やじうまミニレビュー
ご飯の美味しさを長時間キープする天然秋田杉の「おひつ」
by 藤原 大蔵(2014/5/1 07:00)
炊きたてのご飯は、ふっくらモチモチで、それだけでごちそうだ。だが、炊飯器に入れたままにしておくと、器内の蒸気を吸い、あっという間に味も食感も落ちてしまう。美味しいご飯をキープするには、炊き上がった後の水分コントロールが重要だ。
そこで今回は、日本で古くから伝わるご飯を長時間美味しい状態で保つ器「お櫃」を紹介しよう。数ある中から選んだのは、樹齢150年以上の天然秋田杉の白木を使った、“秋田・大館の曲げわっぱ”を長年作り続けている、柴田慶信商店の「おひつ」だ。
メーカー | 柴田慶信商店 |
---|---|
製品名 | おひつ(六寸・三合用) |
購入場所 | 日本橋三越店 |
購入価格 | 35,000円 |
大館曲げわっぱは、数年かけて乾燥させた天然秋田杉を薄板にし、お湯で温めて柔らかくし、型に巻いて加工した「曲物(まげもの)」だ。職人さんの手で、1つ1つ丁寧に製作される。器をぐるりと走る白木の柾目に、装飾的な山桜の皮の“綴じ”が特徴的。複数の板を金属の輪で縛る「樽」とは異なる。
工芸的で優美な姿に目を奪われるが、最大の魅力は常温のまま、次の日までご飯本来の美味しさを保ってくれる点だ。炊きたてご飯をおひつに移せば、無垢の杉が余分な水気を吸って、ふっくらな状態を保ってくれる。冷めても乾燥しにくいので、冷やご飯になってもモチモチと美味しいという。杉には殺菌効果があるので、常温でもご飯が傷みにくくカビもつきにくいそうだ。
購入したおひつの大きさは、203×120mm(最大直径×高さ)の3合用。器の厚みは約8mm、重さは400gだ。器の底の隅が丸く加工されているのが、柴田慶信商店製の特徴でもある。ご飯粒が入り込みにくいので、しゃもじも届きやすく手入れも簡単だ。「隅の丸いおひつが欲しい」という消費者の声に応え、3年かけて修得した独特の技術だそうだ。
使い方は、炊きたてのご飯をおひつに移すだけと至極単純。だが、その前にちょっとした下準備が必要だ。ご飯を移す前に器の内側を水で濡らし、乾いた布巾で軽く拭いておく。内側を湿らせるだけで、ご飯粒がくっつきにくくなる効果がある。また、五目ご飯などの油分も白木に移りにくくなるそうだ。
おひつの蓋を取ってまず驚いた。蒸気が勢い良く立ち上る3合の炊きたてご飯を入れたのに、蓋から水滴がほとんど落ちてこない! ご飯を移してから5分以上経っているのに、蒸気はすでに蓋の内側に吸い取られ、水滴さえもほとんど見当たらないのだ。おひつを置いた周りが水浸しにならないのはとても気持ち良い。
1膳目をいただく。ご飯はツヤツヤでふっくらと美味しい。ほのかな杉の芳香が感じられ、食欲がそそられる。しばらくしてから2膳目。お米が水分を吸ってベタベタになる気配は微塵もなく、お米の1粒1粒がピカピカと輝き、食感も1膳目と相違ない。最後まで美味しくいただけた。おひつの佇まいが良いので、食卓に載せてもなかなか絵になる。残ったご飯はおひつに入れたまま、常温で放置した。
10時間後に再び蓋を開けて思わずびっくり! ご飯は相変わらずツヤッツヤなままで、ベタベタ感がまるでなかったからだ。いただいてみると、冷め切っているのに食感はモチモチで、お米の甘さがより引き立つ。本当に美味しい。おひつの底にあったご飯も、粒がはっきりとわかるほどシャキッとしており、底に全くこびりついていない。「おひつはご飯を美味しく冷ます道具です」と公式サイトで謳っているが、まさにその通り! だった。
天然秋田杉で無垢の白木となるとお手入れが難しそうだが、実はそうでもない。最も大事なのは、洗った後におひつをしっかり乾燥させる事だ。洗い方は、おひつにお湯または水を注ぎ、汚れを浮かす。次に、粉のクレンザー(中性洗剤はダメ)とタワシで、柾目に沿って表面を磨くように軽くこすり、十分にすすぐ。そして、1日以上かけておひつを完全に乾かす。ご飯の余分な水分を木がしっかり吸収できるよう、「リセット」させるのだ。
高価ではあるが、ご飯を最後の1粒まで本当に美味しくいただける、優れた道具に違いないと実感した。「洗ったらしっかり乾燥」を守って大切に使えば、曲げわっぱは百年の使用にも耐えるそうなので、決して高い買い物にはならないだろう。ご飯をより美味しくいただく道具として、ご飯好きな人には是非手に入れて欲しい逸品だ。