家電製品ミニレビュー

非常時にスマホを急速充電できる足踏み式の発電機を試す

 今回紹介するのは、足踏み式の発電機。しかも家庭の壁についているコンセント出力だ。すでに人力で発電できるアイテムは数多くあるが、コンセントが使えるタイプは非常に少ない。あったとしても10万円を越えるものだったりして、手を出しにくい製品が多い。

 しかしK-TOR(ケーター)の「パワーボックス」は、5万円以下と比較的入手しやすい点が特徴だ。

K-TORのパワーボックス。足こぎ式の発電機
コンセント出力なのが最大の特徴

 ただこの製品、コンセントにつなげる電気製品がすべて使えるというわけではない。ワールドワイド仕様のACアダプターから電源を取るような製品に限られているという点に注意が必要だ。詳細は後述するが、一言で言うと、ビデオカメラやデジカメ、スマートフォンやタブレットの充電に対応する。

メーカーK-TOR
製品名パワーボックス
希望小売価格49,200円
購入場所直販サイト
購入価格33,900円(3月末までの期間限定)

出力される電気は家庭用コンセントと違う直流120V

 本製品の紹介をする前に、家庭用のコンセントの話をしておきたい。一般家庭の壁のコンセント(エアコン用などを除く)には、交流100Vという電気が届いている。家電などのワット数を示すシールなどにも「入力:交流100V」や交流を示す英語「AC100V」と表記されているのを目にしたことがあるだろう。

コンセントに差し込む機器には、交流100VやAC100Vという表記がある
電池は±が固定された直流なので、電池ボックスには必ずプラスとマイナスの指示が書かれている
コンセントにはプラスとマイナスの表記がなく、プラグを反対に差し込んでも動作する

 電池にはプラスとマイナスがあり、「直流」や「DC」と呼ばれる電気だ。電池ボックスに入れるときには正しい向きで入れないとうまく動作しない。

 コンセントに届いている交流は、プラスとマイナスの電気が入れ替わっていて、製品のコンセントプラグをどちら向きに挿しても正しく動作する。つまり+100Vと-100Vが交互に入れ替わるという電気だ。実際には±140Vほどあるが、損失を引いて100V(実効値)としている。

交流の電気はオシロスコープ(波形測定器)で見ると、波型の電気として見える。波の大きさが電圧で、中間が0V、上側が+100Vで下側が-100V
直流の電気を見ると、直線となって見える
テスターで測ってみると116Vあった

 パワーボックスから出力される電気は、プラスとマイナスが入れ替わらない直流の120V。プラスマイナスが入れ替わらない電気というだけでなく、電圧もコンセントより20V程度高くなっている。

 このような理由から、コンセントを使う機器がすべて動作するわけでなく、場合によっては機器や発電機を痛めてしまう可能性もある点に注意して欲しい。

問題なく使えるのはワールドワイド仕様のACアダプター

 さてコンセントの交流と、パワーボックスの直流の電気に違いがあることが分かったところで、製品の紹介をして行こう。お待たせっ♪

 一番便利なのは、スマートフォンや音楽プレイヤー、デジカメやビデオカメラなどの充電だ。これまではUSB出力の手回し発電機がいくつも発売されているが、模型用のモーターなどが使われているため、スマートフォンの急速充電ができなかった。腕がパンパンになるほどハンドルを回し続けても、スマートフォンのバッテリー残量は数%しか増えず(中には減るものすら! )、あまりのふがいなさに忘却の彼方を見つめるものがほとんどだった。

 しかしパワーボックスは、コンセントを備えているのでACアダプタータイプの充電器を使って、スマートフォンやデジカメを急速充電できる。ただし海外でも使えるワールドワイド仕様のACアダプターに限る。

ワールドワイド仕様のACアダプターには、入力やINPUTの欄に100~240Vという表記がある
AC100VとしかないACアダプターは、パワーボックスでは使えない
ワールドワイド仕様のACアダプターでも、20Wもしくは20VA以上の表記がある場合は、パワーボックスの出力不足で使えない

 ACアダプターの裏には、必ず「INPUT」や「入力」という項目の横に「AC100~240V」という表記がされているが、この値が100~240Vの場合はパワーボックスで充電ができる。「AC100V」限定のACアダプターは利用できないので注意してほしい。

 また人力発電なので、出力できるパワーはコンセントに程遠い。したがって「入力」欄にある値が「20W」や「20VA」以下のものに限る。大出力が必要なパソコンのACアダプターなどは、ワールドワイド仕様であっても出力不足で使えない。

 筆者が独自に調べてみたところ、だいたい2.1A出力ができるUSB ACアダプターが上限という感じだった。つまりスマートフォンとタブレットは急速充電が可能。デジカメとビデオカメラの充電は、製品によりけりでコンパクトタイプなら充電できそうな感じだ。ちなみに、筆者が使っている一眼レフと業務用VTRはパワー不足で充電できないが、家族が使っているコンパクトデジカメならOKだった。

 さて交流100~240V用のUSB ACアダプターを、パワーボックスの直流120Vのコンセントに差し込んでも問題ないのか? という疑問も多いだろう。これに対してK-TORのメーカーは、ここに挙げた条件に一致するACアダプターなら動作するとしている。

 筆者も交流用のACアダプターを直流で使った経験などないので、メーカー発表の条件を信じるほかない。ただK-TORが指定しているACアダプターの回路を考えてみると、ほぼ9割は理論上問題ないし、うまく動くハズだ。ただしごく稀にワールドワイド仕様のACアダプターでも動かない場合も残る。場合によっては、コンセントに差し込む向きを変えると動くものもあれば、まったく動作しないことも考えられる。使えるかどうか心配な場合は、K-TORのホームページで互換性を確認して欲しい。

 なお交流でなければ動かない扇風機をはじめとしたモーターは、どんなに消費電力が少なくても、パワーボックスでは駆動できない点にも注意。

折りたたむとコンパクトで強度もしっかり快適発電

 それでは、発電機としての使い心地を紹介しよう。まず驚かされるのは、折りたたむと凄くコンパクトになる点。だいたい2Lの四角いお茶のペットボトルサイズまで小さくなる。組み立てに工具は不要だが、かなり難しく、初めての組み立てはマニュアルなしにはできない。人によってはそれが面白いところでもあり、面倒と思われるところでもあるが、3回ほどやれば覚えられるだろう。慣れると3分もかからずに変形できる。

折りたたむと超コンパクトになる。2Lのペットボトルサイズ
変形過程。実際には20ステップぐらいあって、メカ好きには面白い

 こういった変形アイテムは、稼動部が多くガタつきが多かったり強度が弱いものだが、パワーボックスはかなり頑丈で、床に投げつけても壊れなさそうな感じだ。

 発電する際は、イスなどに座ってペダルをこぐ。簡素な土台にしては非常に安定感がある。つるつるしたフローリングでは滑ってしまうので滑り止めのゴムマットなどが必要になるが、じゅうたんの上や屋外ならしっかり固定できる。なおイスの高さが低いとこぎづらいが、ホームセンターで安い踏み台を買ってきて、片側の足を切るといい土台になる。

イスに座ってこぐと発電できる。こぐ速度は、だいたい1秒に1.5回なので、1分90回ペース。だいたいママチャリをこぐ程度
イスが低い場合は、踏み台などを加工すればこぎやすくなる

 ペダルの重さは、消費電力が10W程度のACアダプターは非常に軽くスイスイ。川原の土手を快適に走っている感じだ。20W近くなるとペダルは重くなるが、向かい風を受けて走る程度の重さ。でも辛さを感じるほどの重みはない。

 ある程度電気に関する知識があれば、スマートフォンの充電以外にも使える。たとえばACアダプターを利用するLED照明、ACアダプターを利用していなくても使える照明などもある。またわずかだが電気を貯められるコンデンサという部品が入っているようで、一瞬気が抜けてこぐ回転数が落ちてしまっても、安定した電力が出力できるようになっている。

パワーボックスでモバイルバッテリーを充電
充電したモバイルバッテリーにDC/ACコンバータをつなげてAC100Vにして使うと利用範囲が広がる

 さらに12Vのシガーソケットが出力できるようなモバイルバッテリーと、車のシガーソケットをコンセントと同じ交流100Vに変換するDC/ACコンバータを組み合わせると応用範囲が広がる。まずパワーボックスでモバイルバッテリーを充電して、DC/ACコンバータでAC100Vを出力すれば、モーター系の製品や国内仕様のACアダプターでも利用できるようになる。

防災用品の発電機としてオススメ

 キャンプなどで恒常的に使う発電機としては、出力される電気が特殊なので、あまりオススメできない。しかし防災用としてなら手回し発電機よりも効率よく発電でき、スマートフォンなどの急速充電も可能だ。

 また大容量のモバイルバッテリーとDC/ACコンバータを併用すると、コンセントを使う多くの機器にも対応できる。アメリカ製で頑丈さは折り紙つきなので、イザというときの強い見方になるだろう。

藤山 哲人