やじうまミニレビュー

ご飯の美味しさを長時間キープする天然秋田杉の「おひつ」

やじうまミニレビューは、生活雑貨やちょっとした便利なグッズなど幅広いジャンルの製品を紹介するコーナーです
柴田慶信商店の曲げわっぱ「おひつ」。樹齢150年以上の天然秋田杉を使用している

 炊きたてのご飯は、ふっくらモチモチで、それだけでごちそうだ。だが、炊飯器に入れたままにしておくと、器内の蒸気を吸い、あっという間に味も食感も落ちてしまう。美味しいご飯をキープするには、炊き上がった後の水分コントロールが重要だ。

 そこで今回は、日本で古くから伝わるご飯を長時間美味しい状態で保つ器「お櫃」を紹介しよう。数ある中から選んだのは、樹齢150年以上の天然秋田杉の白木を使った、“秋田・大館の曲げわっぱ”を長年作り続けている、柴田慶信商店の「おひつ」だ。

メーカー柴田慶信商店
製品名おひつ(六寸・三合用)
購入場所日本橋三越店
購入価格35,000円

 大館曲げわっぱは、数年かけて乾燥させた天然秋田杉を薄板にし、お湯で温めて柔らかくし、型に巻いて加工した「曲物(まげもの)」だ。職人さんの手で、1つ1つ丁寧に製作される。器をぐるりと走る白木の柾目に、装飾的な山桜の皮の“綴じ”が特徴的。複数の板を金属の輪で縛る「樽」とは異なる。

 工芸的で優美な姿に目を奪われるが、最大の魅力は常温のまま、次の日までご飯本来の美味しさを保ってくれる点だ。炊きたてご飯をおひつに移せば、無垢の杉が余分な水気を吸って、ふっくらな状態を保ってくれる。冷めても乾燥しにくいので、冷やご飯になってもモチモチと美味しいという。杉には殺菌効果があるので、常温でもご飯が傷みにくくカビもつきにくいそうだ。

柾目の白木に山桜の皮の綴じが映える(上)。蓋の裏側(左下)から、おひつの底(右下)まで丁寧に仕上げられている
杉は殺菌作用がある。心配ならば冷蔵庫に入れてもOK。温めなおしはご飯を別の器に入れて行なう

 購入したおひつの大きさは、203×120mm(最大直径×高さ)の3合用。器の厚みは約8mm、重さは400gだ。器の底の隅が丸く加工されているのが、柴田慶信商店製の特徴でもある。ご飯粒が入り込みにくいので、しゃもじも届きやすく手入れも簡単だ。「隅の丸いおひつが欲しい」という消費者の声に応え、3年かけて修得した独特の技術だそうだ。

 使い方は、炊きたてのご飯をおひつに移すだけと至極単純。だが、その前にちょっとした下準備が必要だ。ご飯を移す前に器の内側を水で濡らし、乾いた布巾で軽く拭いておく。内側を湿らせるだけで、ご飯粒がくっつきにくくなる効果がある。また、五目ご飯などの油分も白木に移りにくくなるそうだ。

購入したおひつは3合用。工芸品としても美しい
器の厚さは約8mm。内側には山桜の皮の“綴じ”は見当たらない(左)。器の底の隅が丸く加工されているのが、柴田慶信商店製の特徴だ(右)
おひつの内側を湿らせてから、ご飯を移す(上)。3合の炊きたてのご飯を入れた様子(下)

 おひつの蓋を取ってまず驚いた。蒸気が勢い良く立ち上る3合の炊きたてご飯を入れたのに、蓋から水滴がほとんど落ちてこない! ご飯を移してから5分以上経っているのに、蒸気はすでに蓋の内側に吸い取られ、水滴さえもほとんど見当たらないのだ。おひつを置いた周りが水浸しにならないのはとても気持ち良い。

 1膳目をいただく。ご飯はツヤツヤでふっくらと美味しい。ほのかな杉の芳香が感じられ、食欲がそそられる。しばらくしてから2膳目。お米が水分を吸ってベタベタになる気配は微塵もなく、お米の1粒1粒がピカピカと輝き、食感も1膳目と相違ない。最後まで美味しくいただけた。おひつの佇まいが良いので、食卓に載せてもなかなか絵になる。残ったご飯はおひつに入れたまま、常温で放置した。

蓋が炊きたてご飯の蒸気をしっかり吸い取った。水滴が垂れないので周囲を汚さない
コンパクトで見た目も美しいおひつは、食卓の上にもよく似合う
おひつに移してから10時間後のご飯の表面(上)。1粒1粒が輝いている! 底に接していたご飯も全くベタつきとは無縁だ

 10時間後に再び蓋を開けて思わずびっくり! ご飯は相変わらずツヤッツヤなままで、ベタベタ感がまるでなかったからだ。いただいてみると、冷め切っているのに食感はモチモチで、お米の甘さがより引き立つ。本当に美味しい。おひつの底にあったご飯も、粒がはっきりとわかるほどシャキッとしており、底に全くこびりついていない。「おひつはご飯を美味しく冷ます道具です」と公式サイトで謳っているが、まさにその通り! だった。

 天然秋田杉で無垢の白木となるとお手入れが難しそうだが、実はそうでもない。最も大事なのは、洗った後におひつをしっかり乾燥させる事だ。洗い方は、おひつにお湯または水を注ぎ、汚れを浮かす。次に、粉のクレンザー(中性洗剤はダメ)とタワシで、柾目に沿って表面を磨くように軽くこすり、十分にすすぐ。そして、1日以上かけておひつを完全に乾かす。ご飯の余分な水分を木がしっかり吸収できるよう、「リセット」させるのだ。

洗い方は、おひつにお湯または水を注ぎ、汚れを浮かす(上)。クレンザーとタワシで、新しい木肌を出す気持ちで表面を磨く。中性洗剤は絶対に使わないこと
最も大切なのは、洗い終わったら1日以上かけてしっかり乾かすこと。木がご飯の余分な水分を吸収するようリセットさせるのだ

 高価ではあるが、ご飯を最後の1粒まで本当に美味しくいただける、優れた道具に違いないと実感した。「洗ったらしっかり乾燥」を守って大切に使えば、曲げわっぱは百年の使用にも耐えるそうなので、決して高い買い物にはならないだろう。ご飯をより美味しくいただく道具として、ご飯好きな人には是非手に入れて欲しい逸品だ。

藤原 大蔵