新米の季節ですな。ご飯が美味しいこの時期に炊飯器を買い替えるお宅がやはり多いらしく、炊飯器、とくに50,000円以上する高級路線の炊飯器が今年は予想以上に売れていると聞く。我が家でも、その手の高級機ではないものの、NDKジャパンが販売している「発芽名人 IH-0610」という高圧力と発芽炊飯機能が売りの炊飯器を購入したので、使用感などをレポートしたい。
● 1.7気圧で15,540円!?
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発芽から炊飯までがボタン1つで可能、1.7気圧の高圧炊飯が可能で、なんとお値段1万円台の「発芽名人」
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まずは、わたしの評価の基準となる、これまで我が家で使用していた炊飯器をご紹介しておこう。3合炊きの象印「NH-SB05型」だ。発売時のリリースを見ると、4年前のモデルながら圧力IH炊飯ジャーであって1.15気圧104℃でお米をふっくら炊き上げる仕様であるらしい。2002年に大手スーパーの電気製品売り場で「3合炊きでいちばんいい(高い)やつ」を選んだらコレだったわけだが、4年使っていてもとくに不満はない。購入価格は10,000円台後半くらいだったと思う。炊飯メニューは玄米、分づき米、無洗米、白米(かため/ふつう/やわらかめ)、おかゆなど、通常必要と思われる炊飯メニューはすべて揃っている。内蓋は簡単に外して洗えるし、3合炊きで本体も小さく邪魔にならない。
とくに不満はないのだが、「発芽名人」に惹かれたのはまずそのスペックと価格だった。玄米についてちょっと調べてみると、玄米は圧力鍋で炊くのが美味しいと書かれているサイトが非常に多いのだ。うちの炊飯器に不満はないけれど、もしかして圧力鍋で炊くと今とは次元の違う美味しさなのだろうか、という疑問をずっと持っていた。
ただ、圧力鍋では火を使うために鍋から離れられないし、うちのガス台は2口なので、炊飯で1口占領されてしまうのは困る。それならいっそガス炊飯器にした方がいいかなぁ、などと考えていたときに、通販サイトで発見したのが「発芽名人」だ。
最初に見かけた通販サイトでは「発芽名人」は15,540円で販売していた。それで1.7気圧。ちなみに、PC Watchの連載「そこが知りたい家電の新技術」の日立IHジャーの回で、「業界で最高水準となる1.5気圧を実現」と書いてある。
日本を代表する電機メーカー、新幹線の車両からミニ電球までを製造しているところの日立が研究開発して1.5気圧を実現した。その炊飯器の実売価格は7万円前後なのである。しかるに、「発芽名人」は税別とはいえ「14,800円で1.7気圧」なのだ。
アヤシイ。いや、失礼だとは思うけど、ふつーアヤシイと思うでしょだって。そこで、オンラインのレビューを参考にしようと思ったのだが、Amazon.co.jpでは扱っていないし、価格.comにもこの機種は掲載されていない。楽天にはレビューがたくさんあるんだが、楽天のレビューは読んだ人が購入すればレビューを書いた人にポイントが入るという、いわばアフィリエイトのような仕組み。そのせいかどうか、商品の価格が上がるほど、アフィリエイト目当てのレビューが多いような印象がある(あくまで印象なので、もしかしたらわたしの心が濁っているせいでそう思えるだけかもしれないが)。案の定、ちょっと見てみた「発芽名人」のレビューも気味が悪いほどの賛辞の嵐であった(これもわたしの心が歪んでいるせいでそう感じたのかもしれないが)。
うーむ。これはもう、買ってみるしか! というわけで購入してみました。前振り長くて申し訳ありません。
● 実はすでに後継機が販売されている件
さて、ネットで発見してから実際の購入までに1カ月ほどあったこともあり、最初に見かけたアウトレット通販ではすでに完売、実際に購入した価格は税込16,800円也であった。実は、「NEW発芽名人DX(型番IH-0620)」という後継機が出ている関係で、今回ご紹介する「発芽名人」は在庫限りの販売で市場から消えつつある状況なのだ。
ちなみに、通販サイトの製品情報によれば、後継機「NEW発芽名人DX」では、白米の炊き加減を「やわらかめ」「ふつう」「固め」で指定可能になった。液晶ディスプレイの文字表示も英語から日本語に変更、ディスプレイの色で現在の設定が確認できる機能も付加された。また、電源コードも巻き取りタイプに変更されたという。このほか、発売元のNDKジャパンは日本のメーカーだが、今回ご紹介する「発芽名人」は韓国製、後継機の「NEW発芽名人DX」は中国製と製造地が変更されている。NDKジャパンが属する日本電子工業のグループ会社リストに中国の合弁会社があるので、後継機はそこで製造しているのではないかと思われる。
「発芽名人」と「NEW発芽名人DX」は、上述のような細かい違いはあるものの、1.7気圧という高圧力と、発芽してそのまま炊飯ができる「発芽炊飯」メニューが最大の売りという製品の基本性能の部分は変わりないようで、使い勝手の部分を向上させた後継機種と考えていいようだ。なお、「NEW発芽名人DX」については、本誌で別途レポート予定だと聞いている。
● え? 2合以上しか目盛りないの?
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左が今回購入した「発芽名人」。右が4年あまり愛用している、象印の3合炊き圧力IH炊飯ジャー「NH-SB05」。並べてみるとかなり大きさが違うが、「発芽名人」がデカいというよりは愛機NH-SB05がコンパクトというべきだろう
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「発芽名人」が到着し、まずは、我が家でふだん食べている5分づき米を炊いてみることにした。内釜には水位の目安となる目盛りがついているが、今まで使っていた象印の炊飯ジャーでは、内釜の対向する2カ所に目盛りがついていて、両方の目盛りを見れば、微妙に傾いている場所でも水量が計れる。ところが、発芽名人の場合は1カ所にしか目盛りがついていないので、きちんと水平なところで水位を計る必要があった。細かい点だし1カ所でも用は足りるのだが、2カ所に目盛りがある方が使いやすいので、今後改善を検討してほしい点だ。
また、我が家では食べきれる量ということで、ふだん1合ないし1合半を炊いているのだが、発芽名人には1合の目盛りがない。2合以上しか目盛りがないのだ。取説を見ると、調理可能量として、炊飯メニューの場合は「2カップ~」と明記されている(発芽のみは1カップから対応)。がーーーーん。一升炊きの炊飯器ならともかく、最大6合までの「発芽名人」で2合からのサポートとは、予想外であった。もちろん1合でも炊けなくはないだろうけど、1合炊く時は水の量をカップで計らなくてはならない。ちょっと、いや我が家にとってはかなり不便だ。仕方ないので、とりあえず2合炊くことにする。
もう1つ、実用的に不便なのが内釜で米を研げないこと。フッ素加工が剥げる可能性があるので別の器で研ぐようにと取説に書いてある。そういえば、その昔の電気炊飯器は内釜で米を研げないのが普通だったのだが、最近は内釜で研げる方が普通で、これも予想外であった。
もっとも、最近は精米技術の向上により、昔のようにガシガシ米を研ぐ必要はなくなっている。逆に、あまり力を入れると米割れの原因にもなるし、胚芽米や分づき米では栄養のある胚の部分が取れてしまったりもする。自己責任ではあるが、内釜で研いでしまうというのもアリかと思う。というか、うちでは内釜で研いでいる。
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「発芽名人」の内釜。水位目盛りが1箇所にしかないのだが、できれば釜の対向する2箇所に目盛りをつけてもらえると水量が計りやすい
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「発芽名人」の蓋部分。内蓋は外れないので、まる洗いはできない。ただ、炊飯しても蓋部分はあまり汚れないので、炊飯するたびに拭き、時々台所用の除菌スプレーなどで消毒すれば十分だろう
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さて、いよいよ炊飯だ。1.7気圧が売りの製品なので高圧で炊いてみたが、象印のNH-SB05型で「分づき米」メニューで炊いた時と比べ、正直あまり大きな差は感じなかった。それより、ちょっとびっくりしたのが炊くときの音だ。かなり大きな音がするので、小さなお子さんがいるような家庭では、予約炊飯で炊いている早朝など、炊飯の音で子供が起きてしまう可能性があると思われる。ちなみに、これは「発芽名人」の性能の問題ではなく、ある程度以上の高圧で炊く機種では、やはりそれなりの音がするらしい。どんな音がするかは、下の動画で確認していただければと思う。
カタログスペックでは象印NH-SB05型は1.15気圧であって発芽名人は1.7気圧、食味に大きな差があってもよさそうなものだが、これはわたしが味覚音痴なせいかもしれないのであまりはっきりした結論は出せない。また、5分づき米の場合は、もっちり炊けていても白米に比べ外側が固いために、食感として差を感じにくいということはあるかもしれない。いずれにせよ、象印NH-SB05型でも十分美味しく炊けていたので、発芽名人でも十分美味しく炊けたと言ってよいと思う。
● 発芽メニューを試してみる
次に、「発芽名人」最大の売りである、ボタン1つで発芽から炊飯、保温までできてしまう「発芽炊飯」メニューを試してみた。検索である程度調べてみたのだが、発芽させてそのまま炊飯までできるという炊飯器は比較的少ない。
鳥取三洋電機の炊飯器「かまど味発芽玄米機能つき圧力沸騰炊飯器」も発芽から炊飯までできるのだが、セブンドリーム・ドットコムの価格は42,840円である。「発芽名人」は価格がやはり魅力だ。
ちなみに、玄米を発芽させる、あるいはGABAを増量させるには一定の温度を一定時間保てばよい。もともと、電子炊飯ジャーはどれも保温機能を持っているわけで、発芽から炊飯までを一気に行なうのではなく、玄米を発芽させるだけ、あるいはGABAを増量させるだけの機能なら、かなり多くの機種がすでに対応済みだ。どれくらいの数があるかは、ヨドバシカメラのサイトの「発芽玄米メニューのあるIH炊飯器」というメニューで確認してみていただきたい(なお、ヨドバシカメラでは「発芽名人」は扱っていない)。
さて、発芽炊飯機能を使ってみるのにあたっては、ちゃんと元気に発芽するよう、自然食品屋で無農薬のコシヒカリ新米を用意した。水も、消毒薬の匂いがする水道水は使わず、ミネラルウォーターを使用(もっともこれは普段から。我が家のあたりは水道水の水質が良くない)。内釜をセットして蓋を閉め、圧力ロックつまみをロックして「発芽炊飯」ボタンを押す。
マニュアルによれば、発芽時間の目安は夏場4時間、冬場6時間。4/5/6時間での設定が可能だ。5時間にしようかと思ったが、10月にしてはわりあい暖かい日なので4時間でやってみることにした。炊飯時間は45分程度なので、5時間弱で炊き上がることになる。
なお、発芽炊飯モードでは予約炊飯はできない。処理を開始するまでの、浸水時間と温度のコントロールができないために、特に夏場などは、素人考えでも予約炊飯は難しそうな感じはする。ただ、この点、販売サイトなどではあまり書いていない。いまは予約炊飯が当たり前なので、発芽炊飯でも予約炊飯が可能だと思いこんでてしまう可能性があり、ちょっと注意が必要だ。
さて、炊き上がって蓋を開けてみると、糠の匂いがかなり強く感じられた。これは炊飯器の性能とは関係なく、発芽させてそのまま炊飯すれば、玄米100%で炊くことになるので仕方ないだろう。糠の匂いが気になる場合は、発芽だけさせて、白米と混炊すればいいだろう。市販の発芽玄米の場合は、白米2:玄米1や白米3:玄米1くらいの割合で炊くようにパッケージに書いてある。
「発芽名人」では、発芽だけさせることも可能だ。やはり4時間の設定で発芽させてみたが、小さなツノのような発芽が確認できた。発芽させた発芽米は、ポリ袋などに入れて、冷蔵庫で2~3日間保管可能だ。もっとも、いったん発芽のみを行ない、後で白米と混炊するなら、「発芽名人」でなくてもGABA増量機能や発芽機能を持っている機種もあるので、いったん選択肢を広げて検討してみるのも良いかもしれない。
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「発芽のみ」の処理をして取り出した玄米。すこしツノのような発芽が確認できた。これは発芽時間4時間の結果だが、もう秋だし5または6時間で設定した方がよかったかもしれない
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「発芽名人」ではボタン1つで発芽から炊飯までが行なえる、「発芽炊飯」メニュー専用ボタンがある(矢印部分)。発芽時間を4/5/6または0時間でセットすれば、あとはこのボタンを押すだけ。発芽時間「0」は、発芽させずに炊飯する、あるいは発芽ずみの玄米を炊飯する場合に「0」にする
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炊き上がった発芽玄米。通常、発芽玄米は白米と混ぜて炊くことが多いと思うが、発芽から炊飯までを行なうメニューでは、100%発芽玄米のみなので、色も白米とはかなり違う。100%玄米だと糠の匂いもけっこう強いので、慣れない人は混ぜて炊くところからはじめた方がいいかも
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発芽処理だけした後。写真だとわかりにくいが、発芽処理を行なう前よりも水が少し濁っている。発芽炊飯で糠の匂いが気になる場合は、発芽させた後でいったん水を換えるといいかもしれない
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● 白米を炊いてみる
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高圧で炊いた場合の炊き上がり。写りがイマイチでわかりにくいと思いますが、つやつやしたご飯の表面にぽつぽつと空気穴が開いて、美味しそうな炊き上がり。食感はもちもちしている
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次に白米を炊いてみた。白米は、17年産のこしひかりを使った。後継機種「NEW発芽名人DX」では、白米の炊き具合を「かため/ふつう/やわらかめ」から選択できる機能が付いたそうだが、「発芽名人」では「高圧/低圧」しか選択肢がない。あとは、炊き上がり時間をタイマーセットする予約炊飯かすぐ炊くか、また、すぐ炊く場合には通常の炊飯と早炊きから選択できる。なお、早炊きが選択できるのは「高圧」設定の時のみだ。
まずは予約炊飯を試してみる。圧力ロックつまみをロックして、高圧か低圧かを設定。1.7気圧が売りの製品なわけで、まずは高圧を選択。次に「時」キー、「分」キーで炊き上がりの時刻を設定する。時刻を設定したら、予約キーを押す。やや読みにくいが、液晶部の左下に小さく「TIME SETTING」の文字が表示され、この状態で7秒放置すると自動的に予約炊飯のセットが完了する。
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高圧で予約炊飯した場合、このように底にうっすらとこげがつく場合が多い
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高圧で炊いたお米はたしかに粘りの強い炊き上がりで、食べるともちもちした食感だ。何も言わずにダンナに出したところ、「今日のごはん、すごくもちもちしてるけどお米変えた?」と言っていたので、明らかに違いがわかる程度の差はあると考えていいと思う。もち米を混ぜて炊いたときのような食感だ。同じ米を低圧で炊いてみたところ、低圧で炊くと高圧で炊いた時に比べて粘りの少ない炊き上がりになる。あきたこまちやササニシキなどあっさりした食味の好きな人は低圧で、また、チャーハンや寿司飯、カレーライスなどのメニューの時は低圧炊飯にするなど、メニューによって使い分けるといいだろう。
白米の炊飯でちょっと気になったのが、高圧で炊飯すると、かなりの確率でご飯の底がうっすらとこげる点だ。まだ何度も試していないので断言はできないが、低圧で炊飯した場合や、高圧でも早炊きした場合はこげはなかった。電器炊飯器でこげたご飯は、最近の高級機でわざとおこげを作る機能を持つものは別として、あまり美味しいものではないし、弁当に詰めたりすると見栄えも悪いので、後継機の「NEW発芽名人DX」では改善されていることを期待したい。
また、早炊き機能では、米を研いですぐ炊いてみたら、少し芯が残った。少々の水を振りかけて再加熱したところ、芯は感じなくなったが、急に炊飯しなくてはならなくなった場合は別として、早炊きの場合も炊く前に少し浸水しておいた方がいいかもしれない。あらかじめ米を研いでおけるなら早炊きを使う必要がないと思われるかもしれないが、早炊きした場合と通常の高圧炊飯した場合でも、食感が少し違うので、購入されたなら、いろいろ試してみることをお薦めしたい。個人的には、白米の場合は高圧の早炊きで炊いたご飯がいちばん好みに合った。
● 発芽にどのくらいこだわりがあるかが製品評価の鍵
さて、これまで紹介してきたとおり、「発芽名人」は、欠点がないという製品ではない。建前上だが、内釜で米が研げないし(わたしは自己責任で研いでますが)、2合からしか水位の目盛りがないから1~2人の所帯でお茶碗2杯分とか、ごく少量炊く世帯には向かない。高圧の予約炊飯ではうっすらおこげができることが多い。また、これは後継機で改善されているが、「発芽名人」に限って言えば、炊飯中の表示などが英語で文字も小さく、かなり読みにくい。
ただ、高圧で炊いたお米がもちもちした食感だというのは確かで、また発芽機能も当たり前かもしれないが、触れ込みどおりちゃんと使える。製品名も「発芽名人」というくらいで、発芽米に興味のない人はもともと購入しないとは思うが、発芽米を日常的に食べる人ならば、1万円台半ばの価格で発芽機能を持ち、発芽から炊飯、保温までボタン1つで手軽にできる「発芽名人」は検討の対象に入れてもいいのではないかと思う。
個人的には、白米を炊くときのこげが気になったが、我が家では普段は分づき米を食べており、分づき米ではうっすら色がつく程度のこげはさほど気にならないので、白米を炊く頻度が少ない、あるいはほとんどないのならその点もあまり気にする必要はないかと思う。
また、保温時の性能については、象印のジャーに比べると保温時の匂いがつくのが早いという印象があった。半日程度保温しておくと、電気炊飯ジャーで保温した時特有の匂いが感じられるので、長時間保温するよりは余った分は早めに冷凍する方がいいかもしれない。
まとめると、発芽機能を利用し、玄米または分づき米を平素から食べている家庭、なおかつ1回の炊飯量が2合以上ならば、選択肢に入れてもいいのではないかと思う。
我が家の場合はどうかというと、1合から炊けたなら、我が家でも実用上さほど問題はなかったのだが、2合炊くとやはり余ってしまう。結局、象印炊飯ジャーで炊くことが多くなっているのであった。今回得られた我が家の教訓としては、炊飯器を購入する際には、少量炊飯に対応しているかどうかを購入前にしっかり確認しよう、ということでしょうか。いや、当たり前ですけどスペックの確認は大事ですね。
■URL
日本電子工業株式会社
http://www.nihondenshi.co.jp/
2006/10/30 00:14
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