家電製品ミニレビュー

キングジム「ピットレック」

~名刺の管理が苦手な人に贈る“デジタル名刺ホルダー”
by 正藤 慶一

ぼくは名刺の整頓ができない……という人にピットレック

キングジム「ピットレック」

 この仕事に就いてから4年ほど経って、いっちょまえに名刺の量が増えてきた。何枚あるか正確な数字はわからないが、とりあえず片手では掴みきれないほどだ。営業職の人なら、こんなものでは済まないだろう。

 これだけあると、名刺ホルダーなどに入れてしっかり管理をしておくのが、正しい社会人としての姿である。しかし私は、いちいち名刺ホルダーに管理するのが面倒くさいので、デスクに入れたまんまという体たらく。そのくせ、いざというときに「あの人の名刺どこだっけ?」とアタフタしてしまっている。自分のテキトーさにはほとほと呆れてしまうが、そんな自分にも使いこなせる名刺ホルダーがあればいいのに、とも密かに思っていた。

 そんな時、キングジムから“デジタル名刺ホルダー”なるものが登場するというニュースを知った。何でも、コンパクトな本体に約2,000枚の名刺が登録できるという。その名も「ピットレック」。8月に発売されたばかりのこの製品を、早速試してみよう。


メーカーキングジム
製品名ピットレック DNH10
希望小売価格27,300円
購入店舗Amazon.co.jp
購入価格18,473円

ピットレックのパッケージ

 ピットレックの概要を簡単に説明すると、名刺の写真を本体のカメラで撮影し、その画像を本体内に保存、簡単に検索して呼び出せるというものだ。普通の名刺ホルダーだと、名刺をホルダーに入れ、ページをめくって探すというのが主流だが、すぐに目的の名刺が取り出せなかったり、保管スペースが必要になるといった問題がある。その点ピットレックなら、会社名や氏名などから簡単に検索できるため、目当ての名刺にすぐ辿りつける。名刺の文字認識(OCR)機能も備えているため、入力の手間も省けるのだ。

 さらに、本体サイズは約120×60×13mm(幅×奥行き×高さ)と超小型で、電源は充電タイプのリチウムイオン電池と“モバイル仕様”になっている。手に持った感覚は、ちょっと薄めの携帯電話といったところだ。

 名刺データの保存メディアはmicroSDカードで、購入時に2GBのカードが付いている。2GBなら前述の通り約2,000枚が限界だが、16GBのmicroSDHCカード(別売り)に変えれば、約9,999枚まで保存が可能という。名刺データはパソコンなどで呼び出すことはできないが、これはおそらく個人情報が簡単にパソコン→ネットへ流れてしまうのを防ぐための仕様で、敢えてスタンドアローンとしているように思われる。

ピットレック本体(中央)に、充電用のACアダプタ(左)、本体ケース(右)などが付属する電源は、携帯電話などにも搭載されているようなリチウムイオン電池記録メディアはmicroSDカード。購入時に2GBタイプが付いている

 

本体に名刺を挟んで撮影&登録。会社名でも名前でも検索可

 それではさっそく使ってみよう。まずは名刺の読み取りだ。本体サイドのカメラキーをスライドさせると、名刺を撮影するカメラが顔を出す。次に、正面左隅にある「名刺ストッパー」に名刺を挟み、正面右上の四角いボタンを押すと、名刺が撮影され、3.5インチのディスプレイに名刺の写真が映る。これでOKなら、再度四角ボタンを押して、名刺の読み取りがスタートする。

 それから数秒すると、画面にOCRで読み取った「名前」「よみがな」「会社名」「会社のよみがな」の4つの項目が表示される。ここで「登録」ボタンを押せば、ピットレック本体に名刺の情報が登録されることになる。蛍光灯が明るいオフィスでも、薄暗い自宅でも問題なく使えた。

使い方は、まず本体側面のキーをスライドさせ、名刺を撮影するカメラを出す。約200万画素で、CMOSセンサーも備えている名刺を写真のように立てて、本体右の四角ボタンを押して撮影する撮影後は、自動で名前と会社名が表示される。「登録」を選択して、一連の作業が完了する。ちなみに、なぜ自分の名刺を使わないかについては、次項で説明する

 このOCR機能が結構面白い。意外といっては失礼だが、難しい漢字もちゃんと認識してくれたり、自動的に「株式会社」や「(株)」を抜いて、社名だけを読み込んでくれる(株式会社を読み込むと、『カ行』の登録が多くなってしまうため)。その一方、抜けたところもあって、誤って認識された文字を手直しをする必要もあったりするのだが、それは後ほどまとめて紹介する。

 登録された名刺を検索するには、「会社名」「氏名」のほか、「(名刺を閲覧した)履歴順」「登録日順」「フリーワード」でも可能。マイリストも作成できるので、例えば“飲み友達”や“同い年”といった、ビジネスの枠を飛び出したカテゴリ分けもできる。

 検索から読み出した名刺の画像は、メールアドレスなどの細かい文字もしっかりと確認でき、まったく問題ない。元の名刺を誤って捨ててしまっても、普通に代用できるだろう。

登録した名刺は、名前や会社名でソートされる。写真は名前の順(写真はサンプルデータを使用)会社名からも検索できる(インプレス以外は、サンプルデータを使用)登録した日ごとの検索も可能
迷ったときはフリーワードで検索だ住所やメールアドレスといった細かい文字もちゃんと表示されている

OCRの誤認識を直すのが面倒

 さて、先ほどOCRで読み取った名刺の登録作業が面倒といったが、その理由は「OCRの読み取りが完全ではない」ところ。ちゃんと読み込んでくれるものもあるが、逆に“これはちょっと……”というのもあったりする。

 具体的に言うと、名刺に記された文字のサイズが小さい場合、文字が認識できないことが多い。実際に、「伊達」が「伊窪」と認識されてしまったり、名前の最後に「団」や「回」といった関係のない文字が入ってしまったりなどのエラーが発生した。また社名でも、社名がロゴで表示されている場合や、「株式会社」の前後に絵やイラストが入っている場合には、これもエラー表示となることが多い。

OCRの読み取り機能は必ずしも完全ではない。特に【1】文字が小さい場合、【2】社名表記がロゴの場合に、ミスが起こりやすい。写真は随分昔のImpressWatchの名刺だが、【1】【2】のいずれの条件にも当てはまっているため、名前も社名も誤認識されてしまったこちらも【1】【2】の条件が当てはまった名刺。氏名が全く異なって表示されてしまい、元の名前の名残がない(そもそも名前の文字数が違う)。しかも、会社名や読みの欄には、撮影年月日が表示されてしまっている名前の最後に「団」や「回」といった文字が入ってしまうことも何度かあった。それ以外の文字はちゃんと認識しているのだが……

 これらのエラーは、もちろん手作業で修正することが可能。ただ、名前とともに読みも変えなくてはならないので、操作は面倒だ。本体右側のボタンを押してカーソル移動や文字入力をするするのだが、右手しか使わないので手が疲れてしまう。ニンテンドーDSやPSPのように、本体左側に十字キーがあれば、もっと楽にできたかもしれない。

 なお、難しい名前は読みが誤って表示される場合があるが、これは仕方がないことだろう。私の苗字の「正藤(ショウトウ)」も難読といえば難読なので、ピットレックでは「ショウ」としか認識してくれなかったが、ここで登録する読みがなは索引として使うものだから、最初の2文字くらいあれば用は足りる。誤って表示されても、苗字を入力する程度で登録しておけば、実使用面では問題ないはずだ。

私の名刺の場合、名前はちゃんと表示されたが、会社名がエラーとなってしまった。名前の読みは3文字しか出ていないが、これはこれでインデックスとしては機能しそう誤って表示された部分は、手入力で訂正するこの手入力が面倒。何しろ右手しか使えないので、スピードが遅い。ゲーム機のように両手が使えれば、もう少しラクになりそうだ
登録できる状態になったちなみに一度登録した会社名は、「参照」を選択すればすぐに呼び出せる。これはとってもラク難読な名前の場合には、必ず手直しが必要になる。写真の場合は「イツキ」ではなく「ミキ」


いざというときにパッと読み出せる瞬発力。仕事の時短にも

 と、OCR機能と操作面について難癖をつけてしまったが、実際のところ、ピットレックについては全般的に満足している。

 何しろ、名刺の呼び出しが早いのが嬉しい。先日、「**社の**さんの肩書きを教えて」と聞かれたことがあったが、ピットレックに登録してあったので、すぐに教えることができた。実はその人はよくある苗字だったのだが、人名ではなくて社名から検索すれば、間違えることもない。これがピットレック導入前なら、いちいち名刺を出して調べなければいけなかったので、相当な時間のロスになっていたはずだ。

 また、整理をする手間もいらないのも便利だ。アナログの名刺ホルダーのように、いちいち名前の順や会社の順に並べることなく、登録しておけば簡単にソートできる。整理に時間をかける手間が省けるので、その分の労力を仕事につぎ込めるのだ。

 さらに「そんなに大量に登録しても、結局連絡しない人ばかりだよ」という人のために、「倉庫モード」も用意されている。これは、使わなくなった名刺を一覧に表示させなくする機能。普段は使わないけど、「そういえばあの人……」という場合には、もう一度復帰できる。登録人数が多そうな営業職の人にはピッタリの機能だろう。

 登録する作業自体も、その日もらった名刺を、ピットレックに挟んで撮影しておくだけと簡単。いつのまにやら完璧な名刺帳のできあがりだ。大量の名刺を登録したい場合には、8枚続けて登録できる「連続撮影モード」というのも用意されている。それだけに、前述のようにOCR機能と操作面でミソをつけたのは、やっぱり惜しい。


登録した名刺を「倉庫」行きにして、表示させないこともできる(写真はサンプルデータを使用)不破さんの名刺を倉庫行きにしたことで、「は」行には不破さんの名刺が表示されない。でもデータは残っているので、いつでも復帰可能だ(写真はサンプルデータを使用)大量に名刺を登録する場合には、8枚連続で登録できる「連続撮影モード」がお勧め

あえてスタンドアローン。個人情報が重要視される時代の名刺管理ツール

 最後に、データの互換性についても指摘しておこう。

 初めの方で述べたとおり、ピットレックで保存した名刺データは、パソコンなどで読み出すことは不可能。その点を考えると、パソコンの名刺用スキャナやスマートフォンの名刺読み取り機能の方が、データを自由に移動することができ、便利そうにも思える。

 ただしそれで怖いのが、個人情報の流出の危険性。パソコンに登録しておいたファイルがいつのまにやらP2Pソフトによってどこかにアップロードされてしまう……なんてニュースが一時期流行した。企業のコンプライアンス(法的順守)が求められる昨今、そんなことをしてしまっては、顧客や取引先への被害はもちろん、自らのキャリアも狭めてしまう問題になる。

 その点、ピットレックはパソコンとの互換性がないため、本体を落とさない限り、情報流出の危険はない。たとえ落としたとしても、パスワードが解除されない限りは、見られる危険性もない。そういう意味では、ビジネスシーンにうってつけの製品といえるのではないだろうか。

ピットレックのmicroSDカードをパソコンで見たところ。ファイルは関連付けされておらず、アクセスできない仕様になっているパスワードを設定すれば、たとえピットレックを落としたとしても、簡単に情報が流出しない

 発売直後ということもあって、実売価格は1万円台後半と高い。簡単に買えるものではないので、サラリーマンとしてはできれば経費で落としたいところだ。しかし、名刺管理が簡単になること、名刺管理用のスペースが省けること、個人情報流出に関して防護策が取れることを考えれば、十分に価値はあるだろう。名刺の管理にコレといった策を見出せていない人は、購入してみてはいかがだろうか。





2010年8月27日 00:00