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今なお成長を続ける日立アプライアンスの最重要拠点「多賀事業所」を訪ねる

日立アプライアンス多賀事業所

 日立アプライアンスは、3月19日、茨城県日立市の同社多賀事業所において、報道関係者を対象に、洗濯乾燥機、掃除機などの生産ラインの様子を公開した。また、LED照明、住宅用太陽光発電システム、オール電化などの「環境新分野」への取り組みについても説明を行なった。

東日本大震災を乗り越えた白物家電の拠点

 日立アプライアンス多賀事業所は、上野からJR常磐線特急を使い、約1時間30分の常陸多賀駅から車で約5分の位置にある。

 東京ドーム約7.5倍の広さとなる47万802平方m(約13万坪)を誇る多賀事業所は、1939年(昭和14年)に日立初の電気製品の量産工場として設立。1952年の洗濯機第1号機や、1954年の掃除機第1号製品も同事業所で生産された。

 東日本大震災では、震度6強の激しい揺れに見舞われ、生産棟を含む4つの建屋が解体を余儀なくされるという甚大な被害を受けたが、震災から11日後の3月22日朝からは生産を再開。同事業所の底力をみせつけた。

 現在、月126億円の生産高を誇り、その5割弱が洗濯機、2割弱が掃除機。約2,000人の従業員が従事し、建屋面積の合計は17万7,802平方m(約5万4,000坪)に達する。

 多賀事業所の特徴は、家電事業と環境ビジネス機器事業の主力製品に関して、設計から開発、生産まで行なう「MADE IN JAPAN」の強みを発揮している点だ。

 そして、日立の白物家電製品に共通的に展開する、省エネ(エコ)+実感価値による「日立はエコにたし算」の製品コンセプトを実現する生産拠点ともいえる。

多賀事業所の概要。面積は約13万坪で東京ドーム約7.5倍の広さを誇る
洗濯機第1号機や、掃除機第1号機も多賀事業所で生産された

「家電と空調」に加え「環境新分野」にも挑戦

 日立アプライアンス 家電事業部多賀家電本部長・鎌田栄氏は、「白物家電と総合空調では、グローバルに事業を拡大し、地産池消とプレミアム戦略を柱とする。その一方で、さらなる成長を目指して取り組んでいくのが環境新分野。LED照明を重点的に伸張させるなど、ニーズが高まる環境新分野に今後、力を注いでいく」と語る。

日立アプライアンス 家電事業部多賀家電本部長・鎌田栄氏
日立アプライアンスの製造拠点。国内では、常陸多賀のほか、栃木、青梅、清水に事業所を構える
冷蔵庫、洗濯機、クリーナー、電子レンジ、ジャー炊飯器の主要5製品における日立のシェア。この5年でプラス9ポイント伸ばしている
4月からの新体制では、IHクッキングヒーター、LED照明、ヒートポンプ、太陽光発電システムなどの環境ビジネスにも力を入れていく構え
日立アプライアンス 家電事業部オール電化本部長兼環境ビジネス機器事業部照明本部長・深水祥光氏

 また、日立アプライアンス 家電事業部オール電化本部長兼環境ビジネス機器事業部照明本部長・深水祥光氏は、「当社はこれまで、『家電と空調の日立アプライアンス』と言ってきたが、3つの目のドメインとして、環境新分野を育てたい」と意気込みをみせた。

 「消費者は実利を重視する一方で、我慢してエコをしたくないという意識があり、明るい暮らしを実現する実感価値を追求する傾向が強い。多賀事業所で生産される製品の実感価値は、独自技術と高い性能で実現するものになる」(鎌田多賀家電本部長)とし、洗濯乾燥機では「自動おそうじをたし算」、掃除機では「カーボンライト&スマートホースをたし算」、炊飯器では「真空断熱層をたし算」、ベーカリーレンジでは「ホームベーカリーをたし算」などの切り口で、実感価値を実現しているとした。

 さらに、東日本大震災以降、25%の電力使用量削減の体制を現在まで維持するなど、環境に配慮したモノづくりを継続。セル生産方式の導入による多品種高効率生産も実現しているという。

省エネ(エコ)+実感価値による「日立はエコにたし算」の製品コンセプトを実現するための生産拠点でもあるという
多賀事業所では、短期間高品質開発を行なうためのデジタルエンジニアリングを実践しているほか、セル方式を様々な品種で導入している
日立グループのシナジーを活かして、国内生産にこだわる

 また、競合各社が海外生産で完成品を日本に投入するために、円安の影響を直接受けているのに対して、日立アプライアンスの場合は、輸入が多い材料費の高騰などの影響はあるものの、内製化の推進により、市場競争力を維持できるという強みもある。とくに、同社が得意とするプレミアム家電においては、内製率が高いため、比較的円安のマイナス影響を受けにくいという体質があり、今後の市場競争力の強化にもつながることになりそうだ。

 一方、環境関連製品事業に関しては、2013年4月1日付けで、従来から取り組んできた照明事業に加えて、オール電化関連製品事業を環境システム本部に移管。多賀事業所における環境ビジネス機器本部の扱い製品比率が高まることになる。

 多賀事業所では、東日本大震災によって、4つの建屋を解体したが、その敷地を利用して9,000平方mの建屋を新たに建設。最新棟は太陽光発電システムの生産棟として利用している。新棟は、将来的には、成長が期待されるLED照明などを生産する可能性も含めて、さらなる有効活用を検討しているという。

 日立アプライアンスが、環境新分野商品として位置づけるのは、LED照明、IHクッキングヒーター、住宅用太陽光発電システム、エコキュートの4製品群となる。

 「これらの製品に共通しているのは、量販店や地域店が取り扱うのではなく、ハウスメーカーやシステムキッチンメーカー、住宅設備機器メーカーが取り扱う商品であるという点。そうしたルートへの営業体制を一本化し、営業シナジーの最適化を目指すことになる」と、日立アプライアンスの深水本部長は語る。

 また、日立研究所や横浜研究所、デザイン本部、生活ソフト開発センタといった日立グループの各組織が持つ独自の先端技術の活用と、内製化および徹底した検査体制の構築による高い品質技術が、同社の環境ビジネス機器事業を支えることになるとした。

 LED照明製品については、2012年度国内市場全体が、2010年度比で426%に達していることを示しながら、「日立の場合には売上高が約11倍に拡大。照明全体に占める売上構成比は4割強にまで高まっている。これを2015年度にはさらに3倍に売上高を拡大させ、2015年度には約7割をLED照明で占めたい」とした。

環境新分野商品として位置づける、LED照明、IHクッキングヒーター、住宅用太陽光発電システム、エコキュートの4製品群。いずれも震災以降、大きく市場が動いている分野だ
LED照明製品では2015年度に売上高3倍を目指す
LED照明器具とともに、蛍光ランプなど在来光源商品も扱っていく

 住宅用LED照明では、「エコにゆとりの大光量をたし算」とするLEDシーリングライトと、「エコに100Wの大光量をたし算」に打ち出すLED電球を重点商品に掲げ、「LEDシーリングライトでは畳数が大きい製品で強みを発揮し、LED電球では白熱電球100W相当の昼間色電球を製品化。電球色もすでに試作品を発表している。今後もラインアップを強化していく」(深水本部長)とした。

 LEDシーリングライトでは、2012年度に15%のシェア獲得を見込んでいる。

 さらに施設用LED照明では、店舗やオフィスに適した直管型LEDランプや一体型LEDベース器具、工場や倉庫向けの高天井用LED器具を用意していることを示した。

 住宅用太陽光発電システムでは、太陽電池モジュールを、65Wおよび165Wをソーラーフロンティアから、205Wをトリナ・ソーラー・ジャパンからそれぞれ調達。その一方で、パワーコンディショナー、接続箱などに独自性を発揮していることを強調した。

住宅用太陽光発電システムの市場環境予測。補助金や買取価格引き下げにより、多少の影響はあるが、需要は安定的に身長すると見ている
モジュールに部分影がかかっていても、しっかりと電力を取り出すパワーコンディショナーが特徴。モジュールはソーラーフロンティアとサンテックから調達する

 「独自のHI-MPPT制御により、モジュールに部分影がかかっていても、しっかりと電力を取り出すパワーコンディショナーが日立の特徴。2次卸店を中心に資格認定制度の取得者の拡大による安心施工の実施、設置可能対象屋根の拡大などにより、事業拡大を目指す。2015年度には5%のシェア獲得を目標にしている」という。

 一方で、東日本大震災以降、節電ムードのなかで需要が低迷しているオール電化製品にもビジネスチャンスがあると語る。

 2012年度の市場規模は、IHクッキングヒーターおよびエコキュートが、2010年度比でいずれも8掛けへと縮小しているものの、一部調査では被災した東北地区において、オール電化の住宅への導入意欲が高いという結果が出ている。

 「被災地では、電力の復旧が最も速かったという経験をしており、これがオール電化の導入意欲の増大につながっている」とする。

 同社では、IHクッキングヒーターにおいて、「エコに火加減上手をたし算」として、難しい火加減調整が簡単にでき、さらに省エネにもつながることを訴求。また、エコキュートでは、水道直圧給湯方式により「エコにパワフルシャワーをたし算」を特徴として、同社ならではの強みを前面に打ち出す考えだ。

 IHクッキングヒーターでは、2012年度に30%のシェア獲得、家庭用エコキュートでは10%のシェァ獲得を目指すという。

震災以降、オール電化の市場は縮小傾向にあったが、今後は緩やかな回復傾向を見込む
震災などの非常時でも電気の復興は水道やガスなどに比べて早く、省エネ性においても優れているという

 一方で、日立アプライアンスの多賀事業所の生産ラインについても公開した。

 以下、写真で多賀事業所の生産ラインの様子を紹介する。

電子レンジの生産ライン

電子レンジは月産15,000台。3つの組立ラインを用意。1人セルの工程もある
最終試験工程。この工程の前に商用検査や耐圧検査、工程内検査なども行なわれる
多賀事業所で生産されているヘルシーシェフ

LEDの生産ライン

LED電球の生産ラインの様子。月産4万個のLED電球を生産
作業台の照明にもLEDを使用している
組立セルと検査セルの合体により効率化を高めている
110W型直管LED組立ラインの様子。月25,000本以上を生産
LED高天井器具のセルライン。月産2,000台の規模
多賀事業所で生産しているLED商品群。シーリングライトは月産3万台強だという

IHクッキングヒーターの生産ライン

IHクッキングヒーターの生産ライン。月25,000台を生産する
6本のセルラインで生産されている
一人で梱包作業までを行なうフュージョンセルラインを設置しているのも特徴
多賀事業所で生産しているIHクッキングヒーター

掃除機の生産ライン

掃除機の生産ラインの様子。1台約3分間で組み立て、月産11万台の体制を持つ
1つの建屋のなかで大型成形から部品在庫、組立、検査までを行なう
作業台には様々な仕掛けが施されており、通称「からくりハイパーセル」と呼ばれている
多賀事業所で生産される掃除機のラインアップ

太陽光発電システムの生産ライン

新たに建設された太陽光発電システムの生産棟
太陽光発電システムの生産ライン。月600台のパーコンディショナーを生産する
見込み生産と受注生産の複合型生産を採用。部品倉庫エリアを広く確保している
パワーコンディショナーの一人組み立てセルの様子
日立の太陽光発電システム。パワーコンディショナーを多賀事業所で内製している

ドラム式洗濯乾燥機の生産ライン

3セルを10ライン用意したドラム式洗濯乾燥機の生産ライン
今年1月に従来のコンベアラインから大きく転換。1億円を投資したという
大型の部品は新たな設置された中2階から供給される仕組み
組み立てている製品が上下に移動し、作業しやすいようにしているのも特徴
2013年2月にはドラム式洗濯乾燥機の累計100万台生産を達成
多賀事業所で生産するドラム式洗濯乾燥機。月産22,000台を生産する。生産ラインの横には、日立製作所の庄山悦彦相談役のサインが入った製品を展示

 また、同社では、これまで多賀事業所で生産されたエポックメイキングな製品群も公開した。写真で紹介しよう。

進駐軍向けに作られた洗濯機など

日立の第1号洗濯機のSM-A1。進駐軍向けに作られたもので、1952年に発売した
本体上部には脱水のためのローラーが設けられている
日本初の全自動洗濯機であるSC-AT1。1961年の発売
1966年に発売された2槽式洗濯機のPS-250。ペアゴールドと呼ばれた
1982年に発売となった初代からまん棒のKW-20LX
初代「静御前」となるKW-S411。1987年の発売

掃除機第1号は1956年に生産

1956年に生産されたH-H2。掃除機第1号機はこの前身のモデルとなる
スピードちり落し装置を搭載したポット型クリーナーのC-V55C。1963年の発売
クーペタイプと呼ばれるデザイン性に優れたR-H5000。1969年の発売
業界初のゴミパック方式となるCV-8605。1981年の発売

炊飯器、電子レンジなど

1990年発売の「おいしいファジィ」
1989年に生産されたジャー炊飯器「匠御膳」。生産20万台の記念モデル
1993年発売のジャー炊飯器「こがまくん」
2003年に発売となったドンピシャ加熱「RZ-AG10」
ククレットの愛称で親しまれた電子レンジ「MR-401S」。1975年の発売
ベーカリーオーブンレンジ「MRO-B50」。1988年に発売
2003年に発売したワイドオーフセンレンジ「MRO-EX2」
2001年発売の2口IH+ラジエントヒーターの「HTW-4DB」
2003年に発売したシングルオールメタン対応のIHクッキングヒーター「HTW-4GE」

大河原 克行