)ということも事実だ。

 市販品は機能がよいだけでは合格とはいえない。見た目も重要な要素となるし、落としても割れない内釜自体の堅牢性もいる。また、内釜を使ってお米を研いでも傷がつかない仕様に仕上げていくことも必要だ。当然ながら、量産性も考慮しなくてはならない。

 また、味についてもスタート段階からおいしいご飯が炊けたとはいえ、さらにブラッシュアップしていくことが必要となる。そこで様々な内釜が試作され、その数だけで300個以上に及んだ。


試作された釜の一部
初期の試作では電気ポットと組み合わせたこんな製品も作られた

第6段階で吹き付ける高硬度中空セラミックス
 商品化された内釜は、第1段階としてステンレス・アルミクラッド材をフランジ強度アップ加工という、新工法で成型。第2段階では備長炭加工し、約140℃で焼き付ける。第3段階ではその上にダイヤモンドフッ素加工を約400℃で焼き付ける。第4段階は、発熱体であるステンレスの表面に凸凹加工を施し、発熱する部分の面積を約1.5倍にすることで高発熱がしやすくなる、「パワフルステンレス」という新工法で加工を行なう。

 第5段階では蓄熱性を保つための高断熱中空セラミックスを約300℃で焼き付ける。このセラミックス素材は、深海探査船などに利用される特殊なもので、もちろん、調理家電に採用されるのは初めてのこととなる。

 第6段階では、さらにその上に高硬度中空セラミックスを約300℃で焼き付ける。この素材はスペースシャトルに利用されている素材を応用したもので、やはり調理家電に採用されていなかった素材である。

 第7段階ではフランジ磨き加工を行ない、第八段階ではプレミアム感を醸し出す高品質の証として、シリアルナンバーをレーザーで打っている。


内釜の加工は8段階にも及ぶ
第一段階で、ステンレスとアルミクラッド素材を加工する 第二段階で備長炭加工を行なう

第3段階ではダイヤモンドフッ素加工を約400℃で焼き付ける 第4段階ではパワフルステンレスという新工法で加工を行なう 第5段階では高断熱セラミックスを焼き付ける

第6段階では更に高硬度中空セラミックスを約300℃で焼き付ける 第7段階では表面をフランジの磨き加工を行なう 最後に製品名とシリアルナンバーをレーザーで打てば完成。従来の銅釜に比べると約10倍の時間をかけて丁寧に作っている

 「セラミックスは落とすと割れやすいという欠点をもっています。味と共にそうした問題点を解決するために試作を続けた結果、300個以上の内釜試作ということになってしまったのだと思います」(大橋氏)

 長い開発期間を経て出来上がった内釜は、従来の銅釜に比べ、約10倍の時間をかけて丁寧に加工していくことで、発熱性と蓄熱性の2つを備え、見た目、堅牢性も十分市販できるレベルのものとなった。


これまでの1,400Wとはレベルの違う火力を実現した6段IH

 内釜と共に進められたのが、竈で言えば火力にあたるIHと炊飯用プログラムの開発だ。

 「プレミアム炊飯器は、内釜に注目が集まる傾向にありますが、先ほどから申し上げている通り、内釜の改善だけでは思うようなおいしいご飯は炊けません。やはり、火力がおいしさの決め手を担っているといっていいと思います。今回、従来よりも高価格設定が可能ということで、IH全体の見直しをはかりました。ワット数でいえば、他にも1,400Wの火力のものもありますが、中の熱量については他に比べるものがない強い火力を実現しています」(加古氏)

 先ほどご紹介したように、ナショナルは初めてIH炊飯器を開発、販売したメーカーだ。特に今年は初代IH炊飯器を発売してから20年目にあたるだけに、IH部分の改良も並々ならぬ意気込みで行なわれた。

 「一口に高い火力が必要といっても、他の家電製品と併用可能なワット数はやはり1,400Wが上限です。しかも、大火力が必要といっても内釜との相性というのもありますので、内釜の開発と並行してIH部分の改良を進めました」(大橋氏)

 最初にIHを採用した炊飯器は、底部分にのみIHを採用する方式だった。それが内釜の横に当たる部分にIHをつけるといった進化が進んでいったが、今回の大火力竈釜には実に6段のIHが取り付けられている。底はもちろん、上下側面に加え、上部にもIHがついた上から下まで、全方位から加熱できる「6段全面IH」という方式となった。


底部から内釜の横まで6段のIHをが採用されている
フタの断面構造

 「原理的にいえば竈+羽釜でご飯を炊いた時には、上部からの加熱はもちろんありません。ただ、『追い炊き』といって仕上げ段階で竈にワラをくべることで、瞬間的に羽釜の温度をあげ、余分な水分を飛ばす方法があります。ナショナルは、上部にIHを付け、さらに高温のスチーム(過熱水蒸気)で加熱することで、この追い炊きを超える効果を上げることができるようになったのです」(大橋氏)

 追い炊きを実現するために設けた炊飯器の上部にはIHとスチームを発生させるための工夫がされている。130℃という高温のスチームを発生させ、さらに「大火力うまみキャッチャー」で熱を封じ込めることにより、お米一粒一粒に最大限の熱を与える。


本体の外フタ
フタを開けたところ
内蓋

 「ご飯にスチームを当てるというと、『ご飯が水を含んでベタっとなりませんか?』といわれますが、130℃の高温のスチームは余分な水分を取り去る効果を生みます。単純に熱を加えるだけではご飯が硬くなり、おいしくなくなってしまいます。高温スチームだからこそ、適度な水分を保ちつつ、余分な水分をとり、米の表面を引き締める感じになるのです」(加古氏)

 上部にIHを設けた炊飯器は従来製品にもあったが、本製品では炊飯器の筐体に設けた非磁性ステンレス、磁性ステンレスという2枚のステンレスを同時発熱させる構造とすることで、スチームを2カ所から出し、しかも量を従来の1.3倍増とすることで高温スチームが全体に行き渡りやすい構造となった。


写真右上のくぼみの部分に、スチームを作り出すための水を入れる フタ上部にセットして使うスチームの効果を高める機構
部品の1つ

 スチーム機能は、もう1つ大きな効果をもたらした。保温の際、どうしてもついてしまいがちな独特の臭いなしに、ご飯を保温しておくことが可能になったのだ。

 「最近は保温機能を使うお客様が減ってきたことは承知しています。しかし、利便性から保温機能を重宝してくださっているお客様も多いし、ナショナルの炊飯器は保温してもおいしいので、保温機能を利用するというお客様も多いのです。大火力竈釜は、蓄熱性にもこだわったので、もともと熱が逃げにくく、保温によって起こる臭いを高温スチームで揮発除去が可能となり、従来よりも3割保温臭軽減に成功しました」(大橋氏)

 スチーム機能は炊飯の際の酸化をおさえることも実現し、雑穀米炊飯では、抗酸化物質であるポリフェノールをキープすることにも成功。こだわって開発した機能が、さまざまな部分に効果をもたらしている。


ライバルは思い出の中の竈で炊いたご飯

 この大火力によって、炊飯器でありながら鍋や釜でご飯を炊いた時のように「おこげ」を作ることも可能となった。実際にできたおこげを食べさせてもらったが、全体的に柔らかいおこげができあがる。鍋で炊いた時のおこげのようにムラがないので、食べやすく、上品な味わいだ。

 「実は20年前におこげができる炊飯器を発売したことがあります。その時は不評で、定着はしませんでした。ところが、今回、試作段階でおこげを食べてもらうと大変評価が高い。アンケートをとると、『おこげの有無を選べるのがありがたい』という声もあり、おこげのあり、なしを選べるようにしています」(加古氏)


「おこげ」をつけて炊いたごはん おこげはあり、なしが選べるようになっている 左がかまどおこげコース、右が通常の炊飯で炊いたごはん

大火力竈釜の開発に関わったチームのメンバー
 おこげを作ることをコントロールできるといった点を考えると、竈+羽釜でご飯を炊くよりも、大火力竈釜の方がおいしいご飯を炊けるということではないのか。

 こう質問すると、加古氏は即座にそれを否定する。

 「今回の大火力竈釜の品質には自信を持っています。しかし、おいしいご飯を炊くことへの追求という点ではまだやるべきことはたくさん残っていると思います。竈に学ぶべきところもまだまだ多いと思っています」

 ご飯というのは、空腹を満たすということだけでなく、各個人の思い出といった感情と合わさって記憶されることも多い。それだけに、「ライバルは本物の竈ではなく、食べる人の思い出の竈という側面もあります。これは大変な強敵なんです」と加古氏は苦笑する。

 今回、竈でご飯を炊くことをイメージし、筐体の色は黒と銀色のツートンカラーという、炊飯器には珍しい色合いとなった。これも竈に羽釜を置いた時をイメージしてのデザインである。

 実際に製品を手にした利用者は、大火力竈釜で炊いたご飯でどんな思い出を築いていくのだろう。「素敵な思い出ができるように、我々は今後も一粒のおいしさを求めて機能強化を続けていきます」――加古氏をはじめ、開発スタッフの挑戦はさらに続いていくことになりそうだ。





URL
  ナショナル(松下電器産業株式会社)
  http://national.jp/
  製品情報
  http://ctlg.national.jp/product/info.do?pg=04&hb=SR-SV101
  炊飯器関連記事リンク集
  http://kaden.watch.impress.co.jp/static/link/rice.htm

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ナショナル、「かまど」の再現を目指した11万円の高級炊飯器(2007/12/10)


2008/04/14 00:07

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