【ミラノサローネ2009】
新素材の可能性を見せた「TOKYO FIBER 09 SENSEWARE」

ミラネーゼもうっとり、水滴が描く会場ロゴ

 FuoriSalone(場外サローネ)の展示が数多く集まるトリエンナーレ美術館で、今回、もっとも高い人気を集めていたのが、前日レポートでも紹介した「TOKYO FIBER '09 SENSEWARE」展だ。

 旭化成、クラレ、帝人、東洋紡績、東レ、三菱レイヨン、ユニチカ、サカセアドテック、日本絹人繊織物工業組合連合会といった合成繊維の企業や団体が、各社の合成繊維の可能性を日本のトップクリエイターの作品を通して紹介するイベントだ。

 もっとも注目を集めていたのはイベントの入り口に飾られた「WATER LOGO '09」という作品だ。

 黒い布の上に浮かび上がる「SENSEWARE」というイベントの白いロゴ、実は近づいてよく見ると水滴によって描かれていることがわかる。しばらくすると、水滴の水が大きくなって、ポロポロと坂になった布の手前側に転がり落ちて消えて行く。しばらくすると、布の上の方から、大量の水滴が転がり落ちてきて、ロゴを完全に洗い流してしまう。残るのは真っ黒な布一枚だけ。ところが、しばらくすると、その布の内側から、またじわっと水滴で描かれたロゴがにじみ出てくる。

 作品を作ったのは、アトリエオモヤと今回、展覧会ディレクターも務めた原研哉氏を主宰に迎える日本デザインセンター原デザイン研究所で、素材にはユニチカが提供する超撥水織物、MONERTを使っている。

 


笑うクルマとロボット雑巾

 入り口のロゴの裏側に回ると見えてくるのが広い展示場とそこに並べられた数々の作品。

 その少し先には車の模型が置かれている、日産と日本デザインセンター原デザイン研究所が旭化成せんいの素材、超伸縮皮膜ロイカを使ってつくったファブリックの車だ。

 '07年のSENSEWARE展で、クルマは生物と同様に柔らかい表皮を持つ存在として示されたが、今回はそれを拡張し、クルマをドライバーの人格の拡張として捉え、エモーショナルな交流を生み出す可能性を示唆した「笑うクルマ(Smiling Vehicle)」だ。

 そこから、さらに歩くと、板張りのダイニングに置かれた木製のテーブルとチェア、そしてその周りをモゾモゾと動き回る変な物体が目に入る。

 その名も「WIPING CLEANER “FUKITORIMUSHI”」。

 これはロボット掃除機ならぬ拭き掃除ロボット。パナソニック株式会社デザインカンパニーが帝人株式会社の超極細繊維、ナノフロントでつくった作品だ。ナノフロントは髪の毛の7,500分の1の細さ、目にも見えないナノファイバーでつくられた布。通常の数十倍の表面積と空隙構造を持つため、ミクロン以下の油膜や微細なホコリを吸着するという。

 この拭き掃除ロボットは、センサーで汚れを感知し生物のように自在に這い回るというコンセプトのシミュレーション展示だ。

 

 


見るほどに不思議な椅子と灯り

 展示会場の中程にはズラッと並べられた椅子と、それを上から照らすLED照明が置かれている。でも、この展示、よくみるとなんだか不思議なのだ。

 椅子は間近でみると、とてつもなく軽そうだし、四脚の椅子を照らす長いLED照明の梁は片方の端だけが柱で支えられたアーム形状になっている。

 「Carbon Fiber Chair」と名付けられた椅子は建築家、坂茂氏が帝人の炭素繊維テナックスでつくった超軽量チェアで、軽さ約1,800g。指1本で持ち上げられる重さで、一見やわに見えるが、炭素繊維のひっぱり強度の強さによってしっかりと人を支えることができる。

 その上を照らす片持ち梁の超ロングアーム照明器具「Thin Beam」は建築家の青木淳氏が東レの炭素繊維、トレカでつくった作品、厚さ20mm、全長6mのアームがたわむこともなく椅子を照らしている。

 ちなみに照明器具の支柱のすぐ下には、フラワーアーティストの東信がつくった苔庭「Time of Moss」が広がるが、この苔はユニチカ株式会社による植物由来のポリ乳酸からつくられた繊維、テラマックの上に生えている。

 テラマックは生分解性を持つ、つまり土に帰る地球にやさしい繊維だ。

進むほど後ずさりするロボットタイル

 会場の一番奥には何やら奇妙なコーナーがある。ローチェアのようなものの上を人が立って歩いている。一歩踏み出すと、そのローチェアのような物体が後ろ向きに滑り、人はどんなに歩いても元の位置のまま先に進むことができない。

 

 


 これはメディアアーティストで筑波大学大学院教授の岩田洋夫氏がクラレの導電繊維クラロンECという素材でつくった「Robot Tile」という作品。

 導電繊維クラロンECは、ナノレベルの導電性を持つ布製センサーが、環境素材を革命的に変える可能性を秘めた素材で、これを使えば布のキーボードをつくることもできる、という。

 作品では、この素材が足の位置を検出するセンサーとして使われ、一歩踏み出すとロボットタイルが後ずさりする。

 この作品はSecond Lifeのような仮想空間を歩き回るためのユーザーインターフェースといった方向性も提案しているという。

光とファイバーのマジック

 SENSEWAREには外光を遮断した別室があり、ここにもいくつか光が絡んだ作品が展示されている。

 もっとも目を引くのは建築家、隈研吾氏が三菱レイヨンの光ファイバーエスカという素材でつくった「CON/FIBER」という作品。一見したところただ、コンクリートのブロックが積み上がってつくられた壁に見えるのだが、不思議なことに、そこに居もしない人々が歩いたり手を振ったりする影が映し出される。

 作品の背面に回るとやはり誰も人はいないが、代わりに1台のプロジェクターが置かれている。

 実はこのコンクリートブロックは光を通すのだ。実際、横に置かれたサンプルのブロックに手をかざしてみると、自分の手の影が透けて見える。

 作品はこの素材に、プロジェクターで撮影した影を投影した物だった。

 同じ三菱レイヨンの光ファイバーエスカで光の造形に意欲を見せるデザイナーのグエナエル・ニコラは、人の動きに反応するベンチ、「MIST BENCH」に仕立てた。

 暗闇に置かれた黒いベンチに人が近づくと、その足取りにあわせて青い光が浮かび上がる。反対端に向かって歩を進めると、ベンチの全体像が浮かび上がる、という作品だ。

 同じ部屋の天井から吊るされるのはプロダクトデザイナー集団、nendoが旭化成のスマッシュという素材でつくった光の風船の作品、「BLOWN-FABRIC」だ。

 沸騰したお湯の中で膨らませた不織布の風船は、作品の下にも置かれており、まるでキノコのように見える。

 その向かい側に置かれているのは、まるで虫か微細生物のような造形を持つ超軽量バックパック、「SEED OF LOVE」。

 英国のデザイナー、ロス・ラグローブがセカセアドテックの三軸織物とユニチカによる素材、メルセットによるコラボレーションだ。

 緯糸と経糸が90度に交差する普通の織物と違い、三軸織物は三本の糸が60度で交差する籠目の織物で、これによって三次元のダイナミックな面変化を持つ構造ができあがった。

 「TOKYO FIBER 09 SENSEWARE」展では、ここで紹介できなかったものも含め合計17の作品が展示されている。

 ここの作品は同イベントのWebページにて紹介されているので、ぜひそちらも参照して欲しい。





(林 信行)

2009年4月25日 00:00