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そこが知りたい家電の新技術
三洋電機「匠純銅 おどり炊き」

~10年がかりで辿り着いた、純銅釜
Reported by 三浦 優子

 9月1日に三洋電機が発売した新しい炊飯器「匠純銅 おどり炊きシリーズ」は、その名の通り、内釜に銅を利用している。

 昨年からのトレンドとなる内釜に新しい素材を使った製品の1つと分類できるが、炊飯器開発を担当する鳥取三洋電機株式会社 ホームアプライアンス事業部事業推進部・下澤理如担当部長はその見方を否定。その理由を次のように説明する。「内釜の素材というのは、炊飯器のハードウェア部分だが、ハードだけを変えてもおいしいご飯が炊けるわけではない。炊飯プロセスというソフトウェア部分とハードという両輪が揃うことで、初めておいしいご飯が炊けるのです」

 下澤氏は、「炊飯器おじさん」と呼ばれる、家電業界の有名人。その下澤氏が自信を持ってアピールするハード、ソフトの両輪が揃った新製品とはどんなものか。その秘密を聞いた。


9月1日に三洋電機が発売した新しい炊飯器「匠純銅 おどり炊きシリーズ」 ホームアプライアンス事業部事業推進部・下澤理如担当部長

10年前から銅内釜の優位性を認識

「匠純銅 おどり炊き」の銅内釜
 今年、新たに銅を使った炊飯器を投入したという事実だけを聞くと、昨年から始まった「内釜戦争」を後追いしたという印象を受ける。しかし、その見方を下澤氏ははっきりと否定する。

 「内釜の素材として適しているものはどれか、実は10年前から試作を繰り返していました。他社が採用している素材のほとんどを試して、炊飯器の内釜として採用するのには銅が最適であるとその時点で答えを持っていました」

 しかし、10年前の段階では銅を採用した炊飯器を発売することはできなかった。

 「当時の炊飯器の価格帯は、4万円弱程度。銅製の内釜はコスト的にどうしても難しかったのです」

 ところがその価格帯の制約が、昨年の高級炊飯器を各社が投入したことで崩れた。

 「そういう意味では、他社の恩恵を受けたといえるのかもしれません。高価格帯の炊飯器が当たり前のものとなったことで、以前から製品化したいと考えていた素材を利用できる環境が整ったんですから(笑)」

 すでに試行されていたことから、無理をすれば昨年中に銅内釜の炊飯器を投入することも不可能ではなかったそうだが、下澤氏は急いで製品化しなかった。それは、「三洋電機の炊飯器で炊いたご飯はおいしいと、色々な方から言っていただいていた。その期待を急いで製品化したものを発売することで裏切りたくはなかった」という強い思いがあったからだ。

 下澤氏は、家電業界では「炊飯器開発のプロ」として知られている。1992年、他社に先駆け圧力IH炊飯機能を持った炊飯器を開発。2002年には炊飯中の圧力を変化させることで、釜内部で米が撹拌する機能「可変圧力IH炊飯方式」を実現した立役者である。この可変圧力IH炊飯方式は、「おどり炊き」の名称で、三洋電機の炊飯器の特徴となっている。

 おどり炊き機能を搭載した炊飯器は2002年に発売され、2007年2月には累計100万台を出荷した大ヒット商品。三洋電機の看板商品である。

 「2000年当時は、三洋電機の炊飯器事業は決して好調とはいえない状態でした。しかし、2001年に当時、他社にはなかった、玄米を発芽玄米とする機能を搭載した製品を発売した頃から、三洋電機の炊飯器で炊いたご飯はおいしいという声が、口コミで広がっていったのです。2002年におどり炊き機能を持った製品を出すと、インターネットの書き込みで評判が拡大していきました。そのおかげで、炊飯器事業も好転しました。口コミに育ててもらった製品ですから、絶対にそれを裏切るわけにはいかないのです」

 その自負から、他社の動向を見て急造の製品を発売するわけにはいかなかった。あえて1年待って、自信作を投入することを決めたのだ。


素材だけでなく形状にもこだわった内釜

 内釜の素材に銅が最適という理由について、下澤氏は「プロの料理人が使っている調理器具には銅製品が多いでしょう?」と指摘する。

 確かに料理番組などでプロが利用している卵焼き器には銅が採用されている。卵焼き器以外にも、キッチン用品を販売する売り場で、高級品として売られているのが銅製の鍋やフライパン類だ。

 「10年前の段階で、アルミ、炭、銅という3つの素材を試した結果、熱伝導率が最も高く、蓄熱性がよいのが銅という実験結果が出ました。卵焼きを焼く場合でも、火のあたりが柔らかいので、周囲が焦げることなく火が通るので、プロが利用する調理器具には銅が採用されているのです」

 実際に同社が熱伝導率実験を行なった結果、純銅はアルミニウムどころか金をも上回る高い熱伝導率を実現している。

 といっても、炊飯器の内釜として銅を採用するためには工夫がいる。銅は柔らかい素材でもあり、落としてしまうだけで変形するといった弱点をもつ。

 内釜は米を研ぐ際に利用されたり、その際、誤って高い所から落としてしまうといった事態が起こることが想定される。プロ用の調理器具であればともかく、一般家庭で利用する炊飯器の内釜となると、高機能だけでなく、使いやすさやトラブルが起こった際にもそれを防ぐ機能も必要となる。

 そこで炊飯器の内釜に仕立てるために、(1)3003アルミ合金、(2)1100純アルミニウム、(3)純度99.0%の純銅、(4)1100純アルミニウム、(5)SUS430ステンレスの5層構造の素材を開発。

 さらに(1)トップコート、(2)銅ミドルコート、(3)プライマーの三層の銅トリプルフッ素コートを施すことで、傷がつきにくく、上部な内釜としている。それでいて厚さは3mmにとどめ、3年保証を実現した。


(1)3003アルミ合金、(2)1100純アルミニウム、(3)純度99.0%の純銅、(4)1100純アルミニウム、(5)SUS430ステンレスの5層構造 (1)トップコート、(2)銅ミドルコート、(3)プライマーの三層の銅トリプルフッ素コートが施されている 内釜1.5kgのうち1.1kgに銅を使っている。写真は加工前の銅板と加工後の銅だけの内釜

 この内釜、手に取ってみるとずっしりと重い。それもそのはず重量は1.5kgあり、そのうち1.1kgに銅が使われているという。通常のステンレスやアルミを使った内釜に比べると、手に持っただけで高級感を感じさせる作りとなっている。

 ただし、内釜は素材を揃えただけでは不十分だと下澤氏は指摘する。

 「素材だけでなく、炊飯時にお米が対流しやすい形状としなければおどり炊きは実現できません。ですから、内釜の形状も最も米が対流しやすい形を実験して追求し、現在の形となりました」

 内釜というハードウェアの開発だけでも、様々な試行錯誤を行ない、ベストな形状を実現した。


吸水時間のコントロールを実現した新開発のソフト

 銅製内釜と共に、下澤氏が最もこだわったのがそれを生かす炊き方の実現だ。

 「おいしいご飯が炊ける炊飯器を実現するには、内釜に新素材を採用するハードウェア部分の充実だけでなく、“炊飯”というソフトウェアの充実が不可欠となります。平均的な炊飯機能でいいというのであれば、従来からあるマニュアルを用いるだけで十分です。しかし、本当においしいご飯を炊くためにはマニュアルだけでは不十分です。未知の領域で試行錯誤を行ない、ソフトウェアを作り上げる必要があるのです」

 この試行錯誤の結果誕生したのが、「匠炊き」という銅内釜に最適な炊飯を実現する新しいソフトウェアだ。

 炊飯の際、重要なポイントとして「吸水状況」をあげることができる。お米がどの程度水を吸っているのかによって炊きあがりに大きな差が出てくるためだ。

 そこで匠純銅 おどり炊きシリーズの最上位機「ECJ-XP10」では、水温によって吸水時間をコントロールする機能「匠吸水(たくみきゅうすい)」を付加した。この機能は、炊飯ボタンを押した後、内釜底に用意されたセンサーによって、内釜の水温を推定。その温度によって、吸水時間をコントロールする。その際、水温の温度が低ければ最大で45分吸水し、水温が高ければ最短で20分で吸水を終える。


実験機で何度も試行錯誤を繰り返したという下澤氏 炊きあがったごはん。混ぜ方にもコツがあるそうだ

釜内が見える実験器
炊きあがったお米。お米本来の甘い香りが立ち上る 内釜底に用意されたセンサー。これによって内釜の水温を推定するという

 「ここ数年、炊飯器は短時間に炊飯することを追求してきました。しかし、今回の製品はこだわりの炊飯を実現するための機種です。あえて、炊飯時間は長くなってしまっても、おいしいご飯を炊くために、この匠吸水という機能を設けたのです」

 炊飯を行なう際、実は水温を低くしてじっくりと吸水した方がおいしいご飯を炊くことができる。おいしいご飯を炊きたいというのであれば、あえて炊飯に利用する水の温度を低くして、吸水時間を長くすればいい。

 「匠吸水では、最初の3分間で水温を見極め、10段階でコントロールして吸水時間を変えています」

 吸水時間をコントロールするというのも、これまでの炊飯器の常識からいえば、まさに「未知の領域」だといえる。こうした炊飯のためのこだわりが新製品の特徴となっている。


銅釜採用で一気加熱が可能に

 実際の炊飯作業は、吸水時間をコントロールしたことで、従来よりも一気に加熱することが可能となった。

 「これまでは吸水のための時間を取る必要があったために、加熱をじわじわとしていく必要がありました。しかし、今回は吸水時間を別途取ってあるため、吸水のための時間を考慮することなく、加熱立ち上げ時間を最短とすることが可能となったのです」

 その結果、お米の内部にまで一気に火が通り、おいしいご飯が炊き上がることにつながる。しかも、「内釜に銅を利用しているため、加熱までの立ち上げ時間が短くてすむようになります」とハード、ソフトの両輪が揃っているからこそのメリットも出てくる。

 その結果、加熱時間は従来製品が12~13分程度かかったのに対し、約10分で加熱される。


【動画】圧力の調整で、実現した「おどり炊き」。釜内でお米がくるくると回っているのが見える(WMV形式,1.72MB)
 ここで使われているのが三洋製炊飯器の看板といえる、「おどり炊き」。元々、おどり炊きは、薪の火力を電力が100Vに決まっている家庭用の電気炊飯器で再現するために考えられた手法である。

 「薪の火力があれば釜内部でのお米の撹拌は自然に実現できるのですが、家庭用炊飯器ではそれだけの火力再現はできません。どうすればお米の撹拌を再現できるのか実験を繰り返した結果、一度かけた圧力を抜くとお米が撹拌することがわかりました。そこで圧力をかけたり、抜いたりを繰り返してお米の撹拌を実現しているのです」

 下澤氏は今回、このおどり炊き機能を炊飯時だけでなく、蒸らしの段階でも利用することを実現した。

 「炊飯器の上部に、『旨み循環ユニット』を設け、蒸気は逃がしながら、おねばだけを溜めて、旨みを循環させていく仕組みを作りました。おねばにはお米の旨みがつまっています。その旨みをお米に戻すと共に、おどり炊きによって一度かけた圧力を減圧して沸騰させていくことで、上から下からおねばをお米にコーティングしていくことができるようになるのです」

 実はおねばをお米に戻すというのは、薪にかまどを使った炊飯でも実現できていない。今回の新製品は、かまどを超えたといえるのだろうか。

 そう尋ねると下澤氏は笑いながら、「いや、それで満足してはいけません。炊飯器を開発していく上で、まだまだ我々がやることはいくらでもある」とその質問をいなした。


内蓋部分に設置されている「うまみ循環ユニット」蒸気を逃し、旨みだけを循環させていく仕組み
内蓋の裏側

圧力を調節するためのボール
ボールの裏側
このタンク部分に旨みがつまっている「おねば」が溜まる

「我々のような団塊世代はご飯にこだわりを持っている」

 今回こうした基本機能と共に、季節と共に変わるお米の性質を見越した季節に応じて炊き分けを実現する「四季炊き機能」、炊き込みご飯をおいしく炊く「新・炊き込み機能」も搭載されている。

 炊き込みご飯を炊くための調理ガイドは、下澤氏自身が書いたもの。通常は料理研究家などが作ることが多いこうしたガイドを、製品を開発した下澤氏自身が書いていることも他社にはない三洋の特徴といえるだろう。


「四季炊き機能」を盛り込んだ、多彩な炊飯メニュー 下澤氏自ら、匠純銅で炊いたご飯。しろいお米がごちそうに見える 近くでみるとお米の形がつぶれずにふっくら炊きあがっているのがわかる

 こうした下澤氏の自ら試し、製品作りに生かす姿勢が三洋電機の炊飯器作りを支えてきた。

 「昨年、各社から高機能炊飯器が投入されたが、当社には該当製品がなかったため、営業担当者からは『厳しい』という声もあがっていた。しかし、口コミに支えられて成長してきたメーカーとしては、いい加減な製品を出すわけにはいかないと昨年は営業に我慢してもらった。それだけ時間をかけ、これまではできなかったこだわりの炊飯を実現するための製品に仕上がったと思っている」

 実は下澤氏は今年、定年を迎える。定年前の最後の製品を開発するにあたり、下澤氏自身は、「私と同年代の団塊の世代は、ご飯にも強いこだわりを持っている。そのこだわりをもった人に、受け入れてもらえる製品を目指した」という。

 そのこだわりは世代を超えて受け入れられるものになるのではないだろうか。





URL
  三洋電機株式会社
  http://www.sanyo.co.jp/
  製品情報
  http://www.e-life-sanyo.com/products/ecj/ECJ-XP10_W/index.html
  ニュースリリース
  http://www.sanyo.co.jp/koho/hypertext4/0707news-j/0719-1.html

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2007/09/25 00:03

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