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そこが知りたい家電の新技術
三洋電機「エネループ」【技術編】

~大容量技術が低自己放電の基礎に
Reported by 白根 雅彦

エネループ(eneloop)
 最近、家電量販店などに行くと、三洋電機のニッケル水素充電池「エネループ」の販売コーナーをよく目にする。エネループはニッケル水素充電池でありながら、乾電池同様の使い勝手を持った、新しい世代の充電池だ。その技術的特徴について、三洋エナジートワイセル株式会社 技術統括部 統括部長の田所 幹朗氏に話を伺った。

 なお、マーケティング面の特徴については、前回、ご紹介しているのであわせてお読みいただきたい。





三洋エナジートワイセル株式会社 技術統括部 統括部長の田所 幹朗氏
 エネループは、乾電池型のニッケル水素電池、いわゆるニッケル水素充電池と呼ばれるものだ。

 電池は、内部に充填された電解液中で、2つの電極(正極と負極)が化学反応し、そのエネルギーが放電される仕組みを用いている。このような電池は化学電池と呼ばれ、正極と負極の組み合わせによって、放電される電圧や特性が異なる。

 ニッケル水素充電池とは、正極に水酸化ニッケル、負極に水素吸蔵合金(金属結晶内に水素をとらえる合金)を使う二次電池だ。ニッケル水素充電池が放電する際の電圧は1.2Vと、アルカリマンガン電池の1.5Vに近いため、乾電池の代替品としても広く使われている。いま市販されている、単三形や単四形の乾電池互換タイプの充電池は、ほとんどがニッケル水素充電池である。

 乾電池互換タイプの中では広く使われているニッケル水素充電池だが、そもそも単三形や単四形の二次電池の市場は、乾電池に比べると微々たるものだ。'05年度、乾電池が国内だけで約22億本も出荷されているのに対し、市販用のニッケル水素充電池はその1%にも満たない。

 そうした状況を打破しようと、生まれたのがエネループだ。これまでのニッケル水素充電池ともっとも異なる点は、自己放電特性を抑えた点にある。ニッケル水素充電池の普及を妨げていた、「放っておくと使えなくなる」という弱点を解決する試みだ。


ニッケル水素充電池の仕組み
電池の種類。一般でいう電池とは、主に化学電池のことを示す 乾電池と充電池の特性を兼ね備えるエネループ

なぜニッケル水素充電池は自己放電を起こすのか

自己放電メカニズム。(1)と(3)はよく知られたもので、(2)は三洋が研究する自己放電の原因
 充電後に放っておくと使えなくなる」とはどういうことか。それは、ニッケル水素充電池の持つ、「自己放電」という性質によるものだ。

 自己放電とは、実際に放電したわけではないのに、電池内で放電と同じ化学反応が起きてしまうという現象だ。満充電になっていても、長時間放置していると、じわじわと残り容量が減ってしまう。

 この自己放電には、いくつかの原因があるとされる。学会などでもよく知られているのは、「正極の自己分解」と「窒素化合物によるシャトル効果」だという。いずれも電池内で自然に起こる化学反応で、簡単に言うと、電池を使っていないのに、勝手に同じ化学変化が電池内で起きてしまうということだ。

 さらに三洋電機では、もう1つの自己放電の原因として、「セパレータへの導電性化合物析出」というものを挙げる。これは負極の水素吸蔵合金に含まれるコバルトやマンガンが、エネルギーを動かす媒介物となる電解液に溶出することで起きる現象だ。


自己放電の原因ごとに、さまざまな対策が取られている
 では、エネループはそれらの現象に対し、どう対処したのか。

 「正極の自己分解」に対しては、正極自体を分解しにくい組成にしたり、電解液の組成を新しくするなど、素材面を見直している。

 「窒素化合物によるシャトル効果」については、本当は電池材料の製造過程で生じる窒素化合物をなくせばよいところだが、それは工業的には現実的ではないので、電池内のセパレータを改良することで対策している。

 そして「セパレータへの導電性化合物の析出」については、やはりセパレータを改良すると同時に、負極の水素吸蔵合金に、コバルトやマンガンを使わない「超格子合金」を採用することで対策を取っている。コバルトやマンガンは、これまでニッケル水素充電池において必須の材料となっていたが、電池の作用そのものには必要のない化学物質も含んでおり、それが自己放電を起こす原因となっていた。

 この超格子合金は、三洋電機のニッケル水素充電池において、キモとなるテクノロジーだ。この素材の採用により、電極からコバルトとマンガンを排し、水素吸蔵量の向上=電池容量のアップにつながっているというわけだ。


容量追求を見直したことで実現した低自己放電・高サイクル寿命

ニッケル水素充電池の原料となる、超格子合金
 実はこの超格子合金、元々は東芝で開発されたものであったが、当初は耐久性に劣り、実用化できる状態にはなかった。'01年に東芝電池のニッケル水素充電池事業が三洋電機に譲渡され、その後、両社の技術を融合し、超格子合金を実用化に向け研究した結果、'04年発売の2,500mAhのニッケル水素充電池で実用化された。

 エネループでは、この超格子合金によるメリットを容量アップではなく自己放電を防ぐ方向に振り分けたことが、技術的なポイントとなる。

 これまでのニッケル水素充電池は、1回の充電でどれだけの電力を蓄えられるか、つまり容量がもっとも重要視されていた。しかしエネループの容量は2,000mAhと、従来製品よりも少なくなっている。三洋電機の「HR-3UF」で2,500mAh、大容量製品の「HR-3UG」で2,700mAhだ。

 「容量と充電回数・自己放電率は、トレードオフの関係にあります。充電、放電のくり返し寿命は、容量の大きな電池の方が短くなってしまいます」(田所氏)

 実は2,700mAhの製品も、2,000mAhのエネループも、2,500mAhの製品をベースとしている。サイクル数を減らして、200mAh分の容量を向上させたのが2,700mAhの製品で、逆に500mAhの容量を犠牲にして、自己放電の抑制と、充電回数のアップを実現したのが、エネループということになる。

 「エネループの場合、素材改良によって得られたメリットを、自己放電の解消とサイクル数向上に振り分け、より乾電池に近い使い勝手にしたというわけです」(田所氏)

 この結果、エネループでは従来製品の倍に当たる、約1,000サイクルの充放電に耐えるという。わずかな容量の差と、サイクル数・自己放電率の大きな差を考えると、ほとんどの人にとっては、後者の方がより魅力的に映るだろう。

 「こうしたことも、三洋電機の高容量充電池技術が背景にあって、はじめてできることです。過去のモデルで容量増加を積み重ね、2,500mAhの製品を作れるようになったからこそ、エネループが作れたのです」(田所氏)

 '01年、市販用単三形ニッケル水素電池の容量は、1,700mAhだった。それを'04年に2,500mAhまで向上させた高容量化技術があって、初めてエネループは完成したのだ。


超格子合金の構造。AB2型とAB5型の2種類の金属結晶型が混じり合っている。図中、青はニッケル、緑は希土類元素、赤はマグネシウムが入っている デジタルカメラでの画像撮影数でテスト。半年経つと、従来品は15枚しか撮影できなかった。エネループは645枚の撮影が可能 1年後の電池容量残存率。従来製品が64%、エネループは85%

密かな特徴、わずかな電圧向上がもたらすメリット

自己放電特性のグラフだが、初期状態の撮影枚数に注目。初期状態の電圧の違いにより、メモリー効果が起こっても実使用に影響しにくい
 自己放電や高サイクル寿命以外にも、あまり目立ったアピールはされていないが、エネループには、電圧が微妙に高いという特徴がある。

 これまでのニッケル水素充電池の電圧は、1.2Vだった。しかしエネループの電圧は、それよりほんの少しだけ高い。わずか0.05Vほどの差だが、これが面白いメリットをもたらしている。

 たとえば一般的なデジカメの場合、電池の残量を電圧で推測するシステムを使っている。電池の多くは、残り容量に応じて放電する電圧が緩やかに低下するという特性を持っている。その特性を利用し、電池が放電する電圧が一定を下回ったら、「半電池マーク」などで電池残量を警告するわけだ。しかし、従来の充電池では放置しておくと、実際のエネルギーが十分に残っていても、「電池残量小」と表示されることがあった。

 エネループの場合、電圧が高いため、残容量表示のタイミングが、実際のエネルギー残容量により見合ったものとなっている。三洋電機が市販のデジカメで実験したところ、半電池マークが出るまでの撮影枚数は、エネループが927枚、2,500mAhの製品が897枚と、エネループの方が多かった。

 デジカメがシャットダウンするまでの撮影枚数は、さすがに高容量である2,500mAhの製品の方が多い。しかしそれでも、エネループでは1,005枚、2,500mAhの製品で1,128枚と、スペック上の容量ほどの差が出ていない。これもエネループの電圧が高い恩恵の1つだ。電圧が高いため、シャットダウン限界電圧に達するまでが少し遅く、容量の大きな電池との差が少なくなっている。

 また、電圧が高いことは、まったく別のメリットもある。継ぎ足し充電時に起こる現象、いわゆる「メモリー効果」への影響だ。

 メモリー効果とは、ニッケル水素充電池において、継ぎ足し充電を何度も繰り返したあとに、完全放電を行なうと、一時的に通常の放電電圧よりも電圧が低くなる、という現象である。

 電圧が低いと、先にも説明した半電池マークやシャットダウン限界電圧に達するのが早くなり、容量が減少したように見えてしまう。この現象を防ぐためには、一度電池を使い切る必要があり、そのために「リフレッシュ機能」として、放電回路を組み込む充電器も多い。

 そもそもメモリー効果とは、そのメカニズムがはっきりと解明されておらず、まだ解決されていない問題だ。しかしエネループの場合、元々の電圧が高いため、メモリー効果による電圧降下の悪影響が少ない。

「メモリー効果が完全になくなったわけではありませんが、エネループはメモリー効果を実用上、気にしないで利用できます」(田所氏)

 面倒な放電プロセスなしで、簡単に繰り返し使える、というのも、エネループのメリットというわけだ。


使える範囲が広がった新世代のニッケル水素充電池

 自己放電特性、高サイクル寿命、さらに高い電圧によるメモリー効果の改善など、エネループにはほかの充電池にない特性がある。こうした特性により、従来型の充電池では使いにくかった機器、たとえば残量を消費するのに時間がかかる掛け時計などにも、エネループは使いやすくなっている。

 繰り返して使える充電池の裾野をより拡げたエネループ。今後も、ユーザーの手間とコスト負担を省きつつ、環境に貢献できる価値ある商品の登場に期待したい。





URL
  三洋電機株式会社
  http://www.sanyo.co.jp/
  製品情報
  http://www.sanyo.co.jp/eneloop/

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2007/02/01 00:00

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